プチせんぶりシュー

1526.jpgセンブリ一種Sialis sp.。北海道にて。

幼虫は水棲で、成虫は水辺の草場上に見られる。日本には複数種いて、成虫の種同定は外見では不可能と言われる。植物にもセンブリという名前のものがあるが、名の由来は全く違う。

今年、ヤマトセンブリを見に行けば良かった。

1169ケカゲロウIsoscelipteron okamotonis。福岡にて。先日とは全然違う山で見た。

ここには以前から林内に大きな立ち枯れの木があったのだが、シロアリの影響で最近上部がバッキリ折れた。根本から高さ2m位までだけが残っている。日没後、何の気なしにそこを通りかかったとき、見覚えのあるあの羽虫が立ち枯れからハラッと飛び立った。しかも何匹も。

1171多数のケカゲロウが、その立ち枯れに集まって産卵していたのだ。少なくとも数えたときには3匹はいたが、飛んで逃げた奴を勘定に入れればもっと多くの個体がそこにいたのは間違いない。長野でこの虫を探したときには、一シーズンかかってようやく3匹集めたほどなのに、たった一晩でそれを上回る数の個体を見てしまった。
ずっとライトで照らし続けると、やがて光を嫌がるように皆どこかへ飛び去ってしまう。でも、しばらく時間をおいてまた様子を見に行くと、最初に見たのと同じくらいの個体数がまた戻ってきていた。よほど産卵に適した場所なのだろう。

1170ここに出した3枚の写真は、全部別個体。

この立ち枯れからほんの10m離れた2カ所で、深夜までライトトラップを仕掛けていたのだが、不思議なことにそっちにはケカゲロウが1匹たりとも飛来していなかった。この虫は、明らかにライトトラップでは生息を確認しづらい虫である。恐らく、相当至近に光源がないと飛来しないか、特殊な波長の灯火でしか誘引できない。
この山には、とある正体不明の脈翅が1種生息する。古い時代にたった1匹採れて以後まったく記録が途絶えており、絶滅したのではないかとも言われている。数多の研究者がこの何十年もの間、再三にわたりこの山で灯火をたいても、飛来しないのである。でも、もし本種がケカゲロウのように灯火で誘引しがたい性質を持つのであれば、まだ生息している可能性は否定できない。

しかし、一晩にこれだけの数のケカゲロウを一カ所で目撃できるとは思わなかった。かつてはあれほど発見に苦労したのが、まるでウソのよう。精霊はひとたびデレさせてしまえば、向こうから会いに来てくれる。

なお、ケカゲロウ科は平々凡々な見た目の羽虫なのに、今のところ奇怪な姿で有名なあのカマキリモドキ科に一番近縁な脈翅ということになっている。にわかには信じがたいが、その一方で幼虫期に複雑な過変態を行う点では共通しているため、納得できなくもない。

識別名<クロノ>

1100.jpgオオカマキリモドキClimaciella magna。福岡にて。

夢にまで見た精霊で、九天王が一人。南方系の珍種で、夏の終わりの夜に山で灯火をたくと、たまに飛来する程度。ただし、九州のある山塊ではなぜか数多く、そこで灯火をたけば絶対にやってくる。とはいえ、かつてほどの個体数は来ないようである。

日本産カマキリモドキの中では、南西諸島のオオイクビEuclimacia badiaと並んで破格の巨大種。遠めに見ると、アシナガバチにとてもよく似ている。成虫は捕食性で、手近に来る弱小な虫は何でも捕らえて食う。自分よりかなり大柄の獲物も仕留める。
実のところ、これと同等サイズでもっとかっこいいカマキリモドキは、熱帯に行けばいくらでもいる。しかし、そんなものがこの日本の裏山に住んでいるという事実がすばらしいのである。

