夏のアルバムから。
2695.jpgアオムネスジタマムシChrysodema dalmanni。与那国にて。

そこそこ大きいので、飛んでくるとハッとなる。

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2702.jpg精霊。水面に浮いており、ほぼ一円玉サイズ。


与那国島の、内陸に入ったジャングルを夜中歩いていたとき。鬱蒼とした茂みの中に、直径6-7mの円状にフェンスで囲まれた区画があるのに気づいた。何かと思って近づき、気軽に中を覗き込んだ俺の目に飛び込んできたのは、およそこの世のものとは思えない、禍々しい光景だった。

フェンスの内側は落差5-6mの垂直な縦穴で、下は底が全く知れない深さの水をたたえた深淵になっていた。その真っ黒な水面近くを、見たこともない奇怪な魚が何匹も泳ぎ回っていたのだ。
水が黒くて魚影も黒かったので姿を見づらかったが、明らかに淡水魚ではなかった。しかもそれらはたかだか15cm程度なのだが、こちらが照らすヘッドラの灯りを反射して、煌々とオレンジに輝く巨大な眼を持っていた。最初テナガエビの眼が光ってるのかと思ったが、泳いでるし明らかに魚だし違うことにすぐ気づいた。俺もそこそこ魚は見てきたつもりだが、日本の淡水魚であんなに眼がでかく、しかも光る奴なんてどこでも見た試しがない(海水魚でだってそうそう見たことない)。ああいう環境にいがちなユゴイではない。その後近くの川でユゴイにライトを当てたが、あんなではなかった。
イメージ的には、部屋の蛍光灯を消したときに光るあのオレンジの豆電球と、色もサイズも同じ。あの豆電球が二つ一組になって、いくつも深淵を右往左往していたのだ。まるで、地獄の門を守る門番の悪鬼か獄卒どもにも似た異様さをたたえていた。

俺が今持ち得る魚類知識を持ってすれば、あれに一番近い姿の魚は海水魚のエビスダイかアカマツカサしかない。あの深淵は、絶対に地下深部で海底と繋がっている海水池としか思えない。しかし、俺はあの魚の正体は確かめなかった。慎重に穴の壁面を伝って下に降りれば、すぐ傍まで寄って確認できたのだが、あまりにも恐ろしく不気味すぎて、出来るわけがなかった。身の危険を感じた。こういう、野外において本能的に身の危険を感じる時というのは、本当に危険である。

研究者の分際でこんなこと言ったら身もフタもないが(分からないことを分かりたいとか本の帯でほざいた奴もどっかにいたしな)、世の中には知らなくて良いこと、明らかにしないでいいことというのが、確かに存在する。俺はあの深淵の謎に、もうこれ以上近づいてはならないのだ。
自然を恐れ畏れる謙虚さを忘れた人間が、如何に悲惨で惨めで無様な末路を辿るかは、歴史がイヤと言うほど証明している。俺は今後一生涯、あの深淵に関する興味関心を放棄する。

今後与那国に行く機会がある者は、ジャングルでフェンスで囲われた深淵を見つけても、即刻引き返し、二度と近寄らないこと。この警告を無視した者に如何なる事態が生じようと、俺の知ったことではない。

夏のアルバムから。
2698.jpgシマカ属Aedes sp.。たぶんヒトスジだが、確定しないでおく。与那国にて。

かつてクソ田舎にいた当時、俺はアパートの二階に住んでいた。ある日、気晴らしに桃色ゲームをやろうとパソコンの前に腰を下ろした刹那、玄関のチャイムが鳴った。何だと思ってドアを開けたら、へんな宗教の勧誘。頭に来てすぐ追い払い、ドアを施錠。気を取り直してパソコンの前に腰を下ろして暫く経った頃、無性に片膝が痒くなってきた。ふと見たら、シマカが止まって吸血しているではないか。

シマカ属は基本的に、平屋建てでもなければ人家内にあまり入ってこず、特に建物の上の階にはほとんど出現しない。そして、さっきの勧誘員が来るまで、部屋の中に蚊はいなかった。さっきの勧誘員に階下からまとわりついて上がってきた蚊が、ドアを開けた際に入ってきたのは明白だった。
たのしいゲームの出鼻を挫き、頼んでもいないのにクソの肥やしにもならん説教を聞かせ、あまつさえ蚊まで部屋に放ちやがったあの勧誘員に、煮えたぎる激しい怒りと憎悪が湧き上がり、腕で顔を拭った後の大魔神状態になった。

