2742.jpgナガサキトゲヒサゴゴミムシダマシMisolampidius clavicrus

でいいはず。違ったら、泣く。わざわざこれ見たさにあそこまで出向いた労が報われない。

長崎県レッドデータブック掲載種。長崎と佐賀にだけ分布する点で世界的に見れば希少種だが、産地内ではド普通種というのが、この虫を知る虫マニアらの共通認識。とはいえ、俺は見つけるのに苦労した。日中探しても全然いない。しかし、同じ場所に夜行ったら、簡単に見つかった。

2741.jpgオスは中脚ケイ節内側に一つトゲがある。前脚ケイ節は直線的だが、内側がやや膨れていびつな形をなす。後脚ケイ節は、内側に湾曲する。全体的に、脚の形がおかしい印象。
この虫、どこか地理的にぜんぜん脈絡のない場所での既視感があると思ったら、八重山のクロカタゾウムシに似ているのだった。

2744.jpg
コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus。長崎にて。

コウモリの超音波を、人間が聞こえる周波数に変換して聞ける機械がある。この種のそれは、まるでインベーダーみたいな面白い声に聞こえるらしい。
機械自体は持っているのだが、いつも聞きそびれている。

2729.jpgシロオビトリノフンダマシCyrtarachne nagasakiensisの網。山口にて。

夜行性で、夜のみ網を張る。基本的に網は一般的なクモの巣のように丸い形だが、横糸の本数が恐ろしく少ない。すなわち、横糸同士の間隔が離れており、目のやたら粗い作りをしている。そのため、獲物は「網」にかかるのではなく「糸」にかかって捕らえられる。この類のクモの網には、主として蛾がかかる事が多いらしい。

かつてトリノフンダマシは、網を張らないと言われていた。深夜になってからでないと網を張らないため、造網習性が明らかになるのが遅れたという内容の話を、昔どこかで読んだと覚えている。
俺にはその話がどうにも腑に落ちない。夜行性のクモなどいくらでもいるのだから、クモを専門とするフィールドワーカーならば深夜クモを探して徘徊する者くらい古くからいたはずだ。そんなに近代になってからようやくその程度のことが判明したというのが、信じがたい。なお、上の写真が撮影されたのはせいぜい夜9時前後である。

2734.jpgアリタケCordyceps japonensis?に冒されたムネアカオオアリCamponotus obscuripesの新女王。京都にて。

これから子実体が伸びて行くであろう状態。しばしば結婚飛行後の創設新女王は、営巣先でこれにやられて事切れる。新女王が外を出歩き、外気にさらされる時間なんてごくごく短いだろうに、いつ菌の胞子に取り付かれるのだろうか。まだ親巣にいる段階で、外勤のワーカーが外からくっつけてきた胞子に感染するのだろうか。

アリタケとマルミノアリタケC. formicarumの分類が今どう決着しているのかを知りたい。

2736.jpgコキノコゴミムシCoptodera japonica。京都にて。

キノコのはびこった立ち枯れ木に出現し、自分より弱小な生物を殺す。行動は風のように素早い。

2735.jpgモチツツジカスミカメOrthotylus gotohi。京都にて。

ツツジの木の葉上にだけいる。ツツジの葉や茎は粘着物質で覆われており、大抵の軟弱な虫は不用意に降り立つと身動きとれなくなって死ぬ。そうした行き倒れの虫をこのカメムシは襲って、汁を吸い取る。
このカメムシ自体は、ツツジのトリモチに捕らわれることがない。体から特殊な油か何か出しているのかと思ったが、よく見るとこのカメムシ、脚のギリギリ先っちょしか接地していない。常につま先立ちの体勢で行動しており、極力接地面積を少なくして過ごしているのだ。
それを考えると、このトリモチ上での生活は、このカメムシにとっても多分にリスキーな生活と思われる。

