式神

72.jpgホンドギツネVulpes vulpes japonica。長野にて。

日本各地には、陰陽師・安倍晴明の墓と称する史跡がいくつも存在する。長野県の某山中にもそれがある。一日にバスが数本しかない辺鄙なその山奥に、以前調査で出かけたことがあった。
調査を終えてさてバスで帰ろうとしたのだが、バス停を定刻より早くバスに通過されてしまったらしい。いつまで待ってもバスが来ない。根性で待ち続けてもよかったのだが、次のバスが3時間後。仕方なく、歩いて山の麓まで降りることにした。

その道すがら、件の安倍晴明の墓という石碑の傍を通った時に、この狐に会った。夜行性の狐が、昼間出てくること自体珍しいのだが、そのシチュエーションが何より奇異だった。道路脇から外れた草むらに石碑が立っているのだが、そこからやや離れた場所に座り込んでいたのだ。まるで、石碑を見守るかのように。この個体は目に白内障を患っているようで目の色がおかしく、それが余計に妖艶な雰囲気を醸していた。

俺は狐を見慣れていないので、珍しいからもっとよく見ようと狐に近づいた。すると、狐はすぐに踵を返して背後のちいさなブッシュに飛び込んだ。俺はそのブッシュを覗き込んで狐を見ようとしたのだが、どういう訳か狐がそこにいないのだ。ブッシュは畳六条くらいの広さで、そこの中に確実に入ってその後出てきていない。間違いなく袋小路に追い込んだはずなのに、まるでかき消したようにそこから狐がいなくなっていた。
俺はこれまで山で数回狐に遭遇したことがあり、その度に追いかけたのだが、追うと必ずこういう不思議なことが起きた。こんな経験をして以来、俺の中では本物の安倍晴明の墓は長野のやつということにしている。

この21世紀の世に、本物の狐に化かされる以上の幸せなどない。

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葛の葉
死してなを式神を僕していたのか・・
「泥眼」の面を着けた如くの母者の葛の葉なのかも、
薮の中の狐の穴に飛び込んだ?
こぎつね紺三郎の様な子供を隠していたら好いのに、
木曾の山奥でしょうか・・
瓜豆|2013.02.12/16:31
檜の森が広がる、静かな農道沿いでの一時でした。今年、また行ってみようと思っています。
-|2013.02.12/18:28

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