1097.jpgベニイトトンボCeriagrion nipponicum。福岡にて。

環境省の絶滅危惧種。すごく美しくて、しばしば口半開きで見つめてしまった。近所の水溜めの周りにいるのだが、日によっていたりいなかったりする。移動性が強いらしいので、生息拠点になりそうな水場を求めて常時広範囲を飛び回っているものと思われる。
しかし、ここの水場には怖気がするほど多量のカダヤシがいるので、産卵してもまず育たない。ただでさえ生き物の住める水場の少ない都市部のこと。いっそカダヤシをすべて殲滅してしまえば、この水場は小型水生昆虫にとっての駆け込み寺として機能すると思う。

1098.jpgしかし、この水溜のある土地は2,3年以内に買収され、更地になるようである。

1109.jpgスジボソコシブトハナバチAmegilla florea。福岡にて。

夜になるとアゴだけで物陰の枝に噛みつき、休む。条件がいい場所には何匹か集まるようである。撮影時に枝を揺らしたのが気に入らず、後脚を振り上げて怒り狂っている。

このハチが生息する圏内には、人間にとっては幸せの、こいつにとっては悪鬼たる青い蜂がいる。

謀略のズビ・・・

1138.jpgズビロキマワリモドキGnesis helopioides。福岡にて。

ゴミムシダマシの仲間には、○○キマワリモドキという名前の奴が何種もいるが、こいつのようにオリジナルのキマワリPlesiophthalmus nigrocyaneusとは似ても似つかないような外見のものも多い。

1122.jpgセンチコガネGeotrupes laevistriatus

動物の糞を前脚で抱えて、後ずさりに引っ張って運ぶ。時々運ぶ作業をやめて周囲をうろうろ歩き回り、自分がこれから向かうべき場所を見定めるのを欠かさない。

1123.jpg糞転がしの仲間だが、ファーブル昆虫記のスカラベのように逆立ちして糞を転がすことはできない。日本には少なくとも150種以上の糞転がしが分布するが、マメダルマコガネの仲間3-4種を除き、逆立ち転がしできない連中ばかり。それらは糞の真下もしくはすぐ傍に穴を掘り、糞を前脚で抱えてそこへ引っ張り込むという、あまり面白みのない運搬法をとる。

しかし、時々そうした「糞を転がさない」日本の糞転がしが、道端で糞を逆立ちして転がしているように見える場合がある。センチコガネもときどきやるのが見られる。これは本当のスカラベとは根本的に行動の意味が違う。スカラベはちゃんと転がす意志があって、あらかじめ糞塊を脚で押し固めて球形にしてから転がす。
それに対して上述の例は、糞の下に潜って穴を掘ろうとするのだが、地面が固いなどの理由でうまくいかず、そのはずみで糞が転がってしまうだけである。そうして転がし続け、結果として穴を掘りやすい所まで糞を運べてしまうことはある。

虫本人に本来転がす意志がないので、スカラベのように糞塊を転がしやすく加工することもない。そのため、日本の「糞転がし」は、コンクリートのような固い地面の上に、虫が動かせる程度の小さな糞塊がある時にしか出現しない。

福岡にて。

1137.jpg枯葉を吊って隠れ家を造るヒメグモの一種。暗殺者センショウグモEro sp.が迫る。

福岡にて。

1132.jpgゴマダラチョウHestina persimilis。福岡にて。

近所にエノキが沢山あって、沢山のメスが産卵に来ている。しかし、いずれこの土地は買収されるらしい。植わっている樹木はどうされるのだろう。

1133.jpg
普通にいるから駄蝶扱いされているが、身近な蝶でこれほど美しいものも珍しいと思う。オオムラサキを白黒にした姿。

1151.jpgタイシャクナガチビゴミムシTrechiama yokoyamai

中国山地に特有の地下性ゴミムシで、石下や地下浅層の砂礫間隙に生息する。いわゆる「メクラチビゴミムシ」の仲間だが、申し訳程度に眼はある。本当の「メクラチビゴミムシ」ほど、地下生活に適応しなかった種。

