飛竜

1075.jpgフライングスネーク。おそらくゴールデントビヘビChrysopelea ornataの幼蛇。タイにて。

トビヘビ類は熱帯アジアのジャングルの高木樹冠に住む、とてもエレガントな蛇の一族。名前のとおり、枝から枝へと滑空する蛇として世界的に有名である。枝先まで行くと、一度体を曲げてバネを利かせ、一気に体を伸ばしてジャンプする。そのとき、左右の肋骨を目いっぱい広げて扁平な姿になり、空気抵抗を少しでも増やして滞空時間を稼ぐ。
熱帯の樹冠は高いため、隣の木に移る場合一度地面に降りてもう一度登りなおすのは疲れる。地上で敵にも襲われる。だから、降りずに飛び移ったほうがはるかに楽である。その結果、熱帯のジャングルでは蛇どころか蛙も蜥蜴も守宮も飛ぶようになった。もっとも、蜥蜴を除けばほとんど飛ぶというより「斜め下方向に飛び降りる」が正しい。今いる枝よりも高い位置に飛び移ることは、基本的にできない。

トビヘビといっても、どの種も滑空できるわけでなく、本種は残念ながらできない種らしい。当時それを知らず、掴み取って芝生で真上にぶん投げたが普通に真下に落ちたので、不思議に思っていた。申し訳ない。しかし、滑空できずともジャンプはする。そして行動は矢のように俊敏。

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眼球が正面を向いて付いているので、ある程度立体視ができる。飛び移る目的地を見定めるには、視力がよくなければ話にならない。
飛竜たちは天空の楽園から容易に下界に降りてこないため、地べたを這いずる人間風情がそう簡単に出会っていい生き物ではない。毎年ジャングルへ行く生活をかれこれ何年も続けているが、これが今年になって人生初めて出会った個体。

1076.jpg目が大きくてかわいい。顔だけ見れば、魚か蛙とほぼ変わらない。世界の蛇が全部この顔なら、もう少しは人気も出ただろう。

トビヘビ類は、すべて弱毒。獲物である蜥蜴類を短時間で眠らせることはできても、人間に対しては特に危害はないとされている。しかし、蛇を語るときにしばしば出てくるこの「弱毒」というワードは、実にいやらしい。
ナミヘビ科は基本的に無毒の種で構成されているが、その中でも一定数の有毒種が存在する。そのほとんどは対人毒性の低い弱毒種とされる。だが、すでにいくつかの「弱毒種」において、その限りでないことが判明している(鳥羽 2001)。すなわち、毒牙の構造上の問題で、たまたま致死量の毒を人間に注入できないだけで、毒成分自体は相当強いらしい。弱毒とされる熱帯のマングローブヘビに咬まれて、しばしば重篤な症状に陥るケースがあるというのは、そういうことも一因であろう。もちろん個人の体質にもよる。

日本のヤマカガシはかつては無毒と考えられ、図鑑にすらそう書いてあった。しかし、それは奇跡的に近代までこの国で本種に執拗に咬まれた人間がいなくて分からなかっただけで、実際には猛毒蛇だった。八重山のサキシマハブも本島のホンハブよりは弱毒とされるが、それでも咬まれれば場合により腕や足の一本は失う可能性がある。「弱毒」という言葉に踊らされないように注意したい。今回こいつと遊ぶときにも、軍手と長袖を装着して、万が一でも毒牙を受けないようにした。

参考文献:
鳥羽通久(2001)弱毒のヘビの危険性について。Scale 11: 78-82.

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