516.jpg
517.jpgノリクラミヤマヒナバッタChorthippus supranimbus norikuranus。乗鞍岳だけに住むという、ミヤマヒナバッタの亜種。短い翅に後脚をこすりつけて、ジャジャジャ・・と盛んに鳴く。信じがたいほど小型のバッタ。

ヒナバッタの仲間は日本の寒冷地域にいくつも種類がおり、特に長野県周辺の高山地域には山ごとに多くの別種だか別亜種に分化している。生物地理学的にかなり面白い材料に思えるが、今のところそういう観点からこれら日本の高山バッタが研究されているという噂は聞かない。
厳重に保護されている高山地帯の国立公園にしかいないので、採集許可の取得が面倒だったり、生息地に行くのが大変だったりとか、地元の人間でないとなかなかこの虫を研究するには難しい要素が多い。
長野にて。


現在、計り知れない地にて仕事中。いろんな意味で過酷な状況ですが、きばっております。

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モンスズメバチVespa crabroの巣。よく見かけるキイロやコガタと違い、木の洞などの隙間に営巣するのを好む。セミを好んで狩る性質があるので有名だが、その割に野外でセミを狩っている現場は見かけない。セミが多くても生息しない地域も多く、いくつもの要因がこのハチの生息に関与しているふうに思える。近年、各地で減っているようだ。

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神社の境内をうろうろしていたら、ふと足下30cmの所にモンスズメの巨大な巣があることに気づき、たまげた。たまたまハチが出入りしていない瞬間に、気づかず接近しすぎてしまった。モンスズメは、日本のスズメバチの中でもすさまじく凶暴な部類に入り、俺はオオスズメ以上に恐れている。一度怒らせたら収まりがつかない。しかも、昼だけでなく夜も問題なく活動するため、油断ならない。

475.jpg誰もが知ってるスズメバチだが、じつはスズメバチという名の由来はよく分かっていないらしい(松浦 1988)。しばしば「スズメくらいの大きさがありそうなハチだから」と言われることがある。しかし、スズメという鳥はいつも遠くから見るばかりだからなかなか実感できないが、体長14cm位と、そこそこ大きい。一方スズメバチはと言えば、最大のオオスズメの女王でさえ4cm程度だ。本物のスズメとは3倍近くも尺が違うので、「スズメと見まごうほどの大きさだからスズメバチの名がついた説」は、俺は疑わしく思う。まして、見た目がスズメに似ているハチではあるまい。
スズメバチ研究に一生を捧げた研究者さえ分からないと言っているのだから、スズメバチの名の由来は永遠の謎なのである。


静岡にて。


参考文献:
松浦誠 (1988)スズメバチはなぜ刺すか。北海道大学出版会、pp.291.

484.jpgたぶんホソアリバチCystomuitilla teranishii?の交尾。翅のあるオスが、翅のないメスの首根っこをくわえて空へ連れ出す。長野にて。

483.jpgヒメカマキリモドキMantispa japonica。最近、近所の森で見かけるカマキリモドキはこればかり。以前多かったキカマキリモドキEumantispa harmandiは、数年見かけていない。長野にて。

458.jpgツノアカヤマアリFormica fukaii。北海道にて。

459.jpg日本では数少ない、「アリ塚」を作るアリ。開けた道ばたや草原に、乾燥した枯れ草や植物の綿毛などをかき集めてマウンドを作り、巣として利用している。これはまだ小さい塚で、大きくなれば直径1m、高さ20cmくらいにはなる。

455.jpg一生懸命、塚の材料の植物破片を集めてくる。

464.jpg性格はひどく短気で攻撃的。ちょっと塚に刺激を与えると、とたんにわらわら出てきて襲いかかってくる。噛む力が強い上に、噛み傷に強い蟻酸をすり込んでくるので、集団で来られるとたまらない。
なお、同所的にコレによく似たエゾアカヤマアリFormica yessensisが見られるが、ツノアカのほうは頭部の両側が突き出ており、ハート型っぽい形の顔をしているのですぐ区別できる。ツノというよりカドといったほうが正しい。いくらハート型でも、そんなにハートフルな雰囲気はない。


