949.jpgキバネツノトンボAscalaphus ramburi。長野にて。

あれを見た草原では、今が成虫の発生ピーク。紙吹雪のように無数に舞っていた。本州中部では基本的に凡種だが、よそでは相当な珍種。もちろん九州でも分布はするが、ほとんどまともに見られる場所はないと思う。
この空き地は今年も奇跡的に健在だったが、いつまでもつだろうか。凡種とはいえ、13年前よりは見られる場所も個体数も、基本的には減っている。

948.jpg蝶も角蜻蛉も、冬にちっさい幼虫だったものがこうして立派に成長した姿を見るのは嬉しい。子の成長を見る親の気持ちというのは、こういう感じなのだろうか。

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オオミスジNeptis aiwinaの幼虫。長野にて。

あのときの場所でみた。越冬中の若齢幼虫はきわめて発見困難だが、大きくなった幼虫も、何も知らずに探そうと思うとハードルが高い。

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緑と茶色の模様は、食樹であるウメの若葉の繁りに容易に紛れてしまう。しかし、蛹になる直前ならば一発で分かる。自分の周囲にある葉を2,3枚、絶対枯らすからだ。この蝶の蛹はものすごく枯れ葉そっくりなのだが、何しろ若葉の時期なので枯れ葉の姿は逆に浮いてしまう。そのため、自分の分身としてわざと周囲の葉を数枚枯らし、敵に的を絞られないようにしている(としか思えない)。

しかし、ならば最初からそんな面倒なことせずに、若葉に似た蛹になればいいと思うのだが。なんで新緑の時期に枯れ葉に似せようとしているのか、よく分からない。いや、枯れ葉と思っているのは人間だけで、実際は我々には想像も付かない別の何かに似せているのかも知れない。

945.jpgカギシロスジアオシャクGeometra dieckmanniの幼虫。長野にて。

クヌギに付く蛾で、幼虫越冬する。新緑で緑が芽吹くのと同時に成長をはじめる。周りの芽吹き具合に合わせて、巧みに自身の姿形をどんどん変えていくことで有名。芽鱗に覆われたクヌギの展葉前の葉に、あまりにもそっくり。

このときの個体を見た枝を探したら、いた。普通種とはいえ、うじゃうじゃいるものでないので、間違いなく同一個体。会えて良かった。

951.jpgピストルミノガ一種幼虫Coleophora sp.の巣。銃身1cm、人殺ししない珍しい銃火器。長野にて。

950.jpgタケウチトゲアワフキMachaerota takeuchii。長野にて。

ツノゼミの親戚筋で、小さいがとてもかっこいい。成虫は初夏の短い間だけ現れ、シナノキに付く。信濃の国という名は、その昔当地においてシナノキが多かったことに由来するとの説もある。確かにシナノキ自体はあちこちに見られるが、この虫の見られる場所は相当に限られる。しかし、いる場所には多く、何故こんな場所に?と思うような環境で見ることも。
元・職場のある区画内にも実は生息しているのだが、誰も気付いていないし、気付かれない方がいい。

体に細かい白点が散っているが、これはアカマツの花粉。近隣の裏山にはバカみたいな数の松が生えているため、初夏にはさらに常軌を逸したバカみたいな量の花粉が風で飛ぶ。おかげで、今の時期野外で撮影する虫は、全て花粉まみれ。

数日前、所用があってかつての故郷たる文明の僻地まで戻った。まだたったの2ヶ月しか経っていないので、あまり懐かしさは感じない。

952.jpgかつての居住区のある裏山の一角。ちょうど13年前、ここへ移り住んだその年に、この山で大規模な山火事が発生した。どうやら何者かの火の不始末が原因らしかった。死人は出なかったが、山ひとつ丸焼けになる大惨事になった。
山火事という現象は、ほぼ人災と呼んで良い。タバコやたき火の不始末、はては墓参りの線香に至るまで・・。逆に言えば、人がきちんと気をつけさえすれば、大抵の山火事は未然に防げるということの裏返しなのだが。落雷や、本当に起きるのか疑わしいが風で木の枝同士がこすれることによる摩擦発火など、そうそう起きるものではない。

日没直後の写真なのでこれでは分かりづらいが、あれから13年たった今でも、明らかに焼けた部分はわかる。焼けていない周囲の森とは、完全に同じ状態にはなっていない。失われた森は元には戻らないというのを、つくづく思い知らされる。

なお、山火事発生当時、その山が焼けているさまを地元のケーブルテレビ局がエンドレスで中継していた。一切ナレーションもBGMもなく、たまに消火ヘリがよぎる中、ただ煙でかすんでいる黒い山の映像が淡々と何時間でも映し出されているのが、とてもシュールだったのを覚えている。