成虫の姿を見られて、本懐を遂げた気分。しかし、本当の目的はこの虫の姿を見ることではない。この虫の幼虫期の生態を、どうしても解明してみたいのである。
この虫の成虫は、夏の後半に木の葉裏に多量の卵を産みつけ、まもなく幼虫が孵る。そこまでは分かっているのだが、それから先その一令幼虫たちが如何なる過程を経て成虫になるのか、誰も知らない。まるで時空の隙間に入り込んでパラレルワールドに転移し、成虫になった後ふたたび現世に戻ってくるかの如く、「ある程度育った状態の幼虫」がどこにも見つからない。

カマキリモドキ類は、生態の分かっているほとんどの種が幼虫期にクモの体に取り付き、寄生生活を送るとされる。だからオオカマキリモドキも、それに準じた生態を持つのは容易に推測できるが、誰も実際に見て確認したわけではない。だから、俺が一番最初にそれを見た人間になりたい。ただその思いだけをモチベーションに、こいつの謎を明かしたいと思う。

この精霊は、成虫の姿を見ただけでは真にデレさせたとは言えない。誰の目からもひた隠しにし続けている、「霊装」を顕現させた真の姿を見ないことには、攻略したうちに入らないのである。

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本当のカマキリほど、首は器用に回らない。元々カマキリの形ですらなかった虫が、無理くりカマキリの形になった弊害。

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ケカゲロウIsoscelipteron okamotonis。福岡にて。南方系だからいるとは思っていたが、実際に見ると嬉しいものである。

長らく生態が分からず、図鑑にも大した情報が載らない正体不明の精霊だった。しかし、最近デレさせて精霊の力を封印することに成功し、飼育下で幼虫期にヤマトシロアリReticulitermes speratusを食って成虫まで育つことが判明した(Komatsu 2014)。海外の近縁種の生態にくわえ、その洗練された捕食行動から、自然界でもヤマトシロアリに高度に依存した生態を持つと予想している。

夜の神社で、シロアリに食われてボロボロになった木製の鳥居に止まっていた。産卵しに来ていたらしい。もう少しライティングを変えて撮影したかったのに、準備中に消えやがった。
奴が止まっていた箇所の近くに、しっかり卵が産み付けられていた。やはりクサカゲロウのような「うどんげ」にせず、バラにして産んでいた。海外産種は卵塊にするものがいるらしいが、今までの自然下・飼育下それぞれでの観察から、日本の種は確実にしないと思う。

海外産種は、ちゃんとシロアリが巣くっている枯れ木に産卵するらしい。しかし、日本産の種では明らかにシロアリの入っていない生木の立木に産むところも目撃している。日本産種はおそらく、シロアリの所在がよく分からないまま産卵している。少しでも孵化後の幼虫生存率を高めるため、卵塊にせず広範囲に少しずつ卵を散らしているのだろう。
幼虫がかなりシロアリ捕食に特化しているはずなのに、成虫の産卵方法が適当というのは、不思議な話だ。しかし、この虫が主に住む暖地の森林内では、朽ち木にたいていヤマトシロアリが巣くっているものだ。だから、下手な鉄砲数打つ方式でも一定数の幼虫は生き残れるのだと思っている。またそれこそが、どこの産地に行っても一シーズンで発見できるこの虫の成虫個体数が多くない理由だと信じている。

参考文献:
Komatsu T (2014) Larvae of the Japanese termitophilous predator Isoscelipteron okamotonis (Neuroptera, Berothidae) use their mandibles and silk web to prey on termites. Insectes Sociaux 61:203-205

949.jpgキバネツノトンボAscalaphus ramburi。長野にて。

あれを見た草原では、今が成虫の発生ピーク。紙吹雪のように無数に舞っていた。本州中部では基本的に凡種だが、よそでは相当な珍種。もちろん九州でも分布はするが、ほとんどまともに見られる場所はないと思う。
この空き地は今年も奇跡的に健在だったが、いつまでもつだろうか。凡種とはいえ、13年前よりは見られる場所も個体数も、基本的には減っている。

948.jpg蝶も角蜻蛉も、冬にちっさい幼虫だったものがこうして立派に成長した姿を見るのは嬉しい。子の成長を見る親の気持ちというのは、こういう感じなのだろうか。