ツノアカをはじめ、日本には赤いヤマアリ属が4種おり、それらはみな北方系の種である。そして、それらはいま日本から急速にいなくなり始めている。定量的データはないが、日本中どこでも間違いなく減っており、本州はとくに減り方がひどい。少なくとも俺の周囲のアリ研究者も同じ印象を抱いているようだ。かつて長野にも一つ大きなツノアカの巣があって、定期的に観察しに行ったものだが、最近突然に消滅した。
多くの場合、アリが消えた場所では目立った人為的な環境改変が起きたように見えない。北方系生物の衰退理由を安易に「地球温暖化」のせいにするのは軽率なのだが、それでもそれ以外に思いつく原因が浮かばない。ツノアカヤマアリは、最近になって環境省の希少種(情報不足カテゴリ)に、エゾアカヤマアリに至っては絶滅危惧Ⅱ類に指定された。

攻撃的な性格の赤いヤマアリは、肉食性が強いためにものすごく沢山の害虫を狩ってくれる。ヨーロッパでは、森林害虫を駆除させるために法律で保護しているほどである。だから、日本の野山から赤いヤマアリが極端に減ってしまえば、この先農作物・森林害虫の大発生が起きる懸念があると思う。

457.jpgエゾクシケアリMyrmica jessensis。北海道にて。

北国を代表するアリで、寒冷地では平地で普通に見られる。本州以南では、基本的に山地でないと見られない。明るい草原で見られ、あまりうっそうとした環境では見ない。

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北海道は今なお広大な草原が随所に残っており、クシケアリ類にとって格好の楽園となっている。しかしその割に、それに寄食する好蟻性生物は思ったほど多くは見られない。微妙な環境条件を要求するらしい。


来週からしばらく、かなり多忙になりそうな予感。

454.jpgハシブトガラスCorvus macrorhynchos。換羽期のため、みすぼらしい様相。換羽期のカラスをみると、鳥は羽毛がなければ本当に骨と皮だけの生き物だということがわかる。北海道にて。

398.jpgナゴヤダルマガエルRana porosa brevipoda。よく似たトノサマガエルR. nigromaculataとともに、かつては普通に水田にいたものらしいが、今では絶滅寸前の希少動物。水辺からあまり離れず、「ギギギギギ」と鳴く。遠くで聞くと、何となくヤギの声に似ている。

昔からずっと見たいと思っていて見られなかった生物の一つだったが、詳しい方の案内で最近ようやく見ることができた。短い後足、マダラ状の斑紋など典型的なナゴヤダルマに見える個体が、夕暮れ迫る田んぼにたくさんいた。しかし、近年ナゴヤダルマはトノサマとの交雑が進んでいるため、遺伝子レベルで100%ナゴヤダルマかは見た目で分からない。でも、そうであってほしい。

399.jpg今は無きテレビ番組「どうぶつ奇想天外」で、かつてダルマガエルを使った面白い実験をやっていた。田んぼに木製まな板と包丁を持っていき、田んぼの前で何かを刻むように包丁でまな板をコンコン叩く。すると、その田んぼにいたダルマガエルが一斉に合唱し出すのだ。
木製まな板を包丁で叩いた時の音の波長が、偶然にもダルマガエルの声と酷似しているため、こういうことが起きるらしい。田舎でばーちゃんが夕飯の仕度を始めると、家の前の田んぼでカエルの合唱が始まるといった昔の風景の裏側には、そんな秘密があったのだ。

いつか実際に試したいと思っているが、なかなか機会に恵まれずにいる。


本州中部にて。

※「どうぶつ・・」で実験されたカエルは、ダルマではなくトノサマだったそうです。また、波長ではなく声の成分の間隔が、まな板を叩く音のそれと類似しているためとのご指摘がありました。らな・ぽろさ様、ご教示ありがとうございました。

414.jpgコトラカミキリPlagionotatus pulcher。美しい虎島のカミキリで、雑木林を背後にひかえた貯木場に見られる。荒ぶる虎は恐ろしい。

かつてはそんなに珍しくなかったものらしいが、近年全国的に減っているという。里山の管理様式の変化が原因かもしれないが、同所的に見られる似たような生態のトラカミキリ類は、こいつほどそんなに劇的に減っているように思えないので、原因が他にある気がする。

長野にて。

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クロムヨウランLecanorchis nigricans。葉を持たない腐生ランの一種で、じめじめして薄暗い照葉樹林にひっそり生えている。根っこで決まった種類の菌類の菌糸と連絡しており、栄養のやりとりをしていると言われる。花期は真夏だが、綺麗に開花している状況になかなか遭遇できない。この個体も、開花にはまだ早い。