あまりの存在のどうでもよさに、公共機関に配ったら即刻ビンに詰めて海に捨てられそうな「守りたい日本の絶滅危惧種ポスター干潟湿地編」。
2739.jpg申し訳ないが「環境省レッドにおいて準絶と情不は絶滅危惧種の範疇ではない」等の言いがかりはNG。

2737.jpgヤマトビイロトビケラNothopsyche montivagaの筒巣。西日本にて。

川虫というトビケラの常識を根底から覆す、驚異の生物。生活環の全てを陸上で回すようになった、世界的にも稀に見る特性を持ったトビケラ。もはや川虫ではなく陸虫である。
これが属するホタルトビケラ属は日本に7種ほどいて、これ以外は皆幼虫期は水生であるものの、蛹化する際に水面から上に出るなど、多少とも幼虫期に上陸傾向を示す。それをさらに進めて、完全陸生になってしまったわけだ。

日本の西南部で、局所的に見つかっているだけの珍種。西に拠点があるうち、一度は拝んでおかねば絶対悔いが残るので、既知産地のうち一つを訪れた。何の変哲もない、乾き気味の雑木林である。成虫が発生しているはずの時期なのだが、悲しいほど何も飛んでいる生物を見なかった。
これの成虫は年一回、秋の終わりの短期間だけ姿を現す。これはホタルトビケラ属全般に共通した特徴である。まるで冬尺のようだが、ヤマトビイロトビケラの場合メスの腹が巨大に膨れ、なおかつ翅が退化して飛べないところまで冬尺をパクッている。

幼虫の筒巣は、まさに普通の水生トビケラのように細かい砂粒をつづって形成されている。探し始めてしばらくは一つたりとも発見できない。しかし、要領がわかると途端にポンポン見つかり出す。産地内では想像以上の個体数が生息していることに気づく。
この時期の筒巣は中身が入っていない。秋の終わりに物陰に産卵された卵はそのまま越冬し、早春から孵化して活動し始めるようである。幼虫を見てみたいが、初夏にまた来たほうが良さそうだ。

2738.jpgオオトビサシガメIsyndus obscurus。岡山にて。

大形のサシガメで、秋口に急に目立つようになる。越冬場所を求めて活発に動き回るからだ。逆に秋以外にどこで過ごしているのか、俺は見たことがほぼない。

ネット上で、しばしばこれがトビを抜かして「オオサシガメ」という誤った名で掲載される。本当のオオサシガメTriatoma rubrofasciataは精霊であり、過去数十年にわたり国内で見た人間が居ない。国内にはもう存在しない可能性が高い。

デカアタマオン

2713.jpgツシマオオズナガゴミムシPterostichus opacipennis

オオズナガゴミムシは、日本で見られる地下性昆虫としては一大勢力の一つ。各地から10数種近く知られるが、まだ新種が相当数眠っていると見られ、最終的な種数はまだわからない。山間部のガレ場など、湿潤な地下空隙の奥に生息しており、捕まえるのがとにかく容易でない。
種により黒っぽい奴と赤っぽい奴がおり、赤い種ほどより地下深くにいて採集至難な傾向にある。対馬固有のこの種は、地表に近い辺りに生息する黒いタイプ。雨が降って地面が湿るとしばしば表を出歩くため、この仲間としては採集がかなり楽な部類に入る。とはいえ、首尾よく採れるか否かは運によるところがかなり大きい。
完全な漆黒ではなく、うっすらオレンジの星が翅に浮き出ていたりと、なかなか意匠を凝らしたデザインではある。