八舞夕弦

915.jpgクロクビレハリアリCerapachys daikoku。福岡にて。

きわめて稀で、生きた姿を見た者はほとんどいない、日本産蟻類きっての珍種のひとつ。本州以南で散発的に見つかっているだけ。もともとの少なさに加えて、樹上性で人間の目線の高さになかなかいないので、なおのこと発見しがたい。
ある思惑があって、しばらく日本のアリの写真をここに出さないようにしていたが、こいつばかりは嬉しいので別。ツクシンボウに脚を生やしたような長細い特異な姿が、この仲間の特徴。

本当はこれを見つけた山へは、あるメクラチビゴミムシの珍種を掘り出す目的で出かけたのだが、あまりにも採れないので早々に標的をアリに鞍替えしたのだった。
その山はアリの種類相も豊富かつ特異なことで、一部のアリ研究者の間では評判である。中でも、今回見つけたクロクビレとは対をなす真逆の片割れである、同属で地下性の珍種ツチクビレC. humicolaというのがいて、そいつを見たくて山中を這い回っていたのだが、そいつ以上に珍しいこいつの方が出現した。

916.jpgなおクロクビレハリアリは、先日の「九天王」には含まれてはいないが、それと同等以上にずっと探し求めていた「精霊」のひとりである。アリ関係の仕事を始めた14,5年前以来、過去に記録のある伊豆半島で毎年死にものぐるいで探し続けるも見つけられずにいた。もはや発見が九天王以上に望めない存在と判断し、あえて含めなかったのだが・・まさかこのタイミングでデレるとは。

729.jpgペルーのジュズヒゲムシ。東南アジアで見られる種と、ぱっと見は全く区別できない。

ジュズヒゲムシを含む絶翅目は日本にいない目とされており、日本では馴染みがない。しかし世界的に見ると、むしろいない地域のほうが珍しいような気がする。本当は与那国島あたりで草の根分けたら、見つかりそうに思えるのだが。

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ペルーの薄馬鹿下郎。2cmしかない小型種で、アジアで見ない風貌。

翌月明けに、ヨーロッパまで国をまたいでたった一人で遣いに出ることになった。行ったことがない場所なので、正直生きて戻れるかかなり微妙な雰囲気。最初のチェコでは味方になってくれる人がいるので、おそらく大丈夫だろう。しかしその後に行くフランスのパリが問題だ。ここでは自身の研究上、絶対に遂行せねばならない重要なミッションがあるのだが、誰にも頼ることができない。日本語さえ不自由なのに英語のみを駆使して、はたしてあのスリと置き引きとクビ締め強盗のうようよいる町で修羅場を掻い潜れるだろうか。

現世に悔いを残さないよう、行く前にせめて旨いものを食っておこう。あの「精霊」のいる沢も掘りに行こう。

770.jpgハチドリ用給餌器は、他の生きものにとっても拠り所となる。ハチや蝶のほか、夜には蜜吸いコウモリがくる場合も。

アシナガバチが蜜をたしなんでいるところに、ウズマキタテハが飛来した。諸手を挙げて威嚇するハチが、まるで蝶に対して「来るな!」と通せんぼしているよう。

ウィツィロポチトリ

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ペルーのハチドリ。

新熱帯のジャングルにある客寄せ施設の軒先には、たいていハチドリ用の給餌器がかかっている。中にジュースやシロップを注いでおくとハチドリがやってくる。給餌器下側の花柄の部分に穴が空いてて、ここから嘴を差し込んで飲む。これがかかっているかどうかで、その地域にいるハチドリの人怖じ程度がぜんぜん変わる。
ハチドリは見た目と違ってものすごく気性が荒く、仲間同士でひどい喧嘩をする。給餌器が少なかったり中身が無くなってくると、いい場所を巡って骨肉の争いが始まる。動物園などで見せ物にする場合、狭い場所で複数匹を飼おうとすると、しばしば弱い奴が殺される。

飛びながら餌を飲むハチドリの足下にそっと人差し指を差し出すと、止まる。サイズの割に、意外としっかりとした重量を感じる。

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ペルーのナナフシ。背中に白いものが見える。ただでさえ奇怪な生物が多い熱帯のこと、遠目に見るともともとそういう色や模様の仕様にも思えるが、これは寄生虫である。

