1214.jpgコブヤスデPseudocatapyrgodesmus sp.。属名が異様に長い。九州にて。

これまで国内で見つかった総個体数は10個体そこそこしかいないと思われる、ヤスデの珍種。生態が不明で、土壌中から偶然見つかった記録が多い。しかし、近縁のハガヤスデ属の生態に加えて当方のこれまでの調査から、好蟻性と判断している。もちろん、この個体もアリの巣から出た。

公式には、関東の平地数カ所で見つかっているだけとされる。しかし、俺は九州のとある山でも見つけている。相当の探索努力をしているが、今のところその山の、とある中腹の数十平方m以内でしか発見できていない。それ以外の場所では、どんなに探してもハガヤスデしか出ない。その山の中はもちろん、これまで回った九州の全域で。
それどころか九州と関東の中間の地域でも、今まで数千コロニーものアリの巣をほじくるもハガヤスデしか発見できずにいる。非常に変わった分布様式を示す生物のように思う。

1213.jpg参考に関東の個体(幼体)。関東でも恐ろしく珍種だが、あるピンポイントの場所でアリの巣を探せば必ず見られる。とはいっても、丸一日探して1匹のレベル。
成体に関して関東の個体と比べると、九州のは外見が少し異なる。関東のやつほど、全体的に体表がゴツゴツしていない。まるでヤスリをかけたように、顆粒やコブがなめらかな印象を持っている。今まで見つけ出した九州の個体すべてがそう。ハガヤスデ属が地域によりいくつか種分化していることを考えれば、確実にこの九州の個体群は未知の新種であろう。
しかし俺はヤスデの専門家でないので、本当にこれが未知の種であるかを調べられない。誰か調べないかな。

控えろ人類

1201.jpgクロヤマアリFormica japonica。巣口から身を乗り出し、アゴを開いて威嚇体勢。福岡にて。

クロヤマアリは人間が巣へ近づくと、上半身を上に反らせてアゴを開き、こちらに向かって威嚇してくる。しかし、たかだか数mm程度しかないアリンコがそんな虚勢を張ったところで、人間がひるむことなど期待できない。それにもかかわらず、人が近づけば必ずやる。そもそも、この体勢は本当に威嚇を目的としてやっているのかも怪しい。本当に虚勢を張っているだけなんじゃないかとさえ思えてくる。

1202.jpgクロヤマアリは、九州以北の日本では勇名轟くド普通種とされている。しかし、地域によって体表面炭化水素の組成が異なる個体群が住み分けており、複数種が混在する可能性があるなど、謎を秘めた生き物でもある。
また、九州においてクロヤマアリは、関東の平地ほど普通に見られない。巣口もたいてい雑草の根際に小さく開けることが多く、見つけるのが少し難しい。もともとヤマアリ属は冷涼な気候帯に適応した仲間なので、南方ほど劣勢になるのかもしれない。ただし、よく似た森林性のハヤシクロヤマアリは多い。ハヤシクロヤマは本来日陰に営巣することが多い種だが、九州ではクロヤマアリが劣勢なのに乗じて日向で営巣することが多い。

メネシス

1198.jpgオオコバネナガハネカクシ一種Lathrobium sp.。福岡にて。ただしこないだのとは全然違う場所。

洞窟や地下浅層に生息し、色素が薄い。メクラチビゴミムシを求めて沢を掘ると、しばしば副産物として出てくるやつ。わりと浅いところにいるため、掘ればたいていメクラチビゴミムシに先駆けて出現する。やがて現れる本命を予感させ、こちらの戦意を高揚させてくれる「守護妖精」の一員。

飛べないため、地域ごとにかなり細かく種が分かれている。最近出た日本産ハネカクシの目録(柴田ら 2013)を見ると、この属だけでもすさまじい種数が記載されているのに驚かされる。その一方で、九州から記載されている種が思いの外少ないのが気にかかる。メクラチビゴミムシに比べれば明らかに人気がなさそうな分類群なので、あまり集める人間がおらず、分類も進んでいないようである。四国での種分化の程度から察するに、それと同等以上の種数が九州にもいて然るべきであろう。

すでに九州の様々な地域の沢で、この仲間の虫を幾度となく見ている。しかし採ってもしょうがない気がして、いつも適当にスルーしていた。これからは、出てくる度に逐一少しずつ集めていこうと思う。九州においてこの仲間は、採れば採っただけ新種になる可能性が高い。上の個体も、もしかしたら新種かもしれない。