2720.jpgオオズナガゴミムシは名前の通り頭がでかく、キバが巨大でカッコイイ。妙なことに、キバは左右で長さも形も違う。雌雄ともこうなっているため、オス同士の争いみたいに片方の性にとって必須の理由ゆえではない。獲物を捕らえるために有利となるような、雌雄必須の何らかの適応の結果と思われる。
ゴミムシの仲間にはキバが左右非対称の種が少なからずいて、大抵それらは地上で陸生巻貝を専門に食っていると相場が決まっている。形の違うキバを缶切りのように使ってカタツムリの巻いた殻を破壊し、中身を食うのに都合いい形をしているわけだ。しかし、オオズナガゴミの住む地下空隙の深部に、大型のカタツムリなどいない。かなり大型の甲虫なので、それなりに大きな生き物を捕食しているのは間違いないが、この虫と同じ環境から出てくるそこそこ大きな生き物といったら、ガロアムシ程度しかいない。
だから、多くの虫マニアはこの甲虫が野生下ではガロアムシを専門に食っているのだと予想している。あの形のキバは、ガロアムシ捕獲にどのように役に立っているのだろうか。そもそも、本当にガロアムシを狩るのかという問題もあるが・・

そういえばニンテンドー64「時空戦士テュロック」で、ゲーム全クリ後にゲーム内での設定を自由に変更できる暗号「チートコード」が開示される。その中で、入力オンにすると敵キャラクターの頭部を意味もなく巨大に表示できる「デカアタマ」というのがあった。巨頭にしたところで敵の強さ弱さは一切変わらず、ただ頭でかくて変な格好だね、というそれだけの暗号なのだが・・。オオズナガゴミ類は、神の作ったチートコードで常時デカアタマオンにされているのだろうか。

ツシマオオズは、この仲間としては一番採集が楽なので、多くの虫マニアが見つけて採集しているはずなのだが、なぜかネット上に生きた姿の写真がほぼ存在しない。これはオオズナガゴミ類全般に言えることで、画像検索すると出てくる画像の大半は既に死んでタトウの上に並べられたか、ピンを刺された標本ばかり。※
せっかく魅力あふれる生き物なのに、「野生下で」、「美しく撮った」、「生きている」この虫の写真が、本当に少ない。皆、見つけた時点で写真など二の次で捕まえて毒瓶に放り込むからなのだろう。見る者に一切の思考を停止させるほどの魔力が、この虫にはある。


※そもそも一部の種を除き見つけ捕り自体がほぼできない仲間であるのも、生態写真が少ない理由の一つだろう。この仲間は基本的に、地下深くにトラップをかけて捕獲する。トラップは一度かけたら数週間もしくは2-3か月は埋めておかねばかからない。しかし、それでかかる個体は大抵1-2匹のみ、しかもいつかかるかわからない。トラップを回収しに行く頃には、既にだいぶ前にかかって中で死んでいることが多く、生きたままの状態で回収するのは、よほど絶妙なタイミングで行かない限り無理だ。

2712.jpg精霊。

日本では対馬にのみ生息し、獣の糞に集まる。昔は牧場周辺でないと採りづらく、マニアに採られすぎて絶滅が危惧された時期もあったらしい。今は対馬全域でシカが過密状態にまで増えすぎ、さらに一度根絶されたはずのイノシシまで侵入して激増した関係で、島内山林の至る所が獣のクソだらけになっている。それを受けて、この虫は近年むしろ増加傾向にあるようだ。上の個体も、周囲に全く牧場がない市街地そばの植林地で見た。

シカの激増に伴う直接・間接的作用により、大抵の虫は個体数を減じている一方、それまで非常に稀だった虫が普通種になる例が散見される。福岡の英彦山から記載された森林性のエサキクチキゴキブリは、英彦山では1940年代に少し採れて以後一匹も発見されない状態が長く続いた。しかし、2000年代になってぽつぽつ見つかり出し、今や森の倒木を崩せばどこでも簡単に採れるようになった。このゴキはかつて環境省の絶滅危惧種にまでなっていたが、今や普通種なのでリストから下ろされている。
英彦山は近年シカの増加に歯止めがかかっていない状況で、食害に伴い沢山の木が枯死している。倒木が増えて営巣環境が良好になったのが、この朽木営巣性ゴキブリの急増した原因と思われる(正確な理由は不明だが、これ以外に理由が考えられない)。ただ、今はこのゴキにとって営巣場所に不自由しない状況ではあるが、一方で森の次世代を担う若い樹木がほとんど育っていないため、このまま抜本的な策が講じられなければいずれ山の木全てが倒れ尽くして森自体が消滅する。朽木の供給も無くなり、再びこのゴキは姿を消すのだと思う。

