727.jpgペルーのグンバイ。アジアではまず見ない風貌。微妙に透かしが花柄。

742.jpgペルーのシャクガモドキMacrosoma sp.。夜間灯火にいくらでも来る。

東西南北どっから見ても小汚い蛾なのに、分類学上は限りなくチョウとして扱わねばならないことになっている、特殊なグループの鱗翅目。その理由はよく知らない。古くはガチョウ(鵞鳥× 蛾蝶○)と呼ばれた。
シャクガモドキ科Hedylidaeは、中南米にしか分布しない。この仲間は単一属Macrosomaだけで構成され、20-30種程度いるが、どれも地味な色彩のものばかりのようだ。翅は細っこく、なぜか細かいさざ波模様の出る種が多い。

中南米にはどう見ても蛾にしか見えないチョウがいるかと思えば、どう見てもチョウにしか見えないカストニアCastniidaeという蛾もいる。時空がゆわんゆわんになっている。

759.jpgアゴナガウロコアリAcanthognathus sp.。ペルーにて。

先端に鋭いトゲの付いた長大なキバを180度開き、地雷探知機のように周囲を探りながら歩く。獲物に接触しそうになると、超高速スピードでキバが閉じる。哀れな獲物は自分がすでに死んでいることに気付くのに、若干の時間を要する。

呪鍛ロングソード

762.jpgペルーのシロアリ。アジアにもいるテングシロアリのようだが、クワガタのような巨大なキバを持つ種Armitermes sp.。ジャングルの林床に半分埋まった倒木の裏側に住む地中性。

763.jpg同じ倒木下で見られた、別の地中性種Genuotermes sp.?。2本のレイピアを携えた騎士。


熱帯では、しばしば一つの朽ち木に何種類ものシロアリが偶然住み着く。そういう朽ち木内から未知の好白蟻性生物が出てきてしまうと、そいつの寄主がどの種のシロアリなのか判断するのが極めて困難である。

726.jpgペルーのスカシバ。日本のコスカシバに近そうな気がする。

あまりにも寒いので、気分だけでも暖かく。

755.jpgニホンリスSciurus lis。長野にて。

ニホンリスは、日本の哺乳類としては珍しく純粋な昼行性のため、他の哺乳類より見るのが容易いという人もいる。しかし、俺はこいつ以上に野外で観察しづらい動物もいないように思う。行動にパタン性が乏しく、野ネズミやヒミズのような「いつこの場所に行けば絶対見られる」というのがない。偶然でさえ出会うのが難しい。行き当たりばったりでは、毎日山へ足を運んでも、年に4回も遭遇できない。
近所の山へ行けば、いたる場所に特徴的なクルミや松ぼっくりの食痕が腐るほどあるため、相当な個体数が生息しているのは分かる。しかし、かつて狩猟獣としてさんざん罠や鉄砲でぶち殺され続けてきたニホンリスは、人間に遭遇する確率の高い時間帯や場所を巧みに避けて行動しているようだ。
でもその割には、同じく狩猟獣だった北海道のエゾリスは信じがたいほど人間に対して友好的である。よく分からない。

地中に住む野ネズミなどの場合、動かず音を立てずのルールを守りさえすれば、触れるほどの距離で自然に振る舞う様子を観察できる。恐らく、こちらのことを人ではなく岩か何かと思うのだろう。しかしリスは違う。リスは三次元的な生活をしているため、視力がいい。そして物体の認識能力がずば抜けて高く、たとえ人が石地蔵の如く不動を保とうとも、それが人であると容易に見抜いてしまう。
だから、いくらじっとしていても向こうはこちらの姿を見るや、毛を逆立てて鋭い金切り声でこちらを罵倒しはじめる。その点で、どちらかというとリスは同じ齧歯類のネズミより鳥に近縁な動物に思える。上の個体も、このへちょいカットを撮った瞬間に一目散に走り去ってしまった。


ニホンリスは世界でも日本にしか存在しない、日本が世界に誇っていい動物である。一部、DNA解析では北海道のエゾリス(キタリス)とほぼ区別できないような結果も出てるらしいが、あの動物は日本だけの特別な動物であってほしい。
だいたいサイズといい色彩といい姿形といい、見た目が根本的にエゾリスと全然違うじゃないか。イリオモテヤマネコだって、ベンガルヤマネコの一亜種なんて夢のない呼び方をしたくない。あれは一属一種のマヤイルルスだ。

