2761.jpgヤマトビイロトビケラNothopsyche montivaga。西日本にて。

2762.jpg世にも珍しい、陸生トビケラの親。先日の雰囲気からして今年はもう成虫は駄目かと思ってたが、道理を引っ込めて無理を通した。少なかったが、林内で陽だまりの下草にぽつぽついた。ひと月前は、全く姿を見なかったのに。加えて、見つかる筒巣が全てカラだったため、とっくに発生が終わったものと思っていた。騙されたと思ってもう一度来て正解だった。
前回も今回も晴天で、安定した気候だったのに、なんで前回いなかったんだろうか。間違いなく既に羽化はしてたはずだ。もしかしたら、羽化後しばらくは落ち葉下の目立たない所に隠れて活動しないのかも知れない。この生物の生態に関しては、ネットや文献で現時点で得られる情報が極めて少ないため、推測と勘に頼らねば出会うこともままならない。

心残りは、冬尺のそれのように翅が退化したというメスを、とうとう発見出来なかったこと。オスの発生具合からみて間違いなく近くにいるはずなのに。そも、活動時間帯がいつで、植物上に登る習性があるかも分からず探して見つかるはずもないわけだが。
ネット上に見られる僅かな情報から推測すると、どうもメスは日中膝下くらいの高さの下草や貧弱なひこばえの葉上にいるらしいのだが、どんなに探してもオスの姿しかなかった。

2737.jpgヤマトビイロトビケラNothopsyche montivagaの筒巣。西日本にて。

川虫というトビケラの常識を根底から覆す、驚異の生物。生活環の全てを陸上で回すようになった、世界的にも稀に見る特性を持ったトビケラ。もはや川虫ではなく陸虫である。
これが属するホタルトビケラ属は日本に7種ほどいて、これ以外は皆幼虫期は水生であるものの、蛹化する際に水面から上に出るなど、多少とも幼虫期に上陸傾向を示す。それをさらに進めて、完全陸生になってしまったわけだ。

日本の西南部で、局所的に見つかっているだけの珍種。西に拠点があるうち、一度は拝んでおかねば絶対悔いが残るので、既知産地のうち一つを訪れた。何の変哲もない、乾き気味の雑木林である。成虫が発生しているはずの時期なのだが、悲しいほど何も飛んでいる生物を見なかった。
これの成虫は年一回、秋の終わりの短期間だけ姿を現す。これはホタルトビケラ属全般に共通した特徴である。まるで冬尺のようだが、ヤマトビイロトビケラの場合メスの腹が巨大に膨れ、なおかつ翅が退化して飛べないところまで冬尺をパクッている。

幼虫の筒巣は、まさに普通の水生トビケラのように細かい砂粒をつづって形成されている。探し始めてしばらくは一つたりとも発見できない。しかし、要領がわかると途端にポンポン見つかり出す。産地内では想像以上の個体数が生息していることに気づく。
この時期の筒巣は中身が入っていない。秋の終わりに物陰に産卵された卵はそのまま越冬し、早春から孵化して活動し始めるようである。幼虫を見てみたいが、初夏にまた来たほうが良さそうだ。

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マルバネトビケラPhryganopsyche laipennis。長野にて。

この種の翅の模様は、トビケラの中でも極めて高貴なもののように思える。うまく表現できないが、ヨーロッパっぽい雰囲気がする。

今年のアルバムから。
2090.jpgキタガミトビケラ Limnocentropus insolitus。長野にて。

幼虫は河川上流の激流中にのみ生息する。植物の屑を集めてミノムシ風の巣を作るまでは、有象無象のトビケラと同じ。しかしこいつは、巣に長い柄を伸ばし、川底に固定してしまう。強靭かつ強大な脚をそこから広げ、流されてくる他の生物を引っ掛けて食い殺す。清涼な水質でないと生きられず、各地で希少種扱いされているものの、産地ではきわめて高密度に見出される。

数あるトビケラ中、一番好きな奴。昔、ネット上でこれの正面ヅラがでかでかとプリントされたTシャツを見たことがある。カマキリ超獣みたいな禍々しい脚を広げ、こちらに掴みかかろうとするその絵面にやられ、当時現物を見たことがなかった俺は、何とかしてその御姿を拝みたいと思った。また、これに近い構図でカッコいいこれの写真をどうにか撮れないものかと思案した。
長野ではちょっと山手に行けば比較的普通にいるものらしいが、居住してた13年間中、ついに一度も見る機会がなかった。今年、ある用事である渓流に行った際、たまたま多産地を見つけた。そこで、これのカッコいい写真を撮ろうとしたのだが、これが想像以上に至難を極めることが判明した。