いいのか悪いのか。

大根を採れ!クス(嘲笑)

2711.jpgダイコンメクラチビゴミムシ属Daiconotrechus(ホソメクラチビゴミムシ亜属)の何か。もう一方の属のほうではないと思う。

対馬に特産する地下性昆虫。通常は土木作業せねば採れないが、運が良ければこの個体のように大きめの石を裏返すだけで見つかる。ダイコンメクラチビゴミムシ属は、対馬のほか中国地方の辺鄙な島に分布する特異な仲間。

ケツのほうに付いている黒い紐みたいのはラブルベニアのしなびた奴。

刃毛散らす

2710.jpg精霊。

この仲間としては、本来あり得ないような時期にのみ出現するので有名。本来なら全身をモフモフの毛で覆われているのが特徴だが、探しに行った時期が遅すぎたせいで無残に禿げ散らかしていた。
生息域はピンポイントで、なおかつ年々分布域が縮小しており、正確に場所を選ばないと声すら聞くことが出来ない。殊に今年は発生状況が例年にも増して最悪だったらしいが、自力で多産地を見つけ出した。

前々から噂に聞いて覚悟はしていたが、恐ろしく撮影が至難。木の梢の細枝で鳴くため、物理的に手が届かない。しかも、信じがたいほど警戒心が強い。ちょっとでも傍で妙な真似をすると一瞬で逃げ去ってしまい、より高い所に止まるため、なす術がなくなる。
しかも腹立たしいことに、こいつは人を実によく観察している。こちらからは姿が丸見えでも、物理的に絶対手を出せないことが明らかな場所にいる場合は、こちらがどんなに大きな動作をしても絶対に逃げず平静を装っている。しかし、僅かでもこちらに分がある立地では、どんなに些細なこちらの一挙手一投足でも決して許さず、あっという間にその場から消える。全く同じ現象が、断崖絶壁に住むオオゴマシジミの撮影でも言える。

このみすぼらしい禿げちゃびんをたった1枚撮影するのに、どれほど死ぬ思いをしたことか。

2721.jpgツシマアカガエルRana tsushimensis。対馬にて。

雨の後、林道を歩くと足下から跳ねる。それはいいのだが、なぜかこいつらは人に向かって飛びかかってくる。長ズボンの裾から滑り込んで中に侵入してくれた時には、その場でダンサーのように踊る羽目に。

2708.jpgツヤシリアゲアリCrematogaster nawai。佐賀にて。

西日本ほど多く、主に地表で採餌する。巣も地面によく作る。東日本だと、テラニシにせよハリブトにせよ黒シリアゲは樹上性と相場が決まっている。
これを見慣れている身で、地べたを行列作って行進するこの黒シリアゲを見ると、何かとても変に見える。

コロニーサイズはかなり巨大だが、そのくせ居候はアリコロすら付かない役立たず。

2688.jpgメクラチビゴミムシ。九州にて。

とある洞窟で見つかっている種。わずか2km離れた隣の洞窟には近縁の別種がおり、共存しない。ピンポイントで生息する洞窟名を冠するため、名前を書けない。

2704.jpgトゲアリPolyrhachis lamellidens。広島にて。

何遍でも繰り返す。トゲアリの仲間は世界中にいるが、日本の奴以上にカッコイイ種など存在しない。どこの国のトゲアリ風情が束になってかかってこようが、日本のトゲアリの前には木っ端微塵のみじんこちゃん。

