九天王

911.jpg博多湾を望む。

かりそめながらも新たに居を構えることとなった、西の大陸。九つの国からなるこの大陸には、正体不明の謎生物がいくつも生息しており、近年だれも発見できていないもの(そもそも、誰も探したがらないもの)もいくつか知られている。
それらの中でも特筆して、この土地にいる間にどうしても仕留めたいものを備忘録としてまとめておこうと思う。

シロアリモドキヤドリバチ
・・・小型の寄生蜂で、メスは翅がない。メスは巨大な目を持ち、前脚はカマ状に変形し、アリをロボットで武装したような姿をしている。南方の街路樹の幹に住むシロアリモドキに寄生するらしいが、数十年前に記載されて以後だれかが見つけたという話を聞かない。徹底的にシロアリモドキを捕まえて見ていけば、すぐ見つかりそうな気もする。
一方でシロアリモドキというのは昆虫としてはかなり特異な分類群で、系統・発生その他いろんな方面から研究されている。その関係で、これまで多くの研究者によって野外から多数個体が採集されている。そうした人々から、ハチを採ったとかハチが羽化したという話が往々にして出てこない雰囲気なので、やはり相当に珍しいものなのかもしれない。

※正確には、メスが1950年代に見つかって記載され、その後オスが1970年代に見つかったので、原記載以後見つかっていないという表現は間違い(恒吉 1985)。いずれにせよ、最近見た者はいないはず。教えて下さった方、ありがとうございます。


ヤツシロハマダラカ
・・・ただの蚊で、ヒトの血を吸うばかりかマラリア媒介能もあるらしい害虫。しかし、ここ数十年間まともに国内で生息が確認されていないらしく、環境省の絶滅危惧種にまで指定されている、珍しい害虫。本州より南で見つかっているが、ヤツシロというくらいだから熊本に多かったのだろうか。しかし、見つけたとしても他の似たハマダラカと区別できるかという重大な問題がある。
蚊なんて誰も好きこのんで探さないだろうと思いきや、蚊というのは人命に関わる衛生害虫のため、疫学的な観点から各地で定期的に生息調査が行われているようである。それにすら引っかかってこないということは、かなり発見は厳しいかも知れない。


オオカマキリモドキ
・・・大形のカマキリモドキで、遠目に見るとハチにとてもそっくり。全国的に非常に珍しいが、九州のある場所では凡種らしい。恐らく、いちばん最初に仕留められそうな種。本尊を拝むことより、幼虫期の生態を解明することを考えるべき相手。


ヒコサンクシヒゲカゲロウ
・・・小形のクサカゲロウの親戚で、全身が褐色。オスは触角がクシ状に枝分かれしており、怪獣の趣がある。英彦山から発見されたただ一匹により記載されたが、その後まったく採れていないため存続不明になっている。
夜行性の脈翅は灯火に飛来するが、英彦山ではおそらく数多の研究者がさんざん灯火採集をしているはずで、それですら採れていないのだから、個体数は物凄く少ないのかも知れない。下手すれば、もう存在しない可能性もある。一方で、本種は灯火に飛来する性質が強くないか、好む光の波長域が特殊なだけという可能性だってある。それならば、ケカゲロウを採集するのに使った「あの方法」が使える。


ヒコサンアリヅカノミバエ
・・・とても小さいハエ。オスは普通のコバエだが、メスは翅が痕跡すらない。翅どころか、メスはそもそもハエの姿形をしておらず。むしろダンゴムシか話題のグソクムシに近い姿。好蟻性らしく、ヨーロッパの近似種はアリの蛹から羽化する生態が知られる。しかし、日本では古い年代に英彦山でマレーズトラップにより少数が得られただけ。その後どこでも発見されておらず、当然アリの巣からも見つかっていない。
今まで2度3度、このハエを探すだけの目的で英彦山へ赴いて、さんざん寄主とおぼしきアリ巣を調べたものの、かすりもしない。


セトオヨギユスリカ
・・・小型のユスリカで、海に住む。成虫は大潮の夜に羽化するが、オスは翅が退化傾向で飛べず、メスに至っては脚すらない。グライダーの骨組みだけのような格好のオスは潮だまりの水面を群れで滑走し、水底から浮いてくるメスを捕まえて交尾するらしい。本州から西の地域の海岸線にぽつぽつ分布しているようである。居住区の近辺にはいい海岸があるので、これもすぐに仕留められるだろう。


