2818.jpgプライヤキリバGoniocraspidum pryeri。大分にて。

洞窟で数多く発見される、奇妙なガの一種。成虫は夏に羽化するらしいが、羽化後はまともに活動しないまますぐ近隣の洞窟や隧道に入り込んで休眠に入ってしまう。そのまま冬も越し、翌春にやっと外へ出て交尾産卵の後すぐくたばるらしい。何が楽しくて生まれてきたのかよくわからない生活史を持つが、実の所ガの大半種の生活史なんてそんなもの。

しばしば一か所に多数個体が集結して眠っている。湿度の高い洞窟内では、体がびっちり結露している。生きながらカビにやられて死んでいる奴が多い。コウモリが住む洞窟では、かなりの個体が休眠中コウモリに食われることも明らかになっている。生を謳歌するでもなく、まして生きるのに全く適さない環境をわざわざ選び、引きこもって過ごさねばならない理由がますますわからない。

Sano, A. (2006). Impact of predation by a cave-dwelling bat, Rhinolophus ferrumequinum, on the diapausing population of a troglophilic moth, Goniocraspidum preyeri. Ecological Research, 21(2), 321-324.

膝丸燈

2808.jpgオオミノガEumeta japonica。静岡にて。

たまたま多産するエリアを発見した。あれだけの数をまとまって一度に見たのは久しぶり。というより、下手すれば人生初かもしれない。しかし多産といっても無尽蔵にいるわけではない。また、そこから数百m離れた所にある、去年そこそこの数を見た区画には全然いなかった。年により、発生のコアエリアが変動するように思える。
情けないことに、これの成虫と交尾を生まれてこのかた一度も見たことがない。なるべく自然状態で観察する機会に恵まれないものか。

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一見、小枝を平行に並べて付けているのでチャミノと思ったが、上部を枝にガッチリ固着させない紡錘形なのと、そもそもサイズがチャミノに似つかわしくない様だったので、オオミノガと断定できたもの。

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オオミノガは広食性で、様々な樹種の葉を食べると言われている。とはいえ、一つの地域内でこれが多く付いている樹種には結構偏りがあるように思う。この撮影エリアでは、数ある樹種の中でも栗と梅に集中している雰囲気だった。予想だが、これは地域個体群によって嗜好樹種が違うというよりは、母蛾のミノから一令幼虫たちが孵化・脱出した際に何らかの理由で上手く周囲に分散できず、そのまま母蛾のいた木に多数の幼虫が居ついて成長した結果なのではなかろうか。それならば、年により多く目に付くエリアが変動することに対しても説明が付く。

日本においてオオミノガは、大陸から侵入した寄生バエによって全国規模で蹂躙されるまでは決して数少ないものではなく、場所によっては大発生して庭木や果樹に大害が及ぶほどだったらしい。そこまでオオミノガがうじゃうじゃいる光景を、生きているうちに一度でも見てみたかった。日本にハエが存在しなかった時空まで遡らない限り、もはや叶わぬ夢だろう。

神殺し

夏のアルバムから。
2658.jpgベニヒカゲErebia niphonica。長野にて。

登山ザックに染み付いた汗を吸いに来ている奴の撮影は容易いが、そうでない時は厄介。この蝶は、悪いタイミングで人を出現させるという特殊能力を持つ。苦労してやっと撮影しやすい場所に止まったのを見計らい近付こうとすると、必ず見計らったかのようなタイミングで登山客の往来が来てしまい、飛ばれてダメになる。それまで全く人など来なかった場所で、何度もだ。

ベニヒカゲは、特筆して個体数が少ない蝶ではない上、生態的にみて明らかに「高山」蝶と呼ぶのが相応しくない種である。しかし、長野県ではかなり早期から、よくわからない理由でこれを希少な高山蝶と称して天然記念物指定し、少なくとも採集だけは厳重に禁じている。
多くの虫マニア等は基本的にこの措置を不可解に思っているが、しかし法は法なので、毎年山で監視員にパクられて地元紙の一面を飾るような連中(それもなぜか壮年・熟年の、医者やら大学教授やら社長やら社会的に上位階級の奴らが多い)はさておき皆従っている。

どうも長野県民は、蝶を虫ではなく野鳥と同等の生物と見なしている向きがある。故に、これを捕獲したり殺生する者に対しては、他の虫を殺した時にはあり得ないような、尋常でない怒りと嫌悪感を露わにするのだと思う。ただでさえ位の高い蝶に、高山という付加価値が付けば、もう神と同列に神聖な存在となる。神を捕まえ殺すなど、地獄に1垓3千京回落としても生ぬるい凶行なのだ。
かの地に移り住んだ10数年前、俺はこの土地の人間のそうした思想をどうにか「改革」できないものかと息巻いたものだったが、時間が経つにつれてこれがそういう理屈云々の問題ではないという事に気づいていった。

長野県では、研究目的であってさえ高山蝶の採集許可を得るのは極めて難しく、仮に得ても捕獲頭数を究極最小限かつ厳格に制限される。同じ国立公園の特別保護地域内においても、蝶を採る許可とそれ以外のゴミみたいな虫を採る許可とでは、申請にかかる手間が雲泥の差だ。
もちろん、ゴミみたいな虫を採る許可だって簡単には取れない。虫の研究も楽ではない。

夏のアルバムから。
2653.jpgアルプスクロヨトウApamea rubrirena

高山蛾。本州の亜高山帯以上に見られる。地味だが、地味過ぎて美しい。

世界で御嶽山の頂上にのみいるとされたオンタケクロヨトウは、最近本種と同種ということになった。御嶽山が大噴火して以後、その消息を誰も調べていない。絶滅したんじゃないかという悲観論もちらほら聞くが、それはないだろう。歴史の中で、御嶽山が噴火したのは一度二度ではない。それでもなお、あの蛾は現代まで生き残り続けて来たのだから。今回も、必ずどこかに生きている。

夏のアルバムから。
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アルプスギンウワバSyngrapha ottolenguii。長野にて。

亜高山帯から高山帯にかけて出現する、味わい深い種。純然たる高山蛾の範疇には含めないらしい。