761.jpgナナフシ専門に吸血する寄生性ヌカカForcipomyia sp.(Microhelea亜属)。属自体は日本を含め世界中にいるが、このナナフシに寄生するやつは新熱帯にしかいないらしい。
※日本にも、ナナフシ吸血性の種が生息するとのご指摘を頂きました。nukaka様、ありがとうございます。


本属のヌカカは生態的にとても多様で、大形の虫から吸血するもの、温血動物から吸血するもの、自分と同サイズの生きた虫を捕らえて食うものなどが知られる。

熱帯のジャングルでは人間を刺すヌカカも非常に多く、どんなに対策を講じても激しい攻撃を受けて大変なことになる。ジャングルに住むあらゆる生物が、ヌカカの脅威から逃れることができない。

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ペルーのビワハゴロモ。そんなに大きくない種。ビワハゴロモは、世界中の熱帯雨林にいる。

935.jpgコメツキガニScopimera globosa。福岡にて。

砂浜や干潟に住むスナガニ類が、カニの中では一番カニらしく見えて好きである。居住区の近くの狭い干潟に、カニがばらまいたようにうじゃうじゃいる。
コメツキガニは、砂が多く泥っぽくない場所に多い。潮が引くと、突如として砂に穴を空けて這い出てくる。個体数は多いが、ほとんどが子供で親が少ない。大きな個体ほど目立つので、敵に間引かれやすいのかも知れない。

936.jpg餌は潮が引く際に、砂上に取り残された養分。スプーンのように内側のくぼんだハサミで砂を掬っては口にどんどん放り込み、養分だけこしとる。砂は口元にためてまとめ、大きくなるとハサミでちょん切って捨てる。カニが食事した後は、砂の団子がたくさんできる。

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938.jpg仲間同士の、取っ組み合いの殴り合いならぬハサミ合い。コメツキガニは基本的に、巣穴から半径数センチ以内のなわばりから外へ出ずに生活する。その範囲内にある限られた量の養分しか食べられないため、近隣にいる他の個体にくれてやる余裕などない。それを侵しにくる相手には、容赦しない。

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941.jpgコメツキガニのオスは、繁殖期に限って踊る。こいつのダンスは、昔からテレビでしか見たことがなく、どうしてもナマで見たかったもの。砂団子作りの手を突然止めて硬直したかと思うと、ゆっくり伸びをするように左右のハサミを上に上げる。一番上まで上げると、突然下ろす。下ろすのは早い。
時々思い出したようにやるが、一番高く伸びをしたときに、ハサミに釣られて一番前の脚まで振り上げるのがかわいい。一番後ろの脚も縮めているため、伸びをしている瞬間は四本脚で立つことになる。

937.jpgコメツキガニの脚には、コンタクトレンズのように薄い膜が張っている。これが何のためのものかは、昔から議論されてきた。昔呼んだある子供向けの本には、潮が満ち引きする音を聞くための鼓膜ではないかと書いてあった。しかし、実際にこれが音を聞く器官かどうかは、たぶん誰も調べていない。
かたや、今は無き「どうぶつ奇想天外」でカニの特集があった際、この膜が汽水域に住むこのカニにとって重要な、体内の浸透圧調節の役割を果たしているという話が出てきた。ソースらしき文献を見つけられずにおり、結局どっちが正しいのかよくわからない。

903.jpgベッコウトンボLibellula angelina。九州の保護区にて。

世界でもアジアの東端にしか存在しない、絶滅寸前の昆虫(環境省の絶滅危惧ⅠA類、2012年時点)。日本では国内希少野生動植物に指定されており、勝手に採ると最大一億円の罰金が科せられる。
居住区から遠くない場所に、比較的多く発生する保護区があるため、どうしても一目見たくてある日に行った。ギフチョウにしろベッコウトンボにしろ、人の注目を浴びてちやほやされている希少動物のことを日々ディスるためには、それらの美しさ・愛らしさをよく理解しておかねばならない。
恥ずかしながら、日本でベッコウトンボが見られる場所は、静岡の桶ヶ谷沼ただ一カ所しかないと思っていた。九州にもいるとは、まったく知らなかった。


904.jpg行った時期はすでに発生の最盛期を過ぎかけており、ほとんどの個体は成熟して真っ黒いやつばかりだった。羽化してしばらくは、名前の通り透き通るような黄色をしており、ベッコウ細工のようで美しいのだが。来年はもっと早い時期に行きたい。
春から初夏にかけての2か月ほどが成虫の活動期。肌寒い日もあることを想定してか、トンボとしてはやけに毛深い。

906.jpg決して煌びやかではないが、日本らしい控えめな美しさがある。大抵の昆虫図鑑には、成熟しきった真っ黒い個体の絵なり写真なりが載るため、長い間「ベッコウトンボってどこがベッコウなんだ?」と不思議に思っていた。


