2887.jpgユスリカバエ幼虫。対馬にて。

海岸すぐそばの岸壁から真水がしみ出ていて、そこにうじゃうじゃいた。頭には突起が一対あり、ネコミミのようで可愛らしいのだが、まったく人気が出ない。

本当はこういう環境にいる、あの甲虫を探したかったのだが。

2752.jpgサモアオヨギユスリカPontomyia natans。喜界にて。

昆虫に関して一般人から出される疑問でしばしば見受けられるものに、「海に昆虫は住まないのか」というのがある。実のところ、波打ち際の陸地に住む種はかなり多いのだが、海洋上や海中で活動できるものは非常に少なく、だいたいウミアメンボやウミユスリカ、オヨギユスリカ辺りがその数少ない例として挙げられる。
そんな風に虫マニアならば名前くらいはすぐ出せるオヨギユスリカだが、生きたそれの現物を見たことのある奴など、昆虫学者だって滅多にいない。俺も前々から探してはいたが、見たのは初めて。

2753.jpg日本の昆虫としては屈指の、神妙不可思議にて胡散臭い姿。まるでグライダーの骨組みだけみたいな奴。翅は短く退化して、とても飛翔できそうにない。代わりに、恐らく高速でこれを震わせて推進装置とし、水面を滑るように滑走するのだろうか(もしかしたら、あの長い脚をオールのように使って前進するのかもしれないが、よくわからない)。
写真で大写しにすればこそこうだが、実物は1mmちょっとしかない超ミニサイズ。しかもべらぼうに素早い。知った上でよほど注意してなければ、絶対に存在を認知できない。水面に浮いた毛ぼこりが、風で飛ばされているようにしか見えない。なお、この姿をしたものは全部オス。メスは翅も脚もない棒状の姿という、カの成虫としてはありえない姿をしている。大潮の夜、浅い海底に固着していた蛹から羽化したメスは、水面へと浮上する。それをオスが水面で捕獲して、交尾に至るらしい。成虫の寿命はすこぶる短く、羽化後は2,3時間でとっとと死ぬようだ。
メスが見られるかと思って1時間くらい監視していたが、それっぽいものは現れなかった。

オヨギユスリカ属は、世界中の温暖な海域を中心に分布するが、分布の広さの割に地球上でたった4種しか知られていない。日本ではセトオヨギP. pacificaとサモアオヨギの2種が見出されており、オスの腹端の付属器の形で区別できる。本当は九州本土でこの仲間を見つけたかったのだが。

絶滅天使メタトロン

2706.jpgオオツルハマダラカAnopheles lesteriと同定可能な生物。西表島にて。

オオツルハマダラカは、北海道から沖縄まで広域にわたり分布する。かつて国内に存在した土着マラリアの主要媒介蚊だった可能性が高い種と現在見なされている、衛生管理上とても重要な害虫だ。ところが、北海道と沖縄では今も普通らしいが、本土の個体群は近代に入り激減してしまい、今やどこにも見つからなくなった。本土個体群はボーフラ時代の生息環境がかなり特殊で、非常に良好な自然環境の下でしか育たない。本土の自然が破壊され尽くしたせいで、この蚊はいなくなったのである(同時に土着マラリアも消滅した)。

オオツルは地域により産卵習性や形態が異なり、国内のものは実際には複数種からなる可能性が指摘されている。種が異なる場合、マラリア媒介能の違いなど調べるべき事が増える訳だが、オオツルのタイプ標本は現在行方不明らしい。加えて、本土の個体群は現在絶滅状態で標本が集まらず、結果として一番大事な分類が遅々として進まないという問題を抱えている。
上の個体は、口髭に微かな白帯が認められること、Cu2脈末端のフリンジが白抜きでない(やや毛が禿げて確認しづらいが)等の特徴から、現状の検索表に照らし合わせる限りではオオツルと見なしてよい個体だ。しかし、それが真にオオツルという種であるか否かは、また別の問題である。

オオツルハマダラカでググレカス画像検索しても、これがオオツルハマダラカだという写真が一つも引っかからない。こういう重要な害虫は、専門の研究機関で系統保存飼育されてるものだと思っていたが、そういうのの写真は出てこないのだろうか。
それに、本土のはともかく北海道や沖縄にはまだこうしてそれなりにいるのだから、そういうのの画像がもっとヒットしてよい気もするが。オオハマとかコガタとか、限られた島にしかいない珍種のハマダラカの写真は引っかかってくるのに、これ如何に。

現在、環境省レッドには吸血性ハマダラカが2種リストアップされている。あれらが載るならオオツルも載せていいと思うのだが、一番の謎は同じ衛生害虫でもカがレッドに載るのに、同等に国内では壊滅状態のヒトノミ、ヒトジラミが載らないことである。カとノミシラミの線引きがどういう基準でなされているのかを知りたい。

夏のアルバムから。
2698.jpgシマカ属Aedes sp.。たぶんヒトスジだが、確定しないでおく。与那国にて。

かつてクソ田舎にいた当時、俺はアパートの二階に住んでいた。ある日、気晴らしに桃色ゲームをやろうとパソコンの前に腰を下ろした刹那、玄関のチャイムが鳴った。何だと思ってドアを開けたら、へんな宗教の勧誘。頭に来てすぐ追い払い、ドアを施錠。気を取り直してパソコンの前に腰を下ろして暫く経った頃、無性に片膝が痒くなってきた。ふと見たら、シマカが止まって吸血しているではないか。

シマカ属は基本的に、平屋建てでもなければ人家内にあまり入ってこず、特に建物の上の階にはほとんど出現しない。そして、さっきの勧誘員が来るまで、部屋の中に蚊はいなかった。さっきの勧誘員に階下からまとわりついて上がってきた蚊が、ドアを開けた際に入ってきたのは明白だった。
たのしいゲームの出鼻を挫き、頼んでもいないのにクソの肥やしにもならん説教を聞かせ、あまつさえ蚊まで部屋に放ちやがったあの勧誘員に、煮えたぎる激しい怒りと憎悪が湧き上がり、腕で顔を拭った後の大魔神状態になった。

今度またへんな勧誘員が蚊を連れて家まで来やがったら、石でも投げる所存。ただしその蚊がヤツシロハマダラカだった時は、教祖様の残り湯でもありがたく飲み干します。時価数億円のありがたい絵も、サラ金に手を出してでも買わせて頂きます。

夏のアルバムから。
2690.jpg
アミカ。北海道にて。

清涼な水質の河川に生息する。幼虫は奇怪なロボのような姿をしており、流れに洗われる川底の岩の表面に取り付いて藻類を喰う。成虫の翅には通常の翅脈に加えて、とてもきめ細かな筋が網目状に張り巡らされていて美しい。しかし、よほどストロボを工夫しないと写真に写らない。上は工夫したのに大して写らなかった例。