国の摂理に挑む者達―地を断つ手鍬は未だ折れず

2192.jpgノムラメクラチビゴミムシRakantrechus nomurai

九州中部の限られた石灰岩地帯に固有。本種は3亜種に別れ、それぞれ近隣の別々の場所に住み分ける。

ラカンメクラチビゴミムシ属は、日本の西南部に限って分布する地下性昆虫の一族。メクラチビゴミムシの中でも、特に地下深いところに住む仲間であり、個体数の少なさも手伝って、採集が至難な仲間である。土木作業で採ろうと思えば、たった一匹のために休日返上で丸一日を費やして掘る必要がある。
本属内には複数の亜属があり、ノムラはサイカイメクラ亜属になる。初めて見たサイカイメクラ亜属の種。しかしサイカイメクラのサイカイとは、長崎のさいかい交通のさいかいと同じだろうか。あっち方面には分布してないようだが…
この仲間は九州における種分化の程度が病的に著しく、たかだか半径十数キロ以内で10種弱が共存域なく住み分けている地域もあるようだ。しかしそれを裏返せば、個々の種の分布域が物凄く狭いということ。

2191.jpgサイカイメクラ亜属の仲間は、原則どの種にも胸部後ろ両端に毛が一本立つ。しかし、ただ一種のみ、その毛がない種がいる。そいつこそ今俺が求めてやまない、半世紀前に現世からロストした精霊・識別名[エレガンス]だ。
[エレガンス]は、ノムラの分布域から遠くないある山でのみ見つかっている。そして、外見がノムラに瓜二つらしい(それ故、絶滅させられた上に学術的価値が低いとの烙印まで押されている)。ノムラを見ていると、[エレガンス]を発見した気になれる。いっそ、胸毛を毛抜きで引っこ抜いて、[エレガンス]を再発見したと言い張れば…いや、やっちゃならんな。

あくまでこれはノムラであって、[エレガンス]ではない。本当の[エレガンス]を再発見しないとダメだ。

朝霧の/神無月の

2371.jpgミコバチ(チョウセンホソミコバチ)Sapyga coma

ミコバチ科Sapygidaeは、もともと科レベルで日本に存在しなかった分類群。数年前、突然関西のある地域で見つかり、国内での定着が判明した。竹筒に営巣する外来ハナバチの巣に寄生することから、寄主と一緒に大陸の方から物資に紛れて侵入したものらしい。

ミコバチのミコが何をさすのかは謎。どんな文献で調べても分からず、周囲の人間に聞いても誰一人知らない。「昆虫分類学」(川嶋書店)によれば、科名Sapygidaeの由来も分からない。和洋ともに何が何だか意味不明な名の生物。
人間がつけたはずなのに、由来が分からない生物の名というのは、まっこと多い。

ふるさとはいいもんさ

2337.jpgジネズミCrocidura dsinezumi。大分にて。

平地に広く分布する。生きた姿を見るのは至難だが、春先は活発に動く関係で、遭遇する確率が多少上がる。NHKの砂アニメのあいつら宜しく、常に小声で何か言いながら行動するので、近づいてくるとすぐそれと気付ける。北海道や本土の高標高域にはこれに似たトガリネズミの仲間がいるが、トガリネズミは耳(外耳)が殆ど見えないほど小さいので瞬時に区別可能。

ヒミズ同様、短期記憶が苦手。ストロボを立て続けに何度浴びせても一向に慣れず、発光と同時に驚き引っ込むため、ピントの合った写真が撮れない。

幼い頃、父親が運転する車の中で父親が頻繁に演歌をかけていた。その中でも特に高頻度でかかったのが吉幾三だった。「故郷」という歌のサビ部分「近くなる故郷に、寝ずに窓を見る」が、「ネズミ窓を見る」にずっと空耳していて、何でいきなりネズミの話が出てくんだよ、と幼心に思ったものだった。

神威霊装・二番(ヨッド)

