2020/11/01|Category:甲

大型のアリヅカムシで、山間部のハヤシクロヤマアリの巣から出た。こんな奴、信州のクソ田舎に住んでいた頃には近所でいくらでも見られたものだが、すっかり遠い存在になってしまった。
今から数年前、「アリの巣の生きもの図鑑」を世に出した頃、こんなアリの巣の中にいる微小なゴミサイズのムシを好き好んで撮影(ここで言う撮影というのは、ただシャッターを切って目の前のムシを写し取るという意味ではない。その種本来のあるがままに振る舞う姿を、警戒させずに極力野生下で撮影するということを言っているのだ)する人間など、日本で俺やその周辺の仲間くらいしかいなかった。だからこそ出版当時この本は話題となったし、俺自身も珍しがられて得意な気分になっていた。自分こそがこの「好蟻性生物撮影のパイオニアだ」という自負があったから。
しかし今や、微小昆虫撮影の機材も技術も、当時とは段違いに敷居が低くなった。そしてそれらを駆使し、しかも各種昆虫の生態を完全に熟知した若手の撮影者が次々に現れ、信じがたいような写真をネット上に次々と出している。好蟻性生物とて例外ではない。もはや「アリの巣の・・図鑑」に載っているような写真など、はっきり言って今じゃそこらの凡人でさえ撮れると断言する。このような中、果たして俺のオリジナリティとアイデンティティは一体どこにあるというのだろうか。現状に甘んじていては、その他大勢の中に埋もれるのは必至である。
最近、映画「カーズ・クロスロード」を見た。自分が老いさらばえていき、若輩にかつての自分の居場所を追われる立場になった時に、どう身の振り方を考えるか。とても重たいテーマの映画であった。