焦がせ、鎌エル

1071.jpg精霊。九天王が一人、識別名<パラサイト>の最終形態。精霊の力を失い、元の勝ち気な金髪ツインテール美少女に戻る直前の姿。

この虫は、オスは全身黒で翅があるが、メスは全身黄色で無翅。前脚が巨大に発達しているのが特徴で、おそらくこれで自分より大きな体格である寄主にしがみついて攻撃するものと思われる。
記載文(Yasumatsu 1958)のイラストを見ると、もっとカマキリ風の雰囲気があるのだが、現物はそうでもなかった。

1069.jpgものすごく小さい上、ものすごく素早くて、ちょっと目を離すとすぐ行方不明になってしまう。立ち止まっている瞬間がほぼないため、撮影は筆舌に尽くしがたいほど困難。腹部を高速で上下に震動させながら走り回る。野外で成虫を見つけるのは、ほぼ無理だろう。

1070.jpgググレカス先生でこの精霊の名前を検索しようとすると、「シロアリモ」まで入れた時点で予測変換機能により名前が自動的に出てくる。国内でこれの生きた現物を見た人間など、確実に史上5人くらいしか存在しない。ネットで調べたところで、この精霊に関する目新しい情報などそうそう出てこない。とにかくマイナーな生物なはずなのに、それでもちゃんと予測変換で名前が出てくるのである。
この国に常時一定の割合以上でこの精霊に関心を持ち、ネットで検索しているマニアが存在することの現れであろう。同じ現象が、近年誰も国内で見ていないはずの超マイナー生物「フサヒゲサシガメ」でも確認できる。「フサヒ」まで入力するとわかる。狙っている人間が、潜在的に相当いる。

それを考えると、もし今フサヒゲサシガメの現存している場所を見つけて公表しようものなら、たちまち全国からフサヒゲサシガメマニアがそこへ押し寄せ、一夜にして産地を荒らされ壊滅させられる危険性を否定できない。トラツリアブの前例もあるし、たとえマイナーでも顕著な特徴をもつ生物の産地情報公開は、相当神経質にならざるを得ない。たぶん本当に産地を見つけたなら、その所在は墓場まで持っていくと思う。論文化する際にも、明記はしないだろう。
今回、この精霊の産地の所在を伏せたのも、そういう理由による。

参考文献:
Yasumatsu K (1958) A NEW ADDITION TO THE GENERA OF THE SCLEROGIBBIDAE (Hymenoptera). 昆蟲 26(1), 20-24

「擬白蟻寄蜂がやられたようだな・・」「しかし奴は九天王の中でも(ry」

1000.jpgあの精霊があっさりデレた。しかも30分で3寄主個体分も発見。もっと滾らせてくれると思ったのに、他愛もない。

近年の発見例を聞かず、特に2000年以後は確実に国内では誰一人発見に成功していない。まして生きた鮮明な姿が撮影されたこともない。でも容易く見つけた。
俺はどんな虫でもアリを探すつもりで探しており、こいつもそうやって探したら簡単に落とせた。「アリの目」の汎用性のすさまじさを、世の昆虫学者達は分かるべきである。

999.jpg体長2ミリ弱の、現物を見たら拍子抜けするほどにしょうもないゴミカスのような虫。でも、環境省の絶滅危惧種(情報不足カテゴリー、2012年時点)。「精霊どころか、ただのグロいエイリアンかクリーチャーじゃねえか」と思う人間は、この虫に対する思い入れが単にないだけ。俺にとっては、時崎狂三そのものである。

寄主1個体につき、数匹の幼虫が食らいつく体外寄生者。食欲はすさまじく、この状態の翌日には寄主の姿形が原型をとどめていなかった。幼虫はあっという間に木くずを固めて繭になってしまった。恐らく「我々が目視で認識できるサイズの幼虫」期間が異常に短いため、これまでその筋の専門家さえ発見困難だったのだろう。ケカゲロウ系の精霊と言える。
繭は周囲のゴミととても紛らわしく、飼育容器内でさえ所在を判別しかねた。野外では絶対に発見できないと断言する。

生態に関しては、6月辺りから寄主の体表に卵や幼虫の状態で付着していること、7月に成虫が獲られるらしいことまで判明しているが、それ以外の生態情報は何もない。メスはどうやって寄主を攻撃するのか、生み付けられた卵が孵化までいかなる経過を辿るかなど、この精霊に関しては謎以外の要素がない。

