2985.jpgミズムシAsellus hilgendorfi。白癬菌とは関係ない甲殻類。高知にて。

日本全国の、やや汚れた水質の池や川で見られる。そのため、やや汚れた水域の指標生物のようにしばしば言われるが、清涼な地下水にもかなり侵入する。本来、薄汚い灰色の体をしているが、地下水で見られる個体にはやたら色素が薄いものが少なくない。
写真の個体は、とある洞窟内のたまり水で見つけたもの。色が薄かったので、もしやと思って撮影したのだが、しっかり眼がついてやがった。

淡水性のミズムシ科には、日本だけでもけっこうな種数が知られているらしいが、無印のミズムシ以外はすべて地下水性。真の地下水性の種は、体色が完全に抜けて真っ白けで、しかも無眼。いずれの種も、洞窟内のたまり水や湧き水の吹き出し口から得られるというが、ヨコエビに比べて遥かに採集しにくく、俺はまだ一度も発見に成功していない。

2945.jpgエゾメクラヨコエビPseudocrangonyx yezonis

北日本の地下水脈に生息する。洞窟内の溜まり水で見つかる。似た種が多く、ものすごく細かい部分を見なければ種など同定できない。
動きが鈍く、体が半透明。何となくそこにいる感じの生き物なので、すぐ目の前にいられても存在に気付けないことが多い。特に、背景が白っぽい石灰岩洞窟では発見が至難。

2787.jpgコジマチカヨコエビEoniphargus kojimai。静岡にて。

行きつけの裏山の脇に、小規模の湧き水がこんこんと出ている場所がある。もしやと思ってそこを掘り返して洗い出したところ、多数の個体が得られた。ネット上で公開されている検索表を使って、どうにか同定した。
関東周辺の地下水脈で見つかっている生物で、眼はない。体の色素も失せて、生時は透明に近い。健康診断の日に、レントゲンを撮る手間が省ける点で人間より有利。

この手の地下性甲殻類は、かつては洞窟内のたまり水を探すか、井戸水を汲んだ中にたまたま紛れているのを探す以外に姿を見る術がないと思われていた。しかし最近、道脇のちょっと水がしみでているような場所を掘り返し、そこの土中の砂礫を洗うだけで結構採れることが判明したのである。こういう生物がその方法で採れるならば、同様にして地下性の水生昆虫も採れるんではないかと踏んでいるのだ。

日本の地下水中には、ものすごく変わった姿かたちのゲンゴロウが住んでいる。ほぼメクラチビゴミムシの水生バージョンみたいな風貌の奴で、体長1-2mmしかないゴミカスみたいな虫なのだが、その見た目の珍奇さ、究極の採り辛さからこれを求める虫マニアは多い。しかし、これを採るためには手押しポンプ井戸を水が枯れる位まで死ぬほどこいで水をくみ出すか、もしくはモーター式の井戸ポンプに取り付けられている不純物こし取りフィルターを外して確認するかをせねばならない。
現代日本においてそれは大変に至難である。そもそも井戸というもの自体がなかなかない。仮にあったとしても、井戸は大抵所有者がいて、大切に管理している。その井戸から水を無為かつ大量にくみ出すとか、内部に噛ませたフィルターを見せてもらうなどの行為は、よほどそこの井戸の管理者と親しくなり、かつ理解を示してもらわないと不可能である。もはや虫採りの範疇ではなく、見知らぬ人との交渉術の問題になってくる。そのため、多くの虫マニアは誰もが一度は地下性ゲンゴロウを手にしようと憧れるが、まもなくそれがあまりにもハードルの高すぎる案件であるのを悟り、以後考えることをやめる。
我々のアクセスする手段が現状では井戸しかないという事実が、地下性ゲンゴロウの発見・研究を著しく困難にしている。そのため、日本国内に数種いる地下性ゲンゴロウのうち大半は、史上1匹とか3匹採れただけで、なおかつ近年の存続の有無すら定かでないものばかり。