2253.jpgとある洞窟の最奥に住む精霊の作り出した、霊装。霊装は、霊力によって編まれた絶対の鎧にして城。

この精霊は俺にとって絶対に撮影せねばならないものだったのだが、とにかく一筋縄でいかなかった。その洞窟は高さ10数mの垂直な断崖の真下にあり、下るための道が一切ない。そこへ行くためには、鹿も通らないような足場の悪い崖を、撮影機材を担ぎつつ慎重に降りねばならない。崩れたら、即死。
たどり着くまでが大変なら、たどり着いてからはなおさら大変だ。極めて複雑に入り組んだ立体的な構造をした、天然の迷路。入ったら最後、二度と外へ脱出できない構造になっている底なし地底湖の部屋など、致死的なトラップがいくつも仕掛けられている。幅30cmほどしかない上、地面側が泥とコウモリのクソのカクテルになった汚水だまりの隙間に、顔面からヘッドスライディングをかまして滑り込み通過せねばならない場所もある。

何より大変なのは、そんな場所の奥までカメラを持って行かねばならないことである。虫本体だけ撮影したければ、体一つで奥まで入って虫だけ採って戻り、外で撮影すればいいだけ。しかし、俺は洞窟の壁面に固着したそれの巣を撮影したかったため、そういう手は使えない。何としてでも、カメラ自体を幅30cmのクソ水溜まりの隙間の向こうに通して運ばねばならないのだ。ない知恵を無理くり絞って、どうにか通した。そんな荒行を、行きと帰りの2回。朝入洞して、外へ出てきたのは夕方だった。
奥に行ったら行ったで、湿度がどんどん高くなるためカメラのレンズがあっという間に曇る。その湿気を抜くのにまた一苦労。上の汚らしい虫の巣の写真たった一枚撮影するために、それだけの労力と時間と命がかかっている。
なお、この精霊の霊装を撮影したことのある人間は、知る限り過去にたった一人しかいない。スマホも小型コンデジもない時代のこと、かの先人も全く同じ苦難の末にあそこへたどり着き、あの一枚を撮影したのだ。

しかし、あの洞窟は危険な場所だったが、同時に本当に楽しい場所でもあった。入口に「ネズミ返し」がある。入ってすぐの所に高さ4m弱の垂直な段差があり、ここを突破せねば入洞すること自体ができない。しかし、真横の壁に幾ばくかの溝と幾ばくかのコブが出ていて、これに上手く足をかけて手で握ると壁をよじ登って段差を超えられる。
この溝とコブは天然のパズルで、正しい組み合わせの溝とコブを選んで足と手をかけた者だけがよじ登れる仕組みになっている。正解以外の組み合わせの溝とコブを選ぶと、登る過程で必ず滑り落ちてしまう。俺は10分で正解が分かったが、同行者の中にはついに入口から先への侵入を断念した者もいた。

2250.jpgマシラグモ一種Leptoneta sp.。

九州の洞窟で見た。この仲間は、光の加減により脚から燐光を返すため、とても美しい。岩の隙間にきめ細かなシート状の網を張り、その裏側に張り付いて獲物を待つ。

2251.jpg別の洞窟で見た、おそらく別種。九州では相当種数の存在が示唆されているものの、分類がまったく進まないようで、正式に記載されたのはイリエマシラグモL. irieiやツシママシラグモL. tsushimensisなど、限られたものだけ。

モッコス将軍

2255.jpgヒゴツヤムネハネカクシQuedius higonis

九州の限られたエリアの地下に生息する、大形の希少甲虫。獰猛な性格で、近くに来た他の生き物を食い殺す。この仲間は似た種が沢山おり、それぞれが日本各地の別々の場所に住み分ける。洞窟環境においては、コウモリのクソ溜まりの上で見つかることが多いが、どういう訳か幼虫の数の多さの割に成虫がほとんど見つからない。幼虫10に対して成虫1くらいの頻度。
外見では近縁種と区別しがたいと思っていたが、見比べると意外に結構違うものだ。

2335.jpgオオセリュウガヤスデSkleroprotopus osedoensis

2336.jpg九州中部に生息する、好洞窟性種。洞窟に住むことは生存に必須ではないが、洞窟で見かけることが多い生物。生息地での個体数はきわめて多く、コウモリのクソの山にスパゲッティーの如く群がっている。知らない人がそれを見ると、引く。