今度またへんな勧誘員が蚊を連れて家まで来やがったら、石でも投げる所存。ただしその蚊がヤツシロハマダラカだった時は、教祖様の残り湯でもありがたく飲み干します。時価数億円のありがたい絵も、サラ金に手を出してでも買わせて頂きます。

夏のアルバムから。
2699.jpgヨナグニアシナガアリAphaenogaster rugulosa。与那国にて。

この島の固有種。同属かつもう一種の固有種クロミアシナガアリA. donannとともに、薄暗いジャングル内の地面で生活している。南西諸島には各島に固有性の強いアシナガアリが分布しているが、こんな狭い島内に固有種が2種も共存している事実は興味深い。
ヨナグニのほうはそこそこ見るが、クロミは少ないのか分布域が限られるのか、一度も見たことがない。

本種を含め、アシナガアリ属のいくつかの種は腹部を前方に曲げながら外を出歩く。威嚇などではなく、癖としてこういう体勢を常時とる種がいるのだ。この腹曲げ行動をするかしないかは種によって厳密に決まっているとされている。
しかし長野県のあるエリアに生息する、一般に腹曲げしない種とされる無印アシナガアリは、明らかにやる。そこの地域にいる個体群全部がやるのではなく、するコロニーとしないコロニーとが混在している。なぜかは知らない。

夏のアルバムから。
2694.jpgアカアシセジロクマバチXylocopa albinotum。与那国にて。

八重山の固有種。胸は白く、脚は鮮やかなワインレッドというシックな美しさを誇る。各種の花に、大きなうなりを伴って飛来する。

日本には5種クマバチがいて、それぞれが別々の島嶼に住み分けている。その5種には外来種タイワンタケクマバチとソノーラクマバチは含まない。

夏のアルバムから。
2700.jpgアシナガキアリAnoplolepis gracilipes。与那国にて。

南西諸島ではおなじみで、本土のクロヤマアリ的なニッチを占める。荒地に生息し、何でも食う。巣を暴けばアリヅカコオロギを必ず採らせてくれる優等生で、別名「ボウズ逃れ」。
このアリの巣は、あまり地面に深く埋まっていない石ブロックや板切れの下に形成されることが多い。ガバッと開けると、途端に大量のアリが湧き出てきてこちらの体に一斉に這い登ってくる。この興奮したアリどもは、他のアリと違ってほとんど咬みついてこず、ただ狂ったようにこちらの体を走り回るだけ。だから、一見無害で大人しいアリに思えるのだが、実際はそうではない。

素肌を直に走り回られてから1分くらいで、次第に這い回られた辺りがビリビリとしみるように痛み始める。このアリは怒ると咬みつく代わりに敵の体表面を走り回りつつ、強力な蟻酸を振りまいて回るのだ。この蟻酸の威力はすさまじく、カニや小鳥のヒナなら群れで這い回られただけで目がつぶれて死ぬほど。本来いなかった場所に持ち込まれて定着してしまうと、在来の地表性生物の大半はこのアリの蟻酸攻撃で一掃されてしまう。
このアリには専門に寄生するアリヅカコオロギがいて、これが様々な実験に利用できる有用生物なのだが、このアリに養ってもらわないと死んでしまうため、飼育目的で持ち帰るにはアリも持ち帰る必要がある。しかし、持ち帰る際に同じ容器に入れてしまうと、アリが興奮時に出す蟻酸を食らってアリコロが全滅してしまう。だから、持ち運びの際は別々の容器に分けねばならない。

与那国島には、「ヨナグニアリヅカコオロギ」という実体のない生物が存在することになっている。南西諸島のいくつかで、正式に記載はされていないながらマイナーな和文文献上に亡霊のごとく名前だけ載っているアリコロがいくつか存在する。これに関しては一家言あるのだが、それはここで披露すべき内容ではない。

あまりの生き死にのどうでもよさに、公共機関に配ったら即刻物置に直行しそうな「守りたい日本の絶滅危惧種ポスター湿地止水編」。
2703.jpg申し訳ないが「環境省レッドにおいて準絶と情不は絶滅危惧種の範疇ではない」等の言いがかりはNG。