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クロムヨウランを隠す鬱蒼とした森。無数の蚊とマダニが、人間の到来を拒む。

静岡にて。

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オオフトヒゲクサカゲロウの産卵。樹幹に止まり、特徴的な卵を生み付けていく。この虫の「ある習性」を知っていれば、この虫が野外で産卵する瞬間を見ること自体は難しくない。

しかし、それを写真として記録するのはきわめて至難である。なかなか木に止まらないし、止まっても手が届かない高さである場合がほとんどだ。そして何より、人間の気配にものすごく敏感で、カメラの射程まで近づく前に飛び去られてしまう。特に、本種は夜行性なので夜間ライトを付けて接近することになるのだが、灯りを非常に嫌がるため、ライトの光量を最小限にまで絞って慎重に近づかねばならない。
直にライトで照らせないので、カメラはモニターもファインダーも使えず、ただカメラを目測で射程まで近づけてカンでシャッターを切るしかない。当然ストロボは使わねばならないのだが、連射すると逃げられるため、一回一回虫の機嫌をうかがいつつストロボを発光させる必要がある。連射できれば、一枚くらいは偶然うまく撮れているカットもあるだろうが、それを許してくれない。何という無理ゲー。

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444.jpgおかげで、せっかくいいアングルでもピンボケを連発することになり、まともに撮れた試しがない。例年、9月上旬のアフター5はこいつの観察に費やすことになるが、毎年うまくいかない。今年こそはと思っていたが、もう産卵も下火になり始めているので、今年もだめだろう。

長野にて。

438.jpg近所の神社で見かけた、ムネアカオオアリCamponotus obscuripesとフシボソクサアリLasius nipponensisの大規模な抗争。スギの大木の根元に営巣していたムネアカの所に、よそからたまたま行列を伸ばして遠征しにきたクサアリが鉢合わせし、激しい戦争が繰り広げられた。

437.jpgムネアカの方が大柄なぶん戦闘力も上だが、クサアリはとにかく数で相手を圧倒するため、ムネアカは手を焼いていた。そんな戦争を見ていたとき、場違い甚だしい一匹の羽虫が飛んできた。


434.jpgツマグロキンバエStomorhina obsoletaだった。あろうことか、戦場のまっただ中に降り立ち、巧みにアリの合間を縫ってせかせか歩き回った。一体なにを企てているのかと思ったら、ハエは突然地面のくぼみに後ろ向きに入るようなしぐさを見せ始めた。

435.jpg産卵しはじめた。上体を反らせてブルブル震える動きを数秒間とった後、そこからはなれて近くの別のくぼみにまた尻を差し込む行動を何度も見せた。アリがそばを通っても逃げず、直に触られたときだけ逃避した。しかし、逃げてもまたすぐに戻ってきて同じ事を繰り返した。
卵の所在までは確認しなかったが、間違いなく産んでいる。腹部をくぼみから引き抜いて数秒間のみ、産卵管(?)が伸びているのが確認できた。
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ツマグロキンバエは日本ではきわめて普通に見られるハエの一種で、成虫は花に集まって吸蜜する。特に秋口に個体数が多く、山だろうが街中だろうが花さえ咲いている場所ならば必ずいる。存在しないことが絶対ありえないほどの種である。ところが、幼虫期にどこで過ごしているのかはまったく分かっていない、謎に満ちた虫なのだ。
海外では、近縁種がアリの巣内で見つかった記録があり、日本でもアリの巣を人為的に掘削した際に飛来して産卵する行動が観察されている(Ishijima 1967; 村山 2007)。しかし、俺は特にアリの巣がないところの地面を掘っても飛来するのを見たことがある。だから、単に土の匂いが好きなだけなのだと思い、本種のアリとの関係に関してはやや懐疑的な印象をもっていたのだが、これを見て考えが少し変わった。

