ジャングルダンスby荻野目洋子

IMG_5218.jpgシラミバエHippoboscidae sp.。恒温動物の体表に住み着き、吸血する奇怪なハエ。山道を歩いていたら、何か変な虫が首筋に飛んできてへばりつき、離れなかったので取り押さえたらこれだった。山ではシカに付くシカシラミバエ属Lipoptenaが服に飛んでくることはよくあるが、これはそれと違う比較的大型種。この大きな目の種類は、たぶん鳥に付く種類だと思う。
この仲間には獣に付く種類と鳥に付く種類とがいて、種毎に取り付く寄主動物の種も大まかに決まっている。俺は周囲の人間から、しばしば振る舞いが哺乳類より鳥類に近いことを指摘されるのだが、虫にまでそれを言われた気分。

IMG_5225.jpg上から見るとそれなりにハエの形だが、横から見ると紙のように扁平。これにより寄主の体毛の間を軽やかにすり抜けることができる。行動はかなり素早い。

IMG_5237.jpgするどいツメ。寄主が暴れても、容易に振り落とされない。毛の少ない人間の肌に止まったときさえなかなか離れないのだから、鳥獣の体表上ならなおさらだろう。

IMG_5242.jpg目のパッチリした可愛い顔。

シラミバエは変わった繁殖様式をもつ。メスは体内で孵した卵をそのまま体内でかくまい、蛹化直前の幼虫もしくは蛹の状態まで発育させてから産み出す。このため、一度に多量の子孫を産めない代わりに死亡率の高い若齢期の子孫を自身で守り通すことが出来るようになった。シラミバエ科の他、クモバエ科、コウモリバエ科、ツエツエバエ科がこの生態を持っており、これらをまとめて蛹生類と呼ぶ。
この4科は、見た目の姿があまりに違いすぎるため、昔の昆虫分類学の本には「偶然同じような繁殖生態をもった仲間であって、実際の類縁は遠い」と書いてある。しかし、今では実際に近縁な仲間同士であると見なされているようだ。

蛹生類のうち、アフリカにのみ生息するツエツエバエは、睡眠病という致死性の高い病気を媒介することで恐れられる吸血バエ。しかし、俺にとっては生きている間に一度は生きた姿を見てみたいと切望している生物の一つでもある。シラミバエの口をもっと長くし、胴体の厚みを普通のハエ程度に膨らませた感じの姿をしたハエらしい。偶然拾ったハエを自分の足首に乗せてニラニラ観察しながら、まだ見ぬアフリカに想いを馳せたりした。

IMG_7812.jpgミカドオオアリCamponotus kiusiuensis。大形種だが夜行性なので、生息していても気付かれない事が多い。夜に森へ探しに行けば、信じられない数で歩いているのを見ることもある。基本的に樹上性。

長野にて。

痛み吟醸の美酒

IMG_7933.jpgハコネナラタマバチAndricus (Callirhytis) hakonensis の虫コブ。タマバチ類は幼虫期に植物の葉や茎内で暮らす。その際、自分を取り巻く植物の細胞を何らかの方法で異常に活性化させ、大きなコブ状にしてその内部で暮らす。ハコネナラタマバチは秋にコナラなどの枝に群がって虫コブを形成するが、その際に虫コブ表面から多量の蜜を分泌するため、アリが沢山集まる。

「アリとハチの自然史」(北海道大学図書刊行会)によれば、普通コナラの枝は蜜を出すことはないのに、このハチが虫コブ化すると枝内部の組織に分泌器官ができ、蜜が出るようになるという。無から有を作るような虫だ。ハチが何がしかの手段で植物の細胞を操作している結果らしい。
この蜜を目当てに、様々な種類のアリが寄ってくる。樹上で採餌する雑食アリなら種類を問わず集まるようで、行きつけの森ではアメイロアリとアミメアリ、ハリブトシリアゲアリが来ている。