907.jpg警戒心は強く、近寄りがたい。こういう生き物の撮影にはいつもマクロレンズを使っているため、かなり近寄る必要がある。一緒に同行した保護区の人曰く、最近ここでトンボを撮る人はみな望遠レンズを使うらしい。ギリギリ手前まで寄ろうとする人は久々に見たと。
生息地を踏み荒らさずに済むという点では、望遠レンズのほうがはるかにいいとは思う。しかし、許される限り俺は相手に至近まで自分が近寄り、直に見つめ合いたいのである。

905.jpgやはり、トンボチョウ大形甲虫というのは、「華」がある。既にスタート地点で、メクラチビゴミムシやらドウシグモやらのはるか前方にいる。そこに希少という色眼鏡までついてしまえば、もはや地味小虫どものかなう相手ではない。少しくやしい気分で帰った。

933.jpgシマカ属Aedes sp.。福岡にて。

きっとヒトスジA. albopictus だろうが、ヤマダA. flavopictus かもしれない。その道の分類の専門家以外は、保健衛生上の理由から蚊の種同定をやってはならないと思っている。
当地は暖地のため、かの北方の僻地では考えられないほどに早い時期から蚊が発生する。ものすごく数が多く、ちょっと日陰の茂みに入ろうものなら、あっというまにドリンクバーにされてしまう。ここしばらく晴れで乾燥した状態が続いたが、まとまった雨が降って以後いきなり大発生し始めた。

蚊に限らず、周囲の裏山に住むあらゆる虫が、雨を境にいきなり姿を現すようになった。それも大量に。見かける個体数が徐々に増えるのではなく、まるで時空転移したかのように、すさまじい個体数がある日突然いるということは、しばしば野外で虫を観察する際に見受ける現象である。そのさまを、ベルクソンの残した「エラン・ヴィタールelan vital」の言葉になぞらえて、「エランビタる」と表現する。

エラン・ヴィタールは直訳すると「生命の跳躍、躍動」などと言われていて、本来は物凄く奥が深くて難しい用語らしい。それだけを解説するのに一冊本が書けるほどだというが、俺はその直訳の字面だけなぞって、「昨日まで見なかった生物が、今日いきなり大量に発生してそこにいるさま」のことを、「今日はエランビタッてるなー」というようにしている。使用は勧められない。

918.jpgヒラタアブヤドリヒメバチ一種Diplazontinae sp.。福岡にて。

917.jpgアブラムシの群れに押し入り、それを食いに来ているヒラタアブの幼虫に寄生する。足蹴にされるアブラムシが不憫だが、究極的にはこのハチはアブラムシにとって味方といえる。素早く茎を走り回り、茎の裏側に回って寄生する事が多く、そのさまを撮影するのは難しい。
メクラチビゴミムシをこのあと掘りに行きたかったので、また明日撮り直そうと思っていたのに、次の日に行ったら草刈りが入った後だった。



昨日のイベントには、悪天候の中沢山の方々においで頂きました。あらためて、厚く御礼申し上げます。

848.jpgヒラタヤスデ一種。ひときわ目をひく鮮やかな色彩。暗黒の倒木裏に咲いた花のよう。福岡にて。

878.jpgウシカメムシAlcimocoris japonensis。福岡にて。

南方系で、西日本ほど珍しくなくなる。近年は関東でもよく見られるようになり、かつてよりも凡種扱いになりつつある。しかし小学生の頃、埼玉の公園で樹皮下からこれの干涸らびた死骸を出したときの喜びは、何物にも代え難い。

932.jpgチュウシャクシギNumenius phaeopus。渡りの中継地として日本に立ち寄る、恐竜。福岡にて。

河口の干潟で見た。こういう場所にいる浜千鳥の類は、警戒心がいたずらに強いイメージがあったが、ここはもともと人通りの多い歩道脇にある幅の狭い干潟で、人との距離が近いため、あまりこちらを恐れる様子もなく自然に振る舞っていた。
時々、人間の言語体系では再現できない美しい唄を唄った。この手の恐竜が、あんなカナリアのような声で鳴くとは知らなかった。

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928.jpg肉食で、小動物に対しては冷酷。長い嘴を、干潟のカニ穴に突っ込んではカニを脅かしていた。しかし、どちらかというと穴に隠れたカニを捕るより、表を出歩いているカニを捕るほうが上手いようだった。姿勢を高くしてゆったり歩くが、ときどき姿勢をサッと低くする。そして、そのまま一直線に高速ダッシュして、地面に向かって飛びつく。体勢を直したときには、すでに嘴の間でカニが命の灯火を消しかけている。