2705.jpg
下甑島から臨む。写真にすると距離感が分からないが、飛び降りたら肉体が5回は粉砕する程の落差はある。

手打集落のほぼ真北にある海岸沿いの、ほぼ手つかずの細流を調べたが、どんなに探してもウチダツノマユブユしかいない。ynknwrsbyはかろうじてまだ生き残っていたが、こっちの精霊はさすがにもう発見は絶望的な気がする。この島は基本的に、どのエリアも海岸ギリギリから急峻な山が始まる。手打とそこ以外、この島で精霊の存続に必須たる「平坦な場所を流れる緩やかな細流」という環境がないのだ。

無駄な探索に終わるのは目に見えているが、たぶん中甑と上甑でそれっぽい場所を見つけて探す方が、まだましな気がする。しかし、とにかく移動手段が限られる島なのが最大のネック。

2707.jpgタケツノアブラムシPseudoregma bambucicola。宮崎にて。

タケに付く。基本的にかなり稀で、日本では西南部にしかいない。ネット上の画像検索で(しばしばゴイシシジミと共に)出てくるタケツノアブラムシと称する写真は、9割方ササに付くササコナフキツノアブラムシCeratovacuna japonicaの間違い。ササコナは葉裏に付くが、タケツノはあの固いタケの幹表面に群生して付くという噂を前々から聞いていた。まさか本当にそうだとは思わなかった。

現地でさて撮影しようと思ったら、あろうことかミクロ物撮影に絶対必須のMPE65を家に忘れるという致死的ミスを犯した事に気づく。何とか出来合いの設備で撮影したが、やはりあのレンズを使わないといまいち。また撮影し直しに行く。

2709.jpgヒサゴゴミムシダマシ一種。大分にて。

海岸すぐ傍の植林地帯にいた。この仲間は寒冷な高標高地にいるものだと思っていたが、そうでもないのか。世界で長崎にしかいないナガサキトゲヒサゴゴミムシダマシは、長崎ではド普通種だというが、行って探してもどこにもいなかった。

※ニシツヤヒサゴゴミムシダマシMisolampidius okumuraiだそうです。ご教示下さった方、誠にありがとうございます。

2723.jpgカスミサンショウウオHynobius nebulosus。九州にて。

西日本を代表する小型サンショウウオ。全身地味だが、尾の背側だけ黄色いのが奴の自慢。よんどころない故にて山際の側溝にたまった土砂をほじくってたら、3匹ほど出てきた。夜間地表を這い回る中で落ちて、そのままそこで越冬に入っていたらしい。自力で上がれるかわからないので、拾い上げて近くの林に放った。まるでトカゲと遜色変わらぬスピードで、全員が瞬時にしてそこから走り去った。
サンショウウオやイモリは、カエルと違って手に吸盤がない。しかし凹凸面や、左右の足を踏ん張れる幅の隙間があれば、垂直な面もなんとか登れる。古くてヒビの入った側溝だったから、余計な手を貸さずとも自力で登れたかもしれない。

サンショウウオは、危険を感じると山椒に似た刺激臭を放つのが名の由来と聞いたことがある。しかし、今までどんな日本産小型種を手掴みにしても、そんな匂い出されたことがないのだが。

2719.jpgオットンガエルBabina subaspera。奄美にて。

奄美周辺に固有の巨大両生類。オットンオットンと鳴くからオットンガエルなのかとずっと思っていたが、明らかにそんな声では鳴かない。
普通、両生類の前足の指は4本で、人間でいう親指に該当する指がない(骨の名残としては皮膚の下に残っている)。だが、これと沖縄本島にいるホルストガエルは、ちゃんと指の形で親指がある。この親指の内部には、非常に長く鋭い骨が入っていて、何かの衝撃で先端が外へ飛び出す仕掛けになっている。敵に取り押さえられて危機的状況に追い詰められると、この鋭利なナイフの付いた前足をやみくもに振り回し、敵の手をスパッと切り裂くという。