夏のアルバムから。
2690.jpg
アミカ。北海道にて。

清涼な水質の河川に生息する。幼虫は奇怪なロボのような姿をしており、流れに洗われる川底の岩の表面に取り付いて藻類を喰う。成虫の翅には通常の翅脈に加えて、とてもきめ細かな筋が網目状に張り巡らされていて美しい。しかし、よほどストロボを工夫しないと写真に写らない。上は工夫したのに大して写らなかった例。

夏のアルバムから。
2689.jpgヨモギエボシタマバエRhopalomyia yomogicolaの虫コブ。北海道にて。

ヨモギの葉にとんがりコーンみたいな形の虫コブを形成する。ヨモギさえ生えているところなら、日本中いたる場所で見かける。しかし、野外で成虫を見るのはまず無理だと思われる。

昔沖縄に行った際、沖縄ソバ屋へ入ったことがあった。メニューの中に「ヨモギソバ」というのがあったので、何の気無しに注文してみた。俺はてっきり本土で見かけるヨモギソバのイメージから、当然のこと麺の生地にヨモギが練り込まれた緑色のソバが出てくるものだと信じて疑わなかった。
ところが実際出てきたのは、普通の沖縄ソバの上に、たった今さっきその辺の道端からむしってきたばかりとしか思えない生のヨモギの葉が3枚乗せてあるだけという代物。しかもヨモギエボシタマバエの虫コブつき。たった3枚ヨモギの葉っぱが乗っているだけで、乗せてない普通の奴より50円近く高かった。腹が立ったので、虫コブごと全て食らい尽くしてしまった。

夏のアルバムから。
2374.jpgヤドリギについていたアブラムシ。種は知らないが、変わった雰囲気。長野にて。

※ヤドリギアブラムシTuberaphis coreanaだそうです。KUWAKIRA様、ご教示誠にありがとうございます。

たまたま寄ったある場所に、ケヤキの大木の立つ神社があり、そこにヤドリギが生えていた。大抵、大木のはるか高所にあることの多いヤドリギだが、運良くお触り可能な所にあった。
かなり樹齢を重ねた老大木だったが、見た限り洞は出来ておらず、某虫はいなそうだった。

かつて僻地在住だった頃、居住区から遠くない場所に大きなケヤキが立っており、この木の洞から毎年ある期間だけ珍虫が発生した。しかし、そこはマニアの間では超有名ポイントらしく、発生期間中は長竿を掲げたマニアが余所から多数襲来する。そして、住宅街のド真ん中だというのに、近隣住民の目もはばからず複数人バリケードを作ってその一本の木を囲んでしまう。
しかもそのマニアというのは軒並みリタイヤした初老~老年世代なため、平日だろうが何だろうがいつ行っても常にそこに陣取っている。仲間内で場所を交代して占拠し、空く瞬間が一秒もない。下手に近寄ればトラブルになるのが分かり切っているので、俺は長い在住中一度もそこの木には発生期間中近寄ることができず、結局今まで一度もその珍虫の生きた姿を見たことがない。すぐ側に住んでいたのに。

夏のアルバムから。
2648.jpg
クシヒゲカゲロウDilar japonicus。長野にて。

オスは名の通り分岐した素晴らしい形の触角をもつが、メスはこの通りしょぼしょぼで見ていて面白みがない。偶然、森の中で樹幹に止まっているのを見つけたが、普通はこういう方法で見つけられない。

成虫が夏に灯火へ飛来する以外の生態が何もわかっていない。海外では、幼虫が樹皮下や土中から得られたという記録がわずかにある程度で、食性等も不明。多分、日本産脈翅の中では生態解明最難関の壁として最後まで立ちはだかると思われる(そもそも生態解明しようだなんて思ってる奴などこの国に一人もいないだろうが)。
ケカゲロウの場合、たった1-2種とはいえ海外で克明に幼虫期の生態が調べられていて、しかもシロアリ捕食に特化していることが分かっていたので、日本産種の生態は何とか調べようがあったが、こいつにはそれすらないのだ。日本産クシヒゲカゲロウの幼虫期の生態が解明されるのは、まだ当分先の話になる。

夏のアルバムから。
2652.jpg高山のゴミムシ。ツヤゴモク系の、飛べない奴。

長野にて。

神殺し

夏のアルバムから。
2658.jpgベニヒカゲErebia niphonica。長野にて。

登山ザックに染み付いた汗を吸いに来ている奴の撮影は容易いが、そうでない時は厄介。この蝶は、悪いタイミングで人を出現させるという特殊能力を持つ。苦労してやっと撮影しやすい場所に止まったのを見計らい近付こうとすると、必ず見計らったかのようなタイミングで登山客の往来が来てしまい、飛ばれてダメになる。それまで全く人など来なかった場所で、何度もだ。