1152.jpgナガチビゴミムシ属のメンバーは、種間で地下適応の特殊化程度にかなりの幅がある。分布の広さ、あまり特殊化していない姿のものが少なくないことから、「メクラチビゴミムシ」の中では格下に見られている雰囲気がある。しかし、「メクラチビゴミムシ」としては大形種を多く含み、俺は好みである。基本的に本属の多くの種は、他分類群のゴミムシと比べて特筆してチビではない。

1154.jpg一番最後まで粘着した個体。後になって写真を見直したら、背中に昆虫寄生菌ラブルベニアが付いているのに気付いたが、後の祭り。こんな特殊な虫にも付くのか。

1149.jpgツクツクボウシMeimuna opalifera。広島にて。

一匹のオスが鳴いている最中、近くにいる別のオスが高率で「ヴィーーーーーーヴィヴィヴィヴィ」という変な声を出す。合いの手を入れているのだとか、逆に妨害しているのだとも言われる。

1150.jpgキイトトンボCeriagrion melanurum。湿原様の水場に見られる。割と生息条件がうるさく、池や田んぼさえあればどこでもいる雰囲気ではない。

全身朱べた塗りのベニイトトンボもいいが、緑と黄色と黒の塗り分けなキイトトンボも美しい。

広島にて。

1145.jpg
ヒラタミミズクTituria angulata。福岡にて。

九州以南でしか出会えない。そんなに珍しいものではないはずだが、擬態があまりにも巧みなのと、寄主植物が決まっていなくて探すポイントが絞れないので、肉眼で見つけるのは相当に難しい。
幼虫はすさまじい姿をしているため、どうしても見つけたい。近所の裏山に生息していることを早くに知っていれば探す努力をしたのだが。今年はもう遅いだろう。

1148.jpgアブラゼミGraptopsaltria nigrofuscata。もう夏が終わってしまう。福岡にて。

セミは種によっておおむね鳴く時間帯が決まっているが、それは鳴くために必要な気温や明るさが種によって違うことが関係している。最近、都市部に住むセミが夜中にも鳴くようになっている。街灯ばかりで完全な闇がないのと、ヒートアイランドで夜も気温が下がらないので、昼夜の区別が付かなくなってしまっているためだ。

長野は世間では避暑地のように思われているが、少なくとも松本に関しては盆地のため、夏の日中は西日本の平地並にクソ暑い。それでも、かつては日が落ちれば涼しくなり、夜は窓を開けて寝ればクーラーも必要なかったほどだった。ところが、4,5年前辺りから、夜になってもあまり気温が下がらなくなってきた。
先日、かつての職場に寝泊まりしたのだが、夜中の11時過ぎにもなって周囲でアブラゼミが合唱を始めたのには驚いた。それも連日。かつてはたまの気まぐれで、一シーズンに一度くらい、セミが夜中に一匹鳴くことはあったが、合唱にまでは発展しなかった。今まで見なかった南方系の甲虫を見たり、エゾアカヤマアリが衰退したりと、都市化とともにヒートアイランドが次第にあの僻地にさえ侵攻しつつあるのは、当方の思いこみではなさそうだ。

昆虫は目を閉じないから、本当に人間のように寝るのかどうかよく分からない。しかし、明らかに昼行性の種と夜行性の種はいて(カマキリのようにはっきりしないものもいる)、それぞれは基本的に活動しない時間帯を持つため、この時に人間でいう睡眠に類する休息を取っているものと推測される。
街中のセミは、昼も夜も鳴き続けているから、睡眠をほとんど取っていない。だから、きっと田舎のセミに比べて、寿命が物凄く短いのではないかと思う。

1134.jpgニシキリギリスGampsocleis buergeni。福岡にて。

キリギリスは最近ヒガシとニシの2種に分割されたが、形態差は相当に微妙で、区別がよく分からない。上のは九州で見たからニシと判断したに過ぎない。ただ、鳴き声のドスの効き加減は何となく違うのが分かる。

草原で沢山のオスが「ギリリリリリリリッ・・チッ」と鳴く。しかし聞いていると、どの個体も鳴くときに「ギリリリリリリ」の部分を他の個体のそれにかぶせず、互いにタイミングを少しずらして鳴いているのに気付く。自分の声を単体でメスの耳に入れたいらしい。