この仲間の虫は、地域によって嗜好する生息環境が異なる。こないだの奴は、水際すぐ近くのグジャッとした地中を十数㎝掘ったぐらいの所に多かった。しかし上のは、沢から少し離れて水気がやや少ない、締まった土の上にある石下にいた。こういう地域ごとの生態の違いというのは、すなわち虫の種ごとの生態の違いを反映しているのだろう。


参考文献:
柴田泰利・丸山宗利・保科英人・岸本年郎・直海俊一郎・野村周平・Volker Puthz・島田 孝・渡辺泰明・山本周平 (2013) 日本産ハネカクシ科総目録 (昆虫綱:甲虫目). 九州大学総合研究博物館研究報告, 11: 69-218.

パズモ

1200.jpgハネカクシ。Hesperus tiroであろう。

見るからに地下性ではない種。しかし不思議なことに、本州以南の山沢の源流で地下浅層を掘ると、これが場所により沢山出る。しかも、これが出る場所には高率でメクラチビゴミムシも出る。浅いところにいる分メクラチビゴミムシに先駆けて出てくるため、目指す宝が近いことを教えてくれる、土木作業員の守護妖精。
慣れないアウェーの土地で、右も左も分からず何時間も沢を掘るも何も出ず、くじけそうになったその時に土砂の隙間からこれが一匹這い出すのを見るや、たちまちバーサク状態になれる。もちろん、この虫の出現が100%メクラチビゴミムシの出現を保障するわけではないので、高揚させられたまま終わることもままある。



昨日、人生初の台湾から帰った。どうも時期はずれだったようだが、時期はずれであのレベルなら当たり時に行けば相当凄い場所に違いない。

1116.jpgキマダラセセリPotanthus flavum。虎縞模様の小さいやつ。少し薄暗い林縁にいた。

1115.jpgクロセセリNotocrypta curvifasciaもいた。西日本では別段騒ぐほど珍しい蝶ではないが、関東からろくずっぽ出たことのない身には神々しい御姿。福岡にて。

今日からひさびさに海外遠征。しかも、人生初のあの島。

1169ケカゲロウIsoscelipteron okamotonis。福岡にて。先日とは全然違う山で見た。

ここには以前から林内に大きな立ち枯れの木があったのだが、シロアリの影響で最近上部がバッキリ折れた。根本から高さ2m位までだけが残っている。日没後、何の気なしにそこを通りかかったとき、見覚えのあるあの羽虫が立ち枯れからハラッと飛び立った。しかも何匹も。

1171多数のケカゲロウが、その立ち枯れに集まって産卵していたのだ。少なくとも数えたときには3匹はいたが、飛んで逃げた奴を勘定に入れればもっと多くの個体がそこにいたのは間違いない。長野でこの虫を探したときには、一シーズンかかってようやく3匹集めたほどなのに、たった一晩でそれを上回る数の個体を見てしまった。
ずっとライトで照らし続けると、やがて光を嫌がるように皆どこかへ飛び去ってしまう。でも、しばらく時間をおいてまた様子を見に行くと、最初に見たのと同じくらいの個体数がまた戻ってきていた。よほど産卵に適した場所なのだろう。

1170ここに出した3枚の写真は、全部別個体。

この立ち枯れからほんの10m離れた2カ所で、深夜までライトトラップを仕掛けていたのだが、不思議なことにそっちにはケカゲロウが1匹たりとも飛来していなかった。この虫は、明らかにライトトラップでは生息を確認しづらい虫である。恐らく、相当至近に光源がないと飛来しないか、特殊な波長の灯火でしか誘引できない。
この山には、とある正体不明の脈翅が1種生息する。古い時代にたった1匹採れて以後まったく記録が途絶えており、絶滅したのではないかとも言われている。数多の研究者がこの何十年もの間、再三にわたりこの山で灯火をたいても、飛来しないのである。でも、もし本種がケカゲロウのように灯火で誘引しがたい性質を持つのであれば、まだ生息している可能性は否定できない。

しかし、一晩にこれだけの数のケカゲロウを一カ所で目撃できるとは思わなかった。かつてはあれほど発見に苦労したのが、まるでウソのよう。精霊はひとたびデレさせてしまえば、向こうから会いに来てくれる。