今回見た場所は、別に地面が掘り返された雰囲気ではなかったので、ハエは土の匂いで飛来したのではない。明らかに、アリの存在が何らかの鍵を握っている。しかし、アリの持つ何が誘因の元になっているのかまでは分からない。そして、ここに産み付けられた卵から孵った幼虫が、何を餌に育つのかも分からない。今回見たものは、このハエの生態解明を進めるにあたってかなり重要な意味を持ちそうな気がする。でも、全容を解明するにはまだ道のりが遠そうだ。
ツマグロキンバエは破滅的なほどのド普通種のため、多くの人々の目に触れている。グーグルで画像検索すると、訪花している写真や葉上にいる写真はたくさん出てくる。しかし、自然状態でこのハエが産卵している瞬間は、間違いなくこの国でまだ誰も見たことがない。

アリの巣や行列は面白い。高価な顕微鏡も遺伝子解析の機械もいらない。ただ座して見ているだけで、21世紀にもなってこの国はおろか世界で誰も見たことのない発見をできる。「アリの観察なんて小学校の自由研究まで」なんて、誰が決めたこと。


参考文献:
Ishijima H(1967) Revision of the third stage larvae of synanthropic flies of Japan (Diptera: Anthomyiidae, Muscidae, Calliphoridae and Sarcophagidae). Japanese Journal of Sanitary Zoology 18: 47–100.
村山茂樹(2007)ツマグロキンバエの産卵行動の記録。はなあぶ 24: 57-58.

村ー人朝

394.jpgムカシハナバチ。同定資料がないので種名は分からないが、発生地域と時期から推測してババムカシColletes babai?のように思える。古くは「みつばちもどき」と呼ばれたが、本当のミツバチとはかなり縁遠い。神社の境内の地面に、たくさんの個体が巣穴を掘っていた。

現在のところ、幼虫期に花蜜を食すハナバチ類は、元々は肉食性の狩人蜂であるアナバチ類の一群から派生したグループと考えられているらしい。ムカシハナバチ科は、そんなハナバチ類としては一番原始的な特徴を保持している仲間とされる。種類によってはまだ狩人蜂だった頃の面影が残っており、ハナバチ類にとって花粉集めに重要な「花粉かご」を脚に持たない種もいる。そうした種は脚に花粉を付けることができないので、花粉を蜜ごと飲み込んで胃袋に蓄え運ぶという、強引な手段を使う。

393.jpg飛んでいる所を撮りたかったがとても難しく、そこそこでやめた。巣の出入りは稲妻のように素早く、巣穴の前で一切ホバリングをしない。

395.jpg集団営巣の状況。噴火口のように周囲に土砂を盛った巣穴を掘る。単独性のハチなので、一個の巣穴が一匹のハチの巣。だから、沢山の巣穴があっても、それらハチ同士は仲間ではない。この立地が偶然営巣に適しているため、多数の個体がたまたま集まってしまっただけである。
お隣同士ではあっても友達同士ではない。賑やかなのにどこか冷たい、ハチの村。

静岡にて。

407.jpgメダカナガカメムシChauliops fallax。道ばたに茂るクズの葉裏にいくらでもいる普通種。

408.jpg出目金のように飛び出た目が奴の自慢。かなり面白い姿の生き物に思うのだが、体長が3mm位しかない極小種のため、たいそう人目を引かない。

長野にて。

カリス姫

449.jpgキバジュズフシアリProtanilla izanagi。本州中部にて。

451.jpg日本が世に誇る、珍奇で奇怪なアリの筆頭。ごく僅かな都道府県からごく僅かな個体が得られているだけの、日本産アリ類の中でも屈指の珍種である。地中性で、目が完全に退化している。そしてなぜか前脚の「二の腕」がたくましいが、その理由は不明。細長い体をヘビのようにくねらせて、土砂の隙間をはい回る。

450.jpg土砂降りの雨の中、森の土を3時間くらい篩って採った。それだけの苦労をしてでも、姿を拝む価値のある逸材。

453.jpg最大の特徴は、常に半開きで閉じない巨大なキバ。お椀を逆さに伏せたような形の幅広いアゴの内側に、鋭いトゲが無数にびっしり生えており、まるで剣山のよう。生態は一切不明だが、近縁属の生態からみておそらくムカデ等の大形土壌動物と戦って倒し、食らうものと思われる。キバの剣山は、獲物に食らいついて振り落とされないための滑り止めであろう。
獲物にしがみついたまま、毒バリで獲物を刺し殺して仕留めるに違いない。