いちご星人

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ヤリグモRhomphaea sagana。福岡にて。

他種のクモの網に侵入して、その網の主を殺すスペシャリスト。主のいなくなった巣に「仕事」の証として、競技用の槍そっくりな形の卵嚢を残して去っていく。

アリもそうだが、世界的に繁栄する生物分類群の中に、仲間内を食い物にするよう特殊化した種が誕生するのは、当たり前のように思えて実は凄いことだと思う。

1096.jpg誰一人いない防波堤。静岡にて。

幼い頃から30年以上も慣れ親しんだ遊び場だった。しかし最近他県から大勢来る釣りマニアの、あまりのモラルとマナーのなさ加減(ゴミ放置、車の違法駐車、稚魚乱獲、ならびにそれを注意した地元民に暴言を吐く)に業を煮やした地元民と漁協が結託して、ここを全面封鎖してしまった。

釣りはおろか、漁師以外の人間は入ることがもうできない。俺は釣りなどするつもりはなく、ただここの防波堤の裂け目に住むハダカアリを見に行きたいだけなのだが、面倒が起きそうなのでもう行けない。
ここだけでなく、この漁村沿岸のあちこちの防波堤で、同様の理由から入れなくなってしまった箇所がいくつもある。考えなしに行動した余所者のせいで、かけがえのない思い出の場所は奪われた。そして、ただでさえ少ない海岸性昆虫の新たな観察適地を求めて、これから右往左往を強いられることになる。

すでに、この港湾地域でも主要だったこの釣りポイントが封鎖されたのを受けて、まだ自由に立ち入れる近隣の防波堤に釣り星人がなだれ込み始めている。ただでさえ釣り人口が過密ぎみなところへ、さらに多くの釣り星人がやってくれば、おのずとトラブルが起きる頻度も高まる。やがて、この港湾全域が封鎖される日も遠くない。

釣りでも虫採りでも、身勝手な行動により地元を敵に回したらもうおしまいである。生き物を捕獲できる場所がなくなってしまえば困るのは自分らなのに、なぜ自分の首をこうも絞めたがる人間ばかりなのか。その時の自分さえ楽しければ、その身勝手な行為の結果後世の人間の楽しみがいくら失われても知ったこっちゃないのだろう。
最近、ある種の虫が採集禁止になったり、釣りが禁止されたりする条例・法律があまりにも多い。採集行為の意義に対する市民の無理解に単を発する、横暴な理由で施行されたとしか思えないような条例も、探せばないわけではない。しかし、その原因がもしマニアの刹那的な乱獲に因るのであれば、それはもはや後世の自然愛好家に対する時空を超えたテロである。

1061.jpg
トワダオオカToxorhynchites towadensis。静岡にて。

日本最大級の美しい蚊で、夏に雑木林の立木に止まってテリトリーを張る姿をよく見る。羽音はばかでかく、子犬の悲鳴を思わせる。2m離れていても余裕で聞き取れるほど。

オオカのボーフラは肉食で、ヤブカのボーフラを多量に殺す習性がある。だからこの巨大な蚊は人間にとって益虫なのだが、正直なところこいつは人間が期待するほどヤブカ駆除には貢献していない。オオカとヤブカは、長い進化の歴史の中で共存してきた、食う食われるもの同士の関係。オオカにとってヤブカは絶やしてしまうと困るエサなので、うまいことヤブカを一定以上殺し尽くさないようなメカニズムが出来上がってしまっているのだ(オオカのボーフラは仲間同士で共食いするので、一つの水場から何匹も育つことができない。だから、オオカが一つの生息地内で大発生することは起き得ない)。
餌を生かさず殺さずのところでやっているから、オオカのいる森からヤブカがいなくなることはない。


後記:
オオカの捕食により、ヤブカが食い尽くされる状況は、現実には起こらないだろうとだけ言えばよかったんですが、ちょっと超自然的な物言いが過ぎたようです。お恥ずかしい...

