106.jpgハシボソガラスCorvus corone。長野にて。

家の近所の田んぼに、常に一定数のハシボソガラスが来ている区画がある。俺は時間さえあればいつもそこに行ってカラスの撮影を試みるのだが、奴らは頑なに撮影を許してくれない。特に望遠レンズのように長細いものを見せると、すさまじく怯えて瞬時に逃げ去ってしまう。猟銃などで脅かされた経験があるのだろうか。
そんな田舎のカラスだが、ごく最近になって、ようやくまともに何枚か写せた。カメラを向けただけですぐ逃げてしまう田舎ガラスを至近で撮影するのは、それなりの手はずを順序よく踏まない限り絶対に不可能である。

まず、田園の道を自転車で走り、道脇近くの田畑で餌をついばむカラスを探す。道から近いところにいる個体を見つけたら、自転車に乗ったまますれ違う。この段階で逃げないようなら、すれ違った後数m前進してから停車する。この時、カラスの方に顔を向けてはならない。あさっての方向を見ながら後ずさりし、決して凝視せず時々横目でカラスの居場所を何となく確認する。
そのままある程度後ずさりする最中にカラスが飛び去ってしまわないようなら、適当な場所でカラスに背を向けたままゆっくりしゃがむ。カラスに見られないようにカメラの準備をする。そして、まだカメラを構えずただ手に持った状態で、後ろにいるカラスにチラチラ見せたり隠したりを繰り返す。そうしてカラスが逃げないようなら、カメラをあさっての方向に構えて撮影するふりをする。
それでもカラスが逃げなければ、自分の体はカラスの方に向けず、カメラだけをカラスに何となく向ける。そして、カメラのライブビュー機能を使ってモニターを横目で見つつ、カラスの様子をモニターで確認する。これで数枚撮影し、逃げないようならここで初めてゆっくりカラスに向き直り、本格的に撮影を開始する。とにかく、こちら側に他意がないことを、これでもかというほど態度で示すのである。

これだけ周りくどいことを周到にやっても、逃げる個体は逃げる。田舎ガラスの撮影は、フィールドでの野生動物への近づき方、距離の取り方を学ぶいい訓練になると思う。至近でカラスが自然に振舞う様をたやすく撮影できるようになれば、この世の中の大概の野生動物は簡単に撮影できるのではないだろうか。俺はまだ全然その境地に達せられる気配はないが。

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107.jpgこの個体は、かなり自然に振舞っていた。いや、連戦連敗の俺を気の毒に思って仕方なく自然に振舞っているように見せてくれていただけかもしれない。周囲には何羽かいたが、こいつを残してみな逃げ去ってしまった。
ハシボソは、ハシブトに比べて紫の光沢が弱く、体色がより漆黒に近い。背景が極端に明るすぎる場所だと、ハシブト以上に真っ黒に写ってしまいやすい。

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ハシボソは、よくアスファルト道路でクルミを上空から落として割る。そのため、ハシボソの多い地域では道路に真っ二つに割れたクルミの殻がよく落ちている。ニホンリスも真っ二つにクルミを割るが、リスの場合割れたクルミの殻断面のヘリに最低一箇所、必ず削れた部分があるので区別できる。
頭がいいカラスは、車道にクルミを置いて轢かせる。仙台の自動車教習場にいるカラスがこれをやるので知られているが、俺の近所でも時々やるのがいる。今や全国に、似たようなことをするカラスがいるのだと思う。それは、妙なテレパシーの類で全国のカラス達に文化が伝播・共有されたからではなく、それぞれの地域にいるカラスが独立に「走る車の軌道上に物を置くと物が潰れること」を、経験と観察により学習した結果であろう。
不思議なのは、こういう賢い行動をとるのはハシボソばかりであること。今までハシブトがクルミを割ろうと努力しているのを見たためしがない。

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