なお、ケカゲロウ科は平々凡々な見た目の羽虫なのに、今のところ奇怪な姿で有名なあのカマキリモドキ科に一番近縁な脈翅ということになっている。にわかには信じがたいが、その一方で幼虫期に複雑な過変態を行う点では共通しているため、納得できなくもない。

1139.jpgヒナカマキリAmantis nawai。福岡にて。

暖地の照葉樹林で見かける、とても小さいカマキリ。落ち葉の堆積した林床を、すばやく走り回る。狙って見つけるのは難しく、たいてい別の何かを探している最中に偶然視界に入る。この虫はトゲナナフシと分布域が重なっているようである。どちらか片方が生息していれば、かならずもう片方もそこにいるように思う。

オスもメスも姿形が大差なく、かつて日本にいる個体群はメスしかいないように勘違いされていた。それに関しては、以下が詳しい。
山崎柄根(1981)日本産ヒナカマキリについて。国立科学博物館専報 14, 95-102

天皇蝶

1117.jpgミカドアゲハGraphium doson。福岡にて。いるのは知っていたが、ちゃんとお会いしたのは初めて。

南方系の蝶で、いっけんド普通種のアオスジアゲハに似る。飛んでいるものは、意識しなければアオスジと区別しがたい。この夏の間、きっとそこらを歩いているときにアオスジだと思って相当数とすれ違っていたであろう。もったいない。
南西諸島では見たことがあったが、本土では初めて見る蝶。アオスジにちょっと模様が増えた程度の蝶なのに、高級感がすさまじい。

近所の道端を歩いていたら、路上でじたばたしているのを見つけた。翅がひしゃげて飛べなくなっていた。おりしも強風で、羽化したところを風で落とされてしまい、そのまま体が固まってしまったらしい。残念だが、もう後は食われて死ぬだけ。いっそ持ち帰って標本にしようとも思ったが、ちょうど今年の引越しやらで標本箱をすべて実家にやってしまっていた。今回は、鳥かアリに譲ることにした。

1118.jpg
この蝶の幼虫は、とてつもなくかわいらしい顔(本当は顔ではないが)をしている。それをどうしても見たくて仕方がなく、近隣に生えている台湾オガタマを徹底的に見ているのだが、まだ発見できない。
オガタマは神社などに植えられることが多く、必然的に蝶のほうも神社界隈で見かけることが多いという。神聖なイメージがあるせいか知らないが、かつてミカドアゲハは2度も切手のイラストになったことがある。なお、ミカドアゲハの帝は明治天皇のことを指す。

ミカドアゲハは近年分布拡大が顕著だと言うが、オガタマやタイサンボクに絶対的に依存するため、言うほどどこでも普通には見られない。かつては高知県の高知市が国内の分布北限とされていたため、この土地のミカドアゲハは国レベルの特別天然記念物にまで指定され、現在もそれは継続している。しかし、今やミカドアゲハは近畿あたりまで入ってしまっているため、高知のものを特別天然記念物として今も保護し続けているのはもはや意味がない、と多くの虫マニアに批判されている。

俺も一虫マニアとして、本当に絶滅が差し迫ったメクラチビゴミムシやらヤツシロハマダラカが捨て置かれる一方で、もうそんなにちやほやする必要もなくなった蝶が後生ちやほやされ続けている状況に対して、言いたいことがなくもない。しかし一方で、きっとそこの地元の人々にとって、ミカドアゲハは昔から見守り続けてきた大切なものなのであって、今更北限じゃなくなったからもう保護をやめろと言われて到底納得のできることではないはずだ。例えるなら、伝承してきた地域の行事が、もはや価値がないからもうやめろと余所者に言われるような感覚だろう。
どうせ高知でなくてもミカドアゲハは採れるので、高知のミカドアゲハはずっと特別天然記念物のままでいいとも思う。

1084.jpgハガヤスデ一種Ampelodesmus sp.。福岡にて。

日本中どこのアリの巣からも発見される、好蟻性ヤスデの仲間。ただし、アリの気配がない場所で見られることもある。日本からは3種のみ知られているが、分類がまったく進んでいないため、まだ新種は出る。南西諸島の個体群など明らかに本土のものとは雰囲気が違うし、九州の個体も、体表顆粒の配置が本州・四国の種とは違って見える。
ただでさえヤスデなどというマイナー分類群であるのにくわえ、人の実生活に何ら直結しないこういう生き物の研究は、往々にして進まない。