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931.jpg捕まったカニはその場で暴力的に振り回され、地面に叩きつけられて、脚がバラバラにもがれる。無抵抗にされた挙げ句、瞬時に飲まれる。鳥というのは、無表情で本当に無慈悲なことをやってのける。まさに恐竜の眷属である。

この恐竜はとても賢く、次の動きがまったく読めない。普通に歩いていると思えば、瞬時に後ろを振り向いてダッシュし、獲物を捕らえる。また、一気に10mくらい全速力で走って、その先にいるカニを捕ったりしていた。10m先のカニが見えているわけで、すさまじい視力の持ち主である。
しかも、干潟には散らばしたようにカニがいるが、奴はその中でも特定の一匹に最初から狙いを定めて、遠方から襲いかかるのである。かつて長野の山で、柿の木に群がるヒヨドリの群れにタカが突っ込む瞬間を目の前で見た。その時のタカも、間違いなく最初から数十羽いたヒヨドリの中でもある一羽だけを狙って急降下し、そして捕らえた。鳥の判断能力はすさまじい。

奴の動きを観察しながら、もし自分がカニであそこにいたら、どうやってあの恐竜の目を盗んで逃げおおせるかを脳内でシュミレーションした。結果、どうやってもあいつに食い殺された。本当に恐ろしい肉食動物だと思った。

926.jpgミサゴPandion haliaetus。福岡にて。

移住後、初めてまともに恐竜を撮った。家から遠くない河口で、比較的簡単に見られることがわかった。いずれ、もっと至近で姿を見せて欲しい。
この近隣には、恐竜を観察しやすい森がない。一方で、海や河口が多い地域のため、水生の恐竜は容易く見つけられる。

900.jpgカマオドリバエ系の一種。捕食性のハエ。

たかだか3ミリ程度しかない小型種だが、捕食生活にきわめて特殊化した部類。カマ状に変化した前脚で、自分より弱小な虫を捕殺する。水際の葉上などにいて、近くに獲物がくるとそっと近づく。ごく手前まで接近に成功すると、瞬時にジャンプするように飛びかかり、獲物を取り押さえる。

901.jpgチョウバエを捕らえた。生意気にも、カマにはカマキリのそれのようなトゲが並んでいる。

福岡にて。

897.jpgドウシグモDoosia japonica。福岡にて。

本種を含むホウシグモ科は、でかくてテカテカした頭(頭胸部)が坊さんみたいなので、法師蜘蛛の名を与えられた。そのせいかどうかは知らないが、ひなびた田舎にある神社仏閣の林で見ることが多い気がする。典型的な里山の生物であろう。なお、本種は法師に対する童子として名付けられたらしい。
たかだか数ミリの、取り立てて持ち上げることもないようなタダの小蜘蛛だが、実は環境省の絶滅危惧種に指定されている(情報不足、2012年時点)。

898.jpg詳しい生態が不明であること、まとまって見つからないこと、生息環境が人為改変を受けやすい里山らしいことなどが選定理由と思われる。もちろん、絶滅危惧種とはいえランクが低いことはもちろんのこと、派手ではないし小さいし、キモいただのクモなので、誰も保護しない。
これがキムラグモのように、他のクモにない顕著な形態的特徴を持っているだとか、系統学的に見て他に類を見ないような重要な位置をしめるとか、そういう特徴さえ持っていれば、まだチヤホヤしてもらえただろうに。まさしく「レッドリストに載せられたまま」の生き物。グーグルで画像検索しても、あまり結果は芳しくない。本職の人々からも、あまり注目されているとは思えない。

ホウシグモ科は、文献によっては好蟻性として紹介されている。海外に住むこの仲間には、色彩や生きている時の立振舞が、同所的に住む特定種のアリにしばしば酷似している。そのため、アリと関係した生態を持つと思いこまれてそう書かれているだけで、実際にはアリと生態的なつながりはないと思っていた。
しかし、Zodariidaeで画像検索すると、結構な頻度でこの仲間のクモがアリのワーカーを捕らえている写真が出る。一般にクモにとってアリのワーカーというのは決して好ましい餌ではないので、それを捕らえているということはそれなりにアリに対する嗜好性が強いのかもしれない。

899.jpg日本のドウシグモに関して、食性などまとまった生態的知見は聞いたことがない。幸い、裏山には少なくない頻度で生息するようなので、気にしておこうと思う。

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ヒメミノガ系の小型ミノガのメス。野外で見るのは、狙っても困難。

