蟹蟹堪忍できない

IMG_7132.jpgヤマトオサガニMacrophthalmus japonicus。干潮時、河口の干潟に群れる。両方のハサミを目の高さまで持ち上げ、盆踊りのとき両手で輪っかをつくるような動きをする。よく似たヒメヤマトオサガニM. banzaiは、バンザイするようにガバッとハサミをめいっぱい上に挙げる。それを見たくて探しているのだが、こちらの種はどこの干潟でも見たことがない。

干潟の蟹はものすごく警戒心が強いので、至近まで接近が困難。こちらの僅かな動きにも怯えて逃げ隠れしてしまう。望遠レンズを使えば楽に撮影できるが、それでもこういう生き物には直に近寄って見つめ合いたいのである。

そう言いながらこれを見つめているあいだに、2時間が過ぎてしまった。とんでもない時間泥棒。

福岡にて。

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ヒメネズミApodemus argenteus。お休み中邪魔してすまんかった。長野にて。

IMG_7677.jpgハヤシノウマオイHexacentrus japonicus。よく似たハタケノウマオイH. unicolorは鳴き声がよりせわしないので区別できる。スイッチョとか呼ばれるキリギリスの仲間で、夏から鳴き出す。ウマオイの声はとても周波数が高いため、耳が悪くなると聞き取りづらくなると言われている。年をとると真っ先に聞こえなくなる虫の声だとか。

幼い頃、夏に母方の実家に帰ったときのこと。夜、今は亡き祖母が裏の畑でやかましい程ウマオイが大合唱している最中にも関わらず「最近は自然がなくなったからこの辺で馬追いが一匹も鳴かなくなった」と俺に言った。それを聞いて、この人は俺とは全然別の世界に生きているのだと思って、訳もなく悲しい気分になったのを覚えている。

長野にて。

IMG_6290.jpgミカドジガバチHoplammophila aemulans。大型のガの幼虫を狩る狩人蜂の仲間。獲物を見つけると背面から食らいつき、ウエストの細い腰を器用に曲げてイモムシの胴体に毒針を打ち込む。イモムシは最初激しく抵抗するが、刺された部分から上半身が動かせなくなる。蜂はイモムシの上半身から下半身へと各体節を順番に刺していくため、最終的にイモムシは全身が麻痺する。
なお、これは既に獲物を狩り終えて巣に運搬中の蜂を邪魔して撮影した「半やらせ写真」。運搬中の獲物をピンセットで動かすと、蜂はまだ獲物に麻酔が充分かかっていないと勘違いしてもう一度刺すのである。多くの種類の狩人蜂で、この方法により麻酔行動を再現させることができる。もっとも、獲物の動かし方にはコツがあって、それぞれの獲物にあった「生きていた時の動き」を巧妙に再現してやらないと蜂は騙されてくれない。また、アナバチの小型種のように狩る獲物が小さすぎる上に神経質な種では、この方法は通用しない。こういう蜂の麻酔行動を観察したければ、自然状態で獲物を狩る様子に偶然立ち会うほかない。

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樹幹に作った巣穴に獲物を運び込む。近縁のサトジガバチAmmophila sabulosaなどは地中に穴を掘って巣にするが、本種は植物の茎や樹幹の穴ぼこを巣として使う。運び込む時は、必ず先に自分が巣穴に尻から入り、そのまま獲物を引っ張り込む。

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巣へ獲物を運び込むと、地表に降りて石ころや木の切れっ端をくわえては巣穴まで飛び上がり、巣に詰めて蓋をする。

長野にて。

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チャミノガEumeta minuscula。中で蛹になっているはず。長野にて。

金糸銀糸を舞い放ち

IMG_6541.jpgトワダオオカToxorhynchites (Toxorhynchites) towadensis。全身メタリックグリーンな日本最大の蚊で、2センチ弱もある。子犬の悲鳴のような大きな羽音は、静所ならば3メートルくらい離れてても聞き取れるほど。自然度の高い森にしか住まないとされており、各都道府県版レッドリストにも名を連ねている。しかし、確かにあんまり市街地では見ないし、一箇所でそう何匹も見かけないものの、標準的な里山環境があればどこでも見つかる印象を個人的に持っている。さほど珍しいとは思わない。
北海道から九州まで広く分布し、南西諸島ではよく似たヤマダオオカT. manicatusに置き換わる。

IMG_6543.jpg強靭そうな口はカギ状にへし曲がっており、見るからに凶悪そう。しかし、雌雄ともに動物からは一切吸血せず、花の蜜を吸うだけ。しかも本種のボーフラは肉食で、同じ場所に住む他の吸血性ヤブカ類のボーフラを沢山食い殺すという、人間にとっては拝んでも拝み足りないほどの益虫。
アメリカでは現在、アジアから侵入したヤブカの一種ヒトスジシマカAedes albopictusが大繁殖して問題になっている。これを防除すべく、原産地であるアジアから天敵のオオカを持ってきて放しており、一定の効果が挙がっているようだ。