ともあれ、これまで姿を見ることさえ至難とされたこの精霊が、あの時期あそこに行けば100%絶対に出会えることが分かった。精霊の力を封印した今、もはや俺にとって彼女は未確認生物でも何でもなくなった。
霊装たる虫の姿を解除した彼女は、今は来禅高校の転入生として、一緒にスクールライフを謳歌している。

1001.jpgコケシロアリモドキAposthonia japonica。「天宮市」にて。

日本では目レベルでまったく馴染みのない分類群。世界的には分布が広い仲間だが、日本では西南部に限って見られる。あの作品では天宮市は関東周辺という設定だったが...

1007.jpg
1004.jpg最大の特徴は、ボクシングのグローブ状に膨らんだ前脚。ここから糸を撃ち放つことができる、非常に変わった昆虫。大木の樹幹に自ら出した糸で迷路状の巣を作り、その中に住んでいる。行動は脅すとかなり素早く、前進も後退も得意。樹皮に生えたコケを餌にしているらしい。
シロアリモドキは、名前と違ってシロアリには似ていない(有翅型と無翅型の個体がいて、有翅型の翅の作りがシロアリのそれに似ているという意味らしい)。形態・生態ともに他のどの昆虫にも似ていないこの虫は、古くから多くの研究者に注目されてきた。だから、この虫自体も非常に面白い観察対象ではあるのだが、今日の目的はこいつそのものではない。

実はこの虫は、今回「現界」が予想される精霊について、重要な情報を握っている生き物なのである。そのため、そこに生息するシロアリモドキの巣に片っ端から殴り込みをかけ、精霊のことを問い質して回った。

1005.jpgドウシグモDoosia japonica。今年はあちこちで見る機会が多い。

小さくて目立たない、環境省の絶滅危惧種(情報不足カテゴリー、2012年時点)。樹幹を素早く走り回っている姿を見る。地味で一般受けしないのに加え、まとまって見られる場所がなかなかないため観察されることが少なく、食性など詳しい生態が未だに解明されない。しかし本年度、例外的に本種が多産する場所で独自に調査した結果、このクモがどうやらある生物しか捕食しないスペシャリストである可能性が濃厚になった。

まさかここにも生息していたとは驚き。これはこれで面白い観察対象ではあるのだが、今回「デート」する相手はこいつではない。

「天宮市」にて。

阪神推し

1003.jpgフタオビミドリトラカミキリChlorophorus muscosus。遊歩道沿いの柵で交尾していた。南方系の種。

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ヨツスジトラカミキリC. quinquefasciatusも交尾していた。虎柄だから、虎ロープのそばにいた。

なお、どちらも探し求める精霊ではない。

「天宮市」にて。

1006.jpgアシジロヒラフシアリTechnomyrmex brunneus

暖地では優占種になりがちな小型種で、いたるところに行列を組んでいる。動物質植物質、あらゆるものにたかって餌とする。これは道で踏みつぶされたカミキリムシに集まっていた。

このアリを指でつまむと、バニラともココナッツミルクともつかぬ、とても甘くていい香りを放つ。とても食欲をそそるのだが、試しに実際にゼリーに混ぜて食った知人曰く、吐くほどまずいらしい。本種を含むカタアリ亜科のアリは、体内に蟻酸ではない特殊な化学物質を持つため、変わった匂いを放つ。いずれも物凄く良い香りか、物凄く臭いかのどちらか。

なお、探し求める精霊ではない。

「天宮市」にて。

デート・ア・九天王 識別名<パラサイト>変

1008.jpg精霊がいる某山。

ラタトスク機関から、「天宮市」内のとある山林に空間震の予兆が観測されたとの知らせを受けて、先日出かけた。村雨解析官曰く、ここにとある精霊が「現界」する可能性が高いらしい。それも、きわめて遭遇困難な「九天王」の一人だという。
これまで43年もの間、幾多のその筋の専門家が姿を見ようと試みるもことごとく玉砕していったその精霊を、果たして専門家でも何でもない素人が出逢い、デレさせることができるのか。



