2014/12/15|Category:膜

北方系。日本では屋久島が南限で、これ以南の南西諸島では姿を消す。ただし、台湾には高標高地に限り見られる。北方系とはいえ、屋久島では平地から亜高山帯まで広く分布する。
後になって、これまでの屋久島におけるクロヤマの記録はハヤシクロヤマアリF. hayashiの誤同定である可能性が高い、との情報があることを知った。でも、コレはどう見たって普通のクロヤマだ。少なくとも、本土で見たら迷うことなくただのクロヤマと判断するようなものしか見かけなかった。事前に知っていればもう少しちゃんと調べたのに、惜しいことをした。
※どうやら、ハヤシクロヤマだったようです。腹部2節目背面中央に、立毛が出るのが普通のクロヤマ、ないのがハヤシクロヤマでした。外見は本土、特に本州のハヤシクロヤマとはかなり違った雰囲気ですが、どうやら西南部のものほど少し変わるようです。教えて下さった方、ありがとうございました。
本土のクロヤマアリの巣には、アリヅカコオロギが高頻度で寄生する。「アリの巣の生きもの図鑑」(東海大学出版部)には詳細を記したが、日本のアリヅカコオロギ属は、本土と南西諸島とで種組成が根本的に違う。しかし、その分布が入れ替わる境目がどこかはよくわかっていない。恐らく、北と南の要素が混ざる屋久島ではなかろうかという目論見があり、執拗にクロヤマアリを中心とする種々のアリの巣を暴いた。
ところが、いくら探してもアリヅカコオロギは一匹たりとも見つからなかった(アリシミはいた)。さまざまな標高で、相当数のコロニーを開けたのにもかかわらず。寒い時期だから地下深くに引っ込んでるのかとも思ったが、アリは普通に石裏の浅いところで集まっていた。それに、極寒の2月の長野ですら石裏でよくアリヅカコオロギは見つかるから、寒さの問題ではない。そもそもいないのだと思う。
不在証明の愚かさは、すでに釣りキチ三平が言及しているところだが、それでも相当な数の、しかもかなりの大コロニーのクロヤマの巣を暴いて一匹もコオロギが採れないというのは、本土ならば普通では考えられない。どんな生物種でも、分布の端というのは貧弱になるものだ。南のコオロギも北のコオロギも、長い歴史の中でうまくこの島に到達できなかったか、できてもここの特殊なアリの種組成に耐えられなかったのかもしれない(島の麓は、全域に渡りコオロギが絶対寄生できないアシジロヒラフシアリが席巻している。また、ヤマアリと並び本土ではコオロギの主要寄主たるトビイロケアリがきわめて少ない)。
生物地理的に絶対面白い地域なので、本当はうまく見つかればよかったのだが、いなければいないで一つの発見ではある。もし屋久島でアリヅカコオロギを見たことがある人がおりましたら、ご一報ください。
屋久島ではそのほか、本土でクロヤマの巣を二つ三つも暴けば絶対出てくるオカメワラジムシも全く出なかった。代わりに、本土ではアリの巣でまず見かけないニセヒメワラジムシが高頻度で見られたのは異様だった。ハガヤスデもほとんど見かけなかったし、ここのアリの巣界隈ではかなりおかしなことが起きている印象を持った。温暖な時期に再訪する必要がある。