信濃グラン背ロース

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ニホンカモシカCapricornis crispus。長野にて。

お互い雪で八方ふさがりだが、頑張ろう日本。

752.jpgシロハラTurdus pallidusが、田んぼの畦で餌を必死に探す。長野にて。

本来この裏山界隈では、シロハラは徹底して陰性である。薄暗い森の茂みでじめじめと葉を裏返して獲物を探すものであり、多少雪が積もっても容易に明るい場所へ出てこない。それが、何も遮るもののない日の下で姿をさらして餌を採っている。
林内は今なお膝上くらいの積雪が残っており、あの降雪日から数日晴れが続いているのに表面がサラサラで、まったく溶けていない。マダラ状に雪が解けて地肌の出た南向きの田畑の畦には、ふだん見ないような鳥が多く来て餌を採っている。裏山に住む面々にとって、いかに今回の積雪がイレギュラーだったかをうかがい知れる。

754.jpg田んぼの脇を通り過ぎて山を下る途中、道脇の民家のそばでベニマシコUragus sibiricusを見た。これも普段はかなり人間を嫌がるが、ここ数日は人が近寄ってもあまり逃げない。餌を採りやすい場所から、あまり離れたくないらしい。
今回の積雪で、おそらく県内の鳥獣は例年にない個体数が餓死すると思う。ただ、個人的にはシカはこれで相当数が間引かれてほしい。不謹慎かもしれないが。

このベニマシコを見ていた最中、突然遠くで「シィーーーッシィーーーッケキャキャッ!!」と、聞いたこともないような声が聞こえた。次の瞬間、民家の影から猛スピードでシロハラと、それを後ろから追いすがる小型のタカが飛び出してきてびびった。タカはこちらに気付くと慌てふためいて空高く舞い上がり、どこかへ行ってしまった。
上の田んぼでシロハラとすれ違って以後、他の個体のシロハラの気配は感じなかった。間違いなく、あの目立つ畦にいたあの個体が襲われたのだと思う。食うほうも食われるほうも必死だ。

あの畦は、どこか遠くから常に猛禽が監視しているらしく、ときどき小鳥が襲われる。昨年はあそこにトラツグミがうろついていたが、何日か後には尾羽が一本しか残っていない姿で現れ、それ以後姿を見なくなった。

753.jpgタカが去った後、それまで周囲で鳴いていた小鳥が全員黙った。姿も消えた。何もいない何も聞こえない、死の空間になった。

684.jpgクワエダシャクPhthonandria atrilineataの越冬幼虫。長野にて。

枝そっくりな姿で枝にしがみついて、一冬を乗り越える。大抵は斜め懸垂みたいな体勢でいるが、あまりに風雪が厳しい日には枝にぴったり張り付く。頭の形がクワの新芽そっくりで、一見して小枝と非常に紛らわしい。しかし、慣れればすぐ見つけられるようになる。付いている場所が、明らかに本物の小枝にあるまじき雰囲気の場所であることが多いから。

685.jpgこの木では、探し始めて30秒ですぐ3匹見つけられた。しかし、この程度の擬態昆虫をいくら見つけても、自慢にも鍛練にもならない。地球の裏で待つ「あの甲獣」を倒すための経験値は、こんな雑魚モンスター相手では稼げない。
擬態の精度はもとより、いる場所が予測できず、付く植物や付く部位が全く定まっていないものがいい。近所でその条件を満たす越冬昆虫は、ホソミオツネントンボやウスアオキリガ、コケオニグモくらいしかいない。

749.jpgミヤマホオジロEmberiza elegans。冬鳥。長野にて。

地獄のドカ雪で、山が雪に覆い尽くされてしまった。地面がむき出しの箇所がほとんど無く、わずかに雪が解けた車の轍が唯一の鳥の採餌場所。鳥ごとではなく、人間の生活も苦しい。主要な道路のあちこちが通行止めになってしまい、物流が寸断されてしまった。
ようやく復旧しはじめたが、元の状態になるには今しばらくかかりそうだ。

