
フシボソクサアリ
Lasius nipponensisが護るクヌギクチナガオオアブラムシ
Stomaphis japonica。長い口吻を、これから樹幹に突き刺す。



適地を見つけると、まず脚を踏ん張る。そして、それまで股ぐらに収めていた長い口吻を前方へ苦労して伸ばす。腕立て伏せするように上体をそらし、少しずつ伸ばす。
アリの加護があるとはいえ一番無防備な瞬間なので、少しでも異変を感じると以後の作業はやめる。

完全に口吻を真っ直ぐ前に伸ばすと、先端部分を聴診器のごとく幹表面に数回あてがう。そして、ある一点に口吻先端を固定すると、ゆっくり穿孔し始める。しなしなの口吻で、よく硬い樹幹に穴を穿つものである。もちろん、途方もない時間を要する。

二時間後。手前の地衣類の位置関係から、最初よりも前進しているのがわかる。

三時間後。これだけかかって、まだやっと口吻全体のうち三分の二が刺さった状態。完全に口吻の根本まで埋めるのに、最終的に5時間くらいかかった。
クチナガオオアブラムシは、民家周辺の公園や裏山でごく普通に見られる。しかし、日本に数多いる昆虫学者の中で、この超弩級普通種の虫が自分の体長より長い口吻を硬い樹幹に突き刺す様を、初めから終いまで見届けたことのある者が何人いるのか。
大学学部時代、天文学の教授が「流れ星は、理論上2時間に一個は必ず夜空を流れる。生まれて今まで一度も流れ星を見たことのない奴は、生まれて今まで一度も夜空を2時間眺めたことすらない奴だ」と言っていた。小さな油虫に、流れ星を思った。