ハチ・ハコネナラタマバチ2滴状に溜まった蜜は、人間が舐めても甘く感じる。蜜でアリを懐柔する栄養共生型の好蟻性昆虫はいくらでもいるが、それらは多くが自分の体内で蜜を作っている。そこへ来てこのタマバチの場合、自分でなく植物に蜜を無理矢理作らせているという点で、他の栄養共生型の好蟻性昆虫とは趣を異にする。

ハチ・ヤドカリタマバチ-(6)
タマバチの虫コブのそばに、怪しい虫影発見。寄生性の別種のタマバチ(恐らくヤドカリタマバチ亜科Synerginae sp.)である。この仲間はタマバチなのに自分で健康な植物体に1から虫コブを作る能力がなく、もっぱら他種のタマバチが既に虫コブ化した場所に間借りして虫コブを作るらしい。
警戒心がとても強く、撮影が難しい。アリの防御が薄くなったときに、ささっと標的に近寄っていく。

IMG_7935.jpgこの寄生蜂は、あくまでも自分の虫コブを作るのが目的であって、直接大家の虫コブの中身に悪さする意図はない。しかし、この寄生蜂の虫コブは大家のそれより成長スピードが異様に速く、ひとたび作られるとたちまち巨大化して周囲の大家の虫コブを押しつぶし、圧死させてしまうらしい。
でもハコネナラタマバチの虫コブ周辺にはアリが常にうろついているため、招かれざる客はなかなか近寄れない。こうした天敵に対する防衛効果を見越してハコネナラタマバチが蜜を作る(作らせる)ように進化したとは到底思えないが、いずれにしても不思議な現象である。

長野にて。

IMG_0059.jpgミスジチョウNeptis philyra幼虫。若齢期は、カエデの葉の主脈だけを残して食い、そこに葉のくずをスダレ状に吊した中に鎮座まします。一見、虫本体も葉のくずに見える。

長野にて。

IMG_0072.jpgエダナナフシPhraortes illepidus。ナナフシは成虫を見つけるのが難しいが、幼虫ならば比較的楽。初夏の頃に幼虫が多くいる木を見つけておき、夏の終わりに再びその周辺を探せば高率で成虫が見つけられる。この森では、5月にとあるミヤマハハソの葉上で多く幼虫が居た。先日、そこへ行ったら一匹だけだが成虫を見た。

ナナフシの意外な見つけ方として、夜懐中電灯で照らしながら探す方法がある。ただでさえ発見困難な擬態の名人を暗闇で探すなど正気の沙汰とは思えないかもしれないが、これが実によく見つけられることに気付いた。ナナフシの体はむしろ日中の太陽光下で周りの景色によくなじむため見つけにくい。しかし、暗闇で人工光を当てると、ナナフシの体は明らかに本物の枝とは違うテカリ方をして見えるので、目に入れば瞬時にわかる。

長野にて。

IMG_7881.jpgホシミスジNeptis pryeri。クモの巣に引っかかって死んでいるのかと思ったが、見たら違った。先にクモの巣に引っかかって死んだトンボに止まってその汁を吸っていたのだった。

長野にて。

慎吾

IMG_0438.jpgカトリヤンマGynacantha japonica。美しい大形トンボの一種で、ものすごく蚊の多い鬱蒼としたヤブにいた。撮影中はかなりつらい状況だったが、その名と異なり俺の周りの蚊は取ってくれなかった。正月にやる羽子板の羽根は、このトンボをモデルにしているという説がある。兵庫にて。

ビオトープという言葉が日本に普及し始めた頃、テレビでどっかの街中に様々なトンボが群れ飛ぶ「トンボの楽園」を作ろうとしているという特集番組をやっていた。自然を守る素晴らしい行いだとして、取材する方もされる方もみんなが喜んでいた。
でも、トンボの楽園というのはすなわち蚊の楽園である。餌もないのにトンボは飛ばない。そこまで考えての試みだったのだろうか。その街の人間全員がトンボの群れ飛ぶ街に住める代償として蚊や蝿の群れを街に受け入れることに同意してのことなのだろうか。結局その街の試みがうまくいったのかどうかは知らない。