750.jpg車の轍の中はまったく見通しがきかず、天敵の襲撃を受ける危険性がとても高い。餌をついばみつつも、頻繁に背伸びして辺りを警戒する。たかが普通乗用車のタイヤ跡も、鳥にしたら立山黒部の雪壁だ。

この鳥は紛れもなく日本の鳥なのだが、このファンキーな髪型と色彩はどうにも雰囲気的に日本の冬景色に似つかわしくない気がする。

682.jpgオオミスジNeptis aiwinaの越冬幼虫。梅の木につく蝶の仲間。長野にて。

683.jpgこの蝶の越冬態は小さな若齢幼虫であるうえ、全身がゴツゴツしていて梅の樹皮と紛らわしい。しかも、越冬巣のような分かりやすい目印を一切作らず、ただ適当に幹にへばりついているだけ。仕上げに、取り付く樹幹の部位はまったく決まっていない。だから、日本の蝶類の越冬態の中でもかなり発見が難しい部類に入る。
でも、何度も探し続けているうちに、何となく「いそうな場所」というのがぼんやりとイメージ出来るようになる。うまく言葉で表せないのだが、雰囲気でここだというのが分かるのである。そして、そこを見ると実際に首尾良く見つけられることが多い。

681.jpg絶対に発見不可能だと思うのでネタバレすると、写真中央の緑の枝の付け根真下にある、裂け目の間に挟まっている。

普通こういう発見困難な蝶の越冬態は、夏の間に成虫の姿を見かけていて、確実にいることが分かっている場所で探さないと、探す途中で心が折れてしまう。でも、「イメージ」が出来るようになれば、初めて行く場所でも比較的簡単に見つけられるようになるものである。ここに載せた2個体も、ともにこの初見の木で探し始めて30秒以内にあっさり見つけた奴らだ。

こんなふうに発見が難しいオオミスジだが、正直なところ擬態昆虫としてはまったくの小兵レベルとしか言いようがない。何しろ食樹が梅と分かっているのだから、梅の木をひたすら探せばいつかは必ず見つけられる点で、発見難易度は甘納豆に蜂蜜とガムシロを投入して流し込むほどに大甘口である。
これが熱帯のジャングルとなると、そこに住むたいがいの擬態昆虫は食草が分かっていない。そして、擬態の精度そのものも日本の有象無象に比べれば段違いに高いとくる。現地でそういう虫を採って売っている人ならいざ知らず、余所の国から来た者がちょろっと短期で来て自然の中から見つけ出すなど、ほぼ不可能に近い。


中南米の雲霧林に、スメルダレアSmerdaleaという生物がいる。体長1cm前後のこの生物は、全身が甲冑のようなゴツゴツした甲羅に覆われており、緑を主体としたゴチャゴチャした模様をしている。その姿で、苔むした木の枝に止まって過ごしているらしく、ぱっと見ただけでは苔とまったく区別できない。そのため、この甲獣を野外で、なおかつ自然状態でいるさまを見た者は、これまでほとんど存在しない。
この甲獣を見るためには苔むした枝をひたすら見て探せばいいのだが、雲霧林ではすべての木が根元から枝先まで苔むしているため、探す的がまったく絞れない。広大な雲霧林でこれを探すということは、広大な砂浜から誰かが落としたたった一粒の色つきの星砂を探し出すに等しい苦行である。

かつて南米の山中に野宿した際、夜間灯火にたまたまその甲獣が1匹だけ飛来した。すぐ近くに甲獣の生息場所があるに違いないと思い、翌日に丸一日かけて付近の苔むした枝という枝を片っ端から見回った。しかし、激しい眼精疲労を患うだけの結果に終わった。きっと甲獣は俺が死にものぐるいで、まるでトンチンカンな場所ばかり探している様をどこかから見下ろし、腹を抱えて高笑いしていたに違いない。

いつか再びかの地を訪れ、あの忌々しい甲獣を平らげたい。そのためには、日本のオオミスジ程度の小兵など瞬時に発見できる程度の眼力を身につけねば、まったく話にならないのである。

