438.jpg近所の神社で見かけた、ムネアカオオアリCamponotus obscuripesとフシボソクサアリLasius nipponensisの大規模な抗争。スギの大木の根元に営巣していたムネアカの所に、よそからたまたま行列を伸ばして遠征しにきたクサアリが鉢合わせし、激しい戦争が繰り広げられた。

437.jpgムネアカの方が大柄なぶん戦闘力も上だが、クサアリはとにかく数で相手を圧倒するため、ムネアカは手を焼いていた。そんな戦争を見ていたとき、場違い甚だしい一匹の羽虫が飛んできた。


434.jpgツマグロキンバエStomorhina obsoletaだった。あろうことか、戦場のまっただ中に降り立ち、巧みにアリの合間を縫ってせかせか歩き回った。一体なにを企てているのかと思ったら、ハエは突然地面のくぼみに後ろ向きに入るようなしぐさを見せ始めた。

435.jpg産卵しはじめた。上体を反らせてブルブル震える動きを数秒間とった後、そこからはなれて近くの別のくぼみにまた尻を差し込む行動を何度も見せた。アリがそばを通っても逃げず、直に触られたときだけ逃避した。しかし、逃げてもまたすぐに戻ってきて同じ事を繰り返した。
卵の所在までは確認しなかったが、間違いなく産んでいる。腹部をくぼみから引き抜いて数秒間のみ、産卵管(?)が伸びているのが確認できた。
436.jpg
ツマグロキンバエは日本ではきわめて普通に見られるハエの一種で、成虫は花に集まって吸蜜する。特に秋口に個体数が多く、山だろうが街中だろうが花さえ咲いている場所ならば必ずいる。存在しないことが絶対ありえないほどの種である。ところが、幼虫期にどこで過ごしているのかはまったく分かっていない、謎に満ちた虫なのだ。
海外では、近縁種がアリの巣内で見つかった記録があり、日本でもアリの巣を人為的に掘削した際に飛来して産卵する行動が観察されている(Ishijima 1967; 村山 2007)。しかし、俺は特にアリの巣がないところの地面を掘っても飛来するのを見たことがある。だから、単に土の匂いが好きなだけなのだと思い、本種のアリとの関係に関してはやや懐疑的な印象をもっていたのだが、これを見て考えが少し変わった。

今回見た場所は、別に地面が掘り返された雰囲気ではなかったので、ハエは土の匂いで飛来したのではない。明らかに、アリの存在が何らかの鍵を握っている。しかし、アリの持つ何が誘因の元になっているのかまでは分からない。そして、ここに産み付けられた卵から孵った幼虫が、何を餌に育つのかも分からない。今回見たものは、このハエの生態解明を進めるにあたってかなり重要な意味を持ちそうな気がする。でも、全容を解明するにはまだ道のりが遠そうだ。
ツマグロキンバエは破滅的なほどのド普通種のため、多くの人々の目に触れている。グーグルで画像検索すると、訪花している写真や葉上にいる写真はたくさん出てくる。しかし、自然状態でこのハエが産卵している瞬間は、間違いなくこの国でまだ誰も見たことがない。

アリの巣や行列は面白い。高価な顕微鏡も遺伝子解析の機械もいらない。ただ座して見ているだけで、21世紀にもなってこの国はおろか世界で誰も見たことのない発見をできる。「アリの観察なんて小学校の自由研究まで」なんて、誰が決めたこと。


参考文献:
Ishijima H(1967) Revision of the third stage larvae of synanthropic flies of Japan (Diptera: Anthomyiidae, Muscidae, Calliphoridae and Sarcophagidae). Japanese Journal of Sanitary Zoology 18: 47–100.
村山茂樹(2007)ツマグロキンバエの産卵行動の記録。はなあぶ 24: 57-58.

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巣の周りのゴミを篩ったら変な幼虫や蛹に会えるかもでしょうか。夢が広がりんぐ…(´・ω・`)
micromyu|2013.09.16/20:56
「ミドリ」のほうも気になります。あれはやはりシロアリでしょうか・・・
-|2013.09.17/08:56

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