今のところ、地下性ゲンを井戸以外の手段で採った者はいない。最近、ランダムに地中に金属棒を差し込んで地下水を汲み出し、水脈の生物を採る器具が開発されたらしいが、入手の方法が公表されておらず、市販はまだのようだ。
湧き水の川底を丹念にふるうやり方では、地下性ヨコエビの他メクラミズムシといった通常では採集至難な地下性甲殻類も採れることがわかっている。これでゲンだけが採れない理由はない。
なるだけ関西地域で、平地の里山環境にある些細な湧き水のある場所を探したい。場所さえ見つければ手堅い自信があるが、土地勘もツテもないので、そこで止まっている状況。

男なら誰もが地上最強に憧れるというのはグラップラー刃牙を見ればわかることだが、同じく虫マニアなら必ず一度は地下性ゲンに憧れる。俺も今まで生きてて数回地下性ゲン熱が上がり、その度にそれがあまりにも無謀な夢であるのを思い知って冷めてきた。寄せては引く地下性ゲン熱だが、ここ2年ほどは寄せたまま引いてない。ここでたたみかけたい所。


篠田授樹(2006)東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査。研究助成・一般研究VOL.28-NO.164 :1-49
富川光, & 森野浩. (2012). 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方. タクサ: 日本動物分類学会誌, (32), 39-51.

2730.jpgハクセンシオマネキUca lactea。奄美にて。

お辞儀中。湿った地面から水分を補給するため、腹面を地面に付けている。

ヤシガニ屠らず

2186.jpgヤシガニBirgus latro。宮古島にて。

森の中で、たまたま高密度でいる場所を見つけた。丘ヤドカリの一番でかいサイズよりは遥かに巨大だが、これでもまだ全然若いほう。

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強靭な体格。こいつのハサミで挟まれたら、人間の指一本など簡単に持って行かれてしまう。まさに地上最強の無脊椎動物。しかし、その最強の無脊椎動物も、今や人間に脅かされて滅びの路を歩み始めている。

日本のヤシガニは、世界的に見たヤシガニ分布域の北限にあたる貴重な個体群である。しかし、彼らは生息環境の悪化に加えて食用目的の激しい乱獲に遭い、南西諸島全体で著しく個体数を減じている。環境省の絶滅危惧種に指定されているほか、幾つかの島で独自の保護条例がしかれているほど。
しかし、一方で今なお食材としての流通自体は続いている。ヤシガニは、成熟までに凄まじく年月を要する上、寿命も長い(推定50年前後)。だから、一度減るとなかなか増えない。

前に那覇の公設市場に行った時、この世のものとは思えない化け物クラスの巨大ヤシガニが、生きたまま売られているのを見た。ちょっとした小型犬くらいのサイズで、恐らくヤシガニという生物がとりうる最大級の大きさ。脚には法外な金額の書かれた値札を括り付けられていた。
しかし俺は奴を見た時、値段より何より、あれだけのサイズまで育つのに一体どれだけ途方もない年月がかかったのだろうという思いでいっぱいだった。40-50年くらいでは絶対きかない程の時間をかけて育っただろうあいつも、人間に茹で殺されるのは一瞬なんだから、こんな理不尽な話はない。
絶滅するしないは別にして、人一人の人生折り返しくらいの時間を生きてきた、この雄大なる生き物に対してあまりにも不敬すぎる。寿命の極端に長い生き物を食材にしてしまうことに、物凄く罪悪感を覚える。寿命40-50年てすごいぞ。百獣の王ライオンですら、せいぜい20年くらいというのに。

俺はこの生き物を、人の食い物と思えない。俺の中でヤシガニを食う行為は、ウナギマグロを食うより遥かに罪深い。沖縄で食うものなんて、他にいくらでもある。俺は死んでもヤシガニだけは絶対食わないと、心に誓っている。