ただ「虫を探しに行った」の一言で済むのを、とにかくもったいつけて言うのが楽しくて仕方ない年頃なのである。

1017.jpg小さな蛾。分類群がよく分からない。上から見たとき、あるウミウシの一種を想わせる。

タイにて。

基礎顕現装置(ベーシック・リアライザ)

1074.jpg日本のカワラバッタEusphingonotus japonicusの近縁属、下手すれば同属としか思えない者。タイにて。

ジャングルの中にぽっかり開いたギャップの、乾いた砂利道で見た。基本的に乾燥した砂漠地帯を主要なハビタットとするはずのこの仲間が、熱帯のジャングルにいるとは驚き。
全身が地面のような茶褐色だが、飛んだときには日本のカワラバッタ同様に鮮やかな青い下翅を見せ付ける。そしてその青は、日本のカワラバッタのそれがかすんで見えるほどに鮮やかなコバルトブルー。飛んで着地する際、必ず緑の草がない場所を選んで降りる。

珍しいので至近まで寄って撮影しようとしたが、無理。恐ろしく警戒心が強く、5m以内に絶対に近寄れない。そして一度飛び立つと、どこまでも果てしなく飛んでいってしまうため、炎天下の中追いかけるのが大変である。しまいには匍匐前進して接近を試みたが、それでも不可能だった。
日本のカワラバッタの場合、同一個体を執拗に追いかけ続けると、疲れるのか慣れるのか次第に逃げなくなってくる。ところが、件の奴は逃げなくなるどころか、追うたびにより敏感になり、より遠距離へ飛ぶようになる。しまいには、空高く蝶のように舞い上がり、そのまま高さ10m以上もあるジャングルの高木すら跳び越し、姿を消してしまう。

まるで半径5mの透明な半球型カプセルの中心にいるが如く、その内側には何人たりとも侵入を許さない。あのバッタにとって、あのカプセルの内側はすべてが思い通りになる絶対不可侵空間である。

1020.jpgタイワンモンシロチョウPieris canidia。タイにて。

東南アジアでは基本的に駄蝶だが、日本では対馬などごく限られた場所にしかいない珍種のため、つい追い回してしまう。しかし、翅裏だけ見ると日本に普通にいるモンシロチョウとあまり代わり映えしない。

対馬のタイワンモンシロチョウは、近年いきなり絶滅寸前になってしまったらしい。ツシマウラボシシジミも、知らないうちに採集禁止になるほど減ったことを、最近になって知った。増えすぎたシカの影響だろうか。

少林寺木人拳

1066.jpg拳闘蟷螂。ボクサーカマキリEphestiasula sp.の子。タイにて。

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1068.jpgカマがグローブのように扁平に広がっている。幼虫期に限り、理由は知らないがこのカマを左右交互に突き出すシャドウボクシングを行う。樹幹を素早く走り回っては立ち止まり、この動きを延々と繰り返す。

BGMはもちろん、「ミラクル・ガイ(福原香織版)」。

1029.jpgクロスズメバチ一種Vespula sp.。タイ北部にて。

北方系の仲間なので、東南アジアではとても探しづらい。タイの南部では、200年前の記録を最後に発見されておらず、見つけたらそれだけで自慢できる。しかし先日行ったタイ南部の、一番自然度が高いはずの国立公園では、再三の探索もむなしく発見できず。
すでにタイ北部でさえそんなに普通に見られないのだから、南部で見つけるのは相当厳しいように思う。

1027.jpgマルハナバチ一種Bombus multivolans

タイの山間部で見た。東洋区では、より高緯度高標高でないと、マルハナバチを見るのは困難。一方で、新熱帯では低地適応のマルハナバチがそれなりにいる。日本ですら寒い地域に多いマルハナバチの仲間が、蒸し暑くうっそうとしたアマゾンのジャングルを飛び回る光景は、とても異様である。

1030.jpg熱帯アジアでは高標高に行っても、そんなに普通にマルハナバチを観察することはできない。生息密度が恐ろしく薄いから。しかし、唯一それを比較的簡単に見られる場所がある。東南アジアの高標高地は涼しいので、たいてい避暑地として観光地化される。そして、観光施設の周辺には花壇が作られ、無数の派手な花が植えられる。ここで待っていると、マルハナバチが生息しているエリアなら高率でやってくるのを見られる。
これら写真は、すべてそんな観光地の花壇で撮ったものになる。

