神殺し

夏のアルバムから。
2658.jpgベニヒカゲErebia niphonica。長野にて。

登山ザックに染み付いた汗を吸いに来ている奴の撮影は容易いが、そうでない時は厄介。この蝶は、悪いタイミングで人を出現させるという特殊能力を持つ。苦労してやっと撮影しやすい場所に止まったのを見計らい近付こうとすると、必ず見計らったかのようなタイミングで登山客の往来が来てしまい、飛ばれてダメになる。それまで全く人など来なかった場所で、何度もだ。

ベニヒカゲは、特筆して個体数が少ない蝶ではない上、生態的にみて明らかに「高山」蝶と呼ぶのが相応しくない種である。しかし、長野県ではかなり早期から、よくわからない理由でこれを希少な高山蝶と称して天然記念物指定し、少なくとも採集だけは厳重に禁じている。
多くの虫マニア等は基本的にこの措置を不可解に思っているが、しかし法は法なので、毎年山で監視員にパクられて地元紙の一面を飾るような連中(それもなぜか壮年・熟年の、医者やら大学教授やら社長やら社会的に上位階級の奴らが多い)はさておき皆従っている。

どうも長野県民は、蝶を虫ではなく野鳥と同等の生物と見なしている向きがある。故に、これを捕獲したり殺生する者に対しては、他の虫を殺した時にはあり得ないような、尋常でない怒りと嫌悪感を露わにするのだと思う。ただでさえ位の高い蝶に、高山という付加価値が付けば、もう神と同列に神聖な存在となる。神を捕まえ殺すなど、地獄に1垓3千京回落としても生ぬるい凶行なのだ。
かの地に移り住んだ10数年前、俺はこの土地の人間のそうした思想をどうにか「改革」できないものかと息巻いたものだったが、時間が経つにつれてこれがそういう理屈云々の問題ではないという事に気づいていった。

長野県では、研究目的であってさえ高山蝶の採集許可を得るのは極めて難しく、仮に得ても捕獲頭数を究極最小限かつ厳格に制限される。同じ国立公園の特別保護地域内においても、蝶を採る許可とそれ以外のゴミみたいな虫を採る許可とでは、申請にかかる手間が雲泥の差だ。
もちろん、ゴミみたいな虫を採る許可だって簡単には取れない。虫の研究も楽ではない。

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