九州のハガヤスデには、分類的な話以外にも謎がある。関東周辺では、ハガヤスデはアメイロアリの巣から高頻度で出る。基本的にこのヤスデ類は寄主アリ種特異性が全くなく、どんな種類のアリの巣にもいるのだが、アメイロアリは特に頻度が高い気がしている。このヤスデを見たいときは、とにかくアメイロアリの巣を探そうとするほどである。
ところが、九州ではなぜかアメイロアリの巣からこのヤスデが全く出ない。アメイロアリの巣そのものは、どこの山に入っても高頻度で見られる。既にここへ移り住んで100,200はきかないほどのアメイロアリの巣を暴いたが、今までたった1巣で見たのみ。近隣にあるハヤシクロヤマアリやアシナガアリなど、大形アリの巣からは普通に出るため、生息はちゃんとしているのだが。

何らかの要因により、九州ではこのヤスデはアメイロアリの巣に寄生できないらしい。ヤスデが避けているのか、アメイロアリの居候排除能力が高いのか、分からない。

識別名<クロノ>

1100.jpgオオカマキリモドキClimaciella magna。福岡にて。

夢にまで見た精霊で、九天王が一人。南方系の珍種で、夏の終わりの夜に山で灯火をたくと、たまに飛来する程度。ただし、九州のある山塊ではなぜか数多く、そこで灯火をたけば絶対にやってくる。とはいえ、かつてほどの個体数は来ないようである。

日本産カマキリモドキの中では、南西諸島のオオイクビEuclimacia badiaと並んで破格の巨大種。遠めに見ると、アシナガバチにとてもよく似ている。成虫は捕食性で、手近に来る弱小な虫は何でも捕らえて食う。自分よりかなり大柄の獲物も仕留める。
実のところ、これと同等サイズでもっとかっこいいカマキリモドキは、熱帯に行けばいくらでもいる。しかし、そんなものがこの日本の裏山に住んでいるという事実がすばらしいのである。

成虫の姿を見られて、本懐を遂げた気分。しかし、本当の目的はこの虫の姿を見ることではない。この虫の幼虫期の生態を、どうしても解明してみたいのである。
この虫の成虫は、夏の後半に木の葉裏に多量の卵を産みつけ、まもなく幼虫が孵る。そこまでは分かっているのだが、それから先その一令幼虫たちが如何なる過程を経て成虫になるのか、誰も知らない。まるで時空の隙間に入り込んでパラレルワールドに転移し、成虫になった後ふたたび現世に戻ってくるかの如く、「ある程度育った状態の幼虫」がどこにも見つからない。

カマキリモドキ類は、生態の分かっているほとんどの種が幼虫期にクモの体に取り付き、寄生生活を送るとされる。だからオオカマキリモドキも、それに準じた生態を持つのは容易に推測できるが、誰も実際に見て確認したわけではない。だから、俺が一番最初にそれを見た人間になりたい。ただその思いだけをモチベーションに、こいつの謎を明かしたいと思う。

この精霊は、成虫の姿を見ただけでは真にデレさせたとは言えない。誰の目からもひた隠しにし続けている、「霊装」を顕現させた真の姿を見ないことには、攻略したうちに入らないのである。

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本当のカマキリほど、首は器用に回らない。元々カマキリの形ですらなかった虫が、無理くりカマキリの形になった弊害。

908.jpg地下性ヒラタゴミムシ一種。Jujiroa とばかり思ったが、どうやら別属(Trephionus?)らしいとの話を詳しい専門家から聞いた。

ヒラタゴミムシ類はメクラチビゴミムシとは全くの別分類群だが、メクラチビゴミムシ同様に地下性生活に特殊化したグループがいくつか存在する。これは目があるが、種によってはない。
基本的にこの手の地下性ヒラタゴミは、時期と場所を選ばないと姿を見るのは至難。しかし、たまたま石を裏返したら運良く1匹だけいた。

909.jpg地下性ヒラタゴミムシ類は、本州の中部・東海あたりから九州にかけて、おおむね場所ごとに異なる種が住み分けている。しかし、メクラチビゴミムシほど細かく種分化しておらず、一種の分布範囲は比較的広いように思う。

大分にて。

891.jpg地下浅層から掘り出した、純白のワラジムシ。おそらくニセヒメワラジムシ属の一種Pseudophiloscia sp.。

目は全くなく、恐らく地下生活に特殊化した種と思われる。いずれ、幻獣ホンドワラジムシを再発見せねばならない身としては、地下性ワラジムシも盤石に地下浅層から掘り出せる能力を会得せねばならない。