ベニヒカゲは、特筆して個体数が少ない蝶ではない上、生態的にみて明らかに「高山」蝶と呼ぶのが相応しくない種である。しかし、長野県ではかなり早期から、よくわからない理由でこれを希少な高山蝶と称して天然記念物指定し、少なくとも採集だけは厳重に禁じている。
多くの虫マニア等は基本的にこの措置を不可解に思っているが、しかし法は法なので、毎年山で監視員にパクられて地元紙の一面を飾るような連中(それもなぜか壮年・熟年の、医者やら大学教授やら社長やら社会的に上位階級の奴らが多い)はさておき皆従っている。

どうも長野県民は、蝶を虫ではなく野鳥と同等の生物と見なしている向きがある。故に、これを捕獲したり殺生する者に対しては、他の虫を殺した時にはあり得ないような、尋常でない怒りと嫌悪感を露わにするのだと思う。ただでさえ位の高い蝶に、高山という付加価値が付けば、もう神と同列に神聖な存在となる。神を捕まえ殺すなど、地獄に1垓3千京回落としても生ぬるい凶行なのだ。
かの地に移り住んだ10数年前、俺はこの土地の人間のそうした思想をどうにか「改革」できないものかと息巻いたものだったが、時間が経つにつれてこれがそういう理屈云々の問題ではないという事に気づいていった。

長野県では、研究目的であってさえ高山蝶の採集許可を得るのは極めて難しく、仮に得ても捕獲頭数を究極最小限かつ厳格に制限される。同じ国立公園の特別保護地域内においても、蝶を採る許可とそれ以外のゴミみたいな虫を採る許可とでは、申請にかかる手間が雲泥の差だ。
もちろん、ゴミみたいな虫を採る許可だって簡単には取れない。虫の研究も楽ではない。

ちょいワル親父虫ウゴウゴルーガ

夏のアルバムから。
2656.jpgツチイロビロウドムシDendroides lesnei。長野にて。

亜高山帯上部の森林で見出される、奇怪な甲虫。枝分かれした長い触角が特徴的。生態の詳細は不明ながら、近い仲間のそれから察するに幼虫期は倒木樹皮下で小動物を食うものと思われる。

虫マニアの間で、「良い子の虫」という言葉が使われている。どうもあまりメジャーではなく、そこそこ種数があって、見た目のバリエーションもあって、同好者の中で古参が新参に対して横柄でない分類群に対して使われる言葉に思える。
この甲虫が属すアカハネムシ科は、日本ではべらぼうに種数が多い訳ではなく、外見も似たり寄ったりで面白みに欠けるため、正直人気はない。良い子の虫とは到底呼べそうにない。そんな中、比較的変わった姿をしているのが本種である。

信州、中房温泉からこれに酷似したナカブサツチビロウドムシが記載されている。あまりにも酷似しすぎて区別ができず、種として認めがたいという向きあり。

夏のアルバムから。
2653.jpgアルプスクロヨトウApamea rubrirena

高山蛾。本州の亜高山帯以上に見られる。地味だが、地味過ぎて美しい。

世界で御嶽山の頂上にのみいるとされたオンタケクロヨトウは、最近本種と同種ということになった。御嶽山が大噴火して以後、その消息を誰も調べていない。絶滅したんじゃないかという悲観論もちらほら聞くが、それはないだろう。歴史の中で、御嶽山が噴火したのは一度二度ではない。それでもなお、あの蛾は現代まで生き残り続けて来たのだから。今回も、必ずどこかに生きている。

夏のアルバムから。
2654.jpg
アルプスギンウワバSyngrapha ottolenguii。長野にて。

亜高山帯から高山帯にかけて出現する、味わい深い種。純然たる高山蛾の範疇には含めないらしい。

夏のアルバムから。
2655.jpgソウウンクロオビナミシャクHeterothera taigana。長野にて。

高山蛾の一種。高い山の山頂付近でのみ見られる。

夏のアルバムから。
2651.jpgヒメハナカミキリ一種。長野にて。

物凄く種数が多い。外見では種を判別しがたく、解剖したり染色体を調べたりと、非常に面倒くさいことをしないといけないため、敬遠する者が多い。半面、ハマる者はどっぷりハマって抜け出せなくなる分類群。

