Gigas May Cry

IMG_8397.jpgある時の昼下がり、森の中で倒れているタケを踏み割った。倒れたタケの中には、本来樹上性でなかなか巣を暴けない種類のアリが巣を作っていることがあるからだ。この日割ったタケからは、珍しく数匹のギガスが飛び出してきた。夜行性のギガスは、時々数匹のチームで採餌に出る。そして、巣に帰る前に夜が明けてしまった場合、次の夜までこうした物陰に隠れてやり過ごすのである。

こういうシチュエーションで日中外へ叩き出されたギガスは、ひどく臆病な性格をしている。慌てふためいて逃げまどい、殆どの個体が近くの大きな落ち葉裏に身を寄せて隠れた。しかし、体サイズのひときわでかい一匹がそこに隠れ損ねてしまった。何とか隠れる場所を探すため右往左往しているのだが、このアリ、なにか様子がおかしい。急にダッシュしたかと思えば、その場で仁王立ちして虚勢をはるそぶりを見せたりする。よく目をこらすと、アリの周辺を小さなゴミみたいなものがまとわりついているように見えた。

IMG_8302.jpgとても小さいノミバエが、アリにまとわりついていたのだ。ノミバエには飛びながらアリの体内に産卵し、内側から食い荒らす捕食寄生性の種が多く知られる。様々な種類のアリで、その種専門に寄生するノミバエの仲間が存在する。アリより遙かに小さく、そして素早く飛び回るこの天敵はアリにとって非常にやっかいな存在。これに見込まれるとアリは逃走する以外に防衛の術がない。
見ていると次第にハエの数が増えていくようだった。アリはパニックを起こして、その場から走って逃げ出す。3センチクラスの巨大アリがゴマ粒よりも小さいハエに怯えて逃げる様は、滑稽であり奇妙でもある。

IMG_8116.jpg時々、顎を振りかざして怒り狂うのだが、ハエには何の威嚇にもならない。

IMG_8202.jpgハエはアリの体に止まり、口で刺すような舐めるようなそぶりを見せる。高速でアリに体当たりしてすぐ逃げるものもいて、何をしているのかよく分からない。見たところ、複数種のハエが来ている雰囲気で、それぞれアリに対して行うことが違うように思えた。
しばらく見ていると、逃げまどうアリの動きに変化が見られた。足取りがおぼつかなくなり、よたよた歩くようになった。そして・・・

IMG_9525.jpg何とあろうことか死んでしまった。ハエにまとわりつかれてからわずか30~40分後の出来事。屈強なアリが、ハエにまとわりつかれただけで死ぬとは思わなかった。アリを倒す程のことをハエがしたようには見えなかったのだが、ハエの行動が何らかの影響を与えた結果としか思えない。さっきまで元気で、目立った外傷もなかったのに。タケを割ったときに首尾よく逃げ隠れたアリの方は普通に皆元気だった。

このハエの存在は、少し前に「ant phorid」などとグーグルで画像検索していたときに、偶然出てきたflickrの写真で知った。きっと気にしていれば、そのうちジャングルで実際に見る機会があるだろうと思っていたら、本当に見ることが出来た。ギガスはマレー半島とボルネオに生息するが、ハエも双方に分布しているのか、いるなら種類は違わないのかなど、興味は尽きない。

マレーにて。

Gigas May Cry

IMG_4061.jpg東南アジアの密林に、ギガスオオアリ(オニオオアリ、モリオオアリ)Camponotus gigasというアリがいる。アジア最大級のこのアリは、ワーカーでさえ3センチクラスの超巨大アリで、初めて見たときのインパクトは計り知れない。森の地面を歩けばたった1匹でもガサガサと大きな音がする。大木の根元に、深い巣穴を掘って住んでいる。

IMG_2123.jpg雑食性だが大形ゆえに顎の力がすさまじく、人間の皮膚など簡単に咬み破ってしまう。巣を破壊しようとすればわらわらと地面から巨大アリが湧いて出て、手当たり次第に噛みついてくる。それに加えて、傷口になすりこんでくる蟻酸も大量かつ強力。1匹でも攻撃を受ければ消沈するため、このアリには容易に手を出せない。
まさに向かうところ敵無しに思えるこの巨大アリだが、このアリの生態には一つ不可解な点がある。昼間外を出歩くことがほとんどなく、夜にならないと姿を見せないのだ。まるで、何かに怯えるが如くである。

このアリが夜しか表に出てこないのには、幾つか理由があると思う(他種アリとの餌の競合など)。その中でも俺が一番の原因と考えているのは、天敵の存在である。このアリにはスペシャリストの天敵がおり、それが活発に活動する日中にアリ達はその襲撃を恐れて表を出歩けないのである。アリの中には、スペシャリスト捕食者の襲撃を避けるためにその捕食者の主要活動時間帯を避けて行動する種が他にもいくつか存在する。
最強の巨大アリすら外出を嫌がる程の天敵とは、どんな猛者なのだろうか。