色の極端に濃いやつと薄いやつがいるが、理由は不明。脱皮後の経過時間の差によるものか。

2252.jpgヒゴホラヒメグモNestics higonsis

九州の地下空隙に特産する。その名から推測されるほどは分布域が狭くなく、北部から中部にかけて連続的に分布する。
岩の隙間に、不規則な網を張って獲物を待ち受ける。外部から流入した有機物により餌の小動物が多く発生する、洞窟の入り口から10数m位までのあたりが一番多くの個体を見つけやすい。だが、コウモリのクソが堆積していればかなり奥の方でもそれなりに見られる。

ホラヒメグモ類には、このヒゴホラのような大形の種群と、比較的小型の種群のものが存在する。小型種群のものは、かなり狭い空間にも巣を作れるため、ちょっとした石垣やモグラの巣など日本中どこにでもあるような地下空隙でも生息できる。それを受け、1種あたりの分布域もわりと広い。
他方、大型種群は営巣のために一定以上の空間を必要とする上、乾燥にとても弱い。そのため、洞窟やそれに準ずる多湿な地下空隙に依存した分布様式を示す。自分の生息拠点から遠くに移動することができないので、必然的に孤立した個体群を形成することとなり、地域ごとに細かく種分化する傾向が強いのである。

日本の大形ホラヒメグモ類の種分化の激しさは、他国と比べても抜きんでており、外国のクモ学者が総じてぶったまげるレベルらしい。ことに九州のものにおいては、狭いエリア内でメクラチビゴミムシ並に複雑な種分化を遂げている(複数種からなる共存域は、原則ない)上、四国や本州に分布するものとは系統的に関連性が薄く、生物地理学的に見て重要な試料である。

2333.jpgホラアナヒラタゴミムシJujiroa sp.。四国にて。

見つけた位置関係から察するにJ. nipponicaかもしれないが、不明。地下性傾向の顕著な仲間で、移動能力が低い。メクラチビほどではないにせよ各地で種が分かれている。西日本を中心に、潜在的には相当種数が存在するのだが、その大半が名無しの未記載種。九州にいるものなど、記載されている種のほうが珍しいくらい(そもそも記載種いたか?)。メクラチビよか遥かに採集は楽だし、サイズもでかくて研究しやすそうなものだが。
この仲間は、和名も種により「○○ホラヒラタゴミ」だったり「○○ホラアナヒラタゴミ」だったり「○○ホラズミヒラタゴミ」だったりと、ブレまくっている。統一すりゃいいのに、これ如何に。

山沢のガレ場の石をどかすと、しばしば出てくる。特に、岩の隙間の奥でサワガニが行き倒れて腐っていると、傍で見つかる確率が高い。ただし、この仲間は種により採集難易度が著しく上下する。
本州のある場所で、この仲間のある種をどうしても生きたまま発見せねばならない。しかし、その産地にこれまで通算30回近く通っているにもかかわらず、一匹とて発見できたためしがない。そのエリアでは近年、周縁地域で進行する開発の影響からか地下環境の乾燥化がひどく、多くの地下性生物が極端に数を減らしている。あの種もきっと、他の地下の衆ともども「じゃーなw」と言って消え去ってしまったのだろうか。

2332.jpgイソップの、骨だか肉だかを落としてしまう犬よろしく、水面に写る己を見つめる。たぶん見えてないが。

2334.jpgイズシメクラチビゴミムシRakantrechus subglaber

四国の極めて限られたエリアにのみ分布する。一般的なメクラチビゴミムシに比べて、あまり水を含まずベチャッとしていない地下空隙を好む。そのため、他の大概の種が得られるような深さと環境の場所をいくら探しても、一つもこれを発見できない。メクラチビゴミムシの採集は、一筋縄ではいかない。
この種の直近の親戚筋は、四国内に全く存在せず、むしろ本州の秋吉台などにいるものに近いとされる。今日のメクラチビゴミムシ達の分布は、過去に起きた日本の地史の移り変わりを正確になぞった結果である。