夏のアルバムから。
2657.jpgすげー高い山。長野にて。

P-T境界

2661.jpgコヒョウモンモドキMellicta britomartis。長野にて。

ふと10年ちょっと前の写真。とある草原地帯に、かつてこの蝶が多産しており、毎年梅雨時の晴れ間にこいつらと遊ぶのが年中行事となっていた。この蝶は糞や死体など汚い物に好んで集まり、その延長で人間の汗を吸うためにしばしば人体に積極的に止まろうとする。

この蝶には、同種の仲間が止まっている場所に釣られて反射的に降りるという妙な習性がある。これを利用して、アホみたいな遊びが出来る。とりあえず、まず蝶を一匹だけ汗で誘引して手の甲に止まらす。止まったら、そのまま草原を歩いて別の個体を探し、見つけ次第手の甲を飛んでいるその個体に見せびらかす。すると、その個体は必ず手に止まってくる。これを延々繰り返し、ついには手をコヒョウモンモドキまみれにすることができるのだ。
蝶はそこに止まっている個体が多ければ多いほど、釣られて止まりやすくなるため、後半になるほど楽に集められるようになる。最高で何匹止まらせられるか試したところ、上のように9匹までは余裕でいけたが、それ以降はどうしてもダメだった。翅を開閉したときに隣の個体同士で干渉してしまうため、これが限界のようだった。
野生の昆虫の手乗り写真は、昆虫に多大なストレスを与えるので御法度と言われるが、これに関しては向こうの方から進んでこっちに来た結果なので文句は受け付けない。

こんな楽しいコヒョウモンモドキも、今や信州の高原から一掃されつつある。シカの増えすぎで、食草のクガイソウが壊滅的被害を被っているから。上の写真を撮った産地も、2010年を境に突然一匹もいなくなり、以後復活しない。あれほど沢山いたのに。
中信地域における昆虫の生息状況において、2010年という年は破滅の区切り年になっている。この年あたりを境に、激減したか消えた種がおそろしく多い。また、この年代辺りから、当該地域においてシカの食害が露骨に顕在化し始めた。

夏のアルバムから。
2659.jpgルリボシカミキリRosalia batesi。長野にて。

これを見るだけで、つくづく日ノ本に生まれてよかったと思う虫マニアは、俺だけではないはずだ。

近年、松本市街近郊において毎年安定した土場はないため、この手のカミキリを探すのはかなり面倒である。かつて有名だったらしい扉温泉など、俺がツバを付け始めた2003年辺りの段階で既に土場の痕跡すらなかった。

レツゴー陰陽師

夏のアルバムから。
2647.jpg長野県某所にある、安倍晴明の墓。全国各地に安倍晴明の墓と称する史跡はあるが、かつてこの墓の前で式神のキツネを見て以来俺はこれこそが本当の墓と認定している。

間違っても墓前で坊主引き連れ「ドーマンセーマン!」だの「成仏しろよ?」等の不謹慎な歌を謡い踊る真似はしなかった。

牛若

夏のアルバムから。
2649.jpgコアシダカグモSinopoda forcipataを捕らえたオオヒメグモParasteatoda tepidariorum。静岡にて。

相手を無抵抗にした上で一方的に攻撃のみ仕掛けるという、卑怯極まる戦法に特化しているため、自分よりも遥かに巨大かつ戦闘力の高い獲物も労せずに捕らえる。

森・山中

夏のアルバムから。
2650.jpgサシチョウバエ。静岡にて。

分布から見てニホンSergentomyia squamirostrisだろう。深夜、山間の電話ボックスの灯りに少なくなかった。正直、日本の本土にいるというのが信じられない生物。すぐ飛んでしまうため、撮影は至難。

サシチョウバエ科は主に熱帯に多い蚊の仲間で、吸血性を持つ(正確には刺すのではなく皮膚を咬み破り、流れる血を舐める)。海外ではこの仲間が媒介する致死的な感染症により、僻地を中心に今なお多くの人間が死んでいる。俺も南米では、こいつらの攻撃でかなり悩まされた。とても小さく、服や帽子の中に入ってきて咬みついてくる。蚊帳の目もすり抜けて入ってくるため、普通の蚊と比べて防ぐのが難しい。
手元にある資料を見る限り、日本では本州以南からニホンが知られるほか、南西諸島からも最近いくつかの種が見つかったような噂を聞く。日本産サシチョウバエは、どうも人間を含む恒温動物からは吸血しないようで、ヤモリなど爬虫類だけを攻撃するらしい。よって、こいつは人間にとって敵ではない。

