今年のアルバムから。
2021.jpgジュズフシアリProtanilla lini。屋久島にて。

地下性の珍種で、滅多に見られない。細い体をヘビよろしくくねらせ、土砂の間を這い回る。眼はない。ただし、生殖階級の個体にはある。

生まれて初めて自力でコロニーを発見した。この仲間のアリは、普段は地中深くにコロニーを構えており、なおかつ軍隊アリのようにしょっちゅう移住する。だから、遭遇は本当に偶然に依る他ない。生息密度も薄い。前に見つけた場所を探しても、まず二度と出会えない。
本当は、これに近縁かつ屋久島固有のあるアリを見つけたかったが、それはかすりもせず。原記載以後たぶん採れていない程のものなので、二度三度来た位で出会えるなんて思っちゃならない。

生態は不明な点が多いが、少なくともムカデなど大型土壌動物を餌にするのは確からしい。乱杭歯のような滑り止めの毛が並ぶキバで獲物に食らい付き、毒針で刺し殺す。
吸虫管で吸った際、フィルターが甘かったせいで一匹口に入った。上顎を毒針で刺された。3mmサイズのくせに、ビックリするほど痛かった。人間でさえあれ程痛いんだから、ムカデ程度の生き物じゃひとたまりもなかろう。

今年のアルバムから。
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2092.jpgブラシザトウムシらしき幼体。福井にて。

地下浅層から出た。

ナヘマー

2102.jpgキタガミトビケラの住む渓流。水量が多く、水温が低い上に流れが非常に急で、真夏ですら長時間入ってられない。

ここへはキタガミトビケラが見たくて来たわけではなく、別の目的があったのだった。この渓流には、どうしても仲間にしないといけない暴虐の精霊が住んでいる。それを目当てに行き、探す過程でたまたまキタガミを発見した。本命のほうは、まったく発見できなかった。

暴虐の精霊は、成体なら夜間渓流沿いで灯火をたけば、いくらでも呼び寄せることができるという。しかし、幼体の姿を拝むのは究極に至難を極める。何せ、立っているのも難しいほどの激流や滝つぼ直下の川底に住んでいる上、全身全霊をかけねば持ち上がらないような巨岩の真下にしかいないという。
水生生物に詳しい大学OB曰く、これを捕まえるには登山用のザイルで体を固定せねばあっという間に溺れて流されるような、すさまじい激流中に長時間浸からねばならないそうだ。

とある情報筋から、そこまで命を賭けずとも見つかる可能性のあるここを見出し、探したのだが・・また来る必要がありそうだ。暴虐の精霊はとにかく巨大で、全身がおびただしい剛毛で覆われた肉食獣である。

今年のアルバムから。
2090.jpgキタガミトビケラ Limnocentropus insolitus。長野にて。

幼虫は河川上流の激流中にのみ生息する。植物の屑を集めてミノムシ風の巣を作るまでは、有象無象のトビケラと同じ。しかしこいつは、巣に長い柄を伸ばし、川底に固定してしまう。強靭かつ強大な脚をそこから広げ、流されてくる他の生物を引っ掛けて食い殺す。清涼な水質でないと生きられず、各地で希少種扱いされているものの、産地ではきわめて高密度に見出される。

数あるトビケラ中、一番好きな奴。昔、ネット上でこれの正面ヅラがでかでかとプリントされたTシャツを見たことがある。カマキリ超獣みたいな禍々しい脚を広げ、こちらに掴みかかろうとするその絵面にやられ、当時現物を見たことがなかった俺は、何とかしてその御姿を拝みたいと思った。また、これに近い構図でカッコいいこれの写真をどうにか撮れないものかと思案した。
長野ではちょっと山手に行けば比較的普通にいるものらしいが、居住してた13年間中、ついに一度も見る機会がなかった。今年、ある用事である渓流に行った際、たまたま多産地を見つけた。そこで、これのカッコいい写真を撮ろうとしたのだが、これが想像以上に至難を極めることが判明した。

水中にいるものを撮影する方法としては、カメラに特殊な防水ギミックをかませて直接水没させる方法と、被写体を一度水槽などに移して撮る方法の二つしかない。
前者は、本格的設備を揃えたら一発で破産するので、必然的に後者一択。巣が付いた川底の石を拾い上げ、あらかじめ持参した容器にブツを移してさあ撮るぞ、と思ったら、様子がおかしい。

2086.jpg虫が外に身を乗り出し、柄を齧り始めた。あっという間に食いちぎり、離れてしまった。この虫は非常に警戒心が強く、何か不都合があると速やかに固定部を切断して逃走するのだ。一度これを始めてしまうと、やめさせる手だてがない。
こっちは、自然な状態で脚をカアッと広げた姿が撮りたいのに、これではまずい。幸い、辺りには腐る程の個体がいるので、何回か続けざまに再チャレンジした。だが、全て失敗。一度水から出してしまうと、必ず逃げられることが分かってきた。それ以前に、水中にある巣の付いた石を拾い上げようと、その石に手をかけた時点で奴らは逃げる準備を始めてしまうのだ。どんだけ臆病なんだ?