892.jpg陸生のはずなのに、常軌を逸脱するレベルで乾燥に弱い。石の上に乗せて撮影していたら、ものの3分でたちまち動きがぎこちなくなり、脚を突っ張らせてみるみる衰弱してしまった。あわてて元の地底世界に送り返した。ホンドワラジムシにとっても、産地だった洞窟の乾燥化は致死的だったのだろう。

大分にて。

イベントのお知らせ

1155.jpg裏山の住人、ハヤシケアリLasius hayashiとヤノクチナガオオアブラムシStomaphis yanonis。福岡にて。

来る10月10日、東京は池袋の「ジュンク堂書店 池袋本店」に於きまして、トークイベント
「裏山の奇人・野にたゆたう博物学~デレさせろ!裏山のへんな虫~」が開催されます。裏山に住みながら顧みられることのない、人の役には立たないが不思議な虫の生態研究。それを通して、身の回りの自然界に隠された謎を解く楽しさを語ります。お近くにお住まいのムシ好きの皆様、ぜひともご来場ください。

※10日、無事にイベントは終了しました。ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。

910.jpg土木作業の冷やかし役、トカラコミズギワゴミムシParatachys troglophilus

水辺に生息するミズギワゴミムシ類としては、地下性傾向が強い種らしい。地下浅層の隙間を主な生息地とする。メクラチビゴミムシの珍種を求めて沢を掘ると、場所によりこいつばかりがうんざりするほど出る。赤い甲虫が土砂の隙間から出てくるから一瞬ビックリするが、よく見たらつぶらな瞳がちゃんとあるのでがっかり。亜科レベルで全く標的とは別物であることが分かって、倍へこまさせられる。

いる場所もぱっと見の外見も、メクラチビゴミムシにそっくりのため、出てくるたびに心臓を抉られる。ライフシェーバー(セーバーではなく)と呼んでいる。

大分にて。

1141.jpgキンパラナガハシカTripteroides bambusa。ママコノシリヌグイの花に、無数に飛来していた。

1142.jpg吸血する種だが、オスは吸血しない。メスも未交尾個体は吸血しないし、交尾後も自身の餌として吸蜜する。蚊は、本来蝶やミツバチ同様、花の蜜を吸って生きているだけの「ただの虫」だった。でも、体内の卵を発育させるために必要なタンパク質を得るには、動物の血が必要だ。だから交尾後のメスの蚊は、吸血する。

吸血完了した蚊を見ていると、どの種のどの個体も素早く口吻を引き抜いてあわてて逃げていく。昔は吸血後も供血動物の体表上でくつろいでいた個体もいたのだろうが、そんな適応的でない個体は残らず殺されて、すぐ逃げる個体だけが選別された結果が今なのだろう。人間はみな蚊が嫌いだが、蚊のほうも本当は人間を心から嫌っているに違いないと思っている。

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1143.jpg福岡にて。

1059.jpgメクラチビゴミムシ。洞窟性昆虫。

ピンポイントで生息する洞名を冠するため名前は書かないが、かなり特異な形態なので、分かる人が見れば分かってしまうかも知れない。でも黙っててほしい。
この種は、我が人生史上初めてメクラチビゴミムシという生物の存在を知るきっかけとなった種で、同時に人生史上初めてメクラチビゴミムシの生きた現物を見た、記念の種でもある。痕跡程度には複眼が残っているタイプだが、虫体を裏返さないと分からないほどの小ささ。

俺は二歳でアリヅカコオロギを知ってたし採ってた、というのを方々で自慢のネタにしているのだが、実はメクラチビゴミムシという虫の存在も二歳くらいの頃すでに知っていた。当時、上の種の産地たる観光洞が家の近所にあり、親に連れて行ってもらったことがあった。その際、入り口で貰えるチケットに「この洞窟に住む生きもの」と称して、それの名前とイラストが載っていたため、すぐ覚えたのだ。当時のチケットにはなぜか「○○メクラチビゴミムシ」でなく「○○チビコムシ」の名で記されていた。
もっとも、実際にその生きた姿をそこで見るのは、それから20年も後のことになる。

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ムラサキツバメNarathura bazalus幼虫。福岡にて。