1028.jpgしかし、お遊びで姿だけ拝みたいのならいいが、本当はこんな場所でマルハナバチを観察しても、生態学的に何も意味はない。本来、マルハナバチというのは現地在来の植物と密接なポリネーションの契りを結んでいるから、現地の野生植物に訪花している姿こそ見るべきである。人がよそから持ってきて植えた花などに来たのを見て喜んでいるのは、動物園の狭い檻に閉じ込められて右往左往するだけの獣を見て、「すばらしき野生だ」などと賞賛するに等しい滑稽さである。

しかし、日本と違って東南アジアの森でマルハナバチは、ただ飛んでいる姿すら見るのが困難である。それが現地の野生の花に来ている姿を見るなど、よほど好適地でなければ無理である。実際、いままで何度も東南アジアへ赴いた中で、一度でも野生植物にこのハチが来ているのを見たことがない。花の送粉関係の研究を熱帯でやる研究者は、本当に大変である。

1021.jpgハネナガウンカ一種。タイにて。

この仲間は種類が多い。成虫は木の葉で見かけることが多いが、かなりの種が幼虫期において、朽ち木表面にはびこった菌類を餌にしているようである。

1023.jpgカダヤシGambusia affinis。福岡にて。

近所に小さな水溜めがあって、そこにたくさんいる。魚がいるのは知っていたが、最近になってようやくそれがカダヤシであるのに気づいた。

カダヤシは古い時代に、アメリカのほうからボウフラ駆除のため日本へ連れてこられた外来種である。メダカに毛が生えたようなものだと思っていたが、今では分類上本当のメダカとはまったく遠縁な魚ということになっている。小型だが、口に入るサイズの小動物はとりあえず食い殺す凶暴な生き物のため、これがいる水溜めにはボウフラがまったく沸かない。カダヤシの名は伊達ではない。
だから、こいつがいる水溜め周辺に蚊が多くないのは快適でいいのだが、その代わり他の水生昆虫もまったくいない。やってきたそばから、カダヤシが全部食い殺しているように思える。ベニイトトンボが産卵に来ていたが、きっと孵化した瞬間に皆殺し。

1022.jpg今時期、オオモンツチバチが多量に発生してさかんに飛び回り、交尾を行っている。そのペアが飛びながらもつれて、水溜めに墜落した。メスはすぐ這い出たが、オスはやや時間を食った。その間、まるでピラニアのようにカダヤシがわっと群がり、自分より遙かにでかいこのハチに攻撃を加えていた。ピラニアほど頑丈な魚ではないからハチを食いちぎりまではしないが、よくやるものだと思う。

この魚は卵胎生でみるみる大繁殖してしまい、在来の小型魚類の生息に悪影響を与える恐れがある。だから、今では特定外来生物に指定され、生け捕りにして飼う事がもうできない。
しかし、このカダヤシにはかつて助けられたことがある。中学生のころ流水性のハコネサンショウウオの幼生を飼っていたことがあって、これの餌にカダヤシが最適だったのである。水質悪化に強いからストックの手間もかからず、勝手にどんどん増えるから楽だったのだが、もうそういう時代ではなくなった。

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ケカゲロウIsoscelipteron okamotonis。福岡にて。南方系だからいるとは思っていたが、実際に見ると嬉しいものである。

長らく生態が分からず、図鑑にも大した情報が載らない正体不明の精霊だった。しかし、最近デレさせて精霊の力を封印することに成功し、飼育下で幼虫期にヤマトシロアリReticulitermes speratusを食って成虫まで育つことが判明した(Komatsu 2014)。海外の近縁種の生態にくわえ、その洗練された捕食行動から、自然界でもヤマトシロアリに高度に依存した生態を持つと予想している。

夜の神社で、シロアリに食われてボロボロになった木製の鳥居に止まっていた。産卵しに来ていたらしい。もう少しライティングを変えて撮影したかったのに、準備中に消えやがった。
奴が止まっていた箇所の近くに、しっかり卵が産み付けられていた。やはりクサカゲロウのような「うどんげ」にせず、バラにして産んでいた。海外産種は卵塊にするものがいるらしいが、今までの自然下・飼育下それぞれでの観察から、日本の種は確実にしないと思う。