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IMG_0096.jpgウストビイラガCeratonema sericeum。エイにそっくり。イラガの仲間の幼虫は毒棘をもつものが多いが、これは恐らく無毒。撫でくり回したが特に何も起きなかった。イラガ科は幼虫期の形態的なバリエーションが多様で、見ている分には楽しい。棘がない種類にはいつも積極的に触ってしまう。
海外には、日本より遙かにいろんな種類のイラガがいる。それらは幼虫期、想像を絶する大きさ・形状をしたものばかりである。

長野にて。

闇を翔べ薄馬鹿

IMG_0411.jpgウスバカゲロウHagenomyia micans。長野にて。

いおげいしゃ

IMG_0236.jpgクジャクチョウInachis io。いる場所では珍しいものではないが、最初見たときの感激は忘れ得ない。成虫越冬のため、秋に忙しなく花から花へ飛び移ってはエネルギーをその小さな体に蓄える。越冬は物陰に隠れて行うが、民家に入り込むことも。長野にて。

ヨーロッパのどっかの国だったと思うが、秋(これも確かではないが、確か秋)になると家の天井を棒でドンツクドンツク突く祭りみたいな風習があるらしい。不幸をもたらす「蝶」を家から追い出すための習わしで、日本の各地にある虫追い・鳥追い祭りと似たものであろう。蝶を追い出すというのは日本ではあまりイメージが湧かないが、向こうの国々では大切なこと。

秋になると、成虫越冬するタテハチョウ類が多量に家の屋根裏に冬眠のため侵入してくるのである。そして、タテハチョウ類は汚いものにたかる習性があり、その汚い脚で大切な家畜の目に止まって目脂などを吸うため、家畜が失明する病気にかかるらしい。だから、家の周りから少しでもタテハチョウ類を遠ざけておきたいという昔の人々の願いが込められているのだ、という話をかつてテレビで見た。

IMG_0224.jpgハナダカハナアブRhingia laevigata。山間部に多く、発生時期は長いけど秋にやたら目に付く。どんな構造なのかよく分からない口で、花の蜜を吸って回る。

長野にて。

りっふぃーちゃん

IMG_0517.jpg来月、少し長めの海外遠征にいくことになった。今回は、未知未開の複数地点を転々と巡ることになりそうなので、今から楽しみ。そして帰国する頃には、某公募の結果が来ているだろう。また薄いヤツが一枚来てそうだが。

上の写真に関しては、特にコメントはない。この上なくおぞましい姿の生き物であった。

工芸品

P1270892.jpgムカシゴキブリ一種Polyphagidae sp.。愛称は「酒ガメ」で、落ち着いた色合いがいい。こう見えて活発に飛びまくる。これは灯火に飛来した個体で、空中でコウモリに追い回されていた。飛んで逃げ回るうちに建物の壁に激突して落ちた所を拾ったもの。ボルネオにて。


世の中には、異常なまでにゴキブリを嫌悪する人種がいる。このゴキブリ嫌いというのは、幼少期における周りの大人からの刷り込みによる所が大きいらしい。
俺が幼少期に住んでいた家には、ゴキブリが全く居なかった。後から家族に聞くと実際には居たらしいのだが、家の中では見た記憶がなく、親がゴキブリを見てわめく様を見ることもなく育ったため、俺は全くゴキブリに抵抗がない。むしろ、何故あの虫がそこまで世間で嫌がられているのかを理解できない。あまりに見たことがなかったため、幼い頃は物見遊山で一目ゴキブリを見てみたいとすら思っていた。
その後、家の庭の片隅にあるマンホールのふたを開けると、常に中の壁面にゴキブリが何匹か付いていることを発見し、時々そのふたを開けてわざわざゴキブリを眺めたものだった。

ちなみに、家族は俺を除いて全員ゴキブリ嫌いで、特に姉のそれは異常である。その反面彼らは犬好きで、俺は犬が嫌いである。家族とさえ価値観があまりにもかけ離れている様を目の当たりにするたび、俺はきっと橋の下から拾われてきたんだろうかという気持ちを新たにする。