一昔前、昆虫に関する薀蓄本の中に「トワダオオカはヤブカを多量に食うため、トワダオオカが住む雑木林にはヤブカがほとんどいない」という記述があった。でも、個人的な経験では今までオオカの生息地でそんな印象を持ったことはないし、実際そんなことはありえない。餌動物が多量にいるからこそ捕食動物は生きていけるのである。沖縄に残っている「アカマタはハブを食うから、アカマタがいる場所にはハブがいない」などの言い伝えもこれに当てはまると思う。

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餌になるヤブカは日本中どこの森にもうじゃうじゃいるのに、それを食うはずのオオカはどこでも個体数がそんなに多くない。その理由の一つにオオカ同士の共食いがある(と思う)。オオカのボーフラは林内の樹洞に溜まったわずかな雨水で育つが、非常に攻撃的で体に触れるあらゆる小動物に攻撃を仕掛けるため、複数個体のオオカのボーフラが同居すると仲間同士で殺し合いをしてしまう。結果として一つの発生場所からは僅かな個体しか成虫まで育たないため、オオカは生息地内で大発生できないのである。

よその国から妙な害虫が入ってきて大発生すると、すぐにその原産国にいるその害虫の天敵を持ってこようという話になる。許容できるレベルにまで害虫の勢いを抑える効果があるのは間違いない。しかし、長い進化の歴史の中で共存し、食う食われるの関係を続けてきた生物同士には、お互いが共倒れにならない何らかのシステムが存在するはずである。だから、きっとアメリカに持ち込まれたヤブカもオオカも、今後一定の秩序を保ちつつ、永遠にアメリカに存在し続けるのかもしれない。
天敵を使って、「悪い生き物をいなくする」のは難しい。

長野にて。

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たぶんウツボホコリ一種Arcyria sp.。車のフロントガラスを拭くやつににている。長野にて。

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粘菌一種。倒木上に発生したが種類はわからない。長野にて。

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シロスジカミキリ一種Batocera sp.。沖縄に最近侵入したイチジクカミキリB. rubusに雰囲気が似る。マレーにて。


Batocera thomsoni Javet, 1858とご教示いただきました。SB様、ありがとうございました。

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サルノコシカケに来ていた甲虫。ゴミムシダマシ科Tenebrionidaeかツツキノコムシ科Ciidae。マレーにて

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種類のよくわからない、でも恐らく安全そうなヘビ。マレーにて。

赤んベーダー

こめつきマレーで見たコメツキダマシ一種Eucnemidae sp.。朽木や葉の上で時々見る仲間。上から見ると普通の甲虫だが、裏返すと面白い顔をしている。

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この仲間の甲虫には全身黒くてツヤのある種類がいるが、これを裏返した時の顔つきが物凄くダースベーダーにそっくりなのである。かつて、南米をフィールドにしているとある研究者が撮影したその虫の写真を見て以来、自分でも一目見てみたいと思って探し続けている。
しかし、マレーシアの調査地では赤っぽい種類ばかりで黒い種類がぜんぜん見つからない。赤い種類は赤い種類で、ギロロ伍長とかあっちら辺に似ている気もする。

円満

IMG_6869.jpgマレーシアの林縁でよく見かける、樹上性コオロギ。日本のクサヒバリSvistella bifasciataを大きくしたような形で、鳴き声も似ている。和名はついているかどうか知らない。しかし、見かけるときは高率で雌雄が一緒に葉上にいる状態のため、勝手に「メオトヒバリ」と呼んでいる。我ながらいい名前をつけたと思う。

でも、この虫は東南アジアでは至る所に見られるド普通種のため、すでに和名は付いているだろう。きっとどこぞの、実際に現地でそれが生きている様を見たこともないお偉方が、死んで干からびた標本だけを見て「ヒゲナガアシナガコオロギ」等の思わず張り倒したくなる程にネーミングセンスの貧相な名前を付けているに違いない。

シロスジカミキリBatocera lineolataという甲虫は、生時は体に美しい黄色い模様があるが、死ぬとそれが白く変色してしまう。シロスジカミキリの名前は、昔のどっかのエライ人が死んだこの甲虫の標本を見て名づけたものである。
研究者を自称する人間がこんなことを言っては身も蓋もないし、分類群によっては仕方がない事とは思う。しかし、人間が他の生物に、その死んだ姿だけを見てそれにちなむ名を与える行為は、実に罪深いと思う。

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オウゴンオニクワガタAllotopus rosenbergi。電灯に飛んできたメス。オスはかっこよくて、日本ではそれなりの値段で売買されていると思う。しかし、メスだしそんなにいらなかったので、近くの森の茂みに投げた。命拾いしたな。

マレーにて。

テヘペロ

IMG_9499.jpgカニクイザルMacaca fascicularis。顔もやることも可愛げのないサルで、東南アジアにはどこにでもいる。マレーシアの宿泊地である大学演習林周辺にも群れが生息し、人の目を盗んでは建物裏のゴミ箱をあさって中の物を好き放題食い散らかしていく。とてもずる賢くて悪知恵が働き、宿舎に人がほとんどいない時間をよく知った上でやってくる。時には建物の中にまで忍び込んで台所の食材を持ち逃げするばかりか、流し台にでかい糞までしていく。
数年前に初めてそこの場所を訪れた時、周囲に住む猿たちはここまで図々しい性格ではなかった。近年、ここの施設を利用する学生その他が面白半分でえさを与えるようになり、まるで日光の猿のように中途半端に人馴れしてしまった結果こういう迷惑行為を働くようになったようである。