愛読書「図説ハエ全書」(マルタン-モネスティエ、原書房)の中にある「殺す小バエ」の章で、サンチュウバエなる謎のハエの話が出てくる。何でも、そのハエはすさまじく小さくて見た目は大したことなさそうなのだが、とても恐ろしい伝染病を人間にもたらしてしばしば多数の死者を出すという。この話を読みながら、俺は聞きなれないサンチュウバエというハエが一体なんなのか気になっていた。しかし、章末のほうでリーシュマニア症という言葉が出てきたため、これはサシチョウバエのことを言っているのだと気付いたのだった。
文中、3回くらいサンチュウバエという名前で書かれていたため、単なる誤植ではなく、訳者がサンチュウバエという名の昆虫がいるのだと勘違いして能動的に書いている。どういう経緯でサシチョウバエをサンチュウバエと認識したのか気になる。なお、この本の影響からか、ネット上でググッてもサンチュウバエと表記しているサイトが僅かに引っかかってくる。

元々日本国内では全くなじみがないサシチョウバエという昆虫は、昆虫学に心得のない人間にとって得体の知れないものである。サシチョウバエは英名をsandflyというが、大抵の英文訳者はこれを読んだそのままにスナバエと誤訳することが多い。ハエ全書のオリジナルは恐らくフランス語だが、もしかしたら訳者はフランス語で書かれたサシチョウバエを指す単語の意味が分からず、誰かに聞いて一度はサシチョウバエだと認知し、手元のメモか何かに殴り書きして備忘録としたが、後で見直した時に字が汚くてサンチュウバエと書いたと思い込んでそのまま入稿したのだろうか。想像が膨らむ。
ハエ全書はとても面白い本なのだが、原著者も訳者も明らかに昆虫学の専門家ではないようで、所々におかしな記述が多い。そういうのを全部含めて、面白い本なのだ。

夏のアルバムから。
2687.jpg静岡にて。

放送中なのもあって、てっきり県中東部では全地域を挙げてお祭り騒ぎしているのかと思ったが、少なくともこの町ではそこまで言うほどではなかった。

夏のアルバムから。
2660.jpgメスアカフキバッタParapodisma tenryuensis。愛知にて。

中部・東海地方を中心に飛び地的に分布する。名前の通り、メスは全身が薄い赤色をしていて美しい。しかし、翅が退化して移動能力を欠く彼らは、地域ごとに特有の形態形質を持った個体群になりやすい。ある場所ではこれみたいに、メスが背面のみ赤くなる。

かつて俺が縄張りにしていたクソ田舎の裏山は、たまたまこの色彩変異型の産地だった。全国的にはこっちの方が珍しいのかもしれないが、おかげで俺はかなり最近になるまで典型的なメスアカタイプの個体を見たことがなかった。

公共機関に配ったら、あまりの地味さとキモさに即座に焚き付けにでもされそうな「守りたい日本の絶滅危惧種ポスター高原編」。
2684.jpg2686.jpg申し訳ないが「環境省レッドにおいて準絶と情不は絶滅危惧種の範疇ではない」等の言いがかりはNG。

2682.jpgワスレナグモCalommata signataのオスが、メスの巣を尋ねる。福岡にて。

職場の前の道路を昼間歩いていたら、妙に脚の長いクロオオアリが歩いているのを見つけた。よく見たら、それはアリではなくワスレナグモのオスであることがわかり、すぐに捕まえた。。翌日、その近くでまた別のオスを見つけた。これは職場の周りにメスが確実にいるなと思い、ある日の夜に芝生環境を中心に目視で探索を試みた。やや時間がかかったが、案の定思った通りの環境で一個巣を見つけることが出来た。
あらかじめ、最初見つけて確保しておいたオスを放してけしかけてみると、すぐにオスはメスの巣を認識して中へと侵入を試みた。オスは小刻みに前脚を使ってメスの顔を刺激しつつ、巣の入口の内壁に張ってある糸をまくって剥がすような動きをして見せた。もっとじっくり観察したかったが、突然の大雨と尋常でない数のヤブ蚊の猛攻に耐えかねて撤収した。あの職場の蚊の数は一体何なんだ。