452.jpgキバジュズフシアリは、分類上は長らくAnomalomyrmaの未記載種として扱われていたが、ごく最近Protanillaとしてようやく記載された(Terayama 2013)。本種を含むムカシアリ亜科Leptanillinaeは、アリ科の中でもかなり原始的な部類と言われている(むしろ逆に特殊化した「新しい」アリと見る向きもあったが、分子情報を見る限り本当に古いらしい)。アノマロミルマのほうが、かの有名な古代生物っぽい名前で格好良かったのに。
こんなエイリアンのような異形の群れを隠していたなんて、日本の裏山もまだまだ捨てたものじゃない。

この生物とは、わかる人と一緒に探さなければ絶対に出会えなかった。案内して下さった方、本当にありがとうございました。


参考文献:
Terayama M (2013) Additions to knowledge of the ant fauna of Japan (Hymenoptera; Formicidae). 日本蟻類研究会紀要第三号. pp.1-24.

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通りすがりに遠目でそれを見たとき、最初はヨモギにただの枯葉が引っかかっているものだと思った。しかし、その色と形に覚えがあったので、よくよく近づいて見てみたら、案の定「ヤツ」だった。どんなつまらない小さなことでも、ちゃんと確かめてみるものである。

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エグリヒメカゲロウDrepanopteryx phalaenoidesだった。ヒメカゲロウ科は小型のウスバカゲロウの親戚筋で、いくつもの種類が存在する。その中でもエグリは大型種の部類に入る。各地の雑木林などで見られるが、たまに灯りに飛んでくる程度で生態が分かっていない。数も少なく、都道府県によっては希少種扱い。
褐色の体にえぐれた翅形は、遠目には見事に枯葉に擬態(生き物に対して簡単に擬態という言葉は使うべきではないのだが)しているように見える。静止時は頭を下に隠すから、余計に生き物っぽく見えない。

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8月の頭に見つけたこの個体は、異様に体がすり切れてボロになっている。おそらく、こいつは今年羽化した新成虫ではない。昨年度の夏か秋くらいに成虫になったものが越冬し、そして今の今まで生き長らえたものとしか思えない。
詳細は知らないが、ヒメカゲロウの仲間には夏か秋に成虫になってそのまま越冬し、翌年まで生きるものがいくつか存在するらしい。近所の山では、まだ肌寒い2-3月にエグリが街灯に飛来することがあるため、エグリも成虫越冬であろう。仮にエグリが夏の終わりくらいに新成虫が羽化する種とすれば、俺が見たこの個体はかれこれ1年近くも成虫のまま生き続けていることになる。

1年と言えば、ハツカネズミやアカネズミなど一般的なネズミが生まれてから死ぬまでの期間とほぼ同じだ。それを考えると、こんなちっぽけでクズゴミみたいな羽虫が、小型の哺乳動物の寿命と同じくらい(しかも卵・幼虫期間を入れずに)生きていられるのは、単純にすごいことだと思う。蜉蝣の命ははかないというが、ヒメカゲロウに限っては案外そうでもない。


長野にて。

仕事の合間に仕事だぜ

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446.jpgたぶんヤノトガリハナバチCoelioxys yanonis。花粉や蜜を集めて巣にため込み幼虫を育てるハナバチの仲間にあって、この仲間は自力でそれをしない。他のハナバチ類の巣にこっそり侵入し、中にため込まれた蜜や花粉を奪い取る「空き巣」である。

447.jpg地表すれすれをゆっくり飛び回り、ハナバチ類の中でも単独で地中や植物の茎に営巣するハキリバチ類の巣を探す。いざ標的の巣を見つけると、様子を見つつ慎重に近寄って、その巣の主が外勤に出て留守にしているのを確かめる。留守を確信すると、空き巣は中へ押し入って内部を物色する。十分な花粉がまだ蓄えられていない巣だった場合、何もせず外へ出てくるが、その巣を密かに連日監視し続けるようである。十分な花粉が詰まった巣であれば、卵を産み付けてさっさと逃げる。
やがて何も知らずに帰ってきた巣の主は、爆弾が仕掛けられているとも気付かずに巣内の花粉塊に産卵し、巣部屋を塞いでしまう。

448.jpg生み付けられた空き巣の卵は、寄主の卵より早く孵るらしい。ふ化後は寄主が貯めた花粉塊を食って成長する。ある程度成長すると、鋭いキバを生やした姿へ変貌し、同じ部屋にいる寄主の幼虫を噛み殺してしまう。多量の花粉塊を全部独り占めにして、空き巣の幼虫はぐんぐん成長していく。

長野にて。

参考文献:
前田泰生ほか(2002)オオハキリバチとその労働寄生蜂の生活。ハチとアリの自然史・本能の進化学。北海道大学図書刊行会、pp71-95.