本当に手を切り裂かれるのか、実際に素手で掴んで確かめてみたいものだが、それはできない。近年保護動物に指定されてしまい、勝手に手に取れないのだ。

ヤシガニ屠らず

2186.jpgヤシガニBirgus latro。宮古島にて。

森の中で、たまたま高密度でいる場所を見つけた。丘ヤドカリの一番でかいサイズよりは遥かに巨大だが、これでもまだ全然若いほう。

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強靭な体格。こいつのハサミで挟まれたら、人間の指一本など簡単に持って行かれてしまう。まさに地上最強の無脊椎動物。しかし、その最強の無脊椎動物も、今や人間に脅かされて滅びの路を歩み始めている。

日本のヤシガニは、世界的に見たヤシガニ分布域の北限にあたる貴重な個体群である。しかし、彼らは生息環境の悪化に加えて食用目的の激しい乱獲に遭い、南西諸島全体で著しく個体数を減じている。環境省の絶滅危惧種に指定されているほか、幾つかの島で独自の保護条例がしかれているほど。
しかし、一方で今なお食材としての流通自体は続いている。ヤシガニは、成熟までに凄まじく年月を要する上、寿命も長い(推定50年前後)。だから、一度減るとなかなか増えない。

前に那覇の公設市場に行った時、この世のものとは思えない化け物クラスの巨大ヤシガニが、生きたまま売られているのを見た。ちょっとした小型犬くらいのサイズで、恐らくヤシガニという生物がとりうる最大級の大きさ。脚には法外な金額の書かれた値札を括り付けられていた。
しかし俺は奴を見た時、値段より何より、あれだけのサイズまで育つのに一体どれだけ途方もない年月がかかったのだろうという思いでいっぱいだった。40-50年くらいでは絶対きかない程の時間をかけて育っただろうあいつも、人間に茹で殺されるのは一瞬なんだから、こんな理不尽な話はない。
絶滅するしないは別にして、人一人の人生折り返しくらいの時間を生きてきた、この雄大なる生き物に対してあまりにも不敬すぎる。寿命の極端に長い生き物を食材にしてしまうことに、物凄く罪悪感を覚える。寿命40-50年てすごいぞ。百獣の王ライオンですら、せいぜい20年くらいというのに。

俺はこの生き物を、人の食い物と思えない。俺の中でヤシガニを食う行為は、ウナギマグロを食うより遥かに罪深い。沖縄で食うものなんて、他にいくらでもある。俺は死んでもヤシガニだけは絶対食わないと、心に誓っている。

2691.jpgヒメアギトアリAnochetus shohki。石垣島にて。

最新の環境省レッドデータブックによれば「石垣島の固有種」とされている絶滅危惧種(準絶滅危惧カテゴリ)。加えてつい最近、石垣市希少野生動植物・要注意種なるものに指定された。しかし、実のところこのアリは石垣島の平野部を中心に、いたる所に普通にいる。サトウキビ畑の縁や海岸林など、乾燥して荒れた環境でしゃがむと、視界の脇にすぐ入るようなものであって、絶滅の危機とはあまりに程遠い存在だ。
これが多産する環境は、アシナガキアリやブギ(ナンヨウテンコク)オオズアリしかいないようなクッソつまらない環境で、他の虫もろくに生息しない。だから、豊富な虫を求めて「いい環境」しか見てない虫マニアは、一匹も見つけられない。単に偏った視点でしか見てないから、皆珍しいように思いこんでるだけ。俺は南西諸島でアシナガキアリしか探さないから、同所的にいるこれを佃煮にするほどの数見ている。

また、最新レッドデータブック昆虫版では何故か無視しているが、かなり前から宮古島にも生息するのが判明しており(※)、もはや石垣島固有種という肩書きすら瓦解している。にも関わらず、第一次レッドリストの頃からこのアリは延々載せられ続けている。こんなものさっさとレッドから降ろして、代わりにイバリアリを載せ直してほしいと常々思う。あっちの方は今どうにかしないと、本当にまずい。

