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4382.jpgアオマツムシTruljalia hibinonis。茨城にて。

市街地にいくらでもいるが、本来の自然に振る舞っているさまを撮影するのは非常に難しい。いる場所がべらぼうに高い樹冠か、低木にいてもそのすぐ正面に人んちの窓があるような立地ゆえ、撮影したくてもできない場合がほとんどだから。今回、方々を駆けずり回ってようやくマシな立地に多くの個体が住む低木を一本だけ見つけたが、正直ここも夜中にストロボを気兼ねなく光らせられる雰囲気ではなかった。

昔の図鑑などを見ると、アオマツムシを「風情を壊す騒音害虫」として記述している例が少なからず見られる。しかし風情云々は別として、実際の所これの声を騒音と見なしている人間が、今の都会にどれだけいるのだろうか。確かにこれの大合唱は相当な大音量だし、夜に窓を開けていると部屋のテレビの音が聞き取りづらいことはある。しかし、だからといってこれの声のせいで仕事に集中できないとか寝られないなどということは、少なくとも俺はないし、周囲の人間に聞いてもそんな奴に一人とて出会ったためしがない。
役場に「アオマツムシの声がうるさいから、薬剤散布で残らず駆除しろ」との苦情が入ったとの噂も、虫マニア連中の間で流行ったことはないと思う。だいたい、今時期に夜の市街地を歩いて、上を見ながら「木の上で虫の声がうるせえな」などとぼやいている通行人がいるだろうか。みんな、ただのノイズの一つとして「耳には入っているが聞いてはいない」のではないか。もっとも、ネットで軽く検索すると「やかましくて寝られない」といった声もちらほら引っ掛かるので、やはり騒音と見なす人間もいるにはいるようだが、多くの人間はこれを甘んじて聞き流していると思われる。
また、この虫は樹木の葉や果実の表面を食うため、農家などからは樹木・果樹害虫と見なされることもあるが、かといってアメリカシロヒトリのように木一本丸坊主にしたなどという話を往々にして聞かない。アオマツムシは、昨今方々で叩かれやすい「外来種」だが、事実上大半の「フツーの生活をしている都会の人間」にとってはいてもいなくても何も変わらない虫であろう。

人間以外の生物にとって、この虫がいる故のインパクトがいかなるものなのかも気になる。例えば、狩人蜂の一種クロアナバチは、元々はキリギリスの仲間を獲物として狩っていた。しかし、都市部に住むこのハチは、最近では高頻度でアオマツムシを狩ってくる。過去の文献を見れば、クロアナバチは獲物として数ある直翅の中でもキリギリスの仲間に相当固執して狙う種だったことが伺える。それが、キリギリスですらないこの虫に獲物をシフトしたというのは、このハチの生態上かなりの大きな事件である。
他にも、スズメバチ等様々な都市生物がアオマツムシを餌にしているらしいことを考えると、アオマツムシは今や日本の都市生態系の中に完全に取り込まれ、なくてはならない存在になっているように見えてくる。しかし、それが果たしてこの外来昆虫を資源として使う在来の生物達にとって、本当によいことなのかはわからない。アオマツムシを獲物としたクロアナバチは、本来のキリギリス類を餌にしたクロアナバチと比べて幼虫の発育がよいのか、悪いのか、誰も調べていない。あれだけ個体数の多いアオマツムシのこと、この虫によって何らかの形で住処や餌資源を奪われている在来の生物もいるかもしれない。我々人間が、秘められたこの虫の本当の害悪性について、現時点で何も気づいていないだけではないのか。

古くから日本各地の池や田んぼに広がり、本来日本にいたかのようにお目こぼしされていた雰囲気だったアメリカザリガニは、最近になって当初想定されていたよりもはるかに甚大な被害を在来生態系に与え、あまつさえ蚊の大発生に伴う感染症の蔓延を促しうるなど、人間の実生活にすら実害を与えかねないことが判明している。
なので、いくら外来生物が日本の生態系に溶け込み、受け入れられているように表面上見えても、考えなしにそれを善しとする思考は浅はかである。

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