メクラチビゴミムシは、とても綺麗好き。泥っぽい地下に住む割に、体に泥などがほとんどこびりついていない。見ていると、しょっちゅう脚で背中をこすったり、触角をしごいたりする様子が観察できる。地下の多湿環境においては変な病原菌に冒されるリスクが高まるので、常に体を清潔に保たねばならないのだろう。
あまり知られていないが、メクラチビゴミムシは冬虫夏草やらラブルベニアなどの菌類が取り付くことがあり、特に前者は致死的に作用する。

チョロチョロ走り回るメクラチビゴミムシを撮影する際、舞台の岩盤上から落ちないように指で軌道修正することが多い。人間の指に接触した後、メクラチビゴミムシは露骨にイヤそうな感じで触られた脚や触角をぬぐったりする。油と手垢にまみれた人間の指先など、彼らにとっては雑菌の温床そのもの。
「駄犬が!汚ねえ手で触んじゃねえよこの変態!!」と、メクラチビゴミムシの声なき声を聞く度に、申し訳ない気分で撮影する。

2342.jpg
ニホンヤモリGekko japonicusの幼体。四国にて。

海岸近くの神社の石灯籠にいた。身を隠せないほど狭い隙間に、それでも無理くり体をねじ込んで隠れたつもりになっている。

2341.jpgノグチアオゴミムシLithochlaenius noguchii。四国にて。

河川敷では普通。そして河川敷以外では見かけない。

2340.jpgニホンミツバチApis cerana japonica。熊本にて。

2331.jpgオオミノガEumeta japonica。静岡にて。

冬に帰郷した際、探しまくった。梅で多く、柿にも少しいた。思ったよりは多く見つけたが、それでも侘しいほどの少なさ。日本各地で気づいた時に探しているが、見れば見るほどこんな紡錘形でこんなでかいミノムシには見覚えがない。幼い頃、身の回りで見ていたミノムシの9割方は、円筒形で表面に小枝を平行に並べるチャミノガだった。

オオミノガは、日本では本州中部以南が分布中心という。近年まで関東一円から南へほとんど出たことがなかった身、オオミノガを見慣れてないのも致し方ない。

2330.jpgコツノアリCarebara yamatonis

暖地性の極小種。メジャーはともかく、マイナーはよほど気をつけないと存在にまず気づかない。母方の実家がある、漁村の裏山の薄暗い照葉樹林内でコロニーを見つけた。

2293.jpgキオビエダシャクMilionia basalis

西南日本で見られる、究極の美麗種。蛾だが、知らない人が見たら10人が10人蝶と言い張って憚らなさそう。しかし、その外見の美しさとは裏腹に、生息域ではとても嫌がられている。庭木として植えられるイヌマキの大害虫だから。
キオビエダシャクでネット検索すると、トップ20〜30くらいはキオビエダシャクの駆除に関連したサイトばかりで占められている。愛でるサイトは後ろの方にしかない。時に大発生して木を丸裸にしてしまい、本気で薬剤を撒かないと被害を抑え込めないこともあるらしい。
西日本に縁のなかった俺にとっては、初めて見たとき大層感激したものの一つ。しかし、生息地ではあまりにもウジャウジャいるため、次第に見るのもうんざりしてくる。体内に食樹由来の強い毒を持ち、鳥などの天敵に食われることが少ないのであろう。あらゆる生き物に嫌がられている。

2294.jpgこの個体を見た神社には、イヌマキの木がいくつも植わっていた。そしてその殆どが、ボロボロに食い荒らされていた。食われすぎたせいかは知らないが、半ば枯れかけている木も数本。

2291.jpg
たまたま羽化直後の個体を見た。しっとりした翅の質感、メタリックな輝き、全てに心奪われて、しばし見入った。しかし、見る人が見れば、また一匹クソ害虫が余計に量産されたとしか思わない光景だろう。

