1103.jpgクツワムシMecopoda nipponensis。福岡にて。

裏山に、ものすごい数が住んでいることに気づいた。下草に隠れているので姿を確認しがたいが、たまたま草刈した跡に高密度でいたので、たやすく見つけられた。
いわゆるガチャガチャだが、すぐ至近で聞くと一個体の鳴き声は「キャキャキャキャキャキャ・・」という声の繰り返しであるのに気づく。そして、耳の鼓膜を破かんばかりのうるささ。集合している場所へ近づくと、その茂み全体で何か巨大な機械のモーターが動いているのかと思うほどの轟音。
クツワムシは日本の鳴く虫では格別に好きな虫なので、これがうじゃうじゃいるのはうれしい。これがもっと居住区の近くであれば、毎晩聴きに行きたいほど。

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クツワムシに関しては忘れがたき思い出がある。2才くらいのころ、母方の実家がある漁村の裏山にはこれがたくさんいて、夏の夜はにぎやかだった。しかし、クツワムシは夜中、うっそうとした藪の中だけで鳴く。マムシがいるかもしれない夜の藪に、親は俺を入らせようとしなかった。しかし、俺はどうしてもあのやかましいほどに自己主張をするこの虫を手にしたくて、採りに行きたいとさんざん駄々をこねた。
そしたら、当時まだ存命だった祖父が、俺のために黙って一人でマムシのいる藪まで夜中分け入り、クツワムシを採ってきてくれたのだった。そのとき、生まれて初めてクツワムシを見た。予想以上に大型の生き物で、葉っぱに擬態した姿といい、やかましい鳴き声といい、すべてに魅了された。

それからまもなく祖父が他界した頃を境に、突然この地域からクツワムシが減り始めた。毎年夏休みに来るたびに、夜中のあの声がまばらとなり、ついにはまったく鳴き声がしなくなった。ちょうどこの時期バブルか何かの影響で、この地域の山べりの「遊んでいる土地」が片っ端から住宅分譲地になったため、その煽りを受けて死滅したらしい。
もはや幻と思われたクツワムシだったが、2000年代初頭からなぜか突然また出現し始めた。それから急速に数が増え始め、今ではあの頃以上のやかましさで裏山をにぎわしている。

1105.jpg最近この漁村地域は急速に過疎化が進み、山に人が入らなくなった。かつては山沿いに整然と並んだ畑も今や持ち主がいなくなり、下草がものすごく繁茂してきている。そのため、クツワムシが住みやすい環境が意図せず復活し、たまたまよそから流入してきた個体群がうまく定着したのだろう。
その状況がいいことか悪いことかは別にして、俺は祖父がクツワムシに姿を変えて、戻ってきたのだと思っている。

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richooさんの文章を読んで、幼児の私のために、トノサマバッタを採ってくれた従姉のことを思い出しました。その大きさ、色彩の美しさ、脚の棘の痛さ・・・実物のすごさに感動しました。
クツワムシの鳴くところを撮影しようと、この秋、試みましたが、失敗でした。藪の中で見つけたのですが、ライトを当てると逃げてしまいました。来年またチャレンジです。
kiokuima|2014.11.15/07:47
kiokuima様
トノサマバッタも、身近な日本の虫の中では特筆して巨大ゆえ、それにまつわる思い出もずっと残りますよね。
クツワムシは明るくするとすぐ鳴きやんでしまうので、ライトでしばらく照らしたあと逸らしてを絶妙なタイミングで繰り返すのがミソですね。
-|2014.11.15/21:25
アドバイスをありがとうございます。クツワムシだけでなく、鳴く虫の撮影の困難さを痛感した今年の秋でした。
kiokuima|2014.11.16/20:22

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