腐海の谷の熊楠

今年の梅雨は雨がものすごく多かった。虫にはあまりいい条件ではなかったが、近所の森は常にジメジメした状態が続いたため、粘菌が非常にたくさん姿を現した。今年は粘菌に関しては当たり年のような気がする。
粘菌は全く専門外で種類はぜんぜんわからないが、とにかく見ているだけで面白い。こんな生物がいるということ自体が驚きだ。動物でもなければ植物でもない。そして菌でもない。既成の概念でくくりきれない生物の寄せ集め。

IMG_1964.jpgハタキのような風船のようなやつ。

IMG_1969.jpgまんじゅうのような奴。

IMG_1971.jpgたぶんツノホコリ一種Ceratiomyxa sp.。サンゴのような形だが、触ると簡単に潰れていやらしく糸を引く。

IMG_5048.jpgこれもたぶんツノホコリ一種。ツノホコリには形の違う幾つかの変種がいる。

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たぶんサビムラサキホコリStemonitis axifera。普通にいる。

IMG_2483.jpgムラサキホコリ属一種。小さい。

IMG_463.jpgクモノスホコリCribraria cancellata。普通にいる。これは新鮮な個体。

IMG_4633.jpg内部の胞子を飛ばしたあとのクモノスホコリ。ぼんぼりか扇風機のような骨組みだけが残る。

上に示した写真は、すべて近所の森の小路をほんの200m程度歩く中で、道脇の倒木に見られたもの。梅雨時の森の倒木上は、粘菌の博物館だ。
なお、これらはすべて胞子を飛ばす子実体と呼ばれる姿。アメーバのように地面を這い回る変形体という姿が、日の光を浴びてこれになる。

粘菌といえば南方熊楠。南方熊楠は、日本三大奇人と呼ばれているらしい。俺が四大奇人の四人目になるまでの道のりは、果てしなく遠い。

長野にて。

IMG_6369.jpgアズマヒキガエルBufo japonicusの幼体。ものすごく小さい。これがあの巨大な蝦蟇にまで育つのはいつのこと。都内にて。

IMG_2303.jpgスミナガシDichorragia nesimachusの若齢幼虫。若齢期は、食樹アワブキの葉を主脈だけ残して齧ってしまう。そして、主脈からスダレ状に葉のくずを吊るし、そこに自分がぶら下がって鎮座まします。刺激を受けるとシャチホコのように体をそらすが、葉のくずと同化してしまう。自分の分身として葉のくずを吊るしているように思える。

長野にて。

真似しっ子

IMG_0498.jpgマネシアゲハChilasa clytia。一見、毒蝶のコモンマダラ系に似ていて、ゆったりした飛び方もそれらにそっくり。都市部にある大学構内で見つけた。意外に荒れた環境にいるもののようである。

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翅裏は、割とアゲハチョウ的な雰囲気を残している。こいつを一番最初に見たのが翅を閉じた姿だったため、騙されずに済んだ。

マネシアゲハの仲間には幾つか種類がいて、みんなマダラチョウの仲間に擬態している。中には神がかったレベルで精巧に擬態した種がいて、度肝を抜かれる。オオムラサキマネシアゲハC. paradoxaとカバシタアゲハC. agestorあたりは常軌を逸脱したレベル。あれを野外でモデルと見分けて撮影してくる人間は、どうかしている。

マレーにて。

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コモンマダラ系の蝶Tirumala sp.。東南アジアでは、誰も見向きもしないような駄蝶。この仲間は似た種類が多すぎてわからない。昔はそれでも蝶研出版の本でかなり勉強したのだが、もうさっぱり忘れた。

マダラチョウの仲間は毒蝶として知られる。しばしば花も咲いていない植物に止まり、葉の表面を吸うような仕草を見せる。これは、植物から毒成分を摂取して体内に蓄えるための行動だと言われる。

マレーにて。

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イトトンボ一種。日本の湿地にいるモートンイトトンボMortonagrion selenionに雰囲気が似るが、鬱蒼としたジャングルにいる。マレーにて。

甲虫マニア

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アナバチ系の狩人蜂。甲虫らしいものを抱えていると思ったが、後で写真をよく見たらカミキリムシだった。カミキリムシを捕獲する蜂がいるなんて知らなかった。しかし、すぐに飛び去ってしまった。マレーにて。

熱帯のジャングルは、多種多様な狩人蜂の楽園。こんなものを?と思わず言いたくなるような虫を専門に狩る不思議な種類も多い。しかしこの手の蜂には、野外ではとにかく遭遇できない。

