一度交えしえにしなら ときもそらまも超えたとて

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2576.jpg原住民が、わざわざ持ってきたその辺の虫。ケニアにて。

マリガットでの調査中、しばしば我々の周りにものすごい数の原住民が集まってきた。日本人などそうそう来ない場所だし、それが路傍でクソほどの価値もないようなアリだのシロアリだのをほじくっているのだから、当然といえば当然である。
我々が虫を探しているということが分かると、彼らは我々の所にそこらから採ってきた虫をわざわざ持ってきた。特に、虫の写真を撮っている俺の所には、次々に虫が運ばれてきた。我々のためによかれと思って採ってきてくれる訳だが、実のところ彼らが持ってくる虫のほぼ全ては、別に我々が欲している種ではない。それに適当に引っ掴んで持ってくるため、それら虫はたいてい潰れているか、触角や脚が千切れており、撮影用にも用をなさない。
正直ありがた迷惑であったが、くれたものはちゃんと笑顔で受け取り、彼らの前で写真を撮って見せた。そうして撮影したのが上の写真という訳である。本来いるべき場所にいる姿でもなし、ボロボロの姿の虫の写真など持っていても、この先図鑑にも本にも使い道がない。しかし、原住民と心を交わす上では、今回撮影したどんな学術的に貴重な写真よりも役に立っている。

僻地での遠征において、現地の人間との関係構築は重要なことだが、考え方や言語の違いなど様々な理由により、それは順風満帆に行くとは限らない。今回サバナのある場所で夜間灯火をたき、その周辺を歩いて好蟻性類を探したのだが、その目的はろくに達成出来なかった。確かに虫は灯りに大量に集まって来たが、同時に虫と同じ位の数の近隣の原住民まで集まってきてしまい、初めから終いまで妨害されてしまったから。
好奇心の強い彼等は、我々のやることなすこと全部が気になって仕方ない。見通しのよい夜の平原で強い灯りをつけると、遠くから一人また一人と様子を見に来て、ついには目視で灯りを認識できる範囲の原住民全員が集結してくる。それだけならいいが、彼等はやがて虫を集める我々の周りをウロウロし始め、その過程でせっかく灯火に飛来した目的のサンプルたる種を踏み潰してしまう。やっかいなのは子供らで、こちらが少しフェードアウトして暗がりで神経質な夜行性アリの行列を観察していると、すかさず察知して大挙して襲来してくる。彼等は群れで外国人の周囲を360度ぐるりと囲む習性があるため、必ず誰か一人がアリの行列を踏んでしまい、もう観察どころではなくなってしまう。
また、彼等の過度なお節介はここでも遺憾なく発揮される。こちらが行動を観察するため追跡している虫を勝手に横から捕まえて、嬉々として手渡してくれる。どうしても手が離せない状況で、お前のために凄い虫を見つけたから早く来い今すぐ来いと、どこにでもいる普通種の所まで案内される。終いには、あの虫の写真を撮って俺に見せろ、と原住民専属カメラマンにされてしまい、せっかく滅多に見られない研究上重要な種がそばにいるのにどうでもいい虫の写真ばかり撮らされ、ついには研究材料を全く得られないというパタンになる。
これじゃ仕事になんねえよ、と同行者は愚痴っていた。俺も当座は正しく同じ意見だった。一ヶ月や一年スパンの長期滞在ならば、彼等と交流を深めつつのんびり仕事をすることもできるだろう。しかし、我々はほんの数日しかない滞在期間中、目的を果たすべく尽力せねばならない。まして、この旅は多くの人々から得た支援金によって実現したものである。貴重な時間と調査機会を、こういう形で奪われるのは、けっこう困る。

しかし一方で、我々は彼等の土地に踏み込み、そこで仕事をさせて貰っている。それも、また事実である。彼等は決して悪意があるわけではなく、純粋な好奇心ゆえのこと。そして、可能ならば我々の力になりたいと思ってくれている。親切心の方向が、こちらの想定と少し違うだけなのだ。
だから、彼等の意向を無下には出来ないと思い、我々はどんなに研究材料を踏まれても、貴重な虫の行動を撮影し損ねても、彼等の前では絶対に顔には出さず、彼等の望むように努めて振舞った。もっとも、原住民の中には薬物中毒なのか、明らかに様子が正常でない(そして我々に対して挑戦的な態度の)者が一定数おり、下手に先方の意に沿わない言動を取ればこちらの生命の安全が担保されないから、という事情もあったのだが。ケニアでは、シンナー等を常習的に摂取する者が少なくないという話を聞く。

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かつて故・植村直己氏が山で何が怖いかと問われ、人が一番怖いと語っておられました。
時に、どの様な工夫のもと撮影されたのか想像すらできない一葉を目にすると、秘めたる苦労も山ほどあることでしょうね。
いつかCFの機会に恵まれたら、と思っております。
-|2016.08.14/17:52
見知らぬ僻地では、猛獣よりも病気よりも人間が最大の脅威ですね。一方で、最大の味方になってくれるのも、また人間だったりします。
-|2016.08.15/06:53
>最大の味方になってくれるのも、また人間だったりします。

けだし名言ですね。Richoさんが言われると乾いた心に染み入ります。
横から失礼しました。
けそみん|2016.08.15/19:58

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