逆せかいいちのはなし

大きくそびえ立つ、クヌギの大木。

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その大木の幹にこびりついた、小さな地衣類。

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その小さな地衣類の影に隠れて越冬する、珍種コケオニグモAraneus seminiger
体長5mm程度の、とても小さな幼体。薄いミントグリーンの美麗種で、地衣類そっくりな色をしている。蛾の類と違って、このクモは間違いなく地衣類を認識しているようで、地衣類上に定位する性質が強い。
この個体は典型的なコケオニグモとは模様が違うが、毎年いる場所で見たし、雰囲気から見ても普通のオニグモA. ventricosusの色彩変異個体ではないと思う。


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そのとても小さいクモの背中に食いついた、さらに小さい寄生性クモヒメバチの幼虫。コケオニグモにこの類のハチが付くという話を聞いたことがないが、普通のオニグモに寄生するものがたまたま寄生しただけだと思う。


小学校の国語で読まされた「せかいいちのはなし」(北彰介、1974)という昔話がある。自分が世界一巨大で勇ましいと自負していた大鷲が、それを世界中に自慢するための旅に出るが、道の途中で自分より遥かに巨大なエビに出会う。負けを認めた鷲の「やっぱりあんたが世界一」の言葉におだてられて気を良くしたエビは、鷲に代わって自慢の旅を引き継ぐ。ところが今度はそのエビが旅の途で、それを遙かに凌駕する巨大海亀に出会う。負けを認めたエビは、亀に「やっぱりあんたが世界一」と言うが、亀は自分など世界一でも何でもないという。実は、その亀が乗っていた場所はそのまた遙かに巨大な鯨の背中で、その鯨でさえまだ子供だという。しかもその子鯨の親ですら、鯨仲間の間では全然小兵だった。
大きな者の上にはさらに大きな者が無限に存在するという壮大な内容で、人間の思い上がりと慢心を戒める物語であった。

その逆もまたしかりだと思う。小さなクモの背中に乗った極小のクモヒメバチだが、もしかしたらこれの体内にさらに別の寄生虫が住んでいるかも知れない(そんなもの記録されていないとは思うが、絶対にこの世に存在しないなんて誰が断言できよう)。また、昆虫体内には往々にしてその種の昆虫にしか見られない共生細菌が生息しているから、その寄生虫の体内にさらに別のミクロの生物が生息しているかもしれない。
小さなものの中には、さらに小さなもの、そのまた小さなものたちによって作り出される宇宙が無限大に広がっている。世の中は我々が思っている以上に広いことを、たかだか2mmのウジ虫に諭されて、思わず森で腰を抜かした。八甲田山の大鷲にも、教えてやらにゃあなるまいて。

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モズのはやにえ。柿の木でヒナバッタChorthippus biguttulusがやられた。

585_201312212317401b7.jpg梅の木でニホンカナヘビTakydromus tachydromoidesもやられていた。長野にて。

この21世紀の世にあって、いまだにモズのはやにえの理由はよく分かっていないという。かつては獲物の少ない冬に備えて貯食しているのだと言われたが、その割にはいつまでも食われないまま忘れ去られるものも多い。
カラスにせよヤマガラにせよ、貯食習性がある他の鳥は往々にして賢いものばかりである。どこかに餌を隠した以上いつかはそれをまた見つけ出さねばならないから、ある程度の記憶力がないと貯食という習性自体が成り立たない。しかし、モズが他の小鳥に比べて抜きんでて知能が高いことを示した研究というのは、聞いたことがない。むしろ、かなり知能が低いように思える。

カラスやヤマガラは、餌を地面の隙間や樹皮の裂け目など、外からわかりにくい所に餌を隠す。周囲の落ち葉などを使って擬装することもある。そこまで周到に隠した上で、後で隠した場所を忘れるというなら納得がいく。しかし、モズのはやにえは開けた場所の枝先など、外からもろに見える場所に作られる。そんな目立つ場所に「貯食」しておきながら、それを忘れて食わないというのはおかしな話である。
だから、はやにえが貯食目的でなされているという説は、前々からずっと疑わしく思っていた。


