今年のアルバムから。
2069.jpg地下性ナガワラジムシ。

本州のとある洞窟に生息するが、そのすぐそばの沢の源流を掘っても出てくる。色素が抜けて純白で、眼はない。ただ、純白と言っても体内の色つき消化器官が透けて見えるため、あいつほど純白には見えない。

この洞窟は特有の地下性ゴミムシが3種も共存する素晴らしい場所なのだが、今ここは死にかけている。付近の開発や採石工事の影響か、地下水位が下がっており、乾燥化がひどい。3種のうち1種はかろうじて存続しているが、残りはおそらくもうここで見つからない。
都内へ出張に行く道すがら毎回のようにそこへ寄って探索しているが、本当に見つかる気配がなく、次第に探索意欲がくじけ始めている。周囲の地下浅層からもまったく出ない。何をやっても採れない。

1691.jpgサワガニGeothelphusa dehaani。四国にて。

カニは原則として、幼生期は微少なプランクトンとして海中で過ごさねばならない。陸で暮らすカニの種は多いが、産卵時は必ず海へ戻って卵を放たねばならない関係上、海辺からあまりに離れて暮らすわけにはいかない。
しかし、サワガニの仲間はイクラのように粒の大きい卵を少数産む。卵の中でプランクトンの時期を終え、カニの姿になってから外へ生まれるため、海からの呪縛から解放され、内陸まで進出することが出来た。オーストラリアには、一番近い海岸線から車でノンストップで飛ばして数日かかる内陸部の砂漠に住むサワガニさえいるらしい。

「涙は人間が作り出せる一番小さな海だ」と誰かが言ったが、サワガニは海を数十個の小さなカプセルに封じ込めて持ち歩く。

本土ニスクス

いた・・!!
1514.jpg

と思ったが、よく見るとおかしい。明らかに体表が顆粒に覆われてゴツゴツしている。目的の精霊は、文献記述によれば平滑だという。つまり、これは別物であって、目的のアレではないということになる。

しかし、最近出た「日本産土壌動物第二版」を紐解くと、どうにもうまくいかないのである。ナガワラジムシ科なのは絶対間違いないのだが、その先の検索表に該当する雰囲気のものがない。ナガワラジムシ科内以降の検索表は、胸部背面に縦の突起があるか、突起がないかで分かれており、あるものは問答無用で普通の地表性種になってしまう。検索表に従えば、目の退化した地下性種はすべて「突起がない」になる。この程度の顆粒は、突起のうちに入らないのか、それともまったく得体の知れない未知のものを採ったのか。
地下性種ツノホラワラジムシは、検索表では「突起がない」に該当する種だが、後ろの図版を見ると明らかに体表に顆粒をもつ。あの検索表において、顆粒が突起の範疇に入るか入らないかにより、今回この生物を見つけたことの意味合いは全然変わってくる。

この生物は、「あの穴」からせいぜい1キロ程度しか離れていない同じ山の沢から出したものだが、もしこいつがアレでないとするならば、同所的に複数種の地下性ナガワラジが分布するということになる。いや、近接しながらもおそらく分布は重複せず、住み分けて生息しているであろう。

結局、散々沢を掘るもこの突起まみれの奴が2匹出ただけだった。こいつの正体は何だ?ちゃんと精霊をデレさせることができたのか、今もよく分からず悶々としている。違うならば、またあそこに行って探さねばならなくなる。
しかし、また行くにしたってあの山はとにかく遠すぎる。次に行けるのがいつのことになるやら分からないし、行ったところで採れるかどうかという問題もある。「あの穴」の至近には2本の山沢があるが、どちらも源流部の雰囲気があまり良くない。掘れば簡単に再発見できる算段でいたのに、同所的に複数種が住み分けて分布しているとなれば、難易度は格段に上昇する。この件は、しばらく保留にするしかない。

なお、あの図鑑のP1005 「ナガワラジムシ科の属・種への検索」の上方、「腹部は胸部と比べ明らかに細い」と「腹部は胸部と比べわずかに細い」のキャプションは、絶対あべこべだと思うのだが・・・正誤表は出ているのだろうか。

外は危険だ人がいる

1393.jpgメクラチビゴミムシのいる洞窟内に多かったワラジムシ。

その辺の石の下でよく見る普通のワラジにくらべて、体色が薄く、体が幅広い。しかし、目はしっかりあるし、洞窟のあまり奥のほうでは見つからないため、洞窟性というわけではない。
この洞窟のある石灰岩の岩山からほんの少し離れると、普通のワラジばかり見つかるようになる。単に、石灰岩地帯に依存した種かもしれない。

石灰岩地帯には、そこ特有の陸生貝類が生息することが多い。同様にダンゴムシやワラジムシにも、しばしばそこ特有の種が見られる。でも、その多くは微小かつ地下性のため、簡単には見つけられない。潜在的にまだ国内には相当数の新種が眠っているはずだし、既知種でさえ原記載以後見つかっていないものがざらにいる。あの北の洞窟の白いアレとか。

1350.jpgナガワラジムシ一種Haplophthalmus sp.。静岡にて。

年間を通じて薄暗く、じめじめした環境でないと生きられない。他方、そうした環境が猫の額ほどでも残ってさえいれば、大都市の真ん中でも生き残っていけるしぶとさも併せ持つ。

ナガワラジムシ科には、地下生活に極度に特化した種が日本だけでもかなり知られている。そうした種は色素が抜けきり純白で、なおかつ目が完全にない。地域ごとに固有性が高く、いずれも石灰岩地帯に依存した分布を示すように思える。

一年の計は元旦に、と言われるので、年始めに目標という体の予言をしておく。今年中に、あの某ナガワラジムシを必ず現世に引き戻す。古い時代、北方のあの洞窟から発見・記載されるも洞内の観光開発で絶滅してしまい、かれこれ50年近く何人たりともその生きた姿を見ていない。
洞窟性生物の常として、周辺の地下浅層に絶対生き残っているに違いなく、既に専門家にもそう予見されているにもかかわらず、この50年間誰一人それを実際に確かめに行かないので、そろそろ終止符を打ちに行く。