エイ怒リアン

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マレークシヒゲカマキリとかトビエダカマキリとか呼ばれる奴。頭に奇怪な角を生やした変なカマキリで、普通にいない。見た感じ恐ろしげな雰囲気をかもすが、実際には日本のカマキリよりずっと温厚。タイにて。

IMG_8515.jpgフタスジヒョットコシジミタテハAbisara aita?らしい蝶。シジミタテハの仲間は中南米でものすごく繁栄しているグループだが、旧世界の熱帯にも少しだけいる。最初ジャノメチョウの仲間かと思った。
新大陸の仲間は幼虫期にアリと協調する種類がけっこう知られているようだが、旧世界の仲間ではその手の種はしられていないという。

東南アジア某所にて。

鼻高々

IMG_8600.jpgハナダカトンボChlorocyphidae spp.。熱帯アジアの沢沿いに見られる、小型ながら美しいトンボ。本科のトンボは向こうの国では普通だが、日本では辺鄙な島嶼に2種しかいない珍しい仲間なので、いつも見かけるとじっくり見つめてしまう。
顔の一部が突き出ているのと、翅が腹よりも長いのがこの仲間の大雑把な特徴。

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IMG_9189-(2).jpg調査地の森で一番普通に見る種類。でも美しい。

マレーにて。

棘あり棘なし

東南アジアのトゲアリPolyrhachis spp.。
アリ・トゲアリ一種2大形種で、樹洞に住むやつ。

IMG_9754.jpg大形で、重厚な体格のやつ。

アリ・トゲアリ一種3小形でなよっちい種類。

IMG_9749.jpg上の種に似ているが、少し色遣いが違う。樹上に住み、数枚の木の葉をより合わせて幼虫の吐き出す糸で留め、これを巣とする。

IMG_7121.jpg磨いたようにツルッツルの種類だがこれもトゲアリ。棘があろうがなかろうが、この仲間は大抵特徴的な丸顔をしているのですぐにそれと分かる。

IMG_9103.jpg大形で鮫肌状のやつ。これと外見上のフォルムが同じで腹だけ赤いやつ、肌がなめらかなやつ等が居る。

熱帯地域はトゲアリの仲間の天下。でも、なんだかんだで俺は日本のトゲアリP. lamellidensが一番かっこいいと思う。先日改訂された環境省の日本版レッドリストでは、トゲアリがリストアップされるという情けない事態になった。何とか頑張って生き続けて欲しいところだが、各地の生息環境事態が悪くなってしまった今、彼らの底力だけに頼るのはあまりにも酷というもの。

IMG_987.jpgハリナシバチの乱舞。理由は知らないが、時々思い出したように巣口の前で群がって飛ぶ。マレーにて。

IMG_0027.jpgハリナシバチMeliponinae sp.の巣。巣口から、1メートル弱くらいの筒状の構造物が伸びる。最初、タケか何かが木の根本に引っかかっているのかと思った。これは蜂が木のヤニなどを集めて作ったもので、蜂の種類によって形が異なる。7年前くらいに見つけた巣だが、今も存続している。

IMG_0117.jpg多少壊しても、すぐに蜂が元通りに直してしまう。

ハリナシバチは旧世界と新世界の熱帯域に広く分布するミツバチの親戚筋で、名前の通り毒バリがない。一見無防備な感じだが、彼らは必ず巣を大木の洞や巨大な石垣の隙間など、物理的に破壊困難な場所に営巣するので、大形動物に巣を脅かされることは原則ない。むしろ、巣内の蜜や幼虫をねらって侵入を試みる小さなアリなどが彼らにとっての脅威となる。

恐らく彼らが巣口に取り付けるヤニ筒は、アリを遠ざける成分が含まれた「アリ返し」として働いているのかも知れない。もしそれでも侵入を試みる敵がいれば、巣の中から物凄く粘着性の強いヤニを持ってきて巣の周りにぬったくり、トラップしてしまう。ジャングルでハリナシバチほどヤニを上手く生活の道具に使う生物はいないだろう。その一方で、ハリナシバチの巣内には彼らのヤニをもろともせずこれに居候する特殊な甲虫類が若干知られている。

