2293.jpgキオビエダシャクMilionia basalis

西南日本で見られる、究極の美麗種。蛾だが、知らない人が見たら10人が10人蝶と言い張って憚らなさそう。しかし、その外見の美しさとは裏腹に、生息域ではとても嫌がられている。庭木として植えられるイヌマキの大害虫だから。
キオビエダシャクでネット検索すると、トップ20〜30くらいはキオビエダシャクの駆除に関連したサイトばかりで占められている。愛でるサイトは後ろの方にしかない。時に大発生して木を丸裸にしてしまい、本気で薬剤を撒かないと被害を抑え込めないこともあるらしい。
西日本に縁のなかった俺にとっては、初めて見たとき大層感激したものの一つ。しかし、生息地ではあまりにもウジャウジャいるため、次第に見るのもうんざりしてくる。体内に食樹由来の強い毒を持ち、鳥などの天敵に食われることが少ないのであろう。あらゆる生き物に嫌がられている。

2294.jpgこの個体を見た神社には、イヌマキの木がいくつも植わっていた。そしてその殆どが、ボロボロに食い荒らされていた。食われすぎたせいかは知らないが、半ば枯れかけている木も数本。

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たまたま羽化直後の個体を見た。しっとりした翅の質感、メタリックな輝き、全てに心奪われて、しばし見入った。しかし、見る人が見れば、また一匹クソ害虫が余計に量産されたとしか思わない光景だろう。

アマゾンのジャングルに住む煌びやかな蝶の趣きすらある、こんなに美しい種であるにも関わらず、虫マニアからの人気はすこぶる低い。ドイツ箱にギッシリこれをコレクションしている同好の噂を、往々にして聞かない。いくら見た目の色彩が綺麗でも、希少性が伴わない虫は人気がないものである。
逆に、どんなに地味で面白みのない外見でも、希少価値のある虫は皆がこぞって我先に手にしようとする。ある一地点にしかいない米粒サイズのメクラチビゴミムシとか、家の便所の窓枠に引っかかって干からびた蛾と幾ばくも違わない見た目の高山蝶など、その筆頭格と言える。

長野では、天然記念物の高山蝶を密猟した蝶マニアがしばしばパクられる。地元紙には、年に一度は必ず高山蝶の密猟検挙を大々的かつセンセーショナルに報じる記事が載る。それこそ、やんごとなき階級の要人を暗殺した、悪逆無道の殺人鬼を吊るし上げるが如くの晒しっぷり。
高山蝶と呼ばれる蝶の仲間は、中には綺麗なものもいるが、ぶっちゃけ薄汚い色彩の種のほうが多い。もし同じものが平地に普通にいたら、誰一人手など伸ばさないに違いない。タカネヒカゲなど、言ってしまえばウンコ色の蛾みたいなものだが、それでも限られた山の頂の一点にしかいない珍種ゆえ、欲しい者は己の社会的抹殺も厭わず手にしたいのだろう。

2292.jpg早春の夕日を浴びて翅を伸ばすキオビエダシャクは、「虫マニアにとって虫の価値とは何か」という命題について考える機会を与えてくれる。



※天然記念物の密猟、ならびに自然保護管理地区内での無断な生物採集は、死刑すら生温い重罪です。希少生物存続の直接的脅威になる事は元より、地域の人々やフィールド調査許可を出す機関等、自然科学の発展を支える全ての人々の信頼を裏切り、結果として後世の純粋な科学者による研究活動に要らぬ枷を増やす要因になりかねません。やめましょう。もしくは正規の手続きに沿った許可をとりましょう。
国立公園の特別保護地域で虫の調査をするまともな研究者は、たとえアリ一匹持ち出すのさえ事前に数ヶ月も前から沢山の許可申請書類を作成し、複数の関係省庁に提出の上、調査日当日は行きと帰りの二度省庁まで出向いて挨拶回りする、ということを当たり前にやっています。

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-|2016.04.17/21:19
どうもです。
そうですよね、本当はどんな生き物も生きている姿は美しいですよね。いつか、日本では忌み嫌われている外来種の、原産国で自然にふるまい咲き誇る姿を写した写真集など、誰か作って欲しいと思ってます。
-|2016.04.17/21:43

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