2884.jpgオオヤドリカニムシMegachernes ryugadensis。九州にて。

コウモリが多数住む洞窟内で、クソの山に埋もれた木っ端の裏に大量に取り付いていた。地中に住む小型哺乳類の体に便乗することで知られる。コウモリにも間違いなく付くはずだが、実例を聞かない。
日本土壌動物検索図鑑によれば、オオヤドリカニムシは北海道から本州までの分布となっているが、九州と四国にも明らかにいる。だいたい種小名は四国の龍河洞にちなんでいるのではなかろうか。九州四国のは別種にでもなったのか。

2881.jpgオオイタサンショウウオHynobius dunni。九州にて。

九州と四国のごく限られたエリアにのみ生息する。一度は見ておかねば一生悔いが残るから、見に行った。一応、現状では法的に問題ないエリアで撮影したのだが、それでも極力手でいじらないように撮影するのを心がけた。

近年、日本の小型山椒魚類は多くの種が絶滅の危機に瀕している関係上、ものすごいスピードで天然記念物やら種の保存法やら県、市町村レベルの条例で保護種指定されまくっている。こういう指定種になってしまうと、とっつらまえて持ち帰るのは当然のこと、撮影のために一時的に手づかみするのさえ違法となり、処罰対象になる(現状変更行為に該当するため)。
しかも、県や市町村レベルの条例だと、ある時突然指定種になったり、その事を行政が必ずしもきちんと周知努力しなかったりするため、野外で山椒魚と触れ合う時は知らないうちに違法行為を働く恐れを常に警戒しないとならない。迂闊に山椒魚を掴み上げて手に載せた様や、明らかに人の手で本来それがいるはずのない場所に置いて撮影したことがわかる写真をネット上に晒すと、後で密告されてとんでもない事になってしまうのだ。本当に世知辛い時代になった。
そこまで手づかみが憚られるほど、がんじがらめに法の網がかけられたはずの山椒魚も、その生息地を重機でぶっ潰して道路やらメガソーラーやらを作るのは事実上黙認されているのだから、なおさら世知辛い。

オオイタサンショウウオは元々九州でのみ見出されていた生物だったが、後になって豊後水道を挟んだ対岸の四国側にもいるのが判明した。メクラチビゴミムシも、九州の東海岸側と四国の西海岸側に、同種とは言わないまでも酷似した近縁種が分布する。こういう、羽もなく移動能力に乏しいはずの生物が海を隔てて九州と四国にしれっといる例は幾つかあり、大昔はこの二つのエリアが地続きだった事を物語っている。
メクラチビに傾倒し始めて以後、それまでさほど関心のなかった生物地理学に、だんだん興味が持てるようになってきた。

人の一生は重き荷を背負い 稲の葉を登り行くようなもの

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イネクビボソハムシOulema oryzaeの幼虫。長野にて。

初夏の水田で見かける。幼虫は、背中にみずみずしい糞を背負う習性があることから、イネドロオイムシと呼ばれる。稲の大害虫で、葉の表面を細く削るようにして食い荒らす。主に涼しい地域で被害が大きく、嫌がられる。

2879.jpgスジクワガタDorcus striatipennis。長野にて。

これのメスは、翅のスジ具合が実に美しい。身近にいた頃には大して気にも留めなかったが、よい虫。写真の個体のように翅のスジの窪みに泥がこびりつくと、模様がより際だつ。汚れているのに美しくなる。汚れるほど美しくなる。

黴器売りの少女

2878.jpgムナビロサビキコリAgrypnus cordicollis。長野にて。

サビキコリは全国規模でド普通種なので、虫マニアすら跨いで通る。しかし、いきなりこれを外からN匹採ってこいと言われて、すぐ採ってこられる虫マニアがどれだけ存在するか。

かつて辺境の大学にいた頃、学部生向けの野外実習のTAを毎年任されていた。現在やってるのか知らないが、少なくとも当時は初夏に一回開講されていた授業で、大学周辺の裏山にいる数多の生物を材料に自分らで研究テーマを設定させ、3週間程の実習期間中に何らかの成果を出させて発表させるという内容。そこで、毎年実習の初回日に若人らに向けて裏山の生物に関するオリエンテーションをするのが、俺の年中行事となっていたのだ。
ある年、「裏山に生息する虫の一つにサビキコリというものがいる」という内容の話を、板書をまじえつつ学生らに話した。その授業の終了時、学生に自分がテーマとする予定の生物や研究内容を紙に書かせて提出させるのだが、ある学生が書いてよこした計画書の中に「カビキウリを使って云々の研究を・・」という一節を認めた。その学生の書いた計画書の文中に、複数回カビキウリという生物の名が出てきた。
授業中、俺は一度たりともカビキウリなる言葉を発した覚えがない。一体こいつは何のことを言ってるんだと思いかけて、はっと気づいた。授業中、学生らの前でサビキコリという言葉を黒板に殴り書きした。どうやら、その時の俺の字があまりにも汚さすぎて、かの学生の目にはカビキウリに見えたらしいのだ。学生、すまんかった。