森・山中

夏のアルバムから。
2650.jpgサシチョウバエ。静岡にて。

分布から見てニホンSergentomyia squamirostrisだろう。深夜、山間の電話ボックスの灯りに少なくなかった。正直、日本の本土にいるというのが信じられない生物。すぐ飛んでしまうため、撮影は至難。

サシチョウバエ科は主に熱帯に多い蚊の仲間で、吸血性を持つ(正確には刺すのではなく皮膚を咬み破り、流れる血を舐める)。海外ではこの仲間が媒介する致死的な感染症により、僻地を中心に今なお多くの人間が死んでいる。俺も南米では、こいつらの攻撃でかなり悩まされた。とても小さく、服や帽子の中に入ってきて咬みついてくる。蚊帳の目もすり抜けて入ってくるため、普通の蚊と比べて防ぐのが難しい。
手元にある資料を見る限り、日本では本州以南からニホンが知られるほか、南西諸島からも最近いくつかの種が見つかったような噂を聞く。日本産サシチョウバエは、どうも人間を含む恒温動物からは吸血しないようで、ヤモリなど爬虫類だけを攻撃するらしい。よって、こいつは人間にとって敵ではない。

愛読書「図説ハエ全書」(マルタン-モネスティエ、原書房)の中にある「殺す小バエ」の章で、サンチュウバエなる謎のハエの話が出てくる。何でも、そのハエはすさまじく小さくて見た目は大したことなさそうなのだが、とても恐ろしい伝染病を人間にもたらしてしばしば多数の死者を出すという。この話を読みながら、俺は聞きなれないサンチュウバエというハエが一体なんなのか気になっていた。しかし、章末のほうでリーシュマニア症という言葉が出てきたため、これはサシチョウバエのことを言っているのだと気付いたのだった。
文中、3回くらいサンチュウバエという名前で書かれていたため、単なる誤植ではなく、訳者がサンチュウバエという名の昆虫がいるのだと勘違いして能動的に書いている。どういう経緯でサシチョウバエをサンチュウバエと認識したのか気になる。なお、この本の影響からか、ネット上でググッてもサンチュウバエと表記しているサイトが僅かに引っかかってくる。

元々日本国内では全くなじみがないサシチョウバエという昆虫は、昆虫学に心得のない人間にとって得体の知れないものである。サシチョウバエは英名をsandflyというが、大抵の英文訳者はこれを読んだそのままにスナバエと誤訳することが多い。ハエ全書のオリジナルは恐らくフランス語だが、もしかしたら訳者はフランス語で書かれたサシチョウバエを指す単語の意味が分からず、誰かに聞いて一度はサシチョウバエだと認知し、手元のメモか何かに殴り書きして備忘録としたが、後で見直した時に字が汚くてサンチュウバエと書いたと思い込んでそのまま入稿したのだろうか。想像が膨らむ。
ハエ全書はとても面白い本なのだが、原著者も訳者も明らかに昆虫学の専門家ではないようで、所々におかしな記述が多い。そういうのを全部含めて、面白い本なのだ。

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