1054.jpgクロカナブンRhomborrhina polita。静岡にて。

掴むと悪臭を放つので嫌がる向きもあるが、この漆黒につやめく体は黒塗りの高級車にも似て、とてもかっこいい。もっとストロボの当て方を工夫しようと思っていたら、すぐ飛んでしまった。
分布は広いが生息域は限られ、さほど多くない。幼虫期の詳細ははっきりしないが、樹洞で育つという噂がある。かつて、照葉樹の根元の地面に出来た穴に飛来し、一目散に入り込む個体を見たこともある。普遍的には存在しないハビタットに依存していることが、この虫がそんなに普通種でない理由かもしれない。

かつて日本国内へは、海外からペット昆虫として巨大なテナガコガネ類が野放図に輸入されていた。現在、テナガコガネ類は全種が特定外来生物に指定され、生きたまま国内へ持ち込めなくなった(そもそもテナガコガネという生物が、たいていの原産国で保護動物に指定されており、現地で採集自体できないことが多い)。
テナガコガネ類は樹洞で育つので、固有のヤンバルテナガのいる沖縄に持ち込んではいけないという理屈はわかるが、日本の本土には土着のテナガコガネはいないから、仮に海外のテナガコガネが帰化しても特に困る生き物などいないはずだ。だから本土にまで持ち込み禁止にする必要などないんじゃないか、と、当時は思っていた。

しかし、それは違った。日本の本土にはテナガコガネはいなくても、クロカナブンやオオチャイロハナムグリ、ベニバハナカミキリその他、樹洞に依存した生態を持つ昆虫類が、ものすごくたくさんいる。もしそこへ海外の巨大昆虫が割り込んできたら、どんな事態になるだろうか。餌である朽ち木内のフレークを奪われ、得体の知れない海外の寄生虫をうつされ、日本の樹洞生息性昆虫群集は壊滅的な被害を被るかもしれない。だから、本土にもテナガコガネは連れてきちゃいけないのである。

1058.jpgキノボリトタテグモConothele fragaria。静岡にて。

日当たりが悪く、あまり手入れされていない感じの神社仏閣で見られる。苔むした樹幹や狛犬の表面に、落花生のような質感と形の住居を造り、そこに一つだけ蝶番付きの丸い扉を付ける。
夜、その扉をほんの少しだけ開けて、獲物が通りかかるのを辛抱強く待ち伏せる。獲物が来た瞬間、信じがたいほどの高速で扉をはね上げて身を乗り出し、獲物をわしづかみにして住居へ引きずり込む。本当はその瞬間を撮りたかったのだが、あまりに早すぎてだめだった。

近年、生息環境の悪化で全国的に数が減り、環境省の絶滅危惧種になった。この静岡の産地も、かなり風前の灯火。近隣にあった2-3の産地では、過去5年くらいの間に突然一匹もいなくなった。環境は一見何も変わってないように見えるのだが、もしかしたら大気汚染や酸性雨みたいなものが関係しているのだろうか。

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静岡にて。

1095.jpgツチガエルRana rugosaの子。静岡にて。

ここの水田にはもともとツチガエルが多かったのだが、2,3年前から急に、それまで見たこともなかったヌマガエルがはびこりだし、大繁殖している。小・中学校のころ、どんなに死ぬ気で探してもヌマガエルだけは見つからなかった地域なのに、一体どうしたことだろうか。それを受けてか、ツチガエルの数が一頃前より減った気がする。

ツチガエルは、分布の仕方がおかしい。水田にいるかと思えば、カジカガエルと一緒に清流でたくさん見ることもある。また、地域によって異様に多かったり少なかったりする。長野にいたころ、個人的にツチガエルはモリアオガエルよりも希少価値の高いイメージだった。当時の大学近辺でいくつか産地はあったものの、年により消長が激しく、環境は変わっていないのに大抵はどこも数年で一匹も姿が見られなくなったものだった。

ツチガエルはアマガエルなどと違って指に吸盤がないため、垂直面を登れないと思っていた。しかし、少なくとも体長2cm程度までの子供であれば、濡れたアオミドロに覆われたU字型側溝の壁面を登れる。昔、いともたやすくスルスル登って側溝から這い出すのを見て、腰を抜かしたことがある。おそらく他のアカガエル科の種も同じだろう。

ツチガエルには特有の悪臭があるというのだが、いままでさんざんツチガエルを捕まえて鼻を密着させて嗅いだものの、よく分からない。俺の鼻には特異的に感受できない成分なのかもしれない。