406.jpgオオフトヒゲクサカゲロウItalochrysa nigrovenosa。黄色い体に青い瞳を持つ、美麗な大形クサカゲロウ。

かつて相当な珍種といわれていたらしいが、ここ10年くらいの間に突然各地で記録がよく出るようになった。少なくとも行きつけの山では、珍しくも何ともない。それどころか普通にいすぎるあまり、近年「これがそういう珍種だ」と人から聞くまで、俺はこれを羽化直後で色が付いていない普通種オオクサカゲロウNinetaの仲間と思いこんでいたほど。

405.jpg成虫は夏に発生し、秋口まで生き残る。夜間、森の中のあちこちの樹幹に特徴的な卵を生み付けていく。

長野にて。

440.jpgシベリアカタアリDolichoderus sibiricus。美しいアリの一種で、各地に広く見られる。でも、樹上性なのと小型なので、身近にいる割にはなかなか目に付かない。カタアリ属は熱帯地域に広く住む仲間だが、日本では本種のみ。

山梨にて。

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マイマイガLymantria disparのオス。幼虫は樹木の大害虫だが、成虫はびっくりするほど可愛い顔をしている。なぜかウサギコウモリに似ている。止まっているのを見つけたら、いつも顔をまじまじ見つめてしまう虫の一つ。

しかし、可愛いのはオスだけ。メスは白くでっぷり太ったただの厚化粧な蛾で、可愛げの欠片もない。

山梨にて。

仕事が済んだら仕事だぜ

439.jpgヤドリベッコウIrenangelus pernix。全身真っ黒かどぎつい黄色の種が多いベッコウバチの仲間にあって、薄いオレンジ色をした本種は、遠目にはヒメバチの一種に見える。でも、中胸側板をつっきる斜めの縫合線は、紛れもなくベッコウの証。

ベッコウバチの仲間はクモを毒バリで倒して幼虫の餌にする狩人蜂だが、ヤドリベッコウは自分で狩りをしない。他種のベッコウがクモを狩り、運搬している最中をめざとく見つけ、その獲物にこっそり卵を生み付ける寄生性のハチと言われる。まるで必殺仕事人。

基本的に珍種だが、本州中部では大騒ぎするほど珍しいものではない。家の近所では、夏の終わりにうんざりするほどの数がミズヒキに訪花するのが見られる。しかし、彼女らの「仕事」の瞬間を目撃するのはほぼ不可能に近い。10年間ずっと探し求めているが、見た試しがない。

山梨にて。

417.jpgフシボソクサアリLasius nipponensisにつまみ出される、クロクサアリヤドリバチGhilaromma orientalis。アリの幼虫に寄生する寄生蜂の一種。

アリ巣内でアリの幼虫に寄生する寄生蜂は、羽化後はすみやかにアリの巣から脱出せねばならない。しかし、どうやってこれらハチがアリの攻撃を受けずに巣外へ逃げ出すかについては、よくわかっていない面が多い。
今まで野外で数種類のアリ寄生蜂がアリ巣内から脱出する瞬間を見てきたが、それで思ったのは、どうも羽化直後のハチはアリにゴミか何かのように引きずり出され、捨てられる印象が強いことである。引きずられている時は当然アリに噛まれるのだが、獲物や敵に対してやるような敵意のある噛み方ではない。腹を曲げて蟻酸や毒バリによりハチを攻撃する様子も、ほとんど見たことがない。

根拠はないが、おそらくこうしたアリ寄生蜂の仲間は、羽化直後から一定時間だけ「アリの死体」に似た匂いを体から発しているような気がする。清潔好きなアリは、仲間が巣内で死ぬとすぐにそとへつまみ出して捨てる。この習性を逆手にとり、ハチは死んだアリのふりをしてアリをだまし、自分を外へ捨てさせるという形で巣外脱出を手伝わせているのだと思う。