アマゾンのジャングルに住む煌びやかな蝶の趣きすらある、こんなに美しい種であるにも関わらず、虫マニアからの人気はすこぶる低い。ドイツ箱にギッシリこれをコレクションしている同好の噂を、往々にして聞かない。いくら見た目の色彩が綺麗でも、希少性が伴わない虫は人気がないものである。
逆に、どんなに地味で面白みのない外見でも、希少価値のある虫は皆がこぞって我先に手にしようとする。ある一地点にしかいない米粒サイズのメクラチビゴミムシとか、家の便所の窓枠に引っかかって干からびた蛾と幾ばくも違わない見た目の高山蝶など、その筆頭格と言える。

長野では、天然記念物の高山蝶を密猟した蝶マニアがしばしばパクられる。地元紙には、年に一度は必ず高山蝶の密猟検挙を大々的かつセンセーショナルに報じる記事が載る。それこそ、やんごとなき階級の要人を暗殺した、悪逆無道の殺人鬼を吊るし上げるが如くの晒しっぷり。
高山蝶と呼ばれる蝶の仲間は、中には綺麗なものもいるが、ぶっちゃけ薄汚い色彩の種のほうが多い。もし同じものが平地に普通にいたら、誰一人手など伸ばさないに違いない。タカネヒカゲなど、言ってしまえばウンコ色の蛾みたいなものだが、それでも限られた山の頂の一点にしかいない珍種ゆえ、欲しい者は己の社会的抹殺も厭わず手にしたいのだろう。

2292.jpg早春の夕日を浴びて翅を伸ばすキオビエダシャクは、「虫マニアにとって虫の価値とは何か」という命題について考える機会を与えてくれる。



※天然記念物の密猟、ならびに自然保護管理地区内での無断な生物採集は、死刑すら生温い重罪です。希少生物存続の直接的脅威になる事は元より、地域の人々やフィールド調査許可を出す機関等、自然科学の発展を支える全ての人々の信頼を裏切り、結果として後世の純粋な科学者による研究活動に要らぬ枷を増やす要因になりかねません。やめましょう。もしくは正規の手続きに沿った許可をとりましょう。
国立公園の特別保護地域で虫の調査をするまともな研究者は、たとえアリ一匹持ち出すのさえ事前に数ヶ月も前から沢山の許可申請書類を作成し、複数の関係省庁に提出の上、調査日当日は行きと帰りの二度省庁まで出向いて挨拶回りする、ということを当たり前にやっています。

2309.jpg五島列島の地下空隙から出たナミハグモ。地域から考えてゴトウナミハグモCybaeus gotoensisのはずだが、確定しないでおく。生殖器形態の精査なしに、この仲間の種同定は不可能。
石下などに土砂を糸でつづった、出口の二つある管状住居を構える。

2308.jpgゴトウノコギリヤスデPrionomatis verrucosum

五島列島の地下空隙に固有。全身純白。

ロミジュリ

2339.jpg
ミイデラゴミムシPheropsophus jessoensisの悲恋。熊本にて。

あきらかにまだ連結してない状態なので、オスがメスにマウントしようと追いかけていた最中、車が来たようだ。

春は多くの生物にとって繁殖期のため、みな普段より活発に出歩く。さらに注意力も散漫になるため、事故に遭いやすい。あちこちで車に轢かれた生物を見かける時期。

2316.jpgカワチマルクビゴミムシNebria lewisi。西日本にて。

河川敷の水際の砂地など、水に関係した場所に生息する甲虫。全国的に広く分布するド普通種(と虫マニアの10人が10人言うものの、実の所そんなにどこでもかしこでもいるものではない。生まれて初めて見たぞこんなもの)。生息地での個体数密度は、概して高い。

2314.jpgだいたい黒を基調とした体色で、黄色い部分が体の縁にあるという体色パタンが主流のようだが、この虫は個体により恐ろしく色彩変異が多い。異所間はもとより同地域内でさえ、ぱっと見ただけではとても同種とは思えないような個体も出る。
悪いことに、この虫に極めて近縁な希少種が2種いて、その両方に対して非常に酷似した色彩をもつ個体が出るのだ。外見での区別は殺人的に至難で、しばしば甲虫の専門家でさえ間違って記録に残すほど。それゆえ、件の希少種2種における標本を伴わない過去の文献記録は、一切信用に足らない。
希少種2種のうち、イエローサイドの方はそれでも見るところを見れば何とか区別できなくもないようだが、問題はツースポッテッドの方だ。図鑑を見てもネットで検索しても、ここを見れば一発でカワチと区別できるという特徴が何一つ書いてない。ツースポッテッドの方も色彩変異が顕著らしく、俺のような素人は体色では区別できない。世の甲虫マニアは、この2種をどうやって見分けてるのさ。