1062.jpgタカチホヘビAchalinus spinalis。静岡にて。

とてもかよわい小型蛇。半地中性で、柔らかい地面に潜ってミミズを専食する。たぶんミミズ以外のものを食わない。かつてこれを飼育したとき、何度もナメクジをくれてやったが、一度も食わなかった。
ミミズ以外の者に、おそらく噛み付くことを知らない大人しい蛇。手で引っ掴んでも、まず噛まれない。むしろ、人間の手の熱で体の水分が奪われ、衰弱してしまうほどの虚弱体質。他の蛇と違って皮膚が弱く、体内の水分が出て行ってしまいやすいらしい。だから、死ぬと腐るよりも先に水分が抜けきり、カチカチのミイラになりやすい。

地に潜って生活する割に、その鱗は虹色の輝きをたたえる。外国のサンビームヘビもそうだが、なぜ暗黒の地面で生活するのにこんなきらめきが必要なのだろうか。

この個体は、とある小さな洞窟にいた。洞窟入り口の、外から落ち葉が吹き溜まった所。妙にやせこけた雰囲気だった。落ち葉の吹き溜まりには沢山のミミズがいるのに、それを食う様子がなく痩せているということは、もうあまり先が長くない個体かも知れない。

1057.jpgホラズミヒラタゴミムシJujiroa troglodytes

限られたとある石灰岩地帯だけから知られる、大形の地下性昆虫。基本的に洞窟性だが、模式産地である洞窟周囲一帯の地下浅層には広く分布するものと推測される。
しかし、模式産地であるその洞窟にはもうほとんどいない。周辺地域の開発の影響か、洞窟内が乾燥してきているためだ。地下水位が低下しているようで、それにともない虫が地層のより深い所へ潜ってしまったものと思われる。本種の模式産地たる洞窟は、他にも2,3のゴミムシの固有種が生息するが、それらはさらに輪をかけて姿を見ることが至難なほど減ってしまった。

くわえて、一時期これらの珍虫を狙って虫マニアが多量の罠(ピットホールトラップ)をそこの洞内に仕掛けた歴史があるそうで、洞内の生き残り個体はおおかた持ち去られてしまったそうだ。洞窟のような閉鎖的環境内で、特定種の昆虫が効率よく採れてしまう罠を使うと、その虫の個体群存亡にかかわるほどの採集圧をかけてしまう場合がある。まして、もともとの個体数がさほど多くない洞窟性昆虫が標的なら、なおさらだろう。ここの固有ゴミムシのうち、ある種はもう何年もの間存在が確認されておらず、少なくともこの洞窟では既に絶滅した可能性が高い。

洞窟性昆虫にとって、ピットホールトラップを仕掛ける行為それ自体も脅威だが、しばしば虫マニアは自分が仕掛けた罠の場所を忘れ、そのまま放置してしまう。これがさらに追い打ちをかけてしまう。放置された罠は、そこで永遠に際限なく虫をおびき寄せて殺し続けてしまうから。

洞窟で罠を使って虫を捕るのは、よほどの研究上の大義名分があったとしても慎重になされるべきであろう。ましてお遊び感覚では、絶対にやってはならないと思う。地下性甲虫は、ある時期に地表近くを活発に動き回り、その過程でよく林道脇の側溝に落ちるため、これを拾える場合が多い。なるべく本来の生息環境を荒らさず、一度に多量に採れない方法を使うべきである。そもそも、採らないのが一番かも知れないが。

1056.jpgこの個体は運良く遭遇できたたったの一匹。ただでさえ荒れ果てた生息地に厚かましく踏み込んだ時点で、俺も乱獲マニアと同罪だろう。撮影後、他の人間に見つからないように、洞窟の奥の隙間に送り返した。

1129.jpgビロードヒラタシデムシOiceoptoma thoracium。長野にて。

北方系の種で、どこでも基本的にうじゃうじゃいるものではない。長野県内では希少種に指定されている。それがうじゃうじゃいた。

1130.jpg視覚障害小型廃棄物節足動物を掘りに行き着けの山へ行く道すがら、たまたま落ちていた新鮮なクマの糞にすさまじい数が集結していた。13年間通った場所だが、こんなに集まっているのは見たことがなかった。この写真の中には、そこにいた全個体が収まっていない。この種に限らず、シデムシという虫が一カ所にこれだけ集結した様を、近年とんと見覚えがない。
1128.jpgヒロオビモンシデムシNicrophorus investigatorも少し来ていた。同じく北方系で、亜高山帯でないと出遭い難い、美麗かつ少ない種。やはり長野県の希少動物。