マレーにて。

青ヘル

IMG_7879.jpgテントウダマシ一種Endomychidae sp.。ダニが付いているが、たぶん便乗しているだけのものだと思う。マレーにて。

カマキリ・ボクサーカマキリ1ボクサーカマキリと呼ばれている、カマが物凄く幅広くて扁平なカマキリ。カマキリの中には、さほど近縁でもない幾つかの分類群でこういう姿のものがいるらしい。

カマキリ・ボクサーカマキリ2時々、理由は知らないが左右のカマの扁平な部分(腿節)を前面に向けて、小刻みに左右に揺れる動きをする。まるでボクシングジムで、スパーリングの相手をするやつみたい。

タイにて。

三日月夜空

セミ・アワフキ一種1、1アワフキ一種。日本のテングアワフキPhilagra albinotataに似ている。同属か?

タイにて。

屁のつっぱりは要らんですよ

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カグラコウモリ一種Hipposideros sp.。通常、待ち伏せ型の動かないコウモリを夜の森で探すときには、超音波を探知する機械を使う。しかし、そんなチート技を使わずに己のカンだけでコウモリを夜の森から見つけ出すのが長年の夢だった。発見は本当に偶然の産物だった。マレーにて。

森の中の、少し空間が広まった感じの場所で、上から垂れ下がったタケの細枝にぶら下がって獲物を待ち伏せる。片足でぶら下がり、器用に足首をひねって胴体をクルクル回しながら四方に超音波を散らすさまは、さながら生きたレーダー。いやいやをするダダッ子にも見えて可愛い。
カグラ・キクガシラ系のコウモリは、鼻から超音波を放つ。そのため、鼻が異様な形状に変形したへちゃむくれ顔をしている。昔はこういう顔のコウモリがそんなに好きでなかったが、今ではむしろかなり好きな部類。

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カグラ・キクガシラは顔はへちゃむくれだが、闇の中で片足でぶら下がり孤高のいでたちで獲物を待ち伏せたり、休息時には翼をマントのようにして身を包んだりと、いちいち仕草がかっこいい。キン肉マンは、顔(本当はマスク)は決してイケメンではないが、その活躍の様子は誰もがかっこいいと思うはず。そんな感じの魅力を、この動物は持っていると思う。

関係ないが、少し前にNHKでやってた「恐竜SFドラマ・プライミーバル」に出てくる、翼手目を祖先に持つ未来の捕食動物(Future predator)が気に入っている。見た目の姿は全然それらしくないのだが、劇中での歩行のしかた、頭部を細かく振動させながら周囲を舐めるように見回す仕草などは、実際に生きたコウモリを見た人間にしか再現できないと思う。一つ難癖を付けるなら、後脚の膝の曲がる向きを逆にして欲しかった。

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サシオコウモリ一種Emballonuridae sp.。目がぱっちりしててとても可愛らしい仲間で、昆虫食。宿泊施設の離れにある、使われていない建物に数匹住み着いていた。近づくのは危険だし、そもそも警戒心が強すぎて近寄るのが不可能なので、望遠レンズで撮っている。

何となく口元が笑っているようにみえるが、この仲間はみなこういう顔つきをしている。望遠レンズを覗くと、数匹のコウモリがみんなしてこっちを小馬鹿にしてへらへら笑っているように見えて、少しいらついてくる。だが、それがいい。

一般的に、コウモリは人から好かれない。夜行性で陰湿だとか、顔が気色悪いだとか、ほ乳類としては姿形も暮らしぶりもあまりに異様すぎるのが原因だと思う。しかし、実際には翼手目は世界中ほとんどの大陸に分布しており、種数も現生のほ乳類全体のうち4分の1近くを占める極めてメジャーな分類群であることを考えると、実はコウモリじみていないほ乳類の方がむしろ異質なのである、と言うこともできる。