その後、延々試行錯誤した結果、ものすごくそーっと石を拾い上げること、それをあらかじめ水中に沈めた容器に入れることで、多少ニブチンならすぐ逃げられずにとどめておけるらしいことが判明。
しかし、問題はそこから。容器を水面に上げ、川岸まで運んで平坦な地面に置き、さらにディヒューザを素早く容器に取り付けて撮影しないとならない。運搬中、不自然な振動を与えると、すぐ柄を齧り出す。また、いつも流水中にいるため、水流が止まるとそこがいつものあるべき場所でない事に気付き、怪しみ始めてしまう。その時は慌てて川に戻り、水流を当てて安心させねばならない。ものすごく疲れる。

2087.jpg一番大きく脚を広げた瞬間だったのに、慌てて巻いたディヒューザの巻き方がまずく、光が回らない。

2088.jpgディヒューザを直した頃には、もうこちらの手の内に気付かれてしまった。脚を縮めてしまい、もう広げない。この後、速攻で食いちぎられた。

2089.jpg食いちぎった柄の上でへらへら動く。撮れるものなら撮ってみろと、こちらを馬鹿にして踊っている。

恐らく、家で飼育すれば楽に撮れるんだろうが、渓流にいるものなんて飼うの難しそうだし、持ち帰る段階で死にそうなので、なるだけ現地で撮影したい。また、近年は防水仕様のコンデジも多く出ているからそれを使う方法もあるが、レンズやストロボの事を考えれば、今の愛機でどうにかしたい。一番好きなトビケラだから、一番綺麗に撮ってやりたいのだ。こいつの撮影は、来シーズンの課題とする。

キタガミトビケラ科は日本では1種だが、ヒマラヤには近い仲間が他にいるらしい。今回相手にしなかったが、この沢には同所的にムカシトンボもいる。ムカシトンボもやはり近縁がヒマラヤにいる。山沢の崩落地地下にいるリュウノイワヤツヤムネハネカクシも、やはりヒマラヤ要素の仲間。日本の山沢は、ヒマラヤへと続く時空転移門。

今年のアルバムから。
2058.jpgたぶんヒメシジミガムシLaccobius fragilis。長野にて。
※コモンシジミガムシL. oscillansとのご指摘を頂きました。ヒメは、上翅の縁に点刻がないそうです。ご教示頂いた方、誠にありがとうございます。

ゴマ粒サイズのこの仲間は種数が多いばかりか、解剖してオス交尾器の形態を精査しないと確実な種同定ができない初見殺しの鬼門グループ。

無印のシジミガムシL. bedeliというのを探したい。かつては全国的なド普通種と言われていたのだが、この種が実はオス交尾器でしか識別不能な3種からなっていたこと、そして真のL. bedeli は日本国内で確実に存在する箇所がほぼない超絶珍種であることが、比較的近年に明かされた。
過去に日本各地で無印のシジミガムシが採れたと記された記録は、実はほぼ全てそれに酷似した別のド普通種の誤認のようである。安曇野市レッドデータブックには、古い採集記録があるとして無印が掲載されているものの、当時の標本が残ってないようで、やはり誤認の可能性が否定できないと県版レッドの方に記されている。

死ぬ前に一度で良いから、「今やデジカメで昆虫写真が残せるのに、昆虫を殺して標本を作るなどという野蛮なことを今だ続けている人間の気が知れない」だの、「昆虫は網ではなく写真で撮る時代だ」だの言う人間に、Laccobiusの綺麗な生態写真を100枚送りつけて、一つでも正確に同定してみろと言ってみたい。

今年のアルバムから。
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ハルゼミTerpnosia vacuaを襲うキアシナガバチPolistes rothneyi。長野にて。

羽化に失敗した個体がやられた。セミは腹の中がスカスカなので、筋肉の詰まった胸部だけを抉りとって持ち去る。羽化前後のセミは無抵抗なうえ、サイズ的に手ごろなので、アシナガバチなどの天敵にやられる可能性が高い。少しでもこうした敵に襲われるリスクを下げるために、日没後を選んで羽化する個体が多いが、それでも完全に敵の目を掻い潜ることはできない。

このセミにとっては、何一つ報われない7年間だった。

今年のアルバムから。
2056.jpgココノホシテントウCoccinella explanata。長野にて。

一見ナナホシっぽいが、星が2個余計にある。開けた環境で見られ、基本的な生態はナナホシに準ずる。ただし、北日本ほど普通にいるものらしく、長野辺りではかなり少ない。安曇野市レッドデータブック掲載種。

今年のアルバムから。
2055.jpgウスバツバメElcysma westwoodiiの交尾。長野にて。

油とり紙のような質感の翅を持つ、美しい蛾。遺伝子操作でミヤマシロチョウ70%、ウスバシロチョウ30%を混ぜたような印象。秋口の早朝にだけ活動し、配偶行動を行う。長野の松本近郊あたりでは少ない。ただ、活動時間帯がやや特殊なので、十分調査されていない可能性がある。
メスは明け方に枝先に止まってフェロモンを散らし、オスを大量に呼び寄せる。しかし、メスは容易に交尾を許さず、しばらくオス同士をその場で争わせる。

2059.jpg何らかの理由により、フェロモンを漏らしながら死んだメスにオスが迫る。よく目立つ外見の上に飛び方もとろいが、強い毒を持つので敵に食われない。

今年のアルバムから。
2054.jpgクビアカツヤゴモクムシTrichotichnus longitarsis。長野にて。

今年のアルバムから。
2057.jpgマルアワフキLepyronia coleopterata。長野にて。

どこにでも普通にいる。