源頼朝の落馬は昨日の夕飯の蟹の祟り

IMG_0495.jpgマレーシア、クアラルンプール市内の大学。都市部ながら、未だに密林がパッチ状に残っており、意外なほど多くの生物が生息している。俺は数週間の現地滞在中、大半を山間部で過ごす。そして帰国する前日・当日にこの大学内の森でサンプリングするのがいつものパターン。
しかし、ここの森には信じられないほど大量の蚊が生息しており、油断できない。山間部よりも遙かに多く、森に入った途端に竜巻のような蚊の群れに取り巻かれる。クアラルンプールのように、元々森林だったところを急に開発してできた熱帯の都市は、概して蚊が異常発生しやすい。

IMG_0530.jpgこの森での最大の敵、シマカ属Aedes sp.。デング熱を媒介する仲間で、疲労時に多数個体に刺されすぎると発症する。数年前、ここでアリの採集にかまけて刺されすぎ、そのまま帰国して二日目に発症した。日本の田舎、しかも輸入感染症に無知な病院にかかったせいで適切な処置が遅れ、まもなく劇症型のデング出血熱に移行した。そのまま死んでしかるべき事態に陥ったのだが、すんでの所でシシ神様に命を与えられて現在に至る。以来、海外からへんな病気を持ち帰った場合は、大人しく都内のちゃんとした病院にかかろうと決めた。

胸部背面に一本白線をもつ縞々の蚊を見ると、条件反射的にヒトスジシマカA. albopictusと呼んでしまう。しかし、シマカ属には肉眼で区別しがたい多数種がいるため、素人目には同定できない。いや、素人が蚊の同定をしてはならない。
なぜなら蚊には肉眼で識別困難にも関わらず伝染病媒介能が全く異なる同胞種が多く存在し、それらの正確な分布情報は、その地域の公衆衛生を管理する上で極めて重要な情報となるからである。

P1340547.jpgタイ・バンコクの大学構内で見た、背面に4本白線を持つ蚊。種名は知らないが、熱帯の市街地にいるこの手の種はネッタイシマカA. aegyptiである場合が多いらしい。デングは当然のこと、地域によっては恐ろしい黄熱の媒介者。


蚊といえば山本正之の「源平超歴いざ鎌倉」は至高の名曲。人生のテーマソングだと思っている。一日に30回聞く。

歩く鳥獣保護法違反

IMG_7695.jpgアギトアリOdontomachus sp.。極度に捕食生活に特化した有名な肉食アリの仲間。顎を大きく開いた状態で固定し、まるで地雷探知機のように頭を左右に振りながら歩く。開いた顎の間には細いフィラメントが突き出していて、これに餌が触ると反射的に顎が閉まる。顎の閉まるスピードは恐ろしく高速で、そのスピードを生み出す筋肉は頭部の中に収まっている。一説では、このアリの顎を動かす筋肉は地球上あらゆる生物のもつ筋肉の中で一番の瞬発性をもつとか。ちなみに、仮面ライダーアギトはアギトアリとは何の関係もない。
動物の足を挟んで捕獲するトラバサミという罠があるが、それによく似た構造の顎で獲物を狩るこのようなアリをトラップジョーアントと呼ぶ。

IMG_6519.jpgヒメアギトアリAnochetus sp.。小型のアリで、すっとぼけたような面をしている。しかし、小動物にとっては凶悪なモンスター。アギトアリと同じ方法で獲物を狩る。

IMG_6784.jpgハンミョウアリMyrmoteras sp.。東南アジアのアリの中でも、一二を争う奇怪な怪獣。アギト・ヒメアギトのように、変な姿の肉食アリは大抵ハリアリ亜科の種類と相場が決まっているが、これはアリとしては最も標準的でなじみ深い姿をしたヤマアリ亜科。

IMG_6776.jpgグワッと顎を180度以上開いて獲物を探す。本来どんな顔をした生物なのか全く分からない。アギトアリと同じく、口元から生えたフィラメントに獲物が触ると顎が閉じる。

IMG_6792.jpgトビムシが捕まった。獲物は気付いたときには既に凶悪な大顎の間に刺し貫かれている。この後、顎を交差させてトビムシの胴体を完全に磨り潰す。文字通り八つ裂き。

マレーシアに初めて行って、ジャングルでこのアリを見たときには泣くほど感激した。しかし、その後かの国ではさほど大騒ぎするほど珍しいものではない事を知る。

マレーにて。

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グンバイ一種Tingidae sp.。クリスマスツリーの飾りにありがちな形状。マレーにて。

電電虫

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手長のコメツキモドキLanguriidae sp.。マレーにて。