海外産種は、ちゃんとシロアリが巣くっている枯れ木に産卵するらしい。しかし、日本産の種では明らかにシロアリの入っていない生木の立木に産むところも目撃している。日本産種はおそらく、シロアリの所在がよく分からないまま産卵している。少しでも孵化後の幼虫生存率を高めるため、卵塊にせず広範囲に少しずつ卵を散らしているのだろう。
幼虫がかなりシロアリ捕食に特化しているはずなのに、成虫の産卵方法が適当というのは、不思議な話だ。しかし、この虫が主に住む暖地の森林内では、朽ち木にたいていヤマトシロアリが巣くっているものだ。だから、下手な鉄砲数打つ方式でも一定数の幼虫は生き残れるのだと思っている。またそれこそが、どこの産地に行っても一シーズンで発見できるこの虫の成虫個体数が多くない理由だと信じている。

参考文献:
Komatsu T (2014) Larvae of the Japanese termitophilous predator Isoscelipteron okamotonis (Neuroptera, Berothidae) use their mandibles and silk web to prey on termites. Insectes Sociaux 61:203-205

五河琴里「このクビボソ・・」

1083.jpgオオクビボソゴミムシGaleritella orientalis。福岡にて。

オオホソクビゴミムシと、名前も見た目もそっくり。しかし、それは気のせいであり偶然。オオホソクビとは遠縁で、親戚でも何でもない。せめて名前くらい、もう少し混同しにくいものを付けてもらいたいものである。
有毒なオオホソクビに雰囲気を似せて擬態しているのかもしれないが、オオクビボソが無毒かどうかは知らない。基本的に、オオクビボソの方が大柄に見える。

雑木林などを夜間歩くと、徘徊する個体を見かける。しかし、オオホソクビよりは遙かに少なく、見ようと思って見られる生き物ではない。また、幼虫期の生態について話題になることはない。

五河琴里「このホソクビゴミムシ!」

1078.jpgオオホソクビゴミムシBrachinus scotomedes。福岡にて。

外見は似ても似つかないが、ミイデラゴミムシの親戚筋。これも脅かされると、派手にガス銃をぶっ放してくる。ホソクビゴミムシの仲間は、みなガス銃を所持している。その化学反応の複雑さ、自身がそれでダメージを負わない進化的なメカニズムなど、この虫たちは「屁をこく」観点からやたら注目されている。

しかしその一方、多くの研究者がないがしろにしているもう一つのミステリーが、この虫たちにはある。幼虫期にどこで何をしているか、ほとんどの種で分かっていないのだ。日本のミイデラゴミムシがケラの卵に寄生すること、海外のある種で甲虫の蛹に寄生することが分かっているほか、一切不明。
上のオオホソクビゴミムシなど、日本ではミイデラゴミムシよりははるかに見かける頻度の高い普通種だが、累代飼育に成功した者は一人として存在しない。こいつも確実に何か別の昆虫のある成長段階のものに寄生するのだが、分からないし突き止めようがない。実は日本の昆虫界最後にして最大の謎になるんじゃなかろうか。それを考えると、一番最初にミイデラゴミムシがケラの卵に寄生することを突き止めた人は、神そのものである。

近所の裏山では、オオホソクビとミイデラは完全に住み分けており、前者は後者がまず出没しない森林内で多く見かける。あまり開けた場所では見ない。夜間、森を歩いて探すと、何となく朽ち木が多く横たわっている場所で見ることが多い気がする。また、樹幹に登るそぶりを見せることがあるため、もしかしたら朽ち木内にいる甲虫か何かの蛹を食うんじゃないかとも思う。
一方、カラッカラに乾いた場所ではあまり見ないので、水に関係する虫に依存している可能性も捨てられない。この虫の幼虫期を解明する日が来るとしたら、それは相当に偶発的な要素に因ると思う。

五河琴里「このミイデラゴミムシ!」

1079.jpgミイデラゴミムシPheropsophus jessoensis。福岡にて。

毒ガス兵器を持つ虫として、あまりにも有名。敵襲を受けると、二つの化学物質を混ぜ合わせて尻から放出し、小規模な爆発を起こす。一瞬ながら相当な高温になるが、痔にはならない仕組みになっている。
マンガのネタにされたり罵倒の文句に使われたりと、そんなにどこにでもいる虫でないにもかかわらず、最近になって妙に市民権を得るようになった。