IMG_9502.jpg人間との領分ははっきりさせねばいけないので、猿のいたずらには毅然として対処せねばならない。現行犯を押さえた上で、奇声を発しつつ石ころや棒きれをぼんぼん投げて突撃し、追っ払う。猿は素早いので、こちらが物を投げつけてもまず命中しないのだが、それでも命中しないように投げねばならない。万が一命中させようものなら、後生こちらの顔を覚えられてしまい、後でどんな仕返しをされるか分からないからである。
しかし、いくら我々が猿を戒めても、その後でこの施設を利用する人々が餌付けを繰り返すようでは、いつまでたっても状況が変わらない。

マレーにて。

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サンヨウベニボタルDuliticola sp.。太古の三葉虫を思わせる不思議な虫で、倒木の上でよく見る。粘菌を食うと言われている。サイズ的には5-6センチ位にまで育つようだが、この姿になるのは全部メス。オスはものすごくちっこくて、取るに足らない普通の姿の甲虫らしい。しかし、このオスというのがかなり発見困難らしく、記録は少ないようだ。

いつかこの虫のオスを見つけてみたい。オスというからにはメスの所へ交尾しに来るはずなので、俺はいつも森でこの虫のメスを見つけると片っ端から裏返し、じっくり観察することにしている。

マレーにて。

IMG_9535.jpgカタアリ亜科のたぶんヒラフシアリ属Technomyrmex sp.。イネ科植物につくウンカに随伴し、これが出す甘露をもらう。いずれの個体も腰を痛めそうな体勢をずっと続けている。

マレーにて。

IMG_8703.jpg頭が妙にでかいアカガエル。夜に沢のヘリに現れるが、警戒心が強くて近寄りがたい。沖縄のナミエガエルが含まれるクールガエル属Limnonectesと思われる。アカガエル科は全部属名がRanaだと思っていたが、最近結構細かく分かれているらしい。

マレーにて。

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クモカリバチ一種Pison sp.。建物の壁の隙間にできたクモの巣をしきりに調べる。マレーにて。

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マルウンカ一種Issidae spp.。テントウムシのように見えるけど、ヨコバイとかツノゼミの親戚筋。日本にもいる。マレーにて。

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ルリモントンボ一種Coeliccia sp.。薄暗い森の道脇にある細流で見かける。マレーにて。

日本の沖縄にも似た種がいる。

IMG_4444.jpg粘菌アミホコリ属一種Cribraria sp.?の変形体。
粘菌の変形体は、野外で見かけるものは白か黄色のものが多いが、これは怪しい青色。森の薄暗い場所を這い回り、細菌などを取り込んで食うようだ。肉眼ではわからないほどのゆっくりしたスピードで動き回るが、一時間くらい経ってから様子を見に行くと、ほんの少しだけ居場所が変わっているのがわかる。

アメーバ状の変形体の状態で粘菌の種同定は不可能。子実体になってからその子実体そのもの、あるいは胞子の形態を見る必要がある。明るい倒木上に変形体が現れるのは、胞子を飛ばす子実体に変身するためなので、大人しく変身するのを待てば良い。

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2-3日後、上の変形体のいた場所に出来ていた子実体。

長野にて。

IMG_6086.jpgハヤシナガアリStenamma owstoni。のけぞるほどの珍種ではないが、普通種でもない。岐阜にて。

IMG_6249.jpgヒダサンショウウオHynobius kimurae。数年前に見て以来、もう一生これの生きた姿を野外で見ることはないと思っていた。繁殖期でさえ姿を容易には見ない。

長野にて。

IMG_4528.jpgノビタキSaxicola torquata。夏鳥の一種で、夏の高原の常連。オスは黒く、美声でさえずる。

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メスや若鳥は茶色い。

長野にて。

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たぶんノビネチドリGymnadenia camtschatica。生えていることに気づいたのが、花が散ったあとだった。残念。

長野にて。

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アキアカネSympetrum frequens。平地で羽化した成虫は、すぐさま涼しい高原へと飛び去る。秋になって平地が涼しくなるまで、ここで過ごす。長野にて。

最新

IMG_5549.jpgウスバサイシンAsarum sieboldii。これを見つけて、葉を裏返さずに立ち去れる蝶マニアがいるだろうか。長野にて。

IMG_5854.jpgトゲグモGasteracantha kuhlii。コンペイ糖のような形で、触ると硬い。熱帯にはこれの仲間でもっと変な形のがいる。

長野にて。

IMG_5720.jpgドクウツギCoriaria japonica。赤い実は可愛らしく、食うと甘くて旨いらしい。でも食えば一発で死ぬらしい。ドクウツギの仲間は何種類かいて、それぞれが世界中の全然別の地域に生えているという。

石川にて。