2338.jpgカワチと同じ場所にいた、謎の生物。周囲に無数にカワチが群がっている中に混ざっていたので、単なる色変だと思ったが、体型から見てどうやらツースポッテッドのようだ。

精霊conference

2329.jpg2271.jpgこの冬にデレた精霊。全て、環境省の(顧られない)絶滅危惧種。水生昆虫ばかりになってしまった。しかし、別に水生昆虫図鑑が作りたいわけではない。絶滅危惧種に水生昆虫があまりにも多いから、必然的にそうなっただけのこと。あと、寒い時期でも水生昆虫は探せるから。



昨年度、絶滅危惧種のクソ地味な虫共のみ集めた写真展を開いた。余所ではそうそうやらない試みだった故、地元では結構な話題となり、地元テレビ局の取材に来ていただいたりもした。来客の人々からの評判も上々だった。しかし、一部「種数があまり多くなくて残念」との感想を残した人がいた。展示スペースの都合上、あまり無尽蔵に展示種数を増やせなかったというのもあるが、その当時そもそもそんなに多くの絶滅危惧種を落とせていなかったというのが大きい。

好きでやっているばかりか自分で決めたこととはいえ、自分の本職の合間に絶滅危惧種を現地まで行って生きたまま撮影するというのは、相当に大変だ。絶滅危惧種と言ったって、俺が求めているもののうち大半は別にどこかの保護区で守られていて、行けばいつでも会えるという類のものではない。大抵は、宅地・リゾート開発し損ねた、そしてこれから開発する予定の「遊んでいる土地」にいるものばかり。ものによっては家のすぐ近所で見つけられるものもあるが、ものによっては相当な遠出をせねば遭遇できない。

金と時間は非常に限られているので、絶滅危惧種に会うためには、それがいつどこにいけば出会えるかを事前に入念に調べる必要がある。行くからには、何物に引き替えてでも絶対に落とさねばならない。だから、今まで出版された虫の同好会誌を洗いざらいチェックし、関連する文献を片っ端から買い集める。しかし、文献さえ手に入れたら精霊との邂逅が保証されるわけではない。今の日本の自然環境は、秒単位で悪化の一途を辿っている。これがここにいるという情報を元にわざわざ大枚叩いて出かけたら、流行のメガソーラーに産地まるごと潰されていたなどはざらだ。
また、文献自体が版元販売元ともに完売で入手の術なしということもある。こういうときは、本当にどうしようもない。あのゴミムシやその蛾などは、それで既に探索を断念せざるを得ない状況にある。

時にはネット上に公開されている市町村、企業などの環境アセス報告書などを、野良犬のように嗅ぎ回って掘り当て、意地汚く閲覧する。
しかし、この手の資料では希少種保護の観点から、その種が確認された地点をぼかしていることが多い。だから、国土地理院の地形図やグーグルマップの航空写真などを駆使し、土地の成り立ちや植生の様子から考えて一番ここが怪しいというエリアをピンポイントで予測し、実際にそこへ行く。うまく当たることもあるが、外して無駄足を運ぶだけの結果になることの方がずっと多い。

最近それを見つけた詳しい人に聞くのが、一番こちらの持てるリソースの無駄がなくていいのだが、この手はあまり使えない。何せ、腐っても絶滅危惧種。それの居場所を知る人は、必然的にその種の安寧を守らねばならない義務を負っている。地味な絶滅危惧種といっても、分類群によっては例えばゴミムシ類のように熱烈なマニアがいて、下手に居場所を教えようものならばトラップで根こそぎ採りに行く輩がいないとも限らない。専門にそれの保護活動をしている人もいる。そんな人に、写真が撮りたいから程度の理由で、絶滅危惧種の居場所を教えろなんておいそれ頼めるわけがない。
よほど互いに気心の知れている、親しい人相手にしか聞けない。しかし、あまりにも教えてクンに成り下がるのも周りの迷惑になるし、何よりこっちにもプライドがある。結局、一人でどうにかするしかないということになる。