この虫は、いる所には多いがいない所には決していない。それは、この虫が幼虫期にケラの卵のうに寄生するという、非常に特殊な生態を持つことに起因している。それを反映して、この虫を見かけるのはケラの多い湿地や水田周辺と相場が決まっている。
インテリな虫マニアなら、ほぼ全員がミイデラゴミムシの生態について訪ねられれば「幼虫期にケラの卵に寄生して・・」と答えることは出来る。しかし、実際にそのさまを目で見た者は、最初の発見者以後恐らく皆無である。自分の目で見てもいないことを見てきたかのように語るのは好かないので、いずれケラとゴミムシを飼育して実際に寄生させてみようと思う。
何せ、今住んでいる近所の裏山には、奇跡的にケラもゴミムシも普通にたくさんいる。裏山の女神が、さあ自分でやってみろと言わんばかりに材料を提示してくだすっているのだ。やらないほうが不敬だ。

マジックハンド

1052.jpgサスマタアゴザトウムシNipponopsalis abei。福岡にて。

体長をはるかに超える長いアーム(鋏角)を持ち、その先端にハサミがついているという、奇妙な生き物。普段は折り曲げているが、使用時には伸ばすらしい。

1051.jpg文献上では、「関東あたりから西にかけて分布する暖地性の種で、あまり多くない」という趣旨のことが書かれている場合が多い。しかし、実際のところ「あまり」どころではない相当な珍種である。これだけ顕著な姿の生き物でありながら、ネットで探しても生態写真がほとんど引っかかってこないのを見ると、これまでこの生き物に遭遇する幸運に恵まれたナチュラリストが如何に少ないか伺い知れる。
上のは、これまで方々で散々探し続けてようやく見つけた初めての個体。薄暗いスギの植林地で、石を裏返したら一匹だけ出た。西日本ほど、発見効率はよさそうに思える。静岡の温暖な森で死ぬほど探しているが、かすりもしない。

1050.jpg胴体部分はほんの3mmちょっと。しかし、脚が長いので、ぱっと見の印象はかなり大柄。おそらく肉食で、このハサミを使って何かしでかすに違いない。見ていると、時々立ち止まって前脚で何かを探るしぐさをした後、ハサミを一瞬のばすそぶりを見せた。飼育したかったが、今手元に抱えているものが多すぎるので断念した。

1080.jpgシロオビドクガNumenes albofascia。福岡にて。

名前ばかりの濡れ衣で、毒はない。ドクガ科の大多数種は毒を持たないのだが、幼虫期の外見は無毒種のほうが全体的に禍々しい雰囲気を醸している。

1065.jpgルリモンハナバチ一種Thyreus sp.。タカオルリモンだろうか。

この仲間はいくつか種類がいて、いずれも美しい青い模様を持つ。最近、日本で「幸せの青いハチ」として、テレビその他で紹介されることが多く、知名度が徐々に上がってきている。しかし、この仲間は生態の分かっているかぎりすべての種が、他種の単独性ハナバチの巣を乗っ取り、寄主の幼虫を殺した上にその餌まで奪い取る冷酷な寄生蜂である(Rosen 1991ほか)。
人間の側は、ただ綺麗というだけの理由で勝手にこれを幸せのシンボルなどと言うが、寄主のハナバチにとっては幸せどころか疫病神そのもの。

タイにて。

参考文献:
Rosen JC (1991) Evolution of cleptoparasitism in anthophorid bees as revealed by their mode of parasitism and first instars (Hymenoptera, Apoidea). American Museum novitates; no. 3029.

1041.jpgクビナガハンミョウ一種Neocollyris sp.?。タイにて。

樹上性で、よく飛ぶ。人が近寄ると、素早く葉から葉へポンポン飛んでいってしまう。

1025.jpg
コバネツツシンクイ一種。タイにて。

甲虫らしからぬ甲虫。この仲間の大概の種は、普通に上翅がある。しかし、この種をはじめいくつかの種では、それがほぼ退化してしまっており、下翅しかない姿に見える。朽ち木から発生するらしい。
夜間灯火に飛来するが、多くない。体をほぼ垂直に立て、長い尾を引きずるようにゆっくり闇を飛ぶ姿は、亡霊そのもの。