ちなみにマレー語でTENAGAは電気の意味。

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ライギョ的な何かChannidae sp.?。林内の枯れ沢に僅かに残ったたまり水で生活している。時々おそるおそる水面に浮上して息継ぎする。ポカッと口を水面から出すや、もう姿を消している。マレーにて。

ライギョの仲間は危険な寄生虫が高率でいるため、生食できない。しかし、火を通せばそれなりに美味な魚だという。日本のカムルチーやタイワンドジョウも、元は食用で持ち込んだもののようである。

関係ない話だが、最近日本でウナギが採れなくなっている事を受けて、ウナギを今までのように野放図に消費するのをやめるべきだと表明する人々が、結構ネット上に現れ始めている。いいことだと思う。これをきっかけに、日本で有り余っている外来魚のうまい食い方を考案する人間が現れれば言うことなしである。

個人的には、霞ヶ浦で大繁殖してほとほと困っているアメリカナマズを「ネコウナギ」とか名付けて、ウナギの代わりに蒲焼きにする技術を開発して欲しい。少なくとも、放射能汚染の後片づけよりは容易いことだと思うのだが。

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アガマ系のトカゲ。マレーにて。

ノーサイドがゴミのようだ

IMG_9362.jpgイエバエ一種Musca sp.。イエバエ属の属名は、某大佐と同じ「ムスカ」。あの大佐の名前はこれからとったのだろうか。

熱帯の国々では、赤痢をはじめとして未だにハエの媒介する伝染病が横行している。俺は日本ではあまりハエを気にしないで生活しているが、海外ではかなりハエには気をつけている。食事中にハエが食い物にとまらないようにするし、とまったものは絶対食わない。
東南アジアのオープンカフェみたいな飲食店は、ハエの楽園。注文した料理が運ばれてくるや、一斉に周りから集まってきて料理にたかろうとする。常に手で追い続けねばならず、手が疲れる。しかも、とにかくしつこくて諦めない。

IMG_9364.jpgしかし、ひとたび食事が終わってしまえばハエを追う理由もないので、後はハエの「駿河まま」。ハエと人とのいがみ合いは解消される。
どうでもいいが、このカメラを買って初めて人間を写した一枚。

マレーにて。

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ミズスマシ一種。日本にもいるオナガミズスマシ属Orectochilusに似ている。林内の細流に、夜だけ姿を見せる。マレーにて。

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妖しい美しさのタテハチョウ一種。種類は分からない。マレーにて。

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コノハドリChloropsis sp.。綺麗な緑色で、茂みにいると隠れていなくても姿が見えない。マレーにて。

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ヒゲブトハナムグリAmphicoma pectinata。夕刻にたたずむ。都内にて。

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セスジムシ一種Rhysodidae sp.。樹皮下にたまにいる、変わった甲虫。粘菌を食うらしい。長野にて。

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エゾアカヤマアリFormica yessensis。高原で見られる紅いアリで、枯れ草を集めて大きな塚を作ることで有名。非常に攻撃的で、巣を刺激すると集団で襲い掛かってくる。噛み付いたり、強力な蟻酸を水鉄砲のように飛ばすため、顔をむやみに近づけるのは危険。しかし、これの巣には珍しい好蟻性の甲虫がいるため、戦わざるを得ない。森林を荒らす害虫の駆除にかなり貢献しているようで、ヨーロッパ産の近似種は法律で保護されているという。

定量的なデータはないが、ここ最近どこでも明らかに減っていると思う。乗鞍岳方面は特にひどい。10年前、道路わきの歩道を埋め尽くすほどいっぱいいたはずなのに、今では普通のクロヤマアリF. japonicaに置き換わりつつある。塚も巨大なものはめったに見なくなった。

長野にて。

プラネタリュウム

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ヒカリゴケSchistostega pennata。長野にて。

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ハルゼミTerpnosia vacuaの羽化。名前と違って、高標高地では8月頭まで頑張る個体もいる。長野にて。

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アカハライモリCynops pyrrhogaster。昔は日本中どこの田んぼにも沢山いたようだが、近年ではいずれの地域でも少なくなっている。埼玉では採ってはいけないらしい。「条例や法律で守らねばいけない程にまで身近な小動物を減らすこと」以上に、未来の子孫に対して恥じるべきことがあるだろうか。

長野にて。

コウチュウ・アカマダラコガ
アカマダラハナムグリPoecilophilides rusticola。幼虫期にワシタカなど大型鳥類の巣で生活する習性がわかって、一時話題になったカナブンの一種。その特殊な生態ゆえ、最近減っているようだ。うちの近所ではここ数年見つけられず、少し遠出せねば姿を拝めない。山梨にて。