昔、何かのテレビではやにえの理由に関して面白い仮説を提唱していた。それは、「場当たり的についやっている」説である。モズは、目の前に生きた小動物がいると、自らの空腹状態に関係なく本能的にそれを殺さないと気が済まない。そこで空腹ならばそれを食うが、満腹ならば「いつかは分からないが、とりあえず近未来のいつか」に食おうと思い、手近な枝などに反射的に刺してその場を去る。ところがモズは頭がそんなによくないため、その場から飛び立った瞬間に、自分がいまそこではやにえを作ったことを忘れてしまう。

しかし、モズは冬の間決まった縄張りをもち、日がな一日その内側を巡回し続けている。そして、モズは縄張り内にいくつかのお気に入りの見張り場所を持つ。なおかつ、モズは見張り場所から地面にいる獲物に襲いかかると、再びもとの見張り場所に戻る習性が強いため、おのずと高頻度で止まる見張り場所の近くにはやにえをつくることが多くなる。
だから、モズははやにえを作ったことを忘れてしまっても、次にそこへ巡回しに来たときに以前のはやにえを発見できるのだ。その時のモズははやにえを、以前それが自身でこしらえたものとも思わず、普通に獲物が枝先に止まっていると思って「捕食」するのである。

一方、モズも生き物なので、たまには縄張りの中でも普段あまり止まらない場所に止まることもあるだろう。その時にたまたま獲物を見つけてそこではやにえを作ってしまうと、それ以後その場所にはもうそんなに行かないだろうから、そこのはやにえはいつまでも食われずに残り続けることになる。これが、「忘れ去られたはやにえ」の正体だという。

個人的には、諸説ある中でもこれが一番もっともらしい気がしており、今に至るまで信奉している。

高峰小雪

660.jpg宮本武蔵が愛した、孤高の恐竜。長野にて。

744.jpgメジロZosterops japonicus。長野にて。

743.jpg庭木の柿などに群れでよく来て、つついているのを見かける。

745.jpgすぐ近くで見ると、けっこうきつい目つきをしている。遠目に見る方が可愛らしい。今はもう法律が変わってだめになったが、かつてメジロは許可を取れば捕まえてペットにしていい鳥だった。

俺が幼かった頃、母方の実家があったとある漁村では、どこの家でもメジロを竹籠で軒に吊して飼っていた。当時健在だった祖父はメジロの飼育がとてもうまく、飼われていた個体はよく懐いていた。俺もメジロをどうしても飼いたくて祖父にねだったところ、「今年はもう時期があれだから、来年一緒にお前のためのメジロを捕まえに行こう」と約束してくれた。
祖父は自分で裏山から捕まえたメジロだけを飼っており、「メジロを捕るにはまず塒を見つけるんだ」とか「夜中に寝ているところをモチ竿で・・」とか、いろんな話を聞かせてくれた。昨今の愛鳥家が聞いたら怒鳴り込んできそうな内容だが、それでも当時の俺にとって祖父の話は、双眼鏡で遠くから鳥を見て蘊蓄を垂れるだけの人間のそれにはないリアリティと重みがあって、好きだった。
その約束をして半年も経たないある日、祖父が脳溢血で倒れて寝たきりになり、まもなく逝ってしまった。メジロを一緒に捕りに行く約束は、永遠に叶うことはなかった。

先日、里帰りした際に祖父の墓参りに行った。実家の裏山にある南向きの斜面に作られた墓地は、周囲がミカン畑に囲まれており、いつでも沢山のメジロが迎えてくれる。祖父は捕まえたメジロを一定期間飼った後、いつも元の裏山に返してやっていた。その末裔が、あの日見た中に混ざっていただろうか。

748.jpgヤサコムカデ一種Scolopendrellidae sp.。長野にて。

森の石下などで見られるが、多くない。分類が進んでおらず、日本だけでも今後新種がいくらでも出ると思われる。とても長いので、凹凸の激しい所にいられると全身にピントを合わせて撮影するのがとにかく難しい。

721.jpgイマニシガガンボダマシTrichocera imanishiiのオス。

クモガタガガンボ同様に冬季のみ出現する蚊で、雪の上を歩行している姿が見つかることが多い。そのため、世間では雪上昆虫とみなされているが、たまたま雪上外で見つけることが出来た。
ガガンボダマシ科の仲間は名前の通りガガンボにそっくりな仲間だが、本物のガガンボ科とは上科レベルで別分類群のため、そんなに近しい間柄でもない。本物のガガンボ科とは、厳密には翅の脈相で区別せねばならないが、慣れると見た目の雰囲気ですぐ分かる。寒い時期に見かけて、ガガンボにしては脚が短めで触角が長めと思ったら、大抵それがガガンボダマシである。