「裏山の奇人」を出身研究室に寄贈した翌日から、それまで在住期間中には一度でも見なかった珍虫や光景に、いくつも遭遇した。故郷に錦を飾ったのを、裏山の森を司る女神が喜んでくだすった証だ。

なお、このすぐ近くでクマがこちらを見ていることに関しては、特に驚嘆も感慨もない。ここは元々そういう場所だから。

958.jpg
シカの食害で、下草がなくなり丸禿になった裏山。

最近長野県内では、増えすぎたシカによる里の農作物被害が、もう筆舌に尽くしがたいレベルで深刻になっている。この裏山では、2,3年前から山そのものをまるごとフェンスで囲ってしまい、シカが里へ下りてこられないようにした。そのおかげで、ひとまず里の農作物はある程度守られた状態になっている(一部、フェンスのほころびから夜間出入りしている個体がいる。毎晩出くわす)。

しかし、その囲われた内側たる山のほうはひどい。里へ下りられず閉じ込められた大量のシカどもが、あらゆる草を食い尽くしてしまい、表土が露出し始めている。そこへきて、毎日多量のシカが地面を踏んで固めてしまうので、なおのこと草木が生えない土壌になってしまう。近年、温暖化などの影響で夏季に集中豪雨がとても多くなっているが、今後山の土地がシカの活動でやせていくことにより、県内全域で降雨時に甚大な土砂崩れ被害が頻発すると懸念されている。これは長野県に限った話ではない。
ここの山では、以前からその雰囲気はあったが、2,3年前から急にひどくなった。山をフェンスで囲ったことが裏目に出ているかもしれない。

955.jpgフェンスを隔てたすぐ外側は、歩くのもはばかられるほどに草ぼうぼう。もともとは、ここの裏山全体がこんなだった。毎日通っていたころは全然自覚しなかったが、改めて見るとその状況のひどさに驚いた。良くも悪くも、しばらく距離を置いてみるとわかることというのは多い。

1114.jpgオオアリマキヤドリバチProtaphidius nawaiiにマミー化させられたクヌギクチナガオオアブラムシStomaphis japonicaを守るフシボソクサアリLasius nipponensisの元に襲い来るコバチ。とても状況が複雑な上、登場人物の名前が揃って無駄に長いので、説明が厄介。

アブラバチ科のハチは、アブラムシの体内に寄生して内部から食い殺す寄生蜂である。このハチにやられたアブラムシは、必ず体がいずれカラカラに乾燥したミイラに変貌し、その状態をマミーと呼ぶ。クチナガオオアブラムシ属は世界最大級のアブラムシだが、これにはやはり大形のアブラバチであるオオアリマキヤドリバチというのが専門に寄生する。
クチナガオオアブラムシはアリと関係が深く、常時多量のアリによって護衛されている。そのため、オオアリマキヤドリバチは腹部を潜望鏡のように伸ばして、アリに気付かれないよう遠くからアブラムシに卵を産み付ける。

寄生されたアブラムシは当然いつかマミー化してしまうのだが、そこで不思議なことが起きる。周囲のアリがマミーの外皮を全て囓り取り、内部に入ったハチの繭をむき出しの状態にしてしまう。そればかりか、アリはもはやアブラムシですらないこの物体を、なぜかそのまま集団で守り続けるのである。生きたクチナガオオアブラムシと同じ匂いを、ハチの幼虫が繭の内部から作って放っているとしか思えないのだが、誰も調べやしないので詳細はまったく謎。

メカニズムはさておき、なぜハチの繭はアリを誘引して周囲に取り巻かせているのか。それは、このハチの繭に二次寄生しようとたくらむコバチがいて、アリにそいつの攻撃から守ってもらいたいからである。このコバチは種類は一切不明だが、おそらくオオアリマキヤドリバチの繭を攻撃するスペシャリストである。
コバチは化学擬態のような、アリの防衛を強行突破する術を一切持たないため、アリに一匹繭のそばに居られるだけで攻撃ができない。だから、オオアリマキヤドリバチの繭にとってアリに居てもらうことはとても重要なのである。

