274.jpgトビラツヤゴモクムシTrichotichnus hayakawaiであってほしい有機体。信州松本の秘湯・扉温泉から記載された生物で、地球上でこの周辺にしかいない。ツヤゴモクムシ類は後翅が萎縮して飛べないゴミムシの仲間で、地域ごとにかなり種が分かれている。いずれの種も成虫は春から夏に移ろう時期にだけ出現する。地球上でそこにしかいないというと仰々しく聞こえるが、見た目は何の価値もないただの小虫。
昔の文献には、生息圏内にはものすごく普通にいるとあるのだが、時期が悪いのか時代が悪いのか、今では探しても全然見つからない。何度か通って、ようやくそれらしい虫が見つかった。写真では再現しがたいがうっすら虹色がかった光沢のある上翅、飛翔筋が退化しているためナデ肩で、卵形の体型が特徴だ。


山中にある扉温泉の奥の奥に、群鷹館という古い宿がある。いや、正確には「あった」。この宿のかつての主人であった早川さんというヒトが、それはもう大変な虫マニアだったらしい。宿の周りは全部うっそうとした森ゆえ、多種多様な虫の生息地となっている。早川さんは、日常的にこの山の昆虫相を熱心に調べ、いくつかの新種すら見つけ出した。そのうちの一つが、トビラツヤゴモクムシである。
早川さんのもとには、全国から多くの虫マニア達が集まった。扉温泉は全国に名だたる昆虫採集地であり、群鷹館はそんな虫マニア達の憩いの場だったらしい。早川さんというヒトは本当にいい方だったそうで、遠方から来た虫マニアをタダで宿に泊めてくれる事さえあったそうだ。近年、早川さんは亡くなられた。俺はまったく面識はないのだが、ご存命のうちにお会いしたかった。

早川さんが鬼籍に入られた後、宿は別の人に引き継がれたというが、ここ2,3年の間に宿をたたんでしまったらしい。最近、風の噂で閉館したことを知った。俺は8年前に原付免許を取得して以降、夏だろうが冬だろうがほぼ週1、シーズンによっては毎日扉温泉に通っている。その際、いつも群鷹館の脇を通りすがるのだが、最近2年ほどはまったく人の気配がしないのでどうしたのかと思っていた。閉館後も、建物だけは取り壊されることなく静かにそこに立ち続けている。

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オサムシ=撫肩、と謂うイメージなのですが・・

「扉温泉」美ヶ原へと往く途中、
松本の町を流れる薄川の上流にある温泉ですね、
同時代に生きて、親しく相見える機会を持てずに、
逝かれてしまった慕わしい人柄の方の様ですね、
「静かにそこに立ち続けている」
惻隠の情をそそる言葉と拝見しました。
瓜豆|2013.06.07/23:20
薄川は、ふもとの市街地を流れるあたりになるともう護岸で固められた面白みのない川になってしまいますが、上流域では今なお数多くの渓流魚が遊ぶ清らかな流れを保っています。
またいつか、旅館が復活するときが来れば良いのですが。
richoo|2013.06.08/20:35

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