ガガンボダマシ科の多くは、冬を中心としてうすら寒い時期に成虫が活動する。その中でも、イマニシは寒冷下での生活にかなり特化した部類に入る。メスは翅が顕著に退化し、糸くずのようなものが背中に付いているだけ。オスは一応翅の体をなしたものを生やしているが、飛翔筋が退化しているようで飛べない。羽ばたくこと自体ができない。
雪上をひたすら歩き回って、交尾相手を探すようである。この虫はクモガタガガンボと違って、日中でも平気で活動できる。

722.jpgこの虫の生態は不明な点が多く、どこから発生するのかよく分かっていない。クモガタガガンボとは恐らくかなり異なる生活史と思われ、クモガタガガンボほど狙いを付けて野外で見つけられない。

長野にて。

598.jpgクモガタガガンボChionea sp.。長野にて。

真冬にだけ出現する、翅のない蚊の一種。雪の上を歩き回る姿が見られるため、セッケイカワゲラ(ユキクロカワゲラ)などとともに雪上昆虫と呼ばれている。かつては夏も雪が解け残る山岳雪渓にしかいない幻の昆虫と謳われたらしいが、実際はその辺の雑木林に普通にいる。ただし、夜しか活動しない。
真冬の夜中にムシを求めて雑木林をうろつく人間が長らくいなかったので、発見されてこなかっただけのこと。

この虫は、予想外に小さい。そして、茶褐色の目立たない色をしているため、真っ白い雪の上にいる状態でないと普通は発見できない。聞くところに寄れば、少なくとも日本の野外でこの虫が雪上以外にいるさまを見た人間は、ほとんど存在しないらしい。

599.jpgどうやら気付いている人間はまだ僅からしいが、実は森の中のある場所を見つめていれば、積雪などまったくなくても野外でこの虫を至極簡単に観察できる。その詳細はここでは秘密なのだが、幼虫期の生態がカギになっている(と思う)。

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モズLanius bucephalus

何もない稲刈り後の田んぼで、殺す相手を血眼で探している。もしこの生物が2mサイズだったら、確実に人類にとってヒグマ以上の脅威だったと思う。「百舌嵐」という小説を絶対に誰かが書く。

589_201312242305157f7.jpg近所の田園に、養蜂家がミツバチの巣箱を置いている。その巣箱の脇に生えた梅の木に、しばしばモズが来ている。獲物が少ない冬の間でもミツバチは活動するので、これを食いに来ているらしい。とは言っても、常時そこでモズを見かけるわけではない。

ただでさえひもじい季節、巣箱のそばにいれば無尽蔵にミツバチが食えるはずなのに、常駐していない。モズにとってミツバチは、あまり美味い餌ではないのかも知れない。迂闊に捕まえると刺されることを理解しているらしい。

長野にて。

670.jpg雪上のユスリカ。おそらくヤマユスリカ属Diamesa sp.。冬に見られる蚊の仲間。

671.jpg一般的なユスリカと違って空中で蚊柱を作らず、ひたすら地面や雪の上を駆け回って配偶相手を探す。だから、大概のユスリカのオスは空中で仲間の羽音を聞くために触角が発達するのに、この種はそうならない。
海岸に見られ、同じく蚊柱を作らないイソユスリカ属Telmatogetonも同様。この2属は外見が物凄く似ているのに、生息環境がまるで違う。

694.jpg交尾。

672.jpg雪山を歩くと、行き倒れたユスリカを多く見る。冬の虫にとっても冬は厳しい。

長野にて。

686.jpgハシボソガラスCorvus corone。まどろみ中。長野にて。

今川駿河まま

677.jpgおそらくスルガマシラグモMasirana kyokoae。富士山周辺一帯の地下空隙にすみ、フジマシラグモとおおむね分布が重複するようだが、この種は目がある。
マシラグモ科には洞窟性の種が多いが、日本産のものではフジマシラグモなど僅かな例外を除き、目は退化しない。