同属かどうか知らないが、南米にも上翅のないツツシンクイがいる。日本にもいるがかなりの珍種らしく、ネット上にまともな情報が見当たらない。

裏山の奇人

フィールドの生物学シリーズ「裏山の奇人 野にたゆたう博物学」が、発売されました。皆様、ぜひお手元に一冊!
1053.jpg裏山に住む珍虫、クチキオオハナノミPelecotomoides tokejii。幼虫期の生態は、21世紀の今でも謎。福岡にて。

※しばらく、これを先頭に置きます。

1042.jpgキンカメムシ一種。タイにて。

最近、南西諸島に侵入したラデンキンカメに似ている。というより、同種かもしれない。メタリックな色彩は、例によって写真で再現できない。

1047.jpgおそらくイエバエ科一種。タイにて。

ぱっと見そこそこの大きさで、そんなに珍奇な形でなくて、明らかにヤドリバエでもクロバエでもニクバエでもない雰囲気のハエは、イエバエ科であることがほとんど。たぶん。

熱帯の昆虫というと、いろんな昆虫図鑑の影響から巨大、派手、珍妙な形状のものがすぐ頭に浮かぶ。しかし、熱帯の昆虫全体のうち、そんなものはほんの僅かしかいない。大多数はこういうハエやらアリやら地味な蛾やら、日本でも普通に見るようなつまらない見た目の昆虫ばかりである。そして、そういうものどものほうが圧倒的に個体数も多く、それゆえ生態系における役割も重要である。
たぶん、カブトムシやクワガタが10種絶滅しても、人間の虫マニア以外で困る生き物はそんなに多くないと思う。しかし、ハエやアリが10種絶滅したら、良きにせよ悪きにせよそこに生息する動植物に与える影響は計り知れないような気がしている。

ジョージ

1039.jpgルリゴキブリ一種Eucorydia sp.。タイにて。

2cmほどの可愛らしいゴキブリで、森に住み人家には入らない。鈍くメタリックに輝くブルーの色彩が特徴の美麗種。しばしば葉の上で見かけるが、本来は朽ち木の中に生活しているものらしい。似たものは日本の沖縄にもいる。

野外で見ると、とにかく愛らしくて美しい。「テラフォーマーズ」に出るなら、唯一人間の味方。

1049.jpgミツギリゾウムシBaryrhynchus poweri

この仲間は熱帯のジャングルではざらに見るが、日本では見かける機会が少ない。特に日本産種の中でも大形種であるこれは、恥ずかしながらこれまで一度も見たことがなかった。どの日本の昆虫図鑑にも大抵載っている割に、ぜんぜん見かけないので、長らくその存在を捏造だと信じてきた。

この度、ようやく日本の原生林に近い場所でそれを発見できた。日本のミツギリゾウムシの存在は、捏造ではなかった。これはネイチャーに載るかも知れない。

福岡にて。

展示開催のお知らせ

1026.jpg来る8月1日より、福岡県の九州大学総合研究博物館にて、写真展を開催します。

「夏の昆虫展示」

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九州大学総合研究博物館 特別展示
「裏山の昆虫 ー 小松 貴写真展」

期間:8月1日(金)~ 8月29日(金) ただし土日祝は閉館  時間:10:00 ~ 16:30
場所:九州大学総合研究博物館常設展示室(箱崎キャンパス旧工学部本館3階) 入場・観覧無料

身近に生息しているにも関わらず、人間の目になかなか触れる機会のない虫たち。しかしよく目をこらせば、彼らはどんな宝石よりも美しく、またどんな精密機械も真似できない巧妙な動きで、見る者をきっと魅了するでしょう。
本展示では、地元・福岡に焦点を絞り、庭先や近所の公園、民家の裏山に生息する不思議な虫たちの生態を、写真と共に紹介します。
戦時中に九州大学の構内で初めて発見されたルビーアカヤドリトビコバチや、つい3ヶ月前に大学の裏山で見つかったばかりの新種のメクラチビゴミムシをはじめ、綺麗で不気味、それでいて憎めない数多の精霊たちが、皆様を迎えます。

お近くにお住まいの方(もちろん遠くにお住まいの方も)は、ぜひお誘い合わせの上、ご覧になって下さい。何卒、よろしくお願い致します。

A4ポスター


※「裏山の奇人」紹介とともに、しばらくこの記事を先頭に置きます。