1991年に始まった環境省の第一次レッドリスト昆虫版を見ると、何せ初めての試みだった故、今となってはどうしてこんなド普通種載せてやがんだ、というようなのがザラザラ載っている。文献上の採集記録が極端に少ない種の他、ある島にしかいない固有種は、とりあえず何でも載せていた。
しかし、当然ながら固有種=絶滅危惧種とは限らないため、そうした手合いは後の改定の中で大分削られていった。世界で対馬にしかいないが、対馬ではうじゃうじゃいるツシマフトギスなど、最新の改定でようやく降ろされている。しかし、ヒメアギトのように今なお惰性で載せ続けているとしか思えないようなのはまだ残っている。
やはり、ここにこれこれこういう虫がいた、そんなに言うほど珍しくもねーぞという記録は、小さな事でもコツコツ文献として後世に残していかないと、レッドを作るお偉方等には伝わらないらしい。まあ、上述の通り俺は残しても無視されたわけですが。

最近、幾つかの自治体が、環境省レッドに載った種は、ランクに構わず何かれ全部採集禁止にしてしまう横暴じみた条例を作っている。基本的に日本の役人は生き物や自然に対して知識もなければ関心もないから、レッドリストに載った生物はヒメアギトアリもイリオモテヤマネコも同程度に絶滅しそうだと思いこんで、こういう真似に走る。
本当に直近の絶滅危機に面した種ならいざ知らず、情報不足種まで採集禁止にしたら、それこそ情報が集まらないではないか。役人の業績作りと言われても致し方ないやり口。もちろん、そんな役人が作った条例ならば禁止は採集だけで、産地にメガソーラーやら作るのはザルであろう。

地味な絶滅危惧種を日々贔屓する身としては、ハナクソサイズの希少昆虫に光が当たるのは嬉しいものだが、一方で上記のような様が各地で横行しだすのは、また別の問題を産むように思え、危惧している。動か静かの二者択一のみで、中庸をとる能がまるでないのは、この国最大の欠点にして汚点。

(※)Komatsu T. 2009. New localities of two ant species in the Nansei islands, southeastern Japan. Ari, 32: 5-7.

絶滅天使メタトロン

2706.jpgオオツルハマダラカAnopheles lesteriと同定可能な生物。西表島にて。

オオツルハマダラカは、北海道から沖縄まで広域にわたり分布する。かつて国内に存在した土着マラリアの主要媒介蚊だった可能性が高い種と現在見なされている、衛生管理上とても重要な害虫だ。ところが、北海道と沖縄では今も普通らしいが、本土の個体群は近代に入り激減してしまい、今やどこにも見つからなくなった。本土個体群はボーフラ時代の生息環境がかなり特殊で、非常に良好な自然環境の下でしか育たない。本土の自然が破壊され尽くしたせいで、この蚊はいなくなったのである(同時に土着マラリアも消滅した)。

オオツルは地域により産卵習性や形態が異なり、国内のものは実際には複数種からなる可能性が指摘されている。種が異なる場合、マラリア媒介能の違いなど調べるべき事が増える訳だが、オオツルのタイプ標本は現在行方不明らしい。加えて、本土の個体群は現在絶滅状態で標本が集まらず、結果として一番大事な分類が遅々として進まないという問題を抱えている。
上の個体は、口髭に微かな白帯が認められること、Cu2脈末端のフリンジが白抜きでない(やや毛が禿げて確認しづらいが)等の特徴から、現状の検索表に照らし合わせる限りではオオツルと見なしてよい個体だ。しかし、それが真にオオツルという種であるか否かは、また別の問題である。

オオツルハマダラカでググレカス画像検索しても、これがオオツルハマダラカだという写真が一つも引っかからない。こういう重要な害虫は、専門の研究機関で系統保存飼育されてるものだと思っていたが、そういうのの写真は出てこないのだろうか。
それに、本土のはともかく北海道や沖縄にはまだこうしてそれなりにいるのだから、そういうのの画像がもっとヒットしてよい気もするが。オオハマとかコガタとか、限られた島にしかいない珍種のハマダラカの写真は引っかかってくるのに、これ如何に。