この13年間というもの、俺はこのアリとアブラムシとハチの攻防を徹底的に野外で観察してきた。試しにマミーを守っているアリを追っ払ってマミーに近づけなくしてやると、すぐにコバチが来てマミーに産卵を開始する。しかし、今のところ自然状況下でコバチがマミーに寄生成功した場面を、一度でも見たことがない。
マミーには常時アリが粘着しており、空くことがない。でも、何らかの隙をうかがって、どうにかして寄生しているのである。そのタイミングがいつなのか結局分からないまま、かの地を出て行かざるを得なかった。

長野にて。


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昨日、北九州市小倉のGALLERY SOAPで行われた「蟲展」のオープニングトークには、大勢の方にご来場いただきました。厚く御礼申し上げます。

1113.jpgトゲトゲハネカクシAstenus setifer。長野にて。

トビイロシワアリの巣に見られる好蟻性ハネカクシで、珍種。腹部側面から鋭い針のような剛毛が突き出ているのでこの名があるが、自然界では言うほど目立たない。名前のインパクトだけ先行して耳に入れてから現物を見ると、かなりがっかりする生き物の筆頭。平たい顔つきや立ち振る舞いが、ナマズじみている。

通いなれた裏山は少し登ると広大な松林が広がり、その一角にギャップ的に開けた明るい場所がある。ほんの猫の額ほどしかない狭い区画なのだが、ここは「適度に日が差し日陰もある、乾燥したガレ場」という、この裏山のどこを探しても似た状況がない特殊な環境になっている。それを受けてか、ここには裏山の他の場所ではまったく見ないツボクシケアリなど、特殊な虫が住んでいる。
数年前、秋にここのトビイロシワアリの巣を暴いたときに、こいつらしいハネカクシを一瞬見た。しかし、ここは隙間の多い地質のため、すぐに逃げられて種を確認できなかった。今回、初めてちゃんと確認できた。本種にはAcanthoglossa hirtellaという、別属だが瓜二つで、しかも好蟻性でない偽者がいるのだが、どうやらそれではなさそう。
裏山のいたるところにトビイロシワアリは巣くっているのだが、なぜか件の区画以外でこのハネカクシを見たことは、13年間一度たりともない。分布は全国的にもかなり局所的だが、反面都市部の埋め立て地のような荒廃地でも見られるようで、分布の傾向が掴みにくい。

このハネカクシは春先に多く見られる。夏に見られるのは珍しいと思う。

時崎オニ狂三

1091.jpgオニグルミクチナガオオアブラムシStomaphis matsumotoi。トビイロケアリLasius japonicusが護る。

信州ゆかりの昆虫で、長野県安曇野の烏川渓谷から新種記載された。クチナガオオアブラムシ属は日本だけでも10種そこそこ以上はいて、ぱっと見形態的にはどれも同じに見えて区別しがたい。しかし、どれも種ごとにホスト植物がかなり厳密に決まっているので、どの植物についていたかで基本的には同定可能。

クチナガオオアブラムシ属は、全種が例外なくアリと関わる。体長をはるかに超す長い口吻を樹幹に深く刺し、師管液を吸って生きている。敵に襲われてもすぐさま口吻を引き抜いて逃げることができないし、常時排泄物を垂れ流すから、防衛と掃除をアリにやってもらわねば生存できない。
特に、ケアリ属との関係は非常に強い。一方、熱帯要素の強い地域である香港で、かつてエノキ類に付いているものを見たことがあるが、それは無数の大型シリアゲアリが随伴していた。熱帯にケアリ属は分布しない。
このアブラムシ類は明らかに温帯の生物だが、分布南限がどこなのか気になる。

1092.jpg長野にて。

缶蹴り陣取り成吉思汗

1093.jpgエセシナハマダラカAnopheles sineroides。長野にて。

夜行性で、水田からわく。しゃがんでアリの行列を見ていると、どこからともなくやってくる。そして背後からチクチク刺してくる、やっかいな奴。しかし、今回は自らこれにわざわざ刺されに夜の水田へ行った。少しでもこの仲間の虫を見慣れておかないと、近いうちに九州某所で仕掛ける「とある戦争」に勝てないからだ。
害虫とはいえ、いつ見てもハマダラカは本当に美しい生き物だと思う。普通のヤブカに比べてさほど普通に見ない仲間であることが、余計に希少性をかき立てる。