ミノからぶら下がり、腹筋運動を延々と続けていた。恐らくすでに交尾を終えて、ミノの中に産卵しているらしい。ミノガ類のメス成虫はたいてい翅がなく、蛾の体を成していない。脚すらない種もざら。

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産卵後は速やかに力尽きて落下し、アリとかに食われるだけ。

福岡にて。

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キエビネCalanthe sieboldii。福岡にて。

裏山の神社の斜面にあった。野生だったら嬉しいが、絶対に人の植えたものに決まっている。野生のエビネとタガメは、絶対に日本に存在しない。日本のどこの里山でも見ないから。

896.jpgヨコフマシラグモ一種Falcileptoneta sp.。福岡にて。

洞窟性、もしくは地中性。裏山のガレ場で石を裏返すと、たまに見つかる。シックな色合いがよい。

895.jpg日本には数種類いるらしい。専門家でないと同定しがたい。

九天王

911.jpg博多湾を望む。

かりそめながらも新たに居を構えることとなった、西の大陸。九つの国からなるこの大陸には、正体不明の謎生物がいくつも生息しており、近年だれも発見できていないもの(そもそも、誰も探したがらないもの)もいくつか知られている。
それらの中でも特筆して、この土地にいる間にどうしても仕留めたいものを備忘録としてまとめておこうと思う。

シロアリモドキヤドリバチ
・・・小型の寄生蜂で、メスは翅がない。メスは巨大な目を持ち、前脚はカマ状に変形し、アリをロボットで武装したような姿をしている。南方の街路樹の幹に住むシロアリモドキに寄生するらしいが、数十年前に記載されて以後だれかが見つけたという話を聞かない。徹底的にシロアリモドキを捕まえて見ていけば、すぐ見つかりそうな気もする。
一方でシロアリモドキというのは昆虫としてはかなり特異な分類群で、系統・発生その他いろんな方面から研究されている。その関係で、これまで多くの研究者によって野外から多数個体が採集されている。そうした人々から、ハチを採ったとかハチが羽化したという話が往々にして出てこない雰囲気なので、やはり相当に珍しいものなのかもしれない。

※正確には、メスが1950年代に見つかって記載され、その後オスが1970年代に見つかったので、原記載以後見つかっていないという表現は間違い(恒吉 1985)。いずれにせよ、最近見た者はいないはず。教えて下さった方、ありがとうございます。


ヤツシロハマダラカ
・・・ただの蚊で、ヒトの血を吸うばかりかマラリア媒介能もあるらしい害虫。しかし、ここ数十年間まともに国内で生息が確認されていないらしく、環境省の絶滅危惧種にまで指定されている、珍しい害虫。本州より南で見つかっているが、ヤツシロというくらいだから熊本に多かったのだろうか。しかし、見つけたとしても他の似たハマダラカと区別できるかという重大な問題がある。
蚊なんて誰も好きこのんで探さないだろうと思いきや、蚊というのは人命に関わる衛生害虫のため、疫学的な観点から各地で定期的に生息調査が行われているようである。それにすら引っかかってこないということは、かなり発見は厳しいかも知れない。


オオカマキリモドキ
・・・大形のカマキリモドキで、遠目に見るとハチにとてもそっくり。全国的に非常に珍しいが、九州のある場所では凡種らしい。恐らく、いちばん最初に仕留められそうな種。本尊を拝むことより、幼虫期の生態を解明することを考えるべき相手。


ヒコサンクシヒゲカゲロウ
・・・小形のクサカゲロウの親戚で、全身が褐色。オスは触角がクシ状に枝分かれしており、怪獣の趣がある。英彦山から発見されたただ一匹により記載されたが、その後まったく採れていないため存続不明になっている。
夜行性の脈翅は灯火に飛来するが、英彦山ではおそらく数多の研究者がさんざん灯火採集をしているはずで、それですら採れていないのだから、個体数は物凄く少ないのかも知れない。下手すれば、もう存在しない可能性もある。一方で、本種は灯火に飛来する性質が強くないか、好む光の波長域が特殊なだけという可能性だってある。それならば、ケカゲロウを採集するのに使った「あの方法」が使える。


ヒコサンアリヅカノミバエ
・・・とても小さいハエ。オスは普通のコバエだが、メスは翅が痕跡すらない。翅どころか、メスはそもそもハエの姿形をしておらず。むしろダンゴムシか話題のグソクムシに近い姿。好蟻性らしく、ヨーロッパの近似種はアリの蛹から羽化する生態が知られる。しかし、日本では古い年代に英彦山でマレーズトラップにより少数が得られただけ。その後どこでも発見されておらず、当然アリの巣からも見つかっていない。
今まで2度3度、このハエを探すだけの目的で英彦山へ赴いて、さんざん寄主とおぼしきアリ巣を調べたものの、かすりもしない。