マテバシイのひこばえに、若齢幼虫がうじゃうじゃいる。葉を完全に食い尽くしてしまい、茎に食い入り始めている。不思議なことに、周囲にはマテバシイの木がいくつも生えていて、まだ葉の茂るひこばえを持つ木もいくつかあるのに、それには全く幼虫がいない。母蝶が明らかに木を選んで産卵しているようである。

1107.jpg成虫が近くにいた。人生で初めて、至近でまっとうに成虫の姿を拝んだ。この蝶は翅表が紫色をしているのだが、オスは限りなく黒に近い紫をしており、あまり煌びやかではない。蝶としては珍しく、メスのほうが美しい。

1108.jpgキイロゲンセイZonitis japonica。猛毒を持つツチハンミョウ科で、ハナバチ類の巣に寄生する。

だいたい「○○ハンミョウ」という名前のものが多いツチハンミョウ科の中で、「げんせい」という名前は異質である。カナ文字表記だと、意味がまったく分からない。幼い頃図鑑で初めて見たときには「じんせい」に似た厳かな気配を感じた。
かなり最近になって、その名前の由来を知った。この仲間の甲虫はその昔、中国で漢方薬の原料として利用されていた。それが全身緑の種類で、「芫」という花に好んで集まるというので、「芫青」と名付けられたらしい。それを知って、ようやく腑に落ちた。

日本のゲンセイは黄色系のものが多く、緑の種類がいない。代表的なのがキイロとヒラズだが、正体のよく分からないヨツボシという美麗種もいる。

福岡にて。

同じ傷跡なぞり

1174.jpgキイロスズメバチVespa simillimaが、死んだスズメガの幼虫を削り取りにきた。アシナガアリAphaenogaster famelicaも。

1175.jpg案の定ハチが怒ってアリをふっ飛ばしにかかる。

福岡にて。

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シロマダラDinodon orientale。福岡にて。

分布は広いが生息密度は極めて薄く、夜行性なのも手伝って本土産ヘビ類では一番出会うのが難しい。車に轢かれたやつはしばしば見るが、生きたやつを見たのは上の個体が人生でまだ3度目。マダラヘビ属は本来熱帯系だが、本種は日本の北海道まで分布しており、一番北まで分布している部類に入るだろう。そして、日本にしかいない。

人生で一番最初に出遭ったのは長野であった。かの地に移り住んで間もない頃、まだ開拓し始めたばかりの裏山を真っ昼間に歩いていたとき、目の前に伸びていた。夜行性で数少ないこれが、白昼堂々見つけてくれと言わんばかりにわざわざ俺の前に現れたことに運命を感じ、森の女神の思し召しと思ってこれを連れ帰り育てることにした。

訳あって「ユキさん」と名付けた彼女は、驚くことに今も家にいて元気に生きている。13年間、近所からトカゲを捕まえてきて食わせ続けた。このヘビは自分より小さい爬虫類しか食わない狭食性の種で、餌の調達の難しさからかつては上野動物園さえ飼育を断念したほどらしい(実際は、鶏肉などでどうにか飼えないこともないらしい)。
でも、俺にとって近所でトカゲを採って来ることなど造作もなかったので、月に2,3匹トカゲを採ってきては与え、10月を過ぎたら寝かしつけ、3月末に叩き起こすというサイクルをずっと続けたら、何だかうまくいった。マニアの間でも、シロマダラを10年以上飼育下で生かすのは難しいとされているらしいが、特に問題なく生きている。乾燥ぎみにして、あまり不必要に構わないのがいいようだ。

1144.jpg本種のような変温動物食ヘビは、カロリーの低い餌を常時多量に食うことで生命を維持している。だから、同じく変温動物食でカエルが主食のヒバカリなどは、ほんの数日餌をやらないだけで骨と皮みたいに痩せこけてしまう。でも、シロマダラは1ヶ月程度餌を切らしてもそうそう痩せない。カエルほど一箇所に高密度でおらず、捕獲が難しいトカゲを専門に食う本種は、しばらく狩りが成功しなくても飢えないような体のつくりになっているのだろう。

変温動物食ヘビは、代謝が異常に早い。恒温動物食の青大将などは、飼育すると半年に一回程度脱皮をするが、シロマダラはほぼ月1か二ヶ月に1回のペースで頻繁に脱皮する。もともと食欲旺盛ではあるが、脱皮後は失った体力を取り戻すため、ことさらに食欲が増す。
生きた餌を調達するのは大変だし、何より餌動物が可愛そうだから、市販の肉などの代用品を餌にするという人もいる。しかし、こういう野生動物を本来自然状態で食っていなかった人工餌で飼育するのは、点滴で栄養を流し込んで生かしているだけの状態と何も変わらなく思う。自然からさらってきた以上、せめて自然にいた時と同じものを食わせるのが礼儀だと思い、生きた餌しか与えないことにしている。