絶滅危惧種一種仕留めるだけで、ものすごい労力と時間と金がかかる。だから、世間様にお披露目できるレベルのものを完成させるまで、道のりが遠い。「これっぽっちしかないのか」などと言わず、気長に待って欲しい。
とはいえ、あまり余裕かましているとどんどん絶滅危惧種は増えていくだろうし、下手すれば絶滅するものも出てくる。どこかで区切りはつけねばならない。

CRユニット/ホワイト・リコリス

2207.jpg失敗写真ならば、こよりんの完品個体をタダで晒しても惜しくはない。完全な個体の尾節末端には、白い曼珠沙華が花開く。

2238.jpg赤いマスクをかぶせて、スカーレット・リコリスも作ってやった。特に意味はない。

この動物が何を食って生きているかは、よく分かっていない。近縁筋のクモガタ共の生態から考えて捕食性と見る向きが優勢だが、誰も直に見て確かめたわけではない。他方、洞窟性のこれの消化管内からシアノバクテリアが出たという報告例もある。

フレンチギアナの写真、終焉。

我が名はこよりん

クモガタ全目制覇するとは宣言したが、まさか最大の壁であろうこれを仕留める日が来ようとは…
2208.jpgコヨリムシPalpigradi。

残念ながらこいつは切れているが、名前の如くコヨリ状の長い尾を持つ、極めて微小なクモガタ類。現存する最大種ですら、たった2mm強しかない。この個体のように、通常は1mm前後。
世界中の熱帯亜熱帯から数十種程度知られるだけの、小さな分類群。湿った土壌中や石下、洞窟に住む。どの種も分布は著しく局所的で、クモの専門家でも生きたこれを野外で見た者は少ない。余りにも稀かつ小さ過ぎるので、基本的に狙って見つけ採りするものでなく、ツルグレンなどにより偶然土壌中から抽出されるもののようだ。俺は狙って見つけ採りしたが。

今でこそ画像検索すれば、俺みたいな世界の変態兄貴共が撮影したこれの生態写真がいくつか引っかかるが、10年近く前、ネット上にはコヨリムシの画像など写真はおろかイラストですらそう引っかかるものではなかった。
当時ヒットした数少ない画像の中に、植物の根が張る暗黒土中に佇むコヨリムシが、劇画調に描かれた絵があった。その美しさ、異形のカッコ良さにすっかりやられ、これの生きた奴だけは何とかして見たいと思い続けてきた。

フレンチギアナにこれがいるという情報自体は知らない。しかし、前に論文でブラジルにいるとの情報を見ており、いるだろうとは踏んでいた。
てっきり今回持参したウインクラーで落ちるかと思ってたが、見つけたのは洞窟の入り口。赤土にやや深めにはまった石の裏にいた。かつて見たイラストのイメージから、この生物は血色の悪いサソリモドキみたいなものと思っていた。実際には、尾を着けたヤイトムシに近い。極めて微小な上、亜光速でジグザグ走りし、立ち止まる瞬間がほぼない。これ一枚撮るのに、どれほど苦労したか。

この生物のコヨリは、極めて脆く脱落しやすい。だから、完全な個体を得るのが筆舌に尽くし難いほど難しい。
実のところ、上のとは別かつド完品の個体も、血尿を絞り出す思いで見つけ出し、撮影している。しかし、あまりに勿体無さすぎて、こんな所にタダで晒せる訳がない。

コヨリムシは、日本では大昔に石垣島にて、上のようなコヨリの切れた種名不明の個体がただ一匹見つかっただけとされる。しかし、ネットで調べると明らかに近年、非公式ながら他に記録が出ている。
ギアナでの修行により、大体こんな環境にいるという雰囲気は掴めた。これからは今まで以上に国内でコヨリムシを意識的に探してやろう。この仲間の分布中心は熱帯にあるが、他方ヨーロッパの洞窟にもいるため、洞窟環境を中心に日本のどこでも理論上は見つかっていいはずのものである。