セトオヨギユスリカ
・・・小型のユスリカで、海に住む。成虫は大潮の夜に羽化するが、オスは翅が退化傾向で飛べず、メスに至っては脚すらない。グライダーの骨組みだけのような格好のオスは潮だまりの水面を群れで滑走し、水底から浮いてくるメスを捕まえて交尾するらしい。本州から西の地域の海岸線にぽつぽつ分布しているようである。居住区の近辺にはいい海岸があるので、これもすぐに仕留められるだろう。


マドホソアリスアブ
・・・小型のアブで、国内でまだ4匹しか採れていない。そして、一度採れた場所でもその後追加個体がほぼ得られていない。好蟻性のアリスアブの仲間とされているが、姿形といい体サイズといい、一般的なアリスアブ類のそれとはあまりにもかけ離れている。夏に成虫が出現する以外、生態情報は何もない。東南アジアのジャングルの縁で、明け方近くにこれに酷似した種の羽化直後個体を複数匹採っている。記録のある地点で初夏の明け方探すと、羽化直後の個体を拾える可能性がある。
一度、記録のある場所の下見に行ったことがあるが、その際採れた地点付近に集中して、余所では少ないある種のアリがやたら多くいたのが、ずっと気になっている。


フサヒゲサシガメ
・・・全身毛モジャの奇怪な生物で、日本の珍奇生物としては確実に5本の指に入る逸材。しかし、あまりにも珍しすぎて現物を見た者がほとんどおらず、知名度も低すぎて、昨今流行の奇妙な姿の生きものを紹介するような本にさえ載らない。樹上性の何らかのアリの行列脇で待ち伏せ、特殊な分泌物でアリを手元におびき寄せて眠らせると、獲物の脳天を口吻で突き破って中身を吸い尽くす。睡魔サッキュバスの化身。
その珍奇性に魅せられて、幾多の本職カメムシ学者がさんざん各地で探しているにも関わらず、ここ20年くらいは日本中どこからも見つかっておらず、すでに絶滅しているという悲観論もある。西日本の松林で得られた記録が多いため、昨今松食い虫防除のため松林で多量に殺虫剤を散布されている現状では、もはや生息が期待できないという。しかし、一方でこれはあくまで好蟻性昆虫であるため、樹種より寄主アリ種に着目して探さねば意味がないと思う。そのアリ種が分からないのが困りものだが・・。
歴戦のカメムシ専門家達の惨敗ぶりを見る限り、松に固執した探し方をしているばかりでは埒があかない様相なので、俺は目先を変えて寄主アリに着目した探し方をしようと思う。既に寄主となりそうなアリの種は見当が付いている。加えて、今まで誰一人やりそうでやらなかった「ある方法」を、各地でジュウタン爆撃的にやるつもりでいる。

コゾノメクラチビゴミムシ
・・・洞窟や地下に住む目のないゴミムシの一種で、国のレッドリストで「絶滅種」と認定されている数少ない昆虫の一つ。模式産地だった洞窟が石灰岩の採掘工事で壊滅したうえ、産地の周囲は近縁の別種が分布しており(原則、この仲間は同所的に複数種が共存しない)、今後二度と発見されないことが確実なので絶滅種とされたらしい。
こうした絶滅判定は、その道の研究に人生を捧げたような偉い学者によってなされている訳だが、俺はこの分類群に関して全くの素人なので、身の程もわきまえず「本当にそうなのか?」と疑っている。同じく絶滅種と認定されているカドタメクラチビゴミムシの場合、周辺に分布する近縁種との兼ね合いや、グーグルマップで見た模式産地の状況を見る限り、確かに今後永遠に見つからなそうな雰囲気を感じる。しかしコゾノの方は、まだいくらか悪あがきして探す余地がある気がする。何せ、「不在証明」の不可能さというものは、すでに釣りキチ三平によって証明されているではないか。
専門家と違って素人というのは一切の先入観を持たず、「いない可能性」を馬鹿正直に潰していこうとするため、結果として専門家が見落としていたとんでもない珍種を発見するなどということは、昆虫学の分野ではいくらでもある。かつてUMAの類のように思われていたイリオモテヤマネコを実在の動物として昇格させたある学者は、「いないと思った瞬間終わる」と言った。あらゆる正体不明の生き物は、いる前提で探さねば絶対に見つからないのである。専門家がこれを見ていたら鼻で笑うかもしれないが、俺はまだコゾノは生きていると本気で信じている。
何より、コゾノをネットで検索して出てくる環境省レッドリストのあるページに、「コゾノにはごく近縁な種が知られているため、学術的価値は低い」などと書かれている辺りに、妙な親近感を覚えた。絶滅ないしそれが危惧される他種のメクラチビゴミムシは、分類学的に顕著で他に似た種がない特徴を持つが、コゾノはそれがないので格下に見られているらしい。そんな価値のないもの、奇人変人以外にわざわざ探し出そうなどという者などいない。