マドホソアリスアブ
・・・小型のアブで、国内でまだ4匹しか採れていない。そして、一度採れた場所でもその後追加個体がほぼ得られていない。好蟻性のアリスアブの仲間とされているが、姿形といい体サイズといい、一般的なアリスアブ類のそれとはあまりにもかけ離れている。夏に成虫が出現する以外、生態情報は何もない。東南アジアのジャングルの縁で、明け方近くにこれに酷似した種の羽化直後個体を複数匹採っている。記録のある地点で初夏の明け方探すと、羽化直後の個体を拾える可能性がある。
一度、記録のある場所の下見に行ったことがあるが、その際採れた地点付近に集中して、余所では少ないある種のアリがやたら多くいたのが、ずっと気になっている。


フサヒゲサシガメ
・・・全身毛モジャの奇怪な生物で、日本の珍奇生物としては確実に5本の指に入る逸材。しかし、あまりにも珍しすぎて現物を見た者がほとんどおらず、知名度も低すぎて、昨今流行の奇妙な姿の生きものを紹介するような本にさえ載らない。樹上性の何らかのアリの行列脇で待ち伏せ、特殊な分泌物でアリを手元におびき寄せて眠らせると、獲物の脳天を口吻で突き破って中身を吸い尽くす。睡魔サッキュバスの化身。
その珍奇性に魅せられて、幾多の本職カメムシ学者がさんざん各地で探しているにも関わらず、ここ20年くらいは日本中どこからも見つかっておらず、すでに絶滅しているという悲観論もある。西日本の松林で得られた記録が多いため、昨今松食い虫防除のため松林で多量に殺虫剤を散布されている現状では、もはや生息が期待できないという。しかし、一方でこれはあくまで好蟻性昆虫であるため、樹種より寄主アリ種に着目して探さねば意味がないと思う。そのアリ種が分からないのが困りものだが・・。
歴戦のカメムシ専門家達の惨敗ぶりを見る限り、松に固執した探し方をしているばかりでは埒があかない様相なので、俺は目先を変えて寄主アリに着目した探し方をしようと思う。既に寄主となりそうなアリの種は見当が付いている。加えて、今まで誰一人やりそうでやらなかった「ある方法」を、各地でジュウタン爆撃的にやるつもりでいる。

コゾノメクラチビゴミムシ
・・・洞窟や地下に住む目のないゴミムシの一種で、国のレッドリストで「絶滅種」と認定されている数少ない昆虫の一つ。模式産地だった洞窟が石灰岩の採掘工事で壊滅したうえ、産地の周囲は近縁の別種が分布しており(原則、この仲間は同所的に複数種が共存しない)、今後二度と発見されないことが確実なので絶滅種とされたらしい。
こうした絶滅判定は、その道の研究に人生を捧げたような偉い学者によってなされている訳だが、俺はこの分類群に関して全くの素人なので、身の程もわきまえず「本当にそうなのか?」と疑っている。同じく絶滅種と認定されているカドタメクラチビゴミムシの場合、周辺に分布する近縁種との兼ね合いや、グーグルマップで見た模式産地の状況を見る限り、確かに今後永遠に見つからなそうな雰囲気を感じる。しかしコゾノの方は、まだいくらか悪あがきして探す余地がある気がする。何せ、「不在証明」の不可能さというものは、すでに釣りキチ三平によって証明されているではないか。
専門家と違って素人というのは一切の先入観を持たず、「いない可能性」を馬鹿正直に潰していこうとするため、結果として専門家が見落としていたとんでもない珍種を発見するなどということは、昆虫学の分野ではいくらでもある。かつてUMAの類のように思われていたイリオモテヤマネコを実在の動物として昇格させたある学者は、「いないと思った瞬間終わる」と言った。あらゆる正体不明の生き物は、いる前提で探さねば絶対に見つからないのである。専門家がこれを見ていたら鼻で笑うかもしれないが、俺はまだコゾノは生きていると本気で信じている。
何より、コゾノをネットで検索して出てくる環境省レッドリストのあるページに、「コゾノにはごく近縁な種が知られているため、学術的価値は低い」などと書かれている辺りに、妙な親近感を覚えた。絶滅ないしそれが危惧される他種のメクラチビゴミムシは、分類学的に顕著で他に似た種がない特徴を持つが、コゾノはそれがないので格下に見られているらしい。そんな価値のないもの、奇人変人以外にわざわざ探し出そうなどという者などいない。


果たして、この短い居住期間中に、これら精霊達に一人でも多く出逢い、デレさせることができるだろうか。

参考文献:
恒吉正巳(1985)鹿児島産の紡脚目コケシロアリモドキの生態について。鹿児島県立博物館研究報告 4: 23-34

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百鬼夜行、魑魅魍魎!
「シロアリモドキヤドリバチ」カマバチのカマを連想してしまいますが、
夏に向かってハードなフィールドワークになりますね、
雑木林で咲いているエビネに出会う嬉しさもありますが・・
瓜豆|2014.05.07/16:07
体がもう2,3つ欲しい忙しさです。どこかのフィールドで、ふらっと出会えることを願っています。
richoo|2014.05.08/19:08

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