本来、素人は蚊の種同定をしてはならないのだが、今回は資料をもとに同定してみた。普通のシナハマダラカA. sinensisとも思ったが、白帯のある小顎肢、Cu2脈部の白縁毛、1A脈の3黒斑からエセシナということにした。素人判断なのでくれぐれも信用しないでほしい。

しかしモドキダマシニセも大概だが、生き物に対して似非とか失礼にも程がある。双翅目昆虫以外で、名前にエセが付く生物に心当たりがない。なんで双翅目にだけ、ニセモドキじゃなくてわざわざエセなんて付けたんだろうか。

1089.jpgチョウセンベッコウヒラタシデムシEusilpha bicolor。長野にて。

死肉に集まるやつ。森のある区画に執着するように飛び回り、着地した。腐った蝉の死体があり、それに惹かれてきたのだった。
13年通い慣れたあの裏山で、初めて確認した新顔。南方系で、この土地には似つかわしくない。少しずつ、よくも悪くもここの環境は変わってきている。

1090.jpgこの甲虫は、飛ぶ姿が遠目にはオオハキリバチに恐ろしく似ている。普通の甲虫と違って飛ぶときに上翅をガバッと全開にせず、上翅の付け根をひねって裏返しにする独特の開き方をする。そのため、飛ぶときは膜質の後翅だけ横に出した姿なので、甲虫にまったく見えないのだ。
シデムシ類はみなこのスタイルで飛ぶが、ことに本種は大型かつ胸部だけ赤いので、ハチにとても似た姿に見えてしまう。ただ、翅を開くと普段隠された、青メタリックに輝く腹がむき出しになるため、ハチではないことにすぐ気づく。

闇が迫ればおいらの世界

1094.jpg
ヤスマツトビナナフシMicadina yasumatsui。長野にて。

夜間、クリの葉裏にいた。ナナフシは例外なく、昼間より夜のほうが発見しやすい。擬態の体勢を解いているし、人工光下でのテカり方が本物の枝葉のそれとぜんぜん違うから。
翅はあるが、まったくの見かけ倒しで飛べない。墜落したときに羽ばたいて、多少落下速度を遅める程度。飛ぶかと思って空高くぶん投げると、すぐさま残念な気持ちにさせられる。

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来る9月7日から9月20までの間、北九州は小倉のカフェ「GALLERY SOAP」において、
展覧会「蟲」
と題する展覧会が開催されます。
その初日7日のオープニングイベントで、「虫を巡る旅」として話をさせていただけることになりました。
お近くにお住まいの皆様、奮ってご参加くださいませ。
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1085.jpgたぶんカマナシメクラチビゴミムシKurasawatrechus kawaguchii。山沢の源流域地下から掘り出した。長野にて。

記録こそあれ、よもや松本地方でこれを出す日が来るとは。13年間地元に住んでいたのに、当時は一度でも発見できた試しはなかった。本当は同所的にいる珍種タカオチビゴミムシを狙っていたのだが、それは全くかすりもせず、もっと採りづらいこっちが出てきてしまった。
ここ最近、方々での土木作業の戦績がふるわなかっただけに、これを出せた喜びはひとしお。

名前のカマナシは、もちろん山梨の釜無からきている。しかし、この種は現時点で山梨から長野にわたるあちこちから散発的に見つかっており、この手の地下性昆虫としては異様なほど分布域が広い(上野 1979)。ほんとにそれらは同種なのか、素人ながら多少とも疑わしく思えてくる。

地下性甲虫は、より地下に特化したものほど胴体がヒョウタン型にくびれる。くびれるというのは上から見た体型だけでなくて、横から見た体型も体高が高くなる。腹部の上に、お椀型の上翅がかぶさった感じになる。すなわち、腹部と上翅の間に空間ができるのである。
地下や洞窟は湿度がすさまじく高いため、普通の甲虫のような体型だと腹部と上翅の間に水滴が溜まってしまい、腹部の気門が水で塞がる恐れがある。陸にいながら溺れ死なないために、そういう体型にならざるを得ないのである。


引用文献:
上野俊一(1979)南アルプスに見られるクラサワメクラチビゴミムシ類。国立科学博物館専報 12, 113-122.