長野にて。

422.jpg灯火に飛来した漆黒のカマキリモドキ。翅のツマが黒いのが奴の自慢。東南アジアに生息するこの仲間には、体色の異なる複数種がいるようだ。マレーにて。

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傲岸不遜、大胆不敵、天下無敵の格好良さ。

好蟻性のカマキリモドキがいれば楽しいのにと、常々思っている。しかし、これまでそんなものが発見された話は聞かないし、今後も発見されなそうに思う。そもそも脈翅目全体で好蟻性種がほとんど存在しないあたりを見ると、この目自体がもともと好蟻性という性質を進化させにくい特質を持っている気がしてならない。まして、クモをメインホストとする(であろう)カマキリモドキ科の中で、いきなりアリに寄主転換するドンキホーテが現れるとは考えにくい。

その一方で、その可能性は完全にゼロという訳でもないと、密かに期待している。なぜなら、南米では驚くことにアシナガバチの巣から発生する種(Trichoscelis, Brauer 1869)が見つかっているからだ。かなりの珍種くさく、ちょっとネットで調べた位ではまったく情報が出てこない属のものだが、確実にいる。
生態の詳細はほぼ謎だが、予想するに植物の葉上で孵化した一令幼虫は、ハチに狩られそうな昆虫にランダムに付くのだろう。いざその昆虫がハチに狩られたら速やかにハチの胴体に乗り移り、そのまま巣へと運ばれる。そして、巣にいるハチの幼虫に食いついて吸血しながら成長、というシナリオが思い浮かぶ。もしそうならば、そんなハチ寄生のグループから勢いでアリに寄生するものが出現するのも、あながちあり得ない話ではないだろう。

今日もアマゾンのジャングルの奥の奥では、アリの巣から脱出して翅を伸ばした未知なるカマキリモドキが、夜空を仰ぎて心にもない得意の祈りを月に捧げているに相違ない。

参考文献:
Brauer, F. 1869 . Beschreibung der Verwandlungsgeschichte der Mantispa styriaca Poda and Betrachtungen fiber die sogenannte Hypermetamorphose Fabre's. Verh. Zool .-Bot. Ges . Wien, 19 :831-840 .

221.jpgカマキリモドキ一種。タイにて。

多くの種類のカマキリモドキは、拡大して見ればカマキリそっくりだが、遠目にはハチに似ている。こいつは見た目の色彩が日本のチャイロスズメバチVespa dybowskiiにそっくりだが、こんな色彩のスズメバチがこいつの生息地に分布するかは分からない。少なくとも俺は見つけることが出来なかった。

222.jpg飛び立つ直前、大きく伸びをした。「さあ来い!」と身構えるよう。だいたいどこの国のカマキリモドキもそうだが、物体の裏に止まっている状態だと飛ばない事が多い。表にしてしまうと、あっという間に上空へと逃げ去る。

カマキリモドキ科の昆虫は、幼虫期の生態があまりよく分かっていない。しかし、分かっている種の多くは、クモの卵のうに寄生するようである。

427.jpg麗しのハエ。日本にもいるミドリバエ属Isomyiaと同属か、その近縁属に思える。ある区画に数匹集まり、テリトリーを張っていた。通常は翅をハサミのように重ねて止まるが、テリ張りの際は重ねずに止まっていた。侵入者を追うために頻繁に飛び立つ必要があってのことだろう。

ミドリバエを含むツマグロキンバエ亜科Rhiniinaeの仲間は、国内外を問わず成虫はときどき見かけるが、幼虫がどこで何をしているのかよく分かっていない。親戚筋のキンバエ類とは異なり、腐食物から発生する訳でないらしい。肉食性で、何かを捕食して育つ可能性が高く、一説にはアリ・シロアリ(場合により直翅目)と関係ある生態をもつともいわれる(Dear 1977)。

マレーにて。

参考文献
Dear JP (1977) A revision of Australian Rhiniinae (Diptera: Calliphoridae). Aust. J. Zool 25: 779-826.