言えないか・・言えないな。



マレーにて。

嫌いな動物の写真を出してしまったので、しばらく好きな動物ばかり載せる。

IMG_6791.jpgコウモリ一種。マレーシアの施設脇に植えられているバナナの木(本当は草)の、まだ展葉してない筒状の若い葉の内側に隠れていた。見た目は日本のホオヒゲコウモリMyotisのように見えるが、南米のスイツキコウモリThyropteraやアフリカのサラモチコウモリMyzopodaのような生態のようだ。本種はツメがスイツキやサラモチのような吸盤状に変形していないようだが、それでも内壁がスベスベでとっかかりのないバナナの葉の内側を器用に上り下りしていた。マレーにて。


獣の中ではコウモリが一番好き。他のどの獣にも似ていないフォルムがよい。どちらかというと、ほ乳類を作る材料で昆虫を作ったイメージである。昔話の中でも、鳥にも獣にも属さなかったアウトローさ加減が厨二心を刺激してやまない。
しかし、野生コウモリは非常に危険な病原体を持つ場合があるため、不用意に接触できない。特に海外における狂犬病リスクは犬と同等以上と考えるべきである。通常、至近まで寄れる生き物ではないが、やむを得ず接近するときはマスクを着用する。これは、コウモリの体から発散するエアロゾル等を直接吸わないためである。

鬼ノイル間に

IMG_9509.jpgしつこくノイヌ。「俺は犬が嫌いだ!」と方々で公言しているのだが、その割には過去に撮りためた写真を納めてあるハードディスクを漁ると、海外で撮影したノイヌ写真が意外に多く出てくる。これは、あくまでこんな危険動物に遭遇したという証拠写真なのであって、決して本当は好きだから撮っている訳じゃないんだから。←ツンデレ

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ホ・ノイヌ2
ノイヌ殆どの写真で、犬があさっての方向を向いていたり、顔が物に隠れて見えてない。ピントもろくに合わせてないような写真も多い。ダニや蚊でさえきちんとピントを合わせて撮影するというのに。どうでもいい生き物なので、ただ写っていればそれでいいと思って撮ってきたのがよくわかる。撮ったとしても基本的に思い入れもなく、もし現地で撮影旅行中にデジカメのメモリーが満杯になってきたら、容量確保のため優先的に消す。以上の写真はすべてタイ産。

nanbei.jpg参考に、南米エクアドルのノイヌ。なぜかエクアドルの街中で見かけるノイヌは、どこに行ってもこの姿・模様のやつばかりだった。遺伝的多様性が低い?


俺には3年上の姉がいるが、彼女は俺とは対照的に犬大好き人間で、幼い頃から道ばたで犬を見れば喜んで走り寄っていくクチだった。
たしか5才くらいの頃、姉といとこの3人で連れ立って母方の実家周辺を歩いていたときのこと。近所の家の玄関に、中型の雑種らしきムク犬が鎖で繋がれているのを見つけた。俺は本能的に危険を察知して、犬の鎖の長さよりギリギリ離れた所で座って見ていたが、姉といとこは例によって喜びながらそいつを撫でようと近づいた。

そしたら、一見人なつっこそうに見えたそのムク犬は実はとんでもない猛犬で、瞬時に姉に飛びかかり顔面に齧り付いた。そして見る見るうちに姉の衣服をズタズタに食いちぎって姉をやっつけた後、その脇にいたいとこに狙いを定め、同じくコテンパンに伸していった。その間、俺は何もできずにただ傍らに座って硬直し、目の前で肉親が食われていく様を呆然と眺めていたのだった。5才児に見せる絵ではなかった。

その後、白いワンピースをやたらフリフリの綺麗な赤いワンピース(シャア専用)にして帰った姉らを見て親が信じられないほどぶったまげたり、病院にあわてて姉らを連れてったりなどの記憶が断片的に残っているが、あまりその時のことは思い出せない。多分、これ以上この関連の事柄を覚えていると精神衛生上よろしくないと判断した俺の脳が、記憶の奥底に封印してしまったためだろうと思う。結局、事後処理はどうなったんだろうか。頼まれもしないのに、むざむざ余所んちの犬に近寄った姉らに一方的に非があるのだが。

