2787.jpgコジマチカヨコエビEoniphargus kojimai。静岡にて。

行きつけの裏山の脇に、小規模の湧き水がこんこんと出ている場所がある。もしやと思ってそこを掘り返して洗い出したところ、多数の個体が得られた。ネット上で公開されている検索表を使って、どうにか同定した。
関東周辺の地下水脈で見つかっている生物で、眼はない。体の色素も失せて、生時は透明に近い。健康診断の日に、レントゲンを撮る手間が省ける点で人間より有利。

この手の地下性甲殻類は、かつては洞窟内のたまり水を探すか、井戸水を汲んだ中にたまたま紛れているのを探す以外に姿を見る術がないと思われていた。しかし最近、道脇のちょっと水がしみでているような場所を掘り返し、そこの土中の砂礫を洗うだけで結構採れることが判明したのである。こういう生物がその方法で採れるならば、同様にして地下性の水生昆虫も採れるんではないかと踏んでいるのだ。

日本の地下水中には、ものすごく変わった姿かたちのゲンゴロウが住んでいる。ほぼメクラチビゴミムシの水生バージョンみたいな風貌の奴で、体長1-2mmしかないゴミカスみたいな虫なのだが、その見た目の珍奇さ、究極の採り辛さからこれを求める虫マニアは多い。しかし、これを採るためには手押しポンプ井戸を水が枯れる位まで死ぬほどこいで水をくみ出すか、もしくはモーター式の井戸ポンプに取り付けられている不純物こし取りフィルターを外して確認するかをせねばならない。
現代日本においてそれは大変に至難である。そもそも井戸というもの自体がなかなかない。仮にあったとしても、井戸は大抵所有者がいて、大切に管理している。その井戸から水を無為かつ大量にくみ出すとか、内部に噛ませたフィルターを見せてもらうなどの行為は、よほどそこの井戸の管理者と親しくなり、かつ理解を示してもらわないと不可能である。もはや虫採りの範疇ではなく、見知らぬ人との交渉術の問題になってくる。そのため、多くの虫マニアは誰もが一度は地下性ゲンゴロウを手にしようと憧れるが、まもなくそれがあまりにもハードルの高すぎる案件であるのを悟り、以後考えることをやめる。
我々のアクセスする手段が現状では井戸しかないという事実が、地下性ゲンゴロウの発見・研究を著しく困難にしている。そのため、日本国内に数種いる地下性ゲンゴロウのうち大半は、史上1匹とか3匹採れただけで、なおかつ近年の存続の有無すら定かでないものばかり。

今のところ、地下性ゲンを井戸以外の手段で採った者はいない。最近、ランダムに地中に金属棒を差し込んで地下水を汲み出し、水脈の生物を採る器具が開発されたらしいが、入手の方法が公表されておらず、市販はまだのようだ。
湧き水の川底を丹念にふるうやり方では、地下性ヨコエビの他メクラミズムシといった通常では採集至難な地下性甲殻類も採れることがわかっている。これでゲンだけが採れない理由はない。
なるだけ関西地域で、平地の里山環境にある些細な湧き水のある場所を探したい。場所さえ見つければ手堅い自信があるが、土地勘もツテもないので、そこで止まっている状況。

男なら誰もが地上最強に憧れるというのはグラップラー刃牙を見ればわかることだが、同じく虫マニアなら必ず一度は地下性ゲンに憧れる。俺も今まで生きてて数回地下性ゲン熱が上がり、その度にそれがあまりにも無謀な夢であるのを思い知って冷めてきた。寄せては引く地下性ゲン熱だが、ここ2年ほどは寄せたまま引いてない。ここでたたみかけたい所。


篠田授樹(2006)東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査。研究助成・一般研究VOL.28-NO.164 :1-49
富川光, & 森野浩. (2012). 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方. タクサ: 日本動物分類学会誌, (32), 39-51.

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