日本にはマシラグモ科の種はやたら多いわりに、どいつもこいつも背面から見た姿は同じ。正確な種同定は、触肢など微細な形態の精査によらねばならない。ただし、洞窟性のものに関してはおおむね地域ごとに種分化する傾向があるため、どこの洞窟で見たかによりだいたい種の見当がつく(あくまでもだいたい。しばしばあまり厳密ではない)。

兇魔天帝

710.jpg
とある観光洞でたまたま見た、冬眠中のキクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum

内部にいくつもの照明器具が並び、煌々と点灯している年中無休のこの小さな観光洞は、ひっきりなしに大勢の観光客が往来する。そんな場所で、このコウモリは昏々と眠りについていた。

普通、冬眠中のコウモリは人間のディスターブに弱く、邪魔されると死んでしまう。だから、冬眠中のコウモリに明かりを当てたり、大きな音を聞かせてはならないとされる(そもそも、本来は冬にコウモリのいる洞窟に入るべきではない)。
ところが、ここでは初めから明るくやかましい洞窟に、コウモリの方がすすんで入り、冬眠しているのだった。この近辺に、冬眠に適した洞窟が他になくて、やむを得ずここで毎年冬眠している「慣れた個体」なのかもしれない。

見たところ体中に水滴がつき、ここで冬眠に入ってからかなり久しい雰囲気だが、いくら周りの観光客が面白がって騒いでも、写メをとられても、もうそういう刺激に慣れてしまってその程度じゃ起きないらしい。それがいいことなのかどうかは分からないが、この個体は安心して冬眠を続けているようだった。
ここではない別の地域の観光洞でも、人がバンバン行き交う洞内通路のすぐ手が届く壁面で、コキクガシラコウモリが冬眠しているのを見たことがある。コウモリが安心して冬眠できる洞窟は全国的に年々減り、コウモリも数を減らしていると言われるが、一部の個体は妥協して観光洞で冬眠するように適応し始めているのかもしれない。

人間も人間で、写メは撮ってもコウモリを直につついたりいじったりする者は、離れたところでしばらく見ていた限り誰もいなかった。いい意味で、人と野生動物が互いに干渉しないようにしている雰囲気で、好感が持てた(みんな単に、コウモリなんて不気味で不潔そうなもの直に触りたくないだけかもしれないが)。

せっかくなので、俺も一枚だけストロボ弱めに撮影した。よく見ると、翼の縁の内側に寄生性のコウモリバエだかクモバエだかがいるのに気付いた。それの写真も本当は撮りたかったのだが、これ以上もう何もせず去ることにした。寄生バエの写真を撮りたい以上に、このコウモリに無事冬を越して欲しかったから。

龍神

715.jpg洞窟性オビヤスデ。この地域の洞窟界隈にだけ住む、ナントカとかいう種だと思われるが、関連資料がまったくないので不明。

716.jpg目がない。


アリの巣の中の生き物探しから派生して、洞窟性の生き物が全般的に好きである。いつか、日本産種限定で洞窟性生物の写真集を出したい。

邪鬼王

703.jpgある洞窟の奥で見た、まるでサソリのような見たこともない動物。とても恐ろしげだが、体長3mm以下しかない。

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705.jpg 13年前にその存在を知って以来、毎年のように模式産地の洞窟で探し続けるも見つけられずにいたもの。先日、ついに初めてそれを洞内の岩上に見た。半世紀ほど前に記載されて以来、これの姿を見た人間はほとんど地球にいない。生きた姿も撮影されたことがない。
模式産地の洞窟は観光地化されて荒廃しており、再発見は絶望的だと内心思っていたので、見つけたときは本当に泣くほど嬉しかった。実のところ、これと見た目遜色変わらない動物は全国各地の洞窟で見つかっているのだが、俺にとってはこの洞窟のこの種じゃなきゃ意味がなかった。

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708.jpg水滴で紛らわしいが、目はまったくない。感覚毛の生えた細長いハサミを突き出し、辺りを触りながら歩く。動きはなめらかでおっとりしているが、びびると高速で後ろへ飛び退く。