今回のフレンチギアナで、一番見つけて嬉しかったもの。替えの服も何のその、これだけのために土砂降りのスコールの中、雨でベチャベチャのヤブをこいで2度もあの洞窟に行った。午前中から見続けて、気づいたら夕方だったほど。この数日後、我々は灯火に飛来した世界最大級の甲虫を目の当たりにするのだが、それを初めて見たときでさえ、俺はこよりんを最初に見つけたときほどの胸の高鳴り、心のときめきを感じられなかった。

2232.jpg白いカニムシ。オッドなスペシメンの一人。

体長2mm程の小型種。眼らしきものは見当たらない。赤土の地面に半分埋まった石裏にときどきいる。日本で洞窟から見つかる血色の悪いカニムシは大抵ツチカニムシ科だが、これは明らかにそれとは異なる仲間。

2231.jpgケダニ類らしき異形のダニ。オッドなスペシメンの一人。

体長2mm程度。最初、洞内の石をめくって見つけた際、カメムシか何かだと思った。

2276.jpg超小型のクモ。体長1mmもない。オッドなスペシメンの一人。

洞窟内の石をめくって、一番多く見られた生物。肉眼で見るとほぼ白一色に見えるが、ある程度黄色がかった生物。生態的にはマシラグモに似ており、薄いシート網を張ってそこにいた。脚の表面がストロボ光反射により燐光を放つところもマシラグモそっくりだが、眼の配置は明らかにマシラグモのそれとは異なる。分類群不明。

紅豚

2204.jpg
グロウワームの類。オッドなスペシメンの一人。

肉食性キノコバエ類の幼虫。洞窟の入り口近くの天井に、粘液をたたえた糸をいくつも下げて獲物を待ち伏せる。ニュージーランドなどの洞窟に住むグロウワームは発光するので有名だが、これは一切そういうことはしなかった。

光らねえグロウワームは、ただの蚊だ。

2226.jpgウデムシ。

洞窟内に生息するほか、ジャングルのいたるところでも夜間姿を見かける。体長2cm近くある大型の個体だが、これでもウデムシとしては超特大サイズというわけではない。ここの洞窟内にはかつて大型個体が多数生息していたらしい。今では物見遊山の観光客どもにより度重ねて採り尽くされてしまい、発見が困難になっている。
ウデムシは、1ミクロン程もカニムシらしくない外見なのに、別名カニムシモドキという。

2325.jpg洞窟の外で見たウデムシ。近寄る虫を瞬間的に捕らえ、八つ裂きにする。

フレンチギアナにて。

2275.jpg洞窟に見られた、よく分からない生き物。カマドウマじみているが、明らかに別分類群。夜間、ジャングルのあちこちでも似たものを見たため、真洞窟性の種かどうか不明。
そもそも、今や真洞窟性などという言葉も死語であろうが。

フレンチギアナにて。

粛鎖の岩塩坑~入口~

2259.jpg洞窟の入り口。

洞窟内部は湿度が恐ろしく高いせいで、カメラのレンズが曇ってしまう。というより、ここまでたどり着く前にカメラがしっとり湿ってしまうため、すでに入る前から曇っている。

洞口はかなり広さと高さがあるものの、奥行きがほとんどない。いや、本当は奥行きがかなりあるのだが、急激に幅が狭くなる上に恐ろしい数のコウモリが飛び交っており、物理的にそれ以上の侵入が困難になっている。
恐らく奥のコウモリがひしめくエリアまで行けば、グアノに珍しい甲虫がたかっていると思われる。今回は、身の安全を考慮して先へ行くのをやめておいた。南米において、丸腰でコウモリが高密度で生息する湿度の高い閉鎖空間に侵入すれば、どんな得体の知れない病気をもらうか分かったものではない。
それに、入り口の付近でもオッドなスペシメンは十分探せる。