続く。

りっふぃーちゃん

IMG_0517.jpg来月、少し長めの海外遠征にいくことになった。今回は、未知未開の複数地点を転々と巡ることになりそうなので、今から楽しみ。そして帰国する頃には、某公募の結果が来ているだろう。また薄いヤツが一枚来てそうだが。

上の写真に関しては、特にコメントはない。この上なくおぞましい姿の生き物であった。

黄帯戦隊ドッペルゲンガー

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キオビシリアゲアリCrematogaster inflata。マレー半島やボルネオの森で見かける顕著なアリで、多くの個体が樹幹を上り下りしているのですぐ見つかる。。黄色く目立つ胸部が特徴だが、これは毒のあるサイン。このアリは毒アリで、敵に捕まるとこの黄色い胸から毒を出して身を守る。

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胸部後方に穴が空いているが、ここから白い毒液がでる。とても粘着性が強く、致命的ではないがかなり不味い味らしい。毒を出している所を撮影したくて何度か試みたが、うまくいかない。アリをピンセットでつまむと、つまんだときには出すのだが、暫くすると出した毒液を引っ込めてしまうのだ。毒液は少量なので、無駄遣いしたくないらしい。

ともあれ、森の捕食動物の多くはこの不味い毒アリを好きこのんで食べようとしない。こんな顕著に目立つ色彩、さらに個体数の多い有毒動物が存在すれば、それに似せることで身を守る別の生物が現れるというのは熱帯ではよくあること。実は、この毒アリに常に寄り添って生きている驚くべき擬態生物がいる。



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オオアリ一種Camponotus sp.。未記載なので種名はまだない。色彩、体サイズともに毒アリそっくりなこの無毒アリは、単独で見かけることはない。必ず、キオビシリアゲアリの行列周辺で見つかる。数は少なく、毒アリ50匹の中に1匹混ざっているかいないかくらいの頻度。よくよく見れば黄色い部位が違うので別物だと分かるが、野外ではしばらく見つけるのに時間を要する。

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本物と偽物が偶然交錯する瞬間。基本的に双方はあまり仲がよくなく、餌を分け与えあうことも原則ない。しかし、シリアゲアリは積極的にオオアリを追い払うことはせず、オオアリの方もつかず離れずシリアゲアリの居住区を拠点にして生活している。なんとも不思議な関係。ちなみに、この2者の関係はベイツ型擬態であることが実験的に確かめられている。

毒アリがいて、それに擬態したアリがいれば、絶対近くに「ヤツ」がいるはずだと思い、探してみた。

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やっぱりいた。好蟻性ハネカクシの一種Drusilla inflata。これは幹にはあまり登らず、キオビシリアゲアリの巣くう木の根本の地面に多い。力尽きて上から落ちてくるアリを捕らえて食い殺すようだ。恐らく、この毒アリを自発的に食う唯一の敵かも知れない。

毒アリがいて、それにそっくりなアリと好蟻性生物が存在するという現在の状態になるまでに、どんな進化的なイベントを経たのだろうか。どれだけの年月がかかったのだろうか。

マレーにて。

時限爆弾

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冬虫夏草アリタケ(Ophiocordyceps sp.?)に冒され、操作されたオオアリCamponotus sp.マレーにて。
生きたアリの体内に侵入した菌は、アリの神経系を掌握して傀儡のように操るらしい。時がくると菌はアリに働きかけて、胞子を飛ばしやすい場所=風通しがよく風雨が直接当たらない木の葉裏へ移動するように命じる。アリは多分自分の意志とは関係なくそこへ移動し、葉の主脈を顎でガッチリ噛み体を固定する。その体勢のままアリが死ぬと、やがてアリの後頭部から細い糸状のキノコ(ストローマ)が生えてきて、その表面に胞子をまき散らす丸い結実部が形成される。
既にキノコが生えた状態のものはよく見るが、今まさに操られているのは初めて見た。

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この撮影時、アリは生きていた。指で触ると嫌がって足をばたつかせるが、噛みついた顎だけは絶対離さなかった。後の展開が分かっていれば、スローシャッターでアリがまだ動いている様を撮っておけばよかったと後悔している。ある日の午後に宿泊地の傍でこれを見つけたが、翌朝様子を見に行ったら既に事切れていた。

その後、電力事情の関係でよその宿泊地へ行かねばならなくなり、たった4-5日だが留守にすることになった。そして、再びこの場所へ戻ってきたとき、このアリの事を思い出して様子をまた見に行くことにした。










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早! もう全身に菌糸がはびこり、首からストローマが生えていた。まだ伸びる最中で、これの倍くらいは行くだろう。すると、ストローマの真ん中当たりに結実部ができて胞子を飛ばすようになる。しかし、俺の滞在期間中には流石にそこまで成長しなかった。

今、日本の職場の近くの森でこれによく似たイトヒキミジンアリタケCordyceps sp.を継続観察している。ミカドオオアリCamponotus kiusiuensisに寄生している個体だが、去年の11月に発見してから数ヶ月経った今でも殆どストローマが伸びていない。たった4-5日であれだけキノコが成長するとは、いかにあの国が高温多湿かが分かる。生きて動いていた姿を見ていただけに、あのアリの変貌ぶりはショックだった。