なお、現在姉はそんな過去の事すらなかったように、相変わらず犬好きである。全くもって気が知れない。しかし自分だって、仮にも自分をかつて殺しかけた忌まわしい敵であるはずの蚊に自らすすんで献血したりする位なので(もちろん日本国内に限る)、人のことは言えない。

鬼ノイヌ間に

ノイヌCanis familiaris。海外調査では、地球上どこに行っても行く手に立ちふさがる安全上の脅威。

P1380499.jpg今日も毒牙にかける犠牲者を求めてうろつく。マレーにて。

この史上最低最悪な猛獣は、道脇の寂れた寺院や廃屋に集団で住み着き、これを縄張りとして近づく人間に見境い無く群れで襲いかかってくる。強力な顎と鋭い犬歯による物理攻撃はもとより、破傷風や狂犬病といった重篤な感染症が恐ろしい。特に熱帯諸国では犬の管理が非常にいい加減なため、飼い犬・野良の区別なく狂犬病リスクは高い。

場所によってはかなり深刻で、バリ島では、数年前から狂犬病非常事態宣言が発令されたまま現在に至っている。数年前には、フィリピンを観光した日本人二人が相次いで狂犬病を発症して死亡し、ニュースにもなった。日本の感覚で現地の犬に手を出し、噛まれたのではないかと言われる。犬ばかりが危険な訳でもないが、海外ではこの最も身近な動物からはあらゆる感染症をうつされる可能性があると考えていい。

日本の国際空港では、出国手続きのゲートを通過した辺りに「狂犬病に注意!」などの注意書きとともに、魔物の形相をした病犬の写真がよく張り出されている。しかし、実際には狂犬病に感染していても外見上普通な個体も多いようなので、見た目で安全な犬かどうかは判別できない。

ホ・ノイヌ3何もないのに、突然顔をしかめて歯をむき出し始めた。恐ろしい。タイにて。

不衛生つながりで、東南アジアのノイヌはウンコ食いというおぞましい技能を持つ。糞転がしを集めるためジャングルに人糞を仕掛けると、ほんの5分かそこらで無くなってしまうことがある。これは近隣をうろついているノイヌの仕業である。俺の調査地の森ではノイヌが多く、すぐに持って行かれてしまう。
熱帯のノイヌは、本当に野良なのか近隣の集落で放し飼われているのかの区別がとても曖昧なため、もしかしたら飼い犬の可能性もある。飼い犬だった場合、アレを食った後に自分の飼われている集落の家まで帰り、何事もなかったように飼い主の顔を喜んでなめ回すのだろうか。






なぜ、ここまでノイヌのことを壮大にディスるかといえば、俺は幼い頃から犬が死ぬほど嫌いだからである。そうなった背景には、過去に身に降りかかった犬にまつわる幾つもの災難が複合的に関与している。

ジェンヌ

P1330126.jpgハゴロモ一種幼虫。宝塚の衣装にありそう。タイにて。

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めちゃくちゃカッコいい大型のカマキリモドキ一種Mantispidae sp.。ボルネオに1週間滞在した時、夜間宿舎の灯火にたった1回だけ飛来した。

海野和男「大昆虫記」の中でベッコウバチモドキカマキリモドキという、ベッコウバチモドキなのかカマキリモドキなのかよく分からない名前で掲載されていた種と同種だと思う。日本にいるツマアカベッコウTachypompilus analisあたりによく似た色彩だが、このカマキリモドキの生息域内にこういう色調のベッコウバチはほとんど分布しないと思う。むしろ、ドロバチ系やツチバチ系でこんな雰囲気のやつがいる気がする。向こうに生息するアリスアブMicrodonの仲間にも、これに似た色調の種がいる。
黒っぽくて腹端が赤いという色彩が、熱帯の捕食者の間では危険な虫の色彩として認識されているのだろう。