実のところ、あの僻地から南国に移住する際、よほどユキさんを手放そうかと悩んだ。新天地でどれほど餌を確保できるか分からなかったし、連れ回すのも気の毒だから。しかし、13年も人の手元に置いたものをいきなり野生に放るのは、それはそれでいろいろ問題があるだろうし、何せ引越しの時期がまだ雪の残る3月だった。裏山に放ったら確実に死ぬと思い、結局連れてくることにした。
幸い、トカゲが多い地域だったので、ユキさんに餌の不自由をさせることなく過ごせている。口のあるものを手元に置くのは、大変である。

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アゲハチョウPapilio xuthus。夜の公園に眠る。

考えたら、並アゲハを写真に写したのは、もう何年ぶりだった。住宅街で、道すがら偶然見つけた。撮影機材を組む煩雑さと、何より事案発生ツーホーのリスクが頭に浮かび、よほど無視して通り過ぎようかと思ったが、撮って正解だった。

福岡にて。

1103.jpgクツワムシMecopoda nipponensis。福岡にて。

裏山に、ものすごい数が住んでいることに気づいた。下草に隠れているので姿を確認しがたいが、たまたま草刈した跡に高密度でいたので、たやすく見つけられた。
いわゆるガチャガチャだが、すぐ至近で聞くと一個体の鳴き声は「キャキャキャキャキャキャ・・」という声の繰り返しであるのに気づく。そして、耳の鼓膜を破かんばかりのうるささ。集合している場所へ近づくと、その茂み全体で何か巨大な機械のモーターが動いているのかと思うほどの轟音。
クツワムシは日本の鳴く虫では格別に好きな虫なので、これがうじゃうじゃいるのはうれしい。これがもっと居住区の近くであれば、毎晩聴きに行きたいほど。

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クツワムシに関しては忘れがたき思い出がある。2才くらいのころ、母方の実家がある漁村の裏山にはこれがたくさんいて、夏の夜はにぎやかだった。しかし、クツワムシは夜中、うっそうとした藪の中だけで鳴く。マムシがいるかもしれない夜の藪に、親は俺を入らせようとしなかった。しかし、俺はどうしてもあのやかましいほどに自己主張をするこの虫を手にしたくて、採りに行きたいとさんざん駄々をこねた。
そしたら、当時まだ存命だった祖父が、俺のために黙って一人でマムシのいる藪まで夜中分け入り、クツワムシを採ってきてくれたのだった。そのとき、生まれて初めてクツワムシを見た。予想以上に大型の生き物で、葉っぱに擬態した姿といい、やかましい鳴き声といい、すべてに魅了された。

それからまもなく祖父が他界した頃を境に、突然この地域からクツワムシが減り始めた。毎年夏休みに来るたびに、夜中のあの声がまばらとなり、ついにはまったく鳴き声がしなくなった。ちょうどこの時期バブルか何かの影響で、この地域の山べりの「遊んでいる土地」が片っ端から住宅分譲地になったため、その煽りを受けて死滅したらしい。
もはや幻と思われたクツワムシだったが、2000年代初頭からなぜか突然また出現し始めた。それから急速に数が増え始め、今ではあの頃以上のやかましさで裏山をにぎわしている。

1105.jpg最近この漁村地域は急速に過疎化が進み、山に人が入らなくなった。かつては山沿いに整然と並んだ畑も今や持ち主がいなくなり、下草がものすごく繁茂してきている。そのため、クツワムシが住みやすい環境が意図せず復活し、たまたまよそから流入してきた個体群がうまく定着したのだろう。
その状況がいいことか悪いことかは別にして、俺は祖父がクツワムシに姿を変えて、戻ってきたのだと思っている。

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対をなすショウリョウバッタモドキGonista bicolor。夜の草原で。

1126.jpg
ススキ原に局所的に住む。日中だとすぐ葉裏に回り込んでしまうため、撮影困難。ススキの葉は枯れた部分が紫に変色しやすいが、こいつらの体色はそれにそっくり。

1125.jpgツチイナゴPatanga japonicaもいた。

福岡にて。