今年のアルバムから。
2090.jpgキタガミトビケラ Limnocentropus insolitus。長野にて。

幼虫は河川上流の激流中にのみ生息する。植物の屑を集めてミノムシ風の巣を作るまでは、有象無象のトビケラと同じ。しかしこいつは、巣に長い柄を伸ばし、川底に固定してしまう。強靭かつ強大な脚をそこから広げ、流されてくる他の生物を引っ掛けて食い殺す。清涼な水質でないと生きられず、各地で希少種扱いされているものの、産地ではきわめて高密度に見出される。

数あるトビケラ中、一番好きな奴。昔、ネット上でこれの正面ヅラがでかでかとプリントされたTシャツを見たことがある。カマキリ超獣みたいな禍々しい脚を広げ、こちらに掴みかかろうとするその絵面にやられ、当時現物を見たことがなかった俺は、何とかしてその御姿を拝みたいと思った。また、これに近い構図でカッコいいこれの写真をどうにか撮れないものかと思案した。
長野ではちょっと山手に行けば比較的普通にいるものらしいが、居住してた13年間中、ついに一度も見る機会がなかった。今年、ある用事である渓流に行った際、たまたま多産地を見つけた。そこで、これのカッコいい写真を撮ろうとしたのだが、これが想像以上に至難を極めることが判明した。

水中にいるものを撮影する方法としては、カメラに特殊な防水ギミックをかませて直接水没させる方法と、被写体を一度水槽などに移して撮る方法の二つしかない。
前者は、本格的設備を揃えたら一発で破産するので、必然的に後者一択。巣が付いた川底の石を拾い上げ、あらかじめ持参した容器にブツを移してさあ撮るぞ、と思ったら、様子がおかしい。

2086.jpg虫が外に身を乗り出し、柄を齧り始めた。あっという間に食いちぎり、離れてしまった。この虫は非常に警戒心が強く、何か不都合があると速やかに固定部を切断して逃走するのだ。一度これを始めてしまうと、やめさせる手だてがない。
こっちは、自然な状態で脚をカアッと広げた姿が撮りたいのに、これではまずい。幸い、辺りには腐る程の個体がいるので、何回か続けざまに再チャレンジした。だが、全て失敗。一度水から出してしまうと、必ず逃げられることが分かってきた。それ以前に、水中にある巣の付いた石を拾い上げようと、その石に手をかけた時点で奴らは逃げる準備を始めてしまうのだ。どんだけ臆病なんだ?

その後、延々試行錯誤した結果、ものすごくそーっと石を拾い上げること、それをあらかじめ水中に沈めた容器に入れることで、多少ニブチンならすぐ逃げられずにとどめておけるらしいことが判明。
しかし、問題はそこから。容器を水面に上げ、川岸まで運んで平坦な地面に置き、さらにディヒューザを素早く容器に取り付けて撮影しないとならない。運搬中、不自然な振動を与えると、すぐ柄を齧り出す。また、いつも流水中にいるため、水流が止まるとそこがいつものあるべき場所でない事に気付き、怪しみ始めてしまう。その時は慌てて川に戻り、水流を当てて安心させねばならない。ものすごく疲れる。

2087.jpg一番大きく脚を広げた瞬間だったのに、慌てて巻いたディヒューザの巻き方がまずく、光が回らない。

2088.jpgディヒューザを直した頃には、もうこちらの手の内に気付かれてしまった。脚を縮めてしまい、もう広げない。この後、速攻で食いちぎられた。

2089.jpg食いちぎった柄の上でへらへら動く。撮れるものなら撮ってみろと、こちらを馬鹿にして踊っている。

恐らく、家で飼育すれば楽に撮れるんだろうが、渓流にいるものなんて飼うの難しそうだし、持ち帰る段階で死にそうなので、なるだけ現地で撮影したい。また、近年は防水仕様のコンデジも多く出ているからそれを使う方法もあるが、レンズやストロボの事を考えれば、今の愛機でどうにかしたい。一番好きなトビケラだから、一番綺麗に撮ってやりたいのだ。こいつの撮影は、来シーズンの課題とする。

キタガミトビケラ科は日本では1種だが、ヒマラヤには近い仲間が他にいるらしい。今回相手にしなかったが、この沢には同所的にムカシトンボもいる。ムカシトンボもやはり近縁がヒマラヤにいる。山沢の崩落地地下にいるリュウノイワヤツヤムネハネカクシも、やはりヒマラヤ要素の仲間。日本の山沢は、ヒマラヤへと続く時空転移門。

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