パラポネラのこと

そろそろ南米の写真を、当たり障りのないところから晒す。先陣を切るのは、今回の南米の調査でも一二を争うほどに印象深かった、こいつ。パラポネラParaponera clavataだ。

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和名をサシハリアリという、2センチ以上ある大型アリ。このアリは世界的には中南米の森林地帯に分布が限られるが、アリの中でも知名度は高いらしい。その最大の理由が、刺すこと。ハチのように毒バリを持ち、それで刺す。

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夜の森、月光浴びてパラポネラ。浴びているのはキャノンのツインストロボだが。

本来毒バリで刺すアリなぞ珍しくも何ともないが、こいつは極めて強力な猛毒を持ち、刺されると激痛、下手をすれば数日寝込む事になると目下有名である。生息地のアマゾン川流域の村では、二十歳を迎える若者の背中だか腕だかにこいつを数十匹押し当てて耐えさせるという儀式を行うらしい。日本でやったら事件だ。

ときに僻地の獣が、そのうわべだけから来る威圧感、表面的な恐ろしさだけがいたずらに大げさに強調され、遠い異国でモンスターのように祭り上げられることは昔からあることだ。昔日本ではゴリラは凶暴で猛悪な野獣だと思われていたが、実際には草食で温厚な動物であると、昨今のテレビの動物番組でよく言われている。パラポネラは、まさに今日本でモンスター化されている生物の一つだと思う。

ググレカス先生で「パラポネラ」を検索すると、ネタ系のサイトがザラザラと出てきて、まともなサイトがろくにヒットしない。それらサイトに書かれていることは一貫して、「刺されると激痛とともに腫れ上がり、24時間痛み続ける」とか、やたらこの生物を恐怖の大王のように大げさに、そして所々に茶化しを混ぜつつ危険生物としてわめき散らす内容だけ。そしてなぜかグンタイアリとの絡みが多い(グンタイアリに関してもパラポネラと同じような取り上げ方をするサイトばかりで、正しいことなんかどこにも書いてない)。「パラポネラは猛毒を持つ最強アリなので、殺戮集団と恐れられているグンタイアリすら避けて通る」らしい。俺は思う。
お前らは実際にアマゾンの森でパラポネラを見たのか。そして刺されてみたのかと。

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強力なあごで、それでも優しく自分の幼虫を挟んで運ぶ。

俺はパラポネラじゃないからパラポネラの事は分からないが、実際に会って、そして刺されたから、その範囲のことでこいつらの事は語れる。俺はジャングルで、このアリにへその脇を思いっきり刺された。地面に置いたカメラバッグを持ち上げたとき、密かに這い上っていたこのアリに気付かず、バッグと自分の腹の間で知らぬうちに挟んでしまったらしく、服の生地越しにやられた。
確かに痛かったが、ネット上でわめく程の痛みではなく、最初「あっ、やられたか??」という程度の痛みから、数十秒でしだいにジンジンと痛みが増していく感じ。このあと腫れ上がって、痛みのあまり数日寝込むのを覚悟したが、あろう事か5分程度で痛みは引き、腫れも残らなかった。なお、同行していた仲間二人も同様に刺されたが、予後は似たようなものだった。

人によっては、確かにこいつに刺されることでかなり重症になる場合もあると現地在住の人から聞いたが、少なくとも万人がネットで言われているような状況に陥るわけでないことを、身を以て思い知った。
はっきり言って、こんなのより日本のベッコウバチの方が痛い。あと採血の下手くそな看護婦。デング出血熱で入院したときの検査はちょっとした拷問タイムだった。何が白衣の天使だ。本物の天使見る所だったわ(個人の感想です)。

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バーチェルグンタイアリEciton burchelliiの移住行軍に近づきすぎて制裁を受ける。本当はもっと沢山たかられていたが撮影の準備をしている間に散った。

「パラポネラが恐ろしくてグンタイアリが避ける」なんて、まさに見てきたような嘘っぱちだ。普通に必要とあればグンタイアリはパラポネラを攻撃する。恐れてなんかいない。しかし、野外で見る限り互いに積極的にけんかを売るようにも見えない。そして、グンタイアリに群れで取り巻かれ攻撃されたパラポネラは、その場で縮こまって半死半生の状態になるが、暫くするとグンタイアリはなぜか攻撃をやめて離れていく。そして、パラポネラは再び息を吹き返して歩き去る、という場面を2,3度見た。あれは何だったのだろう。

遠い国にいるすごい生き物は、我々の好奇心と想像力をかき立ててやまない。幼き日に見たヒーローのような面影をどこかしらに見ているのかも知れない。でも、生き物に関する根拠もなく見たわけでもないようなことを、受けねらいと知ったかぶりと自己顕示欲のために、あることないことネット上に書き散らかすような人間を俺は軽蔑する。それは、実際にその生き物を研究している人々、そして何よりその生き物そのものに対するただの冒涜でしかないと、俺は思うからだ。

写真はすべて、ペルーにて。

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あれ?
たまたま見ていた「ありんこ日記」に出てきた小松さんともしかして同一人物ですか?
モハメド|2012.09.03/00:18
お恥ずかしながら、その通りです。Antroomのあの方とはいつも仲良くしてもらっております。
richoo|2012.09.03/07:45
愚か者は経験から学ぶ
け|2016.08.14/19:23
そして賢者は「他者の経験」から学ぶ
-|2016.08.16/22:02
百聞は一見にしかず
こ|2016.12.24/18:30

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