去年のアルバムから。
2183.jpgウデナガ(ヒナ)マシラグモMasirana longipalpis。未熟個体の、恐らくメス。

沖縄本島を中心とした、南西諸島の石灰岩洞窟に分布する洞窟性クモ。住宅地すぐ脇の防空壕にも生息する。岩の隙間に目の細かいシート状の網を張り、その裏側に張り付いて獲物を待つ。
ガラス細工のように半透明で、繊細な体をしている。また、ストロボ光を浴びせる角度により、脚は妖しい燐光を返す。洞窟性の傾向が強いマシラグモ科にあって、富士山の地下風穴に固有のフジマシラグモに次いで特に形態的特化の程度が激しい種。眼は退化傾向にあり、また個体によってその程度が異なる。

狭い岩同士の隙間に網を張るため、レンズをねじ込むのが難しく、撮影は厄介。レンズのこばを岩にガンと当てた震動で、クモがびびって奥の隙間に逃げ込んでしまい、そのまま30分くらいは機嫌を直さない。
しかも、このクモの網はものすごく繊細かつ軽い。完全無風で空気の流通がない洞窟に張られるため、風で破けることをまったく想定しない造りをしている。こちらが傍でちょっと身動きしただけで起きる空気の流れにより、台風に煽られるかのごとくブルンブルン網が揺さぶられてしまい、クモの機嫌がなお悪くなる。

2185.jpgこのクモの形態的特化の真骨頂は、オスにある。メスよりもさらに繊細な姿をしている。その上、口元から生える触肢の長さ。くの字に曲げているが、まっすぐ伸ばせば体長の倍近くに及ぶ。国内で体長に対し触肢がこんなに長いクモは、マシラグモ科はおろか他分類群のクモを探してもいないんじゃなかろうか。
近年国内外で見たクモの中でも、一二を争う程俺を感激せしめた者。あらかじめ記載文のスケッチを見て、どんな姿をしているかは知っていた。しかし実際対峙したとき、思わず溜息をついてしまった。

2184.jpg日本には、まだまだ不思議で面白い生き物が沢山いる。しかし、その大半は一般市民の手に取れる図鑑には載らない。一部の研究者だけしか入手できないような学術論文に、バラバラに解剖された種同定に必要最小限のパーツのスケッチが載っているだけだ。もちろん、テレビの自然・動物番組にも映されない。
一般市民にとってそういう生き物が存在することを認知するための、そういう生き物の生きたままの姿を見るための機会が尽くない。「アリの巣の生き物図鑑」が出版されたのも、そして今精霊図鑑を作ろうとしているのも、日本の自然科学普及における上記のようなざまに小石をぶん投げることを意図してのことだ。

天才ナントカ動物園も、ナントカが来たも、犬猫猿や象ライオンはもういいから、足元にいるこういうのをもっと取り上げましょうよ。

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雲母を剝して拵えた美しいクモ、
フジマシラグモの燐光を放つ肢も綺麗、
バーのカウンタァのブルゥムーン・カクテルの色、
精霊図鑑、好い装丁と編集で!すね。
瓜豆|2016.02.20/15:25
この仲間は、灯りを照らすとみな虹色の光を返します。暗闇にいるのに、何か意味があるんでしょうかね。
落とすべき精霊は、まだまだ多いですね。
-|2016.02.21/20:35

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