果たして、この短い居住期間中に、これら精霊達に一人でも多く出逢い、デレさせることができるだろうか。

参考文献:
恒吉正巳(1985)鹿児島産の紡脚目コケシロアリモドキの生態について。鹿児島県立博物館研究報告 4: 23-34

569.jpg10円玉サイズの巨大ミズスマシ。インドネシアにて。

日本の南西諸島にいるオキナワオオミズスマシDineutus mellyiと近縁か同種。東南アジアのジャングルにある、多少流れのある水域には比較的よくいる。しかしべらぼうに敏感で、人間の過度な接近を絶対に許さない。近づくと高速でクルクル回転してこちらを翻弄し、たちまち深い水底に潜って数分は上がってこない。今までいろんな国で何度もこいつの姿は見かけたが、至近での撮影を許されたのはこれがはじめて。

捕まえて握るとビリビリ震え、なぜかほんのり甘いイチゴミルクの香りを漂わせる。その癒しの香りでうっとりしていると、強力なアゴで手のひらを思いっきり噛まれる。
ミズスマシの体表には、昆虫寄生菌ラブルベニアが取り付くことが知られる。見つかるかと思って数匹掬ってよくよく見つめたが、数匹ぽっち調べたくらいでは発見できなかった。

566.jpgコヤガ一種。体中に地衣類を纏い、擬装している。基本的に単独で見ることが多いが、地衣類の茂った日陰の石垣で多数見かけることもある。頭にはどうやってブツを乗せるのだろうか。

インドネシアにて。似た奴は日本にも普通にいる。

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セクロピアCecropia sp.の幼木。インドネシアにて。

本来は中南米に生育する植物だが、様々な理由でアジアにも人為移入しており、勢力を伸ばしている。荒れ地でもよく育ち、繁殖力旺盛なため、侵略的外来種として懸念されている。インドネシアにおいては、スマトラ島ではぜんぜん見なかったが、ジャワ島では市街地を中心に、そこらにボンボン生えていた。高さ数メートルの大木に育ったものも珍しくなかった。

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セクロピアは竹のように中空の幹を持ち、ここへアリを住まわせる「アリ植物」として著名である。原産地では大抵アステカアリAztecaという新大陸特有のアリ類が住み着くが、かなり浮気性な植物のため他にもいろんな分類群のアリと関係を持つ。また、相当に特殊化したアリ植物であるにもかかわらず、アリが居なくても十分育つ能力がある。アステカアリの分布しないアジアでも育つことが出来る所以だ。

セクロピアは葉柄の付け根から栄養体という、タンパクや脂肪を含む粒子を多数分泌して、アリに餌として与える。それを貰う代わりに、アリは植物を食い荒らしに来る害虫を撃退する傭兵として働く。

浮気性の植物だから、アジアに持ち込まれたセクロピアはアジアのアリと手を組むのかと思っていた。しかし、少なくともジャワ島で何株ものセクロピアを見た限り、いずれも現地のアリが住み着いている様子はなかった。そもそも、アリに登られている様子がなかった。栄養体は誰にも利用されないまま多量に実っており、低い部位に実った古いものはそのまましなびるか腐っていた。

同じような観察例は、すでにシンガポールでもなされていた(Lok et al.2010)。こちらは時々現地のアリに登られるようだが、やはり栄養体は利用されていないらしい。セクロピアは幹内は中空だが、出入り口がどこにもない。だから、原産地でこれに住むアリは、自力でその茎に穴を空けて出入り口を作る能力を持つ。一方、アジアのアリどもの中でそんな高尚な技能を覚えたものはまだ現れておらず、この植物はアリどもからは「居住できる空間」とは認識されていないのである。

今日もアジアのセクロピアは、居もしない共生アリのために栄養体を作り続けている。


参考文献:
Lok et al.(2010) The distribution and ecology of Cecropia species (Urticaceae) In Singapore. Nature in Singapore 2010 3:199-209.