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ヤシガニ屠らず

2186.jpgヤシガニBirgus latro。宮古島にて。

森の中で、たまたま高密度でいる場所を見つけた。丘ヤドカリの一番でかいサイズよりは遥かに巨大だが、これでもまだ全然若いほう。

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強靭な体格。こいつのハサミで挟まれたら、人間の指一本など簡単に持って行かれてしまう。まさに地上最強の無脊椎動物。しかし、その最強の無脊椎動物も、今や人間に脅かされて滅びの路を歩み始めている。

日本のヤシガニは、世界的に見たヤシガニ分布域の北限にあたる貴重な個体群である。しかし、彼らは生息環境の悪化に加えて食用目的の激しい乱獲に遭い、南西諸島全体で著しく個体数を減じている。環境省の絶滅危惧種に指定されているほか、幾つかの島で独自の保護条例がしかれているほど。
しかし、一方で今なお食材としての流通自体は続いている。ヤシガニは、成熟までに凄まじく年月を要する上、寿命も長い(推定50年前後)。だから、一度減るとなかなか増えない。

前に那覇の公設市場に行った時、この世のものとは思えない化け物クラスの巨大ヤシガニが、生きたまま売られているのを見た。ちょっとした小型犬くらいのサイズで、恐らくヤシガニという生物がとりうる最大級の大きさ。脚には法外な金額の書かれた値札を括り付けられていた。
しかし俺は奴を見た時、値段より何より、あれだけのサイズまで育つのに一体どれだけ途方もない年月がかかったのだろうという思いでいっぱいだった。40-50年くらいでは絶対きかない程の時間をかけて育っただろうあいつも、人間に茹で殺されるのは一瞬なんだから、こんな理不尽な話はない。
絶滅するしないは別にして、人一人の人生折り返しくらいの時間を生きてきた、この雄大なる生き物に対してあまりにも不敬すぎる。寿命の極端に長い生き物を食材にしてしまうことに、物凄く罪悪感を覚える。寿命40-50年てすごいぞ。百獣の王ライオンですら、せいぜい20年くらいというのに。

俺はこの生き物を、人の食い物と思えない。俺の中でヤシガニを食う行為は、ウナギマグロを食うより遥かに罪深い。沖縄で食うものなんて、他にいくらでもある。俺は死んでもヤシガニだけは絶対食わないと、心に誓っている。

2629.jpgシオマネキUca arcuata。九州にて。

せっかくこっちにいる以上、一度は見に行かねばならないと思って見に行った。やや硬くしまった泥のある塩性湿地のような環境を好むらしい。ハクセンシオマネキなら比較的九州のどこでも見るが、無印のやつはかなり珍しく、決まった場所に行かないとまず見られない。しかし、そのエリア内では多産する。極めて大型でカッコいい。

2628.jpgシオマネキは鋏を振って求愛するので知られるが、種によってその動きはかなり異なる。ハクセンはブルンブルン回転させるように素早く振るのに対し、無印はゆっくり伸びをするように真上に挙げ、ストンと落とすような動きをして見せた。
もう繁殖期は過ぎているものの、それでもオスはメスが近くまで来たときに限り、求愛ダンスをしてみせた。できれば正面を向いてほしかった。

最近はすっかり離れてしまったが、中学くらいの頃カニに相当はまった時期があった。たまたま書店で「カニ百科」(成美堂出版)という本を立ち読みして、一気にとりつかれてしまったのだ。特にスナガニ科の仲間は大好きで、数あるカニの中でも一番洗練された部類に入ると思う。
カニ百科は、日本で見られる代表的なカニを多数カラーページにて紹介するばかりか、採集や飼育の方法、はては食い方や伝承に至るまでさまざまなアプローチでカニに親しむための情報が満載の良書だった。俺は当時店頭で見た瞬間に買ったが、その後あっという間に絶版になったらしく、二度と書店で見かけることはなかった。今でも時々この本を開いて当時をしのぶ。

2180.jpgいわゆるクメジマミズフナムシ。久米島にて。

久米島の、特定の石灰岩洞窟周辺に固有。未記載種らしく、正式な種名を未だ聞かない。フナムシと言えば海っ傍が世の摂理だが、これがいる洞窟は海岸からかなり離れた内陸にある。
大昔、恐らく洞窟が海と通じていた時期があり、その時にやって来た者たちがやがて封じ込められ、独自に分化したんだろうか。

写真にするとうまく色が出ないが、薄い青色の地に黄色いスポットを走らせた、爽やかな色彩。眼もクリクリしてて可愛らしい。しかし、日中は石灰岩に開いた深い穴ぼこや裂け目のかなり奥に潜んでおり、一匹とてこれを見ることができない。

今年のアルバムから。
2069.jpg地下性ナガワラジムシ。

本州のとある洞窟に生息するが、そのすぐそばの沢の源流を掘っても出てくる。色素が抜けて純白で、眼はない。ただ、純白と言っても体内の色つき消化器官が透けて見えるため、あいつほど純白には見えない。

この洞窟は特有の地下性ゴミムシが3種も共存する素晴らしい場所なのだが、今ここは死にかけている。付近の開発や採石工事の影響か、地下水位が下がっており、乾燥化がひどい。3種のうち1種はかろうじて存続しているが、残りはおそらくもうここで見つからない。
都内へ出張に行く道すがら毎回のようにそこへ寄って探索しているが、本当に見つかる気配がなく、次第に探索意欲がくじけ始めている。周囲の地下浅層からもまったく出ない。何をやっても採れない。

1691.jpgサワガニGeothelphusa dehaani。四国にて。

カニは原則として、幼生期は微少なプランクトンとして海中で過ごさねばならない。陸で暮らすカニの種は多いが、産卵時は必ず海へ戻って卵を放たねばならない関係上、海辺からあまりに離れて暮らすわけにはいかない。
しかし、サワガニの仲間はイクラのように粒の大きい卵を少数産む。卵の中でプランクトンの時期を終え、カニの姿になってから外へ生まれるため、海からの呪縛から解放され、内陸まで進出することが出来た。オーストラリアには、一番近い海岸線から車でノンストップで飛ばして数日かかる内陸部の砂漠に住むサワガニさえいるらしい。

「涙は人間が作り出せる一番小さな海だ」と誰かが言ったが、サワガニは海を数十個の小さなカプセルに封じ込めて持ち歩く。