水中にいるものを撮影する方法としては、カメラに特殊な防水ギミックをかませて直接水没させる方法と、被写体を一度水槽などに移して撮る方法の二つしかない。
前者は、本格的設備を揃えたら一発で破産するので、必然的に後者一択。巣が付いた川底の石を拾い上げ、あらかじめ持参した容器にブツを移してさあ撮るぞ、と思ったら、様子がおかしい。

2086.jpg虫が外に身を乗り出し、柄を齧り始めた。あっという間に食いちぎり、離れてしまった。この虫は非常に警戒心が強く、何か不都合があると速やかに固定部を切断して逃走するのだ。一度これを始めてしまうと、やめさせる手だてがない。
こっちは、自然な状態で脚をカアッと広げた姿が撮りたいのに、これではまずい。幸い、辺りには腐る程の個体がいるので、何回か続けざまに再チャレンジした。だが、全て失敗。一度水から出してしまうと、必ず逃げられることが分かってきた。それ以前に、水中にある巣の付いた石を拾い上げようと、その石に手をかけた時点で奴らは逃げる準備を始めてしまうのだ。どんだけ臆病なんだ?

その後、延々試行錯誤した結果、ものすごくそーっと石を拾い上げること、それをあらかじめ水中に沈めた容器に入れることで、多少ニブチンならすぐ逃げられずにとどめておけるらしいことが判明。
しかし、問題はそこから。容器を水面に上げ、川岸まで運んで平坦な地面に置き、さらにディヒューザを素早く容器に取り付けて撮影しないとならない。運搬中、不自然な振動を与えると、すぐ柄を齧り出す。また、いつも流水中にいるため、水流が止まるとそこがいつものあるべき場所でない事に気付き、怪しみ始めてしまう。その時は慌てて川に戻り、水流を当てて安心させねばならない。ものすごく疲れる。

2087.jpg一番大きく脚を広げた瞬間だったのに、慌てて巻いたディヒューザの巻き方がまずく、光が回らない。

2088.jpgディヒューザを直した頃には、もうこちらの手の内に気付かれてしまった。脚を縮めてしまい、もう広げない。この後、速攻で食いちぎられた。

2089.jpg食いちぎった柄の上でへらへら動く。撮れるものなら撮ってみろと、こちらを馬鹿にして踊っている。

恐らく、家で飼育すれば楽に撮れるんだろうが、渓流にいるものなんて飼うの難しそうだし、持ち帰る段階で死にそうなので、なるだけ現地で撮影したい。また、近年は防水仕様のコンデジも多く出ているからそれを使う方法もあるが、レンズやストロボの事を考えれば、今の愛機でどうにかしたい。一番好きなトビケラだから、一番綺麗に撮ってやりたいのだ。こいつの撮影は、来シーズンの課題とする。

キタガミトビケラ科は日本では1種だが、ヒマラヤには近い仲間が他にいるらしい。今回相手にしなかったが、この沢には同所的にムカシトンボもいる。ムカシトンボもやはり近縁がヒマラヤにいる。山沢の崩落地地下にいるリュウノイワヤツヤムネハネカクシも、やはりヒマラヤ要素の仲間。日本の山沢は、ヒマラヤへと続く時空転移門。

ステンドグラス職人

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カタツムリトビケラHelicopsyche sp.。日本には複数種いるらしいが、分類が進んでいないようだ。水生昆虫の一種で、薄暗い森林内の道脇にある岩盤から水がしみ出ているような所にいる。かつては希少種とされたが、実際には各地に普通にいることが分かって格下げされた。理由はどうあれ、希少種が希少種でなくなるのは素晴らしきこと。

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トビケラ類は、幼虫期にはいずれも砂や石ころ、木片や落ち葉を糸でつづって種ごとに意匠を凝らした巣を作る。しかし、このカタツムリトビケラは名前の通りカタツムリそっくりの殻を作る点で、ことさら異彩を放っている。周りの砂粒をかき集めて、精巧な巻き貝型の巣を作り、中に収まる。

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まるで宝石をちりばめた装飾品のよう。しかし直径はわずか2ミリ。春先に、小さくて黒くて地味な蛾に似た成虫が羽化する。

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正面顔は意外とかわいい。もしこれが手のひらくらいの大きさなら、絶対にヤドカリと一緒に祭り屋台で売られていただろう。そして、それを買ったはいいがそのうち羽化する黒い蛾の処置に困って家の窓から放つ輩が急増し、住宅街で黒い不気味な蛾が大発生みたいなニュースがワイドショーをにぎわすのだ。極小サイズの虫でよかった。
長野にて。