思いも寄らぬ身近な場所にこのクモの生息を見つけて、嬉しい気分になった反面、陰鬱な気分になった。この職場はあと2-3年後には余所に移転し、その後この用地は広域に渡って完全に埋め立てられて更地にされる。よって、せっかく見つけたこの環境省の絶滅危惧種の産地も向こう2-3年で消滅することになる。
今の内に何匹かほじくり出して、ここから一番近い田園にでも放ってやろうかとも思ったが、そういうことはしても良いのだろうか。

末代までの晒し者

2683.jpgマツダイLobotes surinamensis。九州にて。

海で偶然見つけた幼魚。遠目には枯葉そっくりの色彩と形をしており、そればかりか水面近くで体を真横にして漂うように泳ぐ。極めて巧妙な擬態のように見えるが、基本的にアホな奴。本物の枯葉と違って、潮の流れに逆行して泳ぐからすぐ見破れてしまうのだ。

熱帯魚のリーフフィッシュのようにも、シーラカンスのようにも見える奇妙な魚。昔の魚類図鑑には、大変珍しく滅多に見られないなどと書いてあった。今日ではそこまで大騒ぎする程ではないが、それでもそう見られるものではない。

2680.jpg屋久島うどん(そば)。サバの薫製が乗っていて、さらにトビウオの唐揚げがついている。屋久島空港で食える、好物のひとつ。

屋久島空港から昼の便で帰る際、いつも空港内の飯屋で時間を潰すのだが、その際必ず店内に置いてある屋久島の民話をまとめた本を食い入るようにして読む。
屋久島の古老達から聞き集めた、この島独自の昔話の集大成というようなことが序章に書いてあるその本は、しかし何処かで聞いた事のある昔話のアレンジ版としか思えない内容も結構多く収録されている。そのアレンジも、オリジナルより悲惨かつ理不尽な方向に。

かちかち山の、登場人物のうち狸を猿に挿げ替えたような話がある。悪さする猿を捕らえて縄で縛り上げた爺が、後で鍋にして食うからと婆に見張らせ、芝刈りに行く。だが、猿は言葉巧みに婆を油断させて縄を解かせ、隙をついて婆を殴り殺す。そして猿は婆に変装し、本物の婆を解体して婆鍋を作り、帰ってきた爺に食わせてしまう。途端に正体を現した猿は、婆鍋食った婆鍋食った!と爺を囃して逃げてしまった。
オリジナルのかちかち山なら、爺はその後ウサギに仇討ちを頼んで狸をぶち殺し、めでたしめでたしで溜飲を下げるはずだが、屋久島には残念ながらウサギが生息しない。だから、可哀想に爺はとうとう独り身になっちまったとさで話が強制終了してしまうのだ。

また、「せかいいちのはなし」っぽい話がある。オリジナルの方は世の中上には上がいるんだぞという、思い上がりを戒める教訓の物語だったはず。しかし屋久島バージョンでは、大鷲、巨大エビ・・・と来て、最後に巨大イカが出てくる。巨大イカは、自分よりでかい生物がこの海にいるかどうか確かめるべく旅をしたが、いなかった。だから、世界最大の生物はイカなんだそうな。もはや教訓もクソもない。そもそも世界最大生物はイカじゃないし。

なんじゃそりゃ?と思うような胸糞悪い終わり方や、オチも何もない話も多い。糞尿ネタも少なくない。そうした泥臭い、読んでてイライラする感じ全てが、実に昔話らしくてとても好きなのである。昨今の幼児教育の現場では絶対に語られることのない、飼い慣らされてない昔話がそこにある。

個人的に好きな話は、生き鳥を丸呑みにして以後変わった音色の屁が出るようになった爺が、偉い人の前でその屁を披露して喜ばれ、大金を得た話。その噂を聞いた強欲爺が、真似して偉い人の所へ行ってケツをまくり屁を出そうとしたが、屁は出ず代わりに未消化の麦飯を肛門から大量噴射してしまい、偉い人からボコ殴りにされる。
その際の排泄の擬音が最高に汚く、読んでて思わず笑いそうになった。文学作品で、人の排泄音をあそこまで汚らしく表現した例を他に知らない。知りたい人は、屋久島空港まで行って確認のこと。