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クロミドリシジミFavonius yuasai。殆ど夜行性に近い生態を持つことが近年判明した蝶。クヌギの大木が残っていれば、かなり宅地化した場所でも何とか生き残っている。長野にて。

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ホオアカEmberiza fucata。夏の高原の常連だが、減っているらしい。キャランコロンと転がすような美声でさえずる。長野にて。

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ヒラフシアリTechnomyrmex gibbosus。そんなに珍しくはないが、樹上性の上に小さいので普通誰も気づかない。アリの特徴であるはずの、胸部と腹部の継ぎ目=腹柄節がない(ように見える)アリ。長野にて。

夏の守護竜

IMG_2101.jpgサンコウチョウTerpsiphone atrocaudata。夏鳥の一種。天の神は、よくこんなバカみたいな色と形の生物を作ったものだと思う。雄は長い尾を持つが、これは日本に渡ってきた後で急に生えるらしい。渡りのときは少しでも体を軽くせねばならないから。

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複雑かつ奇怪な声でさえずるので有名。見た目とは裏腹に動きは恐ろしく素早く、機動性に富む。空中を飛ぶ昆虫を捕獲するため、ホバリング、急旋回、宙返り、何でもやる。森の虫たちにとっては、回避しがたい強敵。

長い尾をはためかせて枝から枝へ飛び移り、虫を片っ端から粛清していくこの鳥を見ていると、遠い昔昆虫を追って空へ飛び出そうとした(らしい)始祖鳥になんとなくイメージがかぶる。

長野にて。

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IMG_5164.jpgタダツノことツノゼミButragulus flavipes。偶然、大量にいる場所を見つけてしまった。いつも素通りしていた場所だけに、足下をすくわれた感じ。樹種はおそらくミヤマハンノキAlnus maximowiczii?。

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IMG_5169.jpg同じ場所に見られた、ツノのないツノゼミの一種。ツノ以外の全体的な雰囲気はタダツノに極めてそっくり。真上から見ると、両肩が少し突き出して見える。多分ハコネ(マル)ツノゼミGargara doenitzi?ではないかと思う。
ハコネツノゼミは幼虫期にアリと殆ど共生しないらしく、それを自分の目で確認したかったのだが、もう時期的に幼虫がいないようで残念。少ない種類だが、名前と違って箱根以外にもいる。

長野にて。

IMG_4284.jpgツノゼミButragulus flavipes幼虫。ナントカツノゼミでなく、正真正銘ツノゼミという名前のツノゼミ。ただツノゼミというと、この種のことを指すのかツノゼミという分類群全体のことを指すのかが分からないので、俺はこの種のことを「タダツノ」と呼んでいる。
本種は方々の図鑑には最普通種とか書いてあるが、通常はある程度標高のある山手に入らないと生息しない。また、実際に山をふらふら彷徨っても思いのほか発見できない虫である。というのも、寄主植物が多岐に渡る種のため、具体的に探す的を絞れないのである。

この数年間というもの、どうにかしてこの「普通種」を普通に見つけられないものかと試行錯誤した。その結果、どうやら長野県の標高1000メートル以上の地域ではほぼ例外なく幼虫期にシワクシケアリMyrmica kotokuiを随伴させている傾向が認められた。このタダツノの他、モジツノゼミTsunozemia paradoxaやトビイロツノゼミMachaerotypus sibiricusなど大抵のツノゼミ類はシワクシケアリのみを取り巻かせている。同所的に生息するトビイロケアリLasius japonicusなどのアリは、近くのアブラムシに集まることはあってもなぜかツノゼミには殆ど来ていない。シワクシケアリは、通常はあまり高い植物上に登らないので、それが数匹高い木の枝上に群がっているのを探せば効率でツノゼミを発見できるのである。

ただし、これはあくまでも長野県で俺が感覚的に思っただけの事なので、よその地域でどの程度これが通用するかは分からない。また、高原で見られるマルツノゼミGargara genistae?の場合、今まで見た限りではシワクシケアリが全く随伴せず、代わりにヤマアリ属(時にケアリ属)が随伴していた。

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本種の幼虫は、色彩の変異が顕著である。本当に同じ種類なのかと疑いたくなってしまう。実際、このタダツノはかつて幾つかの種類に分けられていたが後で同種にまとめられたりした経緯がある。また、寄主植物の範囲が広いとはいえ、地域によって明らかに好んで取り付く植物種が決まっているように思える。これまで日本のツノゼミ分類は、殆ど成虫のツノの形だけでなされていた感が否めないため、分子その他のツールを使えば今後いろいろ新しいことが分かるに違いない。

長野にて。