IMG_6644.jpgIMG_6956.jpgクロスジフユエダシャクPachyerannis obliquaria。長野にて。

「冬尺」は、冬季にのみ出現するシャクガ科の総称で、多少ともメスの翅が退化する傾向、そして口器が退化する傾向を示す。シャクガ科内の3亜科にまたがってこういう特徴をもつ種がいる。日本にいる20数種の冬尺のうち、15-6種が近所の森で見られる。
ほとんどの種は夜行性だが、この種は例外的に日中活動性。成虫は秋の終わりの2週間程度発生する。

俺の近所の森ではこいつの発生時期は厳密に決まっていて、必ず11月の第三週から開始する。この10年間、裏切られたことは原則ない。オスは昼の11時あたりからちらほら飛び始め、12時過ぎが最高潮。花も咲かず一面茶色の寒々しい森の中で、白い蝶みたいなのが昼間群れをなして飛び交う光景は、何度見ても異様だ。
この時間になると、翅のないメスがどこかの葉陰に止まりながらフェロモンを散らし、飛び交うオスを呼ぶ(コーリング)。低空を飛行しながらメスのフェロモン射程圏内に偶然入ったオスは、突然様子がおかしくなり、地面に墜落する。そして、発狂したように激しく羽ばたきながらそれでも決して飛ばず、地面を這い回る。やがて、近くのどこかにいるメスを徒歩で発見し、連結・交尾に至る。

ガ・フユシャク類一種メス1
10年前、200万画素のオモチャみたいなデジカメで撮影した、コーリング中のメス。これ以後一度も見つけられない。

クロスジフユエダシャクは普通種なのだが、コーリングしているメスを見つけるのは至難である。ネットで画像検索しても、交尾中の写真はあってもコーリング最中の写真が見当たらない。地面近くの丸まった枯葉の内側など、低い場所の非常に入り組んだ場所でコーリングするので、目で探すのはほぼ無理である。よって、オスに探させるのが確実だ。
見晴らしのよい林内の斜面に腰をおろして、周囲を飛ぶオスの動きを監視する。それまで飛んでいたオスが突然墜落したら、急いでそこに駆けつける。そして、その墜落地点の半径数十センチ以内のどこかにいるはずのメスを、オスに連結される前に見つけ出すのだ。

しかし、これが意外に難しい。昼間明るい時に活動するのだから簡単に観察できそうに思えるが、そうは問屋が下ろさないのである。この蛾のオスは、風に煽られるとメスがいなくてもすぐ墜落する。だから、蛾が目の前で落ちたら、それが風で落ちたのかメスがいるから落ちたのかを瞬時に見て判断せねばならない。遠くであやしいオスの動きを認めてせっかく駆けつけても大抵は風のケースのため、ぬか喜びさせられることが多く、フラストレーションが溜まる。しかも悪いことに、こいつの発生時期は季節の変わり目のため、低気圧がしょっちゅう発達して風の日が多い。さらに、悪天候でそもそも観察に行けない日も多いため、1シーズン中まともに観察できる日は2-3日しかない。何という無理ゲー。
そんな感じで、俺はこの10年間の観察歴の中で、この種のメスのコーリングからオスに発見されて連結するまでの一部始終を貫徹して目視できたのは、まだ5回程度にとどまっている。

IMG_6833.jpg
今年、3年ぶりに交尾個体を観察できた。本当はコーリングから観察したかったのだが。近くでオスが墜落して、「また風か・・」と思ったら、例外的に本当にメスがいた。それに気付くのが遅れ、先に連結されてしまった。無理矢理むしり取って離すわけにもいかず、後はただ指をくわえて眺めるだけ。地表近くで成立したカップルは、やがてメス主導で歩き始め、高い場所に移動しようとする。そのまま日没まで交尾が続くが、ほんの1時間弱で交尾が解かれてしまうこともある。

そんな感じで、今年もろくに観察ができぬまま、もう発生時期が終わる。

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今季、ずーっと探していた早春発生フユシャクの産地を
やっとの思いで発見しました。
残念ながら生態画像は得られませんでした。
来春こそは、と待ち遠しくてなりません(´・ω・`)。
micromyu|2012.12.11/18:05
アレはいい蛾ですよね。かなりピンポイントで探さないと見つからなかったりする反面、思いもかけぬ身近な場所で見たりします。
-|2012.12.11/20:56

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