2020/11/17|Category:未分類

この個体は、自分で採ったのではない。件の井戸ポンプには、水の注ぎ口の真下に備え付けのバケツが置いてあり、墓参りに来た人間が大抵そこにある程度の水をためて帰る。ある日、いつものように井戸漕ぎをしようとしてふとバケツの中を見た時、水のたまったそのバケツの中に数匹のメクラヨコエビとともにこいつが3匹も泳いでいたので、ぶったまげた。今年上半期、これを汲み出すために連日ここに通って3万回くらいポンプを漕いでやっと2匹出したものが、一度に3匹もそこにいたのだから無理もない。
体に色素のない地下性生物は、長時間紫外線を浴びると死ぬと言われる。特にこんなヘロヘロしたような生き物など、なんの遮るもののない直射日光の下で放置されているバケツの中で、半日も生きていそうにない。俺が井戸まで出かけてこいつらを見つけたのは昼過ぎだったので、間違いなく当日の午前中に汲み出されたものに違いない。加えて、ここの墓地は普段墓参りの人なんて来ない。よくて一日一人か二人がいいところだ。その墓参りの人も、俺みたいに一度に1000回もポンプを押して水を汲むとは思えず、せいぜい十数回しか押してないはずだ。
つまり、この日の午前中にこの墓地に来た御仁は、俺が2-3か月かけて3万回ポンプを押して出したよりも多い個体を、たった一日来て十数回押しただけで出したということになる。どれほどの強運の持ち主なのか。あやかりたい。そして関西の井戸に連れていきたい。