グルグル使い

426.jpg見慣れないハエ。雰囲気からみてシマバエ科Lauxaniidaeかヒロクチバエ科Platystomatidaeとふんだが、正体不明。葉の裏に止まっているのをたまたま見つけた。

目が回っていても正気。マレーにて。

425.jpg恐らくRhotana inoptata。日本のキスジハネビロウンカR. satsumanaの同属。正面から見ると、何となくハエトリグモの正面顔に似ていなくもない。マレーにて。

時空転抄ナスカ

424.jpgトリバガ一種Pterophoridae sp.。開長5mm、極小の地上絵。マレーにて。

長篠に勝の徒

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久々に見かけた、サムライアリPolyergus samuraiの奴隷狩り。以前はシーズンになればそこら中あちこちで見たものだが、最近どこでも本当に減っている。いずれ絶滅危惧種になると思う。

サムライアリは、ヤマアリ属Formicaを奴隷として使うのであまりにも有名である。結婚飛行を終えたサムライアリの女王は自力で巣を創設できず、近隣のヤマアリの巣に入り込んでそこの女王を殺し、自分が新しい女王に成り代わる。ヤマアリの働き蟻たちは、不思議なことに産みの親を殺したこの侵入者を新たな女王としてあっさり迎え入れ、これが産む幼虫や卵を一生懸命育てる。
やがてサムライアリの働き蟻が生まれるのだが、サムライアリの働き蟻は巣内で働かず、自力で餌を食うことすらできないため、身の回りの世話は何から何までヤマアリの働き蟻にやらせる。しかし、ヤマアリの働き蟻はやがて寿命が来てつぎつぎに死んでいってしまう。ヤマアリの女王はすでにいないので、その巣から自然に働き手のヤマアリが生まれてくることはもうない。そのため、サムライアリは1年のうち限られた時期に、よそのヤマアリの巣を大挙して襲い、労働力となる若い蟻をさらいに行くのである。普段働かないサムライアリの働き蟻も、この時ばかりは「盗み」を働く。

418.jpgサムライアリが「仕事」をするのは、だいたい7月の蒸し暑い日の夕方と決まっており、条件がよければこの時期毎日のように奴隷狩りを行う。よく言われている話としては、午前中のうちに数匹の偵察部隊が近隣をうろついて、襲えそうなヤマアリの巣を探す。いいカモを見つけた偵察アリは、道しるべを付けながら自分の巣へと戻り、巣にいる他の仲間達を興奮させる。そして、数百匹のサムライアリの働き蟻たちが一斉に地表に現れ、偵察アリがつけた道しるべを辿ってカモの巣へ到達する。到達するや一気にカモの巣の中へなだれ込み、中にあるヤマアリの幼虫や蛹、あるいは成虫になったばかりの働き蟻をくわえあげて自分達の巣へと連れて帰るのである。

401.jpgサムライアリの働き蟻は、鎌のような鋭い牙を持っており、戦うことに関してはヤマアリより勝っている。ヨーロッパなどにもサムライアリの仲間はおり、それらの生態に関する文献を見ると「鋭い牙で、立ちはだかるヤマアリの働き蟻の頭を刺し殺す」(ヘルドブラーほか 1997)とか、「巣口にいる邪魔なヤマアリを、アゴでくわえて放り出す」」(奥本 1991)など、穏やかでない内容が書いてある。
しかし、今まで俺が日本で何回もサムライアリの奴隷狩りを見た限りでは、こうした行動は一回も見たことがない。むしろサムライアリは、立ちはだかるヤマアリたちの隙間を縫い、物理接触をさけて仕事の遂行のみに専念しているように思える。もしかしたら、目に見えない地中ではそのような光景が繰り広げられているのかもしれない。

なお、「奴隷狩り」という言葉は、海外でこのアリ類がslave maker antと呼ばれている所から和訳された言葉だろう。言い得て妙な言葉だし、このアリの生態を知らない人でも「奴隷狩り」と聞けば、このアリがどんなことをするのかだいたい想像もつく、明解な用語だと思う。しかし、最近は生き物研究の世界にも差別用語撤廃の波が過剰なまでに押し寄せている。いずれ「奴隷狩り」という言葉も、「遠方労働力調達」とか「労働力強制招聘」とか、やたら遠回しで意味の分からない言い方に変えさせられるのだろうか。

サムライアリは英語でamazon antとも呼ばれる。これは奴隷狩りをする勇猛さ、そしてそれが全部メスである働き蟻によってなされる様を、伝説上の女系戦闘民族アマゾネスになぞらえたもの。南米のアマゾン川とは関係ない。サムライアリ属は、中南米には分布していない。

東海某所にて。


参考文献
バート・ヘルドブラーほか(1997)蟻の自然史。朝日新聞社、319pp.
奥本大三郎(1991)ファーブル昆虫記7。集英社、296pp.