現在、環境省レッドには吸血性ハマダラカが2種リストアップされている。あれらが載るならオオツルも載せていいと思うのだが、一番の謎は同じ衛生害虫でもカがレッドに載るのに、同等に国内では壊滅状態のヒトノミ、ヒトジラミが載らないことである。カとノミシラミの線引きがどういう基準でなされているのかを知りたい。

あまりの気持ち悪さとその他諸々の理由により、公共機関に配ったらへんな理由で訴えられかねない「守りたい日本の絶滅危惧種ポスター地下空隙編」。なお見る側にとってはクソの果てまでどーでもいい事だが、このシリーズ中一番俺の金と時間と、何より命を溶かしている。
2718.jpg申し訳ないが「環境省レッドにおいて準絶と情不は絶滅危惧種の範疇ではない」等の言いがかりはNG。

美久「あなた、もしかして―――精霊さんです?」

前にこの国からまた1種昆虫が滅びたと言ったな、あれは嘘だ。
2692.jpgある部位を見れば、これが近似の有象無象ではなく正真正銘の精霊であることが一発で分かる。しかし、それが分かるように生きたまま撮影するのは極めて至難だ。微小なばかりか、まるでプロペラの如く頭を高速回転するので、ピントが全く合わない。上はそれがちゃんと写った貴重なカット。

名実ともにゴミみたいな生き物だが、世界でただ2つの小島にしか生息しない。その片割れたるこの狭い島では、これまでただ1水系でのみ見出されており、それが国内唯一の生息域とされていたが、探したら別水系にもしっかり生息してやがった。しかしそれでも、何か不測の事態が生じれば、この精霊はこの国から半日と待たず絶滅することになるだろう。それほどまでに、その生息基盤は脆弱。幸いにして、新産地(新大陸発見みたいな誤謬を孕むが・・)にはグッピーがまだ入っていない。さしあたりグッピーの侵入と干魃が、この先の存続上最大の脅威となる。
水流のある場所にしか絶対にいないが、水流さえあればどこの川底にもまんべんなくいるわけではない。本当にピンポイントの微環境のみを嗜好し、そこにしかいないことがよーく分かった。

なお、前回行ったときに既知産地の川をうんざりするほど覆い尽くしていた、あのクソ忌々しいグッピー共は、先の台風に伴い川が鉄砲水となり、全部海へ押し流されて全滅したらしく、一匹もいなくなっていた。もう二度と復活するなよ。

夏のアルバムから。
2697.jpgヨナグニアシナガドロムシStenelmis aritai

沢に生息し、流水中に沈む石にしがみついて生活している。小さくて地味この上ないが、よく見れば脚のフ節だけ赤く、生意気にもおしゃれ。

子の音波を以て、子の御器を陥さば何如

夏のアルバムから。
2693.jpg与那国にて。

開けた耕作地に多数いた。現地ではウスヒラタだと思っていたが、どうも違うっぽいやつ。モリゴキ系か。

大昔、新聞で家からネズミやゴキブリが逃げ出す装置の広告を見た。何でも特殊な超音波を発し、それがネズミやゴキブリにとって苦痛なものらしく、家に置いておくだけで耐えきれず出て行くらしい。広告の余白には注意書きで、ペットには一切無害なので安全に使用できます、などと書いてあった。
それを見て、飼っているペットがネズミやゴキブリだった場合どうすんだよと思った。

夏のアルバムから。
2696.jpgヨナグニコアオハナムグリOxycetonia forticula yonakuniana

花に多数群がるが、割と警戒心が強い。不用意に刺激すると、たちまち全員そこから飛び去って戻らない。写真だとよくわからんが、金属光沢がすさまじく美麗。