居場所は何処

204.jpgハナナガアリProbolomyrmex sp.。マレーにて。

世界中の熱帯から知られるが、どこでも発見されること自体が珍しいレアモンスターである。日本でも沖縄から2種知られるが、最近見つけたという噂を聞かない。日本産種は、環境省の希少種になっている。俺はまだ東南アジアで2回、南米で1回見ただけ。その東南アジアでの2回目がこのコロニーだ。
けっこう荒れたつまらない環境に限って生息するらしい。このコロニーは、ジャングルを切り開いてできた日当たり良いアスファルト道路脇の、小さな石の下にあった。きっと沖縄でもそういう「食指の動かない」環境をしつこく探せば、見つけられるに違いない。

206.jpgこのアリの特徴は、働き蟻にいっさい目がないこと。触角の生え際が顔のものすごく下側に下がっており、前方から見ると大アゴを隠してしまっている。まるで鼻の下を伸ばしているようだというのが、その名のゆかり。
本種を含むハリアリ亜科のアリは肉食性が強く、いくつかの種は特定種の生物しか襲わない。その例に漏れず、ハナナガアリは土壌動物の一種フサヤスデだけを専門に狩るスペシャリスト捕食者である。かつて一度だけ、このアリの飼育を試みたことがあり、その際に飼育容器内へフサヤスデを放してみたところ、働き蟻はすさまじいスピードでヤスデを追い回した。目が見えてないのに、きわめて敏速な動きだった。
アリはヤスデの脇を併走し、横から腹を曲げて毒バリを打ち込んだ。その瞬間、ヤスデはねじ巻き式のおもちゃが止まるが如く沈黙してしまった。それをくわえて、アリは自分のコロニーに持ち帰ったのだった。フサヤスデは、毛虫のように全身を毛で覆っている。そのため、このアリは巣の中でフサヤスデの毛を一本一本引っこ抜いて丸裸にしてから食うと言われている。俺が飼育したときは、条件が悪かったのかそれをやってくれなかった。

ちなみに、フサヤスデは尾端に特殊な防御用の毛束を持っている。これはアリなどに襲われたときにヤマアラシのように吹き付けて使うらしい。毛束の表面には細かい逆トゲが覆っているとかで、普通のアリがこの攻撃を受けると体中の体毛にヤスデの毛束がからみつき、動けなくなってしまうという。そんな危険な獲物を襲うのに特殊化したハナナガアリは、体に体毛を持たないことでヤスデの反撃を無効化するのに成功した。このアリが持つ、まるで陶磁器のような体表の質感には、そんな秘密が隠されている。

205.jpg野外で発見したこのアリのコロニ内ーには、丸裸にされた餌のヤスデは見つからなかった。でも、恐らくヤスデから引っこ抜いたであろう毛束をくわえて右往左往するアリの姿はあった。
ヤスデという虫を専食するアリ自体少ないが、中でもフサヤスデを専食するアリといえば、少なくともアジアにはこのハナナガアリをおいて他に存在しない。誰も利用しない餌資源を独占できるようになったという点で、こいつらは成功しているのだろう。




以下、妄想。




しかし、こいつらはどうしてそんなけったいな虫を獲物として狩るように特化してしまったのだろうか。フサヤスデは決して珍しい虫ではないが、今すぐ多量に集めてこいと言われて集めてこられる程のものでもない。数がそんなに多くない上に、捕獲に多少とも危険を伴う獲物を専門に集めてくるのは、いくら反撃をかわす防御形態をもっているとはいえ、このアリにとってそれなりのコストになるだろう。何より、狩って巣に持ち帰った後に大変な努力をして下ごしらえせねばならないから、食べるのにも時間がかかる。栄養的にも、もっと良さそうな獲物は他にいると思うのだが。
また、餌を巡るアリ種間の競争から解放されるといっても、こんなマイナーで手のかかる獲物をわざわざ選んでスペシャライズしなくてもいい気がする。なのに敢えてそんな修羅の道を選んでしまった。当然の結果として、彼らは世界中どこでも数の少ない、繁栄とはほど遠い日陰者になってしまった。きっとこいつらは、みんなと同じなのが気に入らないのだ。「俺は他の有象無象とは違う道を行く」という、中二病じみた意地を感じずにおれない。だからこそ、俺はこのアリが好きなのである。

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