706.jpgこの動物の名前は書けない。書くと、これを撮影した洞窟の所在をピンポイントの精度でネット上に宣伝することになってしまい、ただでさえ危ぶまれるこの繊細な動物の存続をなお危うくするから。
洞窟性生物の中には、この動物のように地球上でその洞窟一カ所にしかいないものがいる。そうした生物には、必然的にピンポイントで生息する洞窟名が名前に付けられてしまうのだ。

709.jpg前世紀から消息を絶っていたこの動物が、まだこの世に生き残っていてくれたことが分かって、安心した。ただ、それだけ。

暗黒水竜ナガ・ソトゥグア

711.jpg洞窟性甲殻類、キョウトメクラヨコエビPseudocrangonyx kyotonis

名前と違って京都じゃなくてもいる。詳しく知らないが、少なくとも東海から近畿にかけては分布しているらしい。上の個体を見たのは京都ではない。
洞窟内に溜まった水たまりに生息するが、本来は地下水脈に生息するもののようである。体は半透明の純白で、うっすら真珠色の光沢をたたえる。目はまったくない。

713.jpg体を横に倒して軽快に泳ぎ回る。だからヨコエビと名が付いているのだが、時にはちゃんと体を立てる。

712.jpg胴体はきわめて扁平。地中の砂礫の隙間をすり抜けやすい体型になっている。

714.jpg顔をアップで撮ろうとレンズを水たまりに近づけたら、ディフューザーが着水してしまい、泥が舞い上がってどうしようもなくなった。



忍者龍剣伝IIは、いいゲームだったと思う。

蜘蛛男爵

717.jpg洞窟性クモ類、フジマシラグモFalcileptoneta caecaの巣。富士山周辺から伊豆半島にかけての地下空隙に住む、目のないクモ。

地表の岩の隙間にハンモック状のシート網を張り、その裏側にへばりつく体勢で獲物を待ちかまえる。サイズから察するに、主な獲物はダニやトビムシであろう。

湿度の高い洞窟では、クモの巣は細かい水滴がびっしり付くため、ライトで照らすと高級なレースのようでとても美しい。それを表現したいのだが、岩の入り組んだ隙間にあることが多いのでストロボ光をうまく当てられない。結果、巣が全然写らず、クモがただ逆さまで宙に浮いているだけの写真になってしまった。

675.jpg
ハクビシンPaguma larvata。いつも夜な夜な徘徊する裏山の柿の木に最近よく来ている、顔なじみの個体。

学生時代、野人のような知り合いが、道路で轢かれたばかりのハクビシンを拾って持ち帰り、鍋にして食ったと言っていた。中国では食用として市場で売られている程だから、味はいいのかもしれないが・・。

長野にて。長野に限った話ではないと思うが、最近個体数が異様に増えている。

591.jpgウスアオキリガLithophane venusta。成虫越冬する蛾で、樹幹に張り付いて冬を乗り切る。騒ぐほど珍しくはないが、まるで大理石でこしらえたような上品な種。市街地近くで見るのは難しく、少し山奥に入らないといない。

この蛾は、樹幹に生えるウメノキゴケなどの地衣類に似た色と模様をしている。地衣類が付いた樹幹に止まって越冬していると、発見がおぞましく困難となる。

592.jpgこの中で3秒で発見できたら界王神。

あまりに見事に地衣類にとけ込む模様なので、これを見た人間は例によって「これは地衣類に擬態するための模様だ」と思いこむ。しかし、この蛾は明らかに自分が地衣類に似ていることを理解しておらず、地衣類が全くない場所に平気で止まって越冬することもしばしば。

593.jpgウメノキゴケのない墓石に止まって越冬中。これなら簡単に見つかる。

ネットで画像検索しても、地衣類のない所で越冬中のこの蛾の写真がけっこう見つかる。この蛾が住む山間部の広葉樹林というのは、もともと至る所の樹幹に地衣類が生えている環境である。だから、この蛾が地衣類の場所を選んで止まるのではなく、この蛾が止まる箇所にはたまたま地衣類が生えていることが多い、というのが正しい表現だと思う。いずれにしても、結果的にそのお陰でこいつらは天敵に食われるのを相当に免れているだろう。

長野にて。