ながされて蟹虫島

先日、業務で遠出して帰る道すがら、東日本のとある小島まで足を伸ばした。そこは俺が幼い頃から通っていた秘密の島で、30分もあれば一巡りできてしまう程の小さい島である。ある企業に買収されて観光地化されており、海べりはかなり荒らされてしまっているが、一部に自然の海岸が残っている。また、島の中心部はほぼ手つかずの原生にちかい森となっている。

69.jpgこの島は、どういうわけか多種多様のカニムシ達が住まう楽園となっている。特筆してカニムシだけが多いわけではないのだが、もともと土壌動物相がすばらしく豊富な場所なのだろう。そんな土壌動物のなかでは比較的サイズが大きく、姿形の変わったカニムシが、やたら目に付くのである。海岸、樹幹、腐葉土内、動物の巣など、小さいながらも起伏に富んだ島の環境内それぞれにおいて、そこに適応したカニムシ達が生息している。よそに比べてここが抜きん出て多いのかどうか知らないが、少なくとも日本国内で、単位面積あたりに見られるカニムシの種の多さがここ以上の場所を、俺は他に知らない。

行きつけの島とはいえ、ここ3,4年は足を運んでいなかったので、知らないうちに環境が荒らされていないか少し心配だった。まず海岸から攻め込むことにした。波が被らない海べりの石を起こすと、第一島民を容易に発見できた。

68.jpgイソカニムシGarypus japonicus。日本のカニムシ中かなりの大型種で、7mmくらいもある。もともとカニムシという生物分類群自体、世界的に見ても1㎝を超す種はほとんどいないので、こいつは相当な化け物である。石の裏に数匹まとまって見つかることが多い。つや消し調の体に大きなハサミが、異国のサソリを思わせてカッコイイ。乾燥に強く、シロアリで簡単に飼育できる。
こいつがいれば、その弟分もいると思って探してみた。

70.jpgコイソカニムシNipponogarypus enoshimaensis。やはり海岸性の種で、イソカニムシよりは小型。ツヤがあり、成体は全身黒紫でよく目立つ。これはイソカニムシほど簡単に見つからない。より乾燥した場所を好むらしく、石を裏返しただけでは発見できないのだ。これを見るには、日当たり良い岸壁の風化した岩肌をめくる必要がある。しかし、こいつは体から出した糸を使って袋状の住みかを作ることが多く、その住居もたくみにゴミで偽装しているため、個体数の割になかなか見つけるのは難しい。
しばらく探して、ようやく1匹だけ幼体を見つけた。成体が見たかったのだが、これ以上探すのは必然的にこれの生息環境を荒らすことになるため、自粛した。なお、イソとコイソは和名は似ているが、分類上はさほど近縁でない。

71.jpg切り立った風化岩をはがしているときに、別のカニムシが見つかった。ヤドリカニムシの一種だろう。本来は樹幹の樹皮下で生活している仲間で、紙のように平たい体をしている。たぶんこの島には、樹上性ヤドリカニムシは数種いる。

63.jpgイソカニムシと仲良く一緒にいた。

64.jpg森に入ると、また別のカニムシが目の前に立ちふさがる。普通種アカツノカニムシRoncus japonicus。比較的多く、サイズ的にもよく目立つ。しかし、なぜか冬季にしか見られない。

65.jpgツチカニムシもいる。この仲間は非常に小型。見るべき箇所を見ないと種同定はできない。たぶん、この島内だけで確実に数種類いる。

66.jpg今回見られなかったが、数年前にここの森で見た種。カギカニムシの仲間だろうか。ハサミがかなりがっちりした種である。

67.jpg石の下に見られた、つや消し調の見慣れないカニムシ。ヤドリカニムシの仲間だろうか。これも以前見つけた種で、まだ2回ほどしか見たことがない。いずれも森の石下で見たので、地中にいるのは間違いないが、他の土壌性カニムシに比べてとにかく見つからない。詳細は不明だが、少ないのではなく、我々が簡単に見つけられない地中の特殊なハビタット(ネズミやモグラなどの巣)に本来生息する種だからだろうと考えている。


久しぶりに出かけたが、思ったほど環境は悪くなっていなかったので安心した。しかし、観光地ゆえに突然海べりにホテルや観光客用の海水プールが建設される、ということがしばしばあった場所なので、油断できない。あの地域の本来あるべき自然海岸の姿を一番よくとどめている最後の